勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜   作:といα

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第13話 一人前の冒険者

 昇級認定試験に合格し、D級冒険者になったアベル。

 確かな自信が心に宿り、冒険者としての日々にも慣れ始める。

 

「そっちに行ったぞ!!」

 

「距離が近いぞフィーアッ!!」

 

 剣士ノールと盾役バンギネスの声が響く。

 2人の間を通り抜け、地面を蹴って加速するのは‥‥‥灰色の狼。

 

「っ!?」

 

 魔術の詠唱に集中していた魔術師フィーアが、目を見開いて狼狽する。飛び込んだ狼が、大きく口を開ける。

 

「ーーーはあッ!!!」

 

 彼女の前に割り込み、狼を殴り飛ばしたのは‥‥‥アベル。

 

「アベル!」

 

「こっちは僕に任せて!!」

 

 アベルは勢いよく右手を振り下ろし、狼の頭を叩き割る。

 

「ふぅ‥‥‥終わったな」

 

 剣を鞘に納めたノールが息を吐き、バンギネスが盾を背中に担ぐ。

 

「アベルに守られてちゃ世話ねえな」

 

「くっ‥‥‥!!」

 

 バンギネスの言葉に、顔を赤くして唇を噛むフィーア。

 

「怪我が無くて本当に良かった」

 

 アベルは安堵の息を漏らし、彼女を見つめて微笑む。

 

「ッ〜〜〜!! ほんっと良い子ッ!! アベルみたいな人と結婚したいわッ!!」

 

「うぶっ!?」

 

 フィーアに勢いよく抱きつかれ、アベルは呻き声を漏らす。

 

「さあ、ウェアウルフの素材を回収して依頼を済ませよう」

 

 そしてノールの一言で、アベルたちは手分けして動き出す。

 

「ここをこうして、剥ぎ取って‥‥‥」

 

 今のアベルは、一人前の冒険者へ成長していた。

 

 

 

「かんぱ〜いッ!!!」

 

 酒場『バッカス』。

 冒険者ギルド『エルトリンデ』の本部近くにある、大きな酒場。

 

「乾杯!」

 

「乾杯」

 

「あはは‥‥‥乾杯」

 

 その片隅で‥‥‥アベルたちは飲み物を掲げ、カチンと鳴らす。

 

「んっ、ンッ、ンンっ‥‥‥かぁぁぁ〜!! 仕事終わりの一杯が堪らないわよねぇ〜!!」

 

 顔を真っ赤にしたフィーアが、空のジャッキを置いて嬉々として話し出す。

 

「お前は少し反省しろや‥‥‥ヘマして噛まれそうになってたくせによ」

 

 静かに酒を嗜むバンギネスが、小声で呟く。

 

「はぁぁぁ!!? 反省してるわよぉぉッ!!! だからいつもより控えてるんでしょうがぁぁ!!」

 

「それなら断酒しろ!!」

 

 フィーアとバンギネスの言い合いが勃発する。

 その2人の隣で、アベルは苦笑いを浮かべる。

 

「いつも通りだなぁ‥‥‥」

 

 飲酒は15歳以上。

 9歳のアベルが飲んでいるのは、果物を絞った果汁である。

 

「分かるようになってきたか、アベル。酒が入った時のフィーアと、バンギネスは最悪の相性だ。関わらない方が良い」

 

 すると真顔で話すノールに対し、アベルは少し笑ってしまう。

 

「とはいえ、少し問題かもしれないな」

 

「? どうしたのノールさん」

 

 アベルは率直に聞き返した。

 神妙な顔付きで俯くノールが、気になって仕方がない。

 

「フィーアの負担だよ。俺たちのパーティーには、専門の治癒役がいない。フィーアが担ってくれてるんだ」

 

 彼の言葉に、アベルは無意識に見つめてしまう。

 

「もう一杯〜〜〜!!」

 

「飲んでんじゃねえか!!?」

 

 満足げに酒を煽る、フィーアを。

 

「フィーアの専門は水属性。だから治癒には相当な魔力と集中力を伴っているはず。飄々としているが、本当は消耗しているはずなんだ」

 

「そうだったんだ‥‥‥」

 

 アベルは視線を下げ、飲み物に映る自分の顔を見つめる。

 

「でも治癒魔術は、限られた者しか扱えない。どこの冒険者ギルドでも、それは日常茶飯事なんだ」

 

「そっか‥‥‥どうすればいいんだろう」

 

 アベルは何気なく、酒場の賑やかな声を聞き入ってしまう。無意識に、周囲を眺める。

 

「ーーーあ」

 

 そして、視線が一点に止まる。

 

「‥‥‥パーティーメンバーは大いに越した事無いんだよね?」

 

 アベルはそう呟くと、椅子から立ち上がって歩き出す。

 

「お、おいアベル?」

 

「1つだけアテがある」

 

 ノールの声を背中で受けながら返事をし、迷いなく歩き続ける。

 

「ーーーなんですか?」

 

 そして、端に座る1人の前で足を止める。

 茶髪の少女が、隣に置いてある杖を握る。

 

「ソフィアさん。確か今も1人で依頼をこなしてますよね」

 

 アベルが声を掛けた相手は‥‥‥魔術師ソフィア。

 

 グランマリア将軍との実技試験の()()()に、彼女は冒険者になったばかりだった。

 つまり駆け出しのF級で、グランマリアとの試験に挑んだことになる。

 そして、それから僅か1ヶ月で‥‥‥ソフィアはB級まで昇級した。

 

「‥‥‥」

 

「無視しないでくれませんか、ソフィアさん」

 

 冒険者ギルドの中で注目を集めている天才魔術師。ちなみに、15歳。

 

「‥‥‥はぁ、そうですよ。私は何でも出来ますから。魔術師は接近戦が弱いと言う常識が、私に通じるとは思わない事です」

 

「ーーー治癒魔術って使えますか?」

 

 そんな彼女の言葉を聞き流し、アベルは率直に尋ねた。

 

「‥‥‥ええ、もちろん使えますよ。それが何か?」

 

 ソフィアが眉を顰めながら返答する。左手に持った酒を呷(あお)り、一息つく。

 

「僕たちと一緒に依頼をこなしませんか?」

 

 そしてアベルは、あまりにも率直に提案していた。

 

「!!?」

 

「マジかよ、あいつ‥‥‥」

 

 周囲の冒険者たちが、一斉に反応する。

 注目株のソフィアを狙っている者は多い。

 互いに牽制し合っている中、アベルは堂々と突き進んでいったのだ。

 

「お断りします」

 

 彼女の言葉に、周囲が安堵する声が聞こえる。

 

「傷の舐め合いは嫌いです。それに足手まといを世話をする趣味はありません」

 

 ソフィアの声は、淡々と冷たい。そして、彼女はどんどん酒を呷(あお)っていく。

 

「‥‥‥そっか。ごめんなさい、急に話して」

 

 アベルは食い下がらずに、踵を返して歩き出す。

 彼女の態度から、意思は固いと理解していた。

 そして、目を見開いて絶句しているノールの元へと戻る。

 

「あんな捻くれ女入れようとしなくても〜!! 私が頑張れば万事解決なんだからさぁ〜!!!」

 

 その後、フィーアの愚痴が広がっていった。

 

 

 

 数日後。

 アベルたちは、少し離れた森を歩いていた。

 

「‥‥‥足跡がある」

 

「うわ、食べられた跡だわ」

 

「こりゃあ相当な食いしん坊だぞ」

 

「じゃあ、その分大きいって事?」

 

 依頼内容は、ブラックベアの討伐。難易度はC級。

 名前の通り、体毛が黒い熊。

 

「ーーーグォァァァァァァァァッ!!!!」

 

 アベルたちの背後から、雄叫びが響き渡る。

 

「ぐっ!?」

 

「きゃっ!!」

 

「うるさっ!?」

 

「うっ!?」

 

 それは、全員が両耳を閉じないといけない程の騒音だった。

 

「グァァァァァッ!!!」

 

 森の木々を簡単に砕きながら、黒い巨体が姿を現す。

 

「おいっ、こんな大きさ見た事ねえぞ!!!」

 

 バンギネスが声を漏らし、勢いよく盾を構える。

 

「ガァァァァァァッ!!!!」

 

 体長4メートルを軽く超える‥‥‥ブラックベア。

 

「ぅぁッ」

 

 9歳のアベルからすれば、まさに破壊の化身。

 

「グォァッ!!!」

 

 その巨大から繰り出される、大きな右爪が‥‥‥バンギネスの盾に衝突する。

 

「ぐぉッ!? こりゃあヤベェぞォォッ!!!」

 

 歯を噛み締めたバンギネスが、絶叫する。

 

「シッ!!」

 

 するとノールが数歩で距離を詰め、勢いよく剣を振り下ろす。

 ズバっと小さな音と共に、首元に剣がめり込む。

 

「グァァァァッ!!!」

 

「っ、硬いッ」

 

 ブラックベアの絶叫に片目を閉じつつ、剣を振り払ったノールが地面に着地する。

 

「【水の槍(アクアランス)】!!」

 

 フィーアの杖から、水で形成された槍が数本放たれる。ブラックベアの顔に、全て命中する。

 

「ゴァッ!!?」

 

 だが声を鳴らしただけで、ダメージは殆ど見当たらない。

 

「みんなっ、無理はするな!!」

 

「わかってるよ!!」

 

「あんたたちも気を付けなさいよ!!」

 

 ノール、バンギネス、フィーアは普段通りの連携で果敢に攻めていく。

 

「あ、あっ‥‥‥」

 

 そしてアベルは‥‥‥身動き一つ取れなかった。

 自分の数倍もある真っ黒な巨大熊。

 

「ああッ」

 

 今まで見てきた魔物とは、大きさも殺意も全く異なる。9歳の少年が、数倍も大きい巨大熊にどう立ち向かえばいいのか。

 

「おっ、大きすぎるッ‥‥‥!!」

 

 まるで、戦意を飲み込まれてしまったかのようだった。

 アベルの中で湧き上がるのは、純粋な恐怖と不安のみ。

 

「グォァァァッ!!!」

 

 そして、それは格好の餌食。

 ブラックベアが、盾を持つバンギネスを無視して突進し始める。

 

「っ!! アベルっ、避けろ!!」

 

「ちッ、間に合わねえぞ!!」

 

「アベルッ!!!」

 

 ノールとバンギネス、そしてフィーアの声が森の中で響き渡る。

 

「あ、あっ」

 

 アベルは碌に声すら出せず、ブラックベアの突進から逃げられない。体躯に比例した大きく鋭い爪が、狙いを定めて振り抜かれる。

 

「ーーーあッ」

 

 何かが突っ込んできたような衝撃と共に、アベルは地面を転がって仰向けに倒れ込む。

 

「あ、れ‥‥‥?」

 

 だが、あまり痛みを感じない。感じるのは、身体が地面を転がった衝撃と‥‥‥正面を覆う、柔らかい感触。

 

「アベル‥‥‥怪我は、無い?」

 

 落ち着いた、優しい声。

 

「フィーア‥‥‥さんっ?」

 

 そして、生暖かい液体の手触り。

 

「よかっ、た‥‥‥」

 

 アベルに覆い被さるように、声を漏らしたフィーアが脱力する。

 

「そんなっ‥‥‥フィーアさんッ!!!!」

 

 服が破れた真っ赤な彼女の背中。

 そこから、暖かい鮮血が溢れ出した。

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