勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜   作:といα

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第16話 人生の岐路

「こらぁぁ‥‥‥そこに立たれると魔術を発動できないでしょうがぁぁ‥‥‥ゔがぁぁ」

 

 B級冒険者の魔術師フィーアが、机に突っ伏して口をもごもごさせる。両目は固く閉じており、顔も赤い。

 

「ったく仕方ねえな‥‥‥ノール、会計は任せたぜ。この酔っぱらい女、自分で歩けねえだろうからな」

 

 C級冒険者の盾役(タンク)バンギネスは呆れた様子で話すと、彼女の肩に手を回して立たせる。

 

「お前もついて来い。俺1人じゃ、フィーアを見てられねえからよ」

 

「は、はい」

 

 アベルは少し緊張した顔持ちで頷くと、2人の後をついていく。

 

(そういえば、バンギネスさんと2人で話した事が無い気がする‥‥‥)

 

 そう、アベルは‥‥‥バンギネスの事を、まだ把握しきれていない。

 

 

 

 冒険者ギルド『エルトリンデ』本部前。

 

「だからぁぁ‥‥‥少しは私の事を考えて動きなさいよぉぉ‥‥‥脳筋めぇぇ」

 

 道端で座り込んだフィーアが、首を上下に揺らしながら呟く。完全に酔っ払いである。

 

「俺かノールのどっちに文句言ってんだ、こいつ」

 

「‥‥‥どうなんでしょうね」

 

 アベルは泥酔状態の彼女の隣に座り、バンギネスが逆隣に座っている。つまり、フィーアを挟んで会話をしている状態。

 

(バンギネスさんって、僕の事どう思ってるんだろう‥‥‥)

 

 アベルが感じた、純粋な疑問。それは今までの彼の言動や表情から、無意識に導き出したもの。

 ノールとフィーアが優しく接してくれる分、バンギネスとの距離感が掴みかねていた。

 

「‥‥‥おい」

 

 するとバンギネスが、神妙な表情で話しかけた。

 アベルは少し驚きつつも、彼の顔を見つめる。

 

「少しは、冒険者に慣れたか」

 

「え? あ、はい。バンギネスさんたちが丁寧に教えてくれて、毎日が充実してます」

 

 アベルは少し拍子抜けしつつ、素直に答えた。

 それを聞いたバンギネスは「おう」と短く呟き、頭を掻きながら口を開く。

 

「もし何か困った事があれば‥‥‥ノールに聞け。あいつなら、必ず力になってくれる」

 

「‥‥‥はい。本当に、ノールさんにはお世話になりっぱなしで」

 

 アベルは少し眉を下げて返事をする。申し訳ないという思いが胸から溢れ出す。

 

「そんなこと気にしてたらキリがねえ。俺なんか昔からそうだしな」

 

「‥‥‥昔から?」

 

 アベルは言葉に引っ掛かりを覚え、思わず聞き返す。聞いた後で『しまった』と反省していた。

 するとバンギネスが、神妙な顔をして前を向く。

 

「‥‥‥ああ。奴隷上がりの俺に、あいつは気にせず声を掛けてきたんだよ」

 

 彼の口から飛び出した言葉に、アベルは目を見開いて驚く。

 

「誰も信用していなかった俺を、強引に巻き込む力をあいつは持っていた」

 

 バンギネスは自分の過去を淡々と話し、懐かしむように笑う。それら自然と、彼の口から出た言葉に見えた。

 

「『誰かなんて関係ない。ここで会った事が全てだ』なんて臭い言葉吐きやがってよ。当時の俺は、そりゃあ完全に疑ってたぜ」

 

 バンギネスの口から語られる、過去の話。

 

「それで、どうなったんですかっ?」

 

 アベルは熱心に話を聞いていた。目を輝かせ、少し身を乗り出している。

 

「だが、仕方なく一緒に依頼をこなす内に、嫌でも理解させられたぜ。こんなガラの悪い俺を、本気で信じてるってよ」

 

 バンギネスは目を細めて夜空を見上げると、どこか穏やかに笑う。

 

「あいつがこう言ったんだ。『壮絶な過去を持った人は、心の痛みが分かる。道を踏み外す怖さを知ってる』ってな」

 

「っ‥‥‥」

 

 アベルは目を見開いた。

 その言葉は、自分にも深く刺さった気がした。

 

「そんなこと言われたら、俺も変わるしかねえと思ってな‥‥‥そして今がある。フィーアも昔に比べて、随分変わった」

 

「‥‥‥そうなんですか?」

 

 アベルは思わず聞き返してしまう。

 気持ちよさそうに目を閉じて口をもごもごさせる、フィーアを見つめながら。

 

「ああ。こんなに自分の意見をぶつける感じじゃなかったぜ。自信が無さそうで、周囲ばかり気にしてな」

 

「そうだったんですか‥‥‥少し意外です」

 

 アベルは素直な感想を口にする。

 元気で活発な彼女の、昔の話。

 

「まあ、酒癖は昔から悪いけどな」

 

「それは予想通りです」

 

 バンギネスがふっと笑い、顔を下げる。

 

「あいつはな‥‥‥強烈な光だ。どんな闇も吹き飛ばしちまう」

 

 そしてアベルの方を向き、しっかりと見つめた。

 

「そんなあいつが、何か変わるきっかけをお前に与えた。今のお前は、まさに人生の岐路(きろ)に立ってる」

 

「‥‥‥はい」

 

 アベルはしっかりと目を合わせ、はっきりと反応する。

 

「あんな孤児院から出てこられて、より強く、金を稼げる環境にいる。これからお前がどんな道に進もうが、俺は別に何も言わねえ」

 

 そんな言葉に、アベルは彼を見続ける。一言一句、聞き逃さないように。

 

「だが、自分が決めた選択を絶対に後悔するな。それをノールのせいにしたら‥‥‥俺が許さねえ」

 

 バンギネスは、少しも目を逸らさずに話した。

 彼の佇まいや態度が、決して冗談ではない事を感じさせる。

 

「ーーーはい。約束します」

 

 そしてアベルは、堂々と言葉を返した。

 自分の両手を強く握り締め、見下ろしてくるバンギネスを見つめ返す。

 

「‥‥‥はッ。ほんと可愛くねえガキだ」

 

 バンギネスが不敵に笑い、前を向いた。

 そんな彼が何を思っているのか、見上げるアベルには分からない。

 

「ーーーっ!?」

 

 すると、アベルは目を白黒させ‥‥‥全身がブルッと震える。

 

「何言ってんのぉ? アベルはこんなに可愛いでしょぉぉ‥‥‥素直で優しいしぃ‥‥‥」

 

 顔の赤いフィーアが、まるで蛇のように絡み付いてきていた。

 

「ちょっとフィーアさん‥‥‥って臭ッ!? なんか口からすごい臭いしてる!!」

 

 アベルは思った事を、そのまま口に出す。

 

「‥‥‥ふははっ!! お前っ、なかなか刺さること言うじゃねえかっ」

 

 その言葉に、バンギネスが噴き出すように笑う。

 

「お、お酒のせいだからぁぁぁッ!!!?」

 

 そして、フィーアは涙目で駄々を捏ね始めた。

 

「ーーーいったい何の騒ぎですか!?」

 

 すると扉を開けて外に出てきたのは、冒険者ギルド副長のマイラ。血相を変えてアベルたちの前に立つ。

 

「‥‥‥ったく」

 

 彼女の後ろにいたノールは、額に手を置いてため息をついていた。

 

「本部の近くで騒がれたら、皆さんに迷惑が掛かるでしょ!? 評判が落ちたらどうしてくれるんです!!」

 

 その後、マイラの説教が始まる。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ゔぶッ、やばい吐きそうっ‥‥‥」

 

「なんで俺まで‥‥‥」

 

 その後、彼女が繰り出す怒涛の正論パンチに、徐々に精神を削られるアベルたち。

 

「‥‥‥これはチャンスだ」

 

 だがノールだけは、右手に持った紙を眺めていた。

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