勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜   作:といα

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第11話 充実した日々

 アストリア王国領内。

 最北端の街、ベールバーナ。

 

 北の冒険者ギルド『エルトリンデ』から最も近いこの街は、当然多くの人が集まる。

 

(やる事がいっぱいだっ‥‥‥!!)

 

 アベルは冒険者になった事で、今まで以上に目まぐるしい日々を送っていた。

 

 

「まずはいつも通り、素振りから始めよう。正しい動作で一回一回、丁寧に振ることが大切だ」

 

 B級冒険者、剣士ノールによる剣術指導。

 

『魔物討伐においては、武器を扱えた方がいい』

 

 そう彼に助言されたことが始まりだった。

 

「でも剣だけに囚われるな。選択肢を増やしても、それを有効に使えなかったら雑念になる」

 

 彼の特訓により、アベルは戦術眼を養う事にも繋がった。

 

「よし、この剣にしよう」

 

「こんなに軽い剣でいいの?」

 

 アベルは率直な疑問を呟いた後、ノールの右手に視線を向ける。

 

「僕も‥‥‥ノールさんが持ってるような剣がいい」

 

 黒く澄んでいて長い刀身は、どこか異質さを感じさせる。その長剣に、アベルは魅了されていた。

 

「‥‥‥そっか、この剣が良いのか。でも今のアベルには重すぎて扱うのは難しいな。それに、身体が成熟してからじゃないと自分に合った剣は分からない」

 

 ノールが苦笑いを浮かべながら、右手に持っていた剣を前にかざす。

 

「これは黒鋼(くろはがね)の剣。俺にとって特別な剣なんだ。まあ、貰い物なんだけどな」

 

黒鋼(くろはがね)の剣‥‥‥」

 

 アベルは声を漏らして、黒鋼の剣を握る彼を見つめる。

 

「‥‥‥じゃあ僕も、大きくなったら自分の剣を作りたい。その時が来るまで、がんばって剣の腕を磨く!」

 

 そして、新たに決心が付いた。

 ノールという剣の師匠を見習って、いつか自分に合った剣を扱えるようになると。

 

「その意気だ、アベル。じゃあ最初は軽く、短い剣の方がいい。剣に振り回されないようにな」

 

「うん、わかった!」

 

 そしてアベルは、背中に細身のショートソードを背負うようになる。

 未来に広がる、自分の可能性を少しでも広げるために。

 

 

「ーーー魔術はね、詠唱することで威力を飛躍的に高める事が出来るの。でもその分、相手にはどんな魔術か気付かれることになる。諸刃の剣ね」

 

 B級冒険者、魔術師フィーアによる魔術の授業。

 魔術において、アベルは初心者同然。

 

「じゃあ、詠唱なしで魔術を発動できないの?」

 

「できない事は無いけど、魔力が離散しやすいし高度な技術よ。まずは魔術そのもの、基礎を学ばないとね」

 

 魔術に関する全ての事が、アベルには新鮮で面白かった。

 

「魔術はね、何を使えるかじゃない。どう使うか、それが大切よ」

 

 彼女の言葉に、アベルは頷く。魔術の知識も、学んでいく。

 

 

「言っとくが、お前の防御は素人同然だ。どう衝撃を逸らすか、受け流すか身体に叩き込め。前線に立つなら、最悪の事態を常に想定しないと早死にするぜ」

 

 C級冒険者、盾役(タンク)のバンギネスによる防御の指導。それも、素手と剣の両方。

 

「うぁッ!!?」

 

 アベルは何度も吹き飛ばされ、地面を転がる。防御しようと、必死に待ち構えてるにも関わらず。

 

「防御はな、逃げの姿勢じゃねえ。反撃の姿勢なんだ。相手の攻撃を捌き、自分が有利な状況を作り出すんだ」

 

 ぶっきらぼうな態度だが、彼の指導はノールたちに負けないほど熱心。

 

「んじゃ俺が軽く武器を振るから、防いでみろ。そして、反撃の一手を打ち込め」

 

「うんっ!」

 

 冒険者になってから、アベルは色々な事を学んでいった。それは、まさに充実した日々。

 

「もうすぐ昇級認定試験だな!」

 

「明日から試験対策しよっか」

 

「あんまり詰め込み過ぎんなよ」

 

 彼らとの生活が‥‥‥アベルの荒んだ心を、少しずつ潤していく。

 特訓、依頼、試験対策‥‥‥心身共に疲れて、アベルは寝床に付く。孤独な数年間よりも、確実に深く眠れる。

 

「会いたいよ‥‥‥セリカ」

 

 だが、心の奥底は満たされなかった。

 

「‥‥‥何があっても」

 

 アベルは小声で呟く。

 

「心は、ずっと一緒に‥‥‥」

 

 そして小指を伸ばし、儚い約束に想いを馳せる。

 

 

 

「ーーーそっちに1匹いったぞ!!」

 

「落ち着いてアベル!」

 

「難なく受け流せッ!!」

 

 そして、正式な魔物討伐。

 依頼内容はD級相当、ブチオークの討伐。

 

「ッ!!!」

 

 アベルは両手に握る剣で、ブチオークの一撃を防ぎ‥‥‥身体を引いて受け流す。ブチオークが体勢を崩し、隙が生まれる。

 

「はぁッ!!!」

 

 狙い澄ましたアベルの剣が、ブチオークの柔らかい腹を貫いた。倒れた瞬間に頭に突き刺し、確実に絶命させる。

 

「やったなアベル! 良い突きだったぞ!」

 

 周囲のブチオーク全てを討伐し、ノールが声を出して駆け寄る。

 

「両手にも普段通り、魔力を流せてたわよ!」

 

「よく受け流して反撃に繋げた。だが、他にも方法もあるって事を忘れんな」

 

 フィーアが嬉しそうにアベルの頭を撫で、バンギネスが念入りに助言する。

 

「うんっ!」

 

 そしてアベルは、彼らと討伐依頼の達成感を分かち合った。

 

 

「ーーーあった! あれがメチル鉱石だ!」

 

「取り出すの大変そうね」

 

「こりゃあ力仕事になるぜ」

 

「僕も手伝うっ!」

 

 信頼できる仲間と一緒に行動し、様々な依頼をこなす。多くを学び、実践していく。

 

「よしっ、依頼達成だ!」

 

 アベルにとって、それは楽しいと感じるほど充実した日々だった。

 

 

 

 そして冒険者になって、数ヶ月。

 

「ーーーでは、始め」

 

 試験官である女性の声が響き渡り、皆が紙をめくってペンを握る。

 

(この問題はーーー)

 

 アベルはその中の1人として、紙にペンを走らせていく。

 行われているのは‥‥‥冒険者の昇級認定試験。

 現在の階級で多くの実績を積んだ者に、ギルド本部から昇級認定試験の招待を受ける。

 

 筆記試験は、冒険者としての基礎知識を確認されるだけでない。

 

『あなたは戦士であると仮定します。他には盾役、魔術師、治癒役を合わせて4人パーティーです』

 

 架空の状況を規定され、どう対処するかといった記述問題もある。

 

『魔物が10匹。大した強さではありませんが、数が多いです。この時、戦士のあなたはどう対処しますか? 150文字以上、250文字以内で答えなさい』

 

 記述問題は、状況に応じた柔軟な思考を問われる。

 

(これ‥‥‥ノールさんに教えてもらったものと似てる!)

 

 アベルは自然と右手が動いていた。紙の上でペンを走らせ、無意識に微笑む。

 

『先ほどの問題と同じ状況で、あなたが魔術師だったとします。どう対処しますか? 150文字以上、250文字以内で答えなさい』

 

 次の問題を見て、アベルの右手は止まった。紙を凝視し続ける。

 

(魔術師だったら‥‥‥フィーアさんなら、どうするか考えるんだ)

 

 不慣れな状況に、アベルは試行錯誤しながら記述をしていく。

 

『盾役が苦戦しています。しかし治癒役も苦戦しています。この時、魔術師のあなたはどうしますか? 100文字以上、200文字以内で答えなさい』

 

 連続する状況の変化に、アベルは必死に思考を続ける。

 

(治癒役(ヒーラー)の方を優先したいけど、魔物を引き受けている盾役(タンク)の方が消耗しているはず‥‥‥これは難問だ)

 

 当然、全て円滑に答えられるほど筆記試験は甘くない。

 むしろ難しい問題に、どうやって粘るかが大切なのだ。

 

(試験が終わったら、バンギネスさんに聞いてみよ)

 

 だが、アベルは筆記試験が嫌いではなかった。むしろ好きな方だった。

 知らなかった知識や、柔軟な思考が養われるためだった。

 

「そこまで!!」

 

 そして試験終了の声と共に、アベルは机にペンを置く。

 

「30分の休憩の後、実技試験を行います!」

 

 そう言った試験官が集めた用紙をまとめて扉へ向かう。

 

(分からない所もあった‥‥‥実技で挽回しないと)

 

 アベルはひと息吐き、両腕を軽く回しながら立ち上がる。

 

「あっ、あなたは!?」

 

 すると突然、扉の近くにいた試験官が大声を出した。当然、アベルを含める受験者たちの視線が集まる。

 

「今から実技が始まるんだろう?」

 

 そして、扉の奥から聞こえた声。

 そこには両腕を組んで壁にもたれている、背の高い女性がいた。

 

(あんなに大きな女の人、初めて見た‥‥‥)

 

 身長は180近くあり、黒髪ポニテが特徴的。

 切れ長の目は少し威圧感を感じさせるが、誰が見ても美人だと思うほどの整った容姿。

 

「おいっ、グランマリア将軍だぞっ‥‥‥!!」

 

「最年少で将軍となった天才が、なんでこんな所にっ」

 

 受験者たちが、驚きの声を漏らしていく。

 

「な、なぜあなたがここに」

 

 試験官が半歩下がって声を出すと、黒髪女性が不敵に笑う。

 

「冒険者ギルドの昇級試験、その実技は王国軍の兵士を呼んで戦う。私がいても不思議では無いだろう?」

 

 そして、少し首を傾げながら見つめ返した。

 

「ぐ、グランマリア将軍がわざわざ‥‥‥?」

 

「時間が空いたから、気分転換ついでに立候補した。やっぱり、ここは空気が新鮮で気持ちいい」

 

 アストリア王国軍、将軍グランマリア。

 彼女の来訪が、多くの受験者たちの心に風穴を開ける。

 

(あの人‥‥‥すごい)

 

 そして、アベルも圧倒されていた。彼らと同じように目を見開き、凝視している。

 

(魔力の流れに一切の無駄がない‥‥‥!)

 

 だが純粋に、彼女の魔力操作に驚愕していた。

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