勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜   作:といα

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第17話 自由時間

 冒険者ギルド副長、マイラに叱られた翌日。

 

「「昇級認定試験!?」」

 

 魔術師フィーアと盾役バンギネスの声が重なる。

 2人は自分たちの前に置かれた紙を見て、血眼になって読み始める。

 

「それって‥‥‥僕がこの前受けた試験と同じ?」

 

 アベルは椅子に座って、3人の紙を眺め始める。

 

 現在、ノールとフィーアはB級で、バンギネスはC級。それぞれA級、B級に上がるための試験概要だった。

 

「その通りだ。アベルはこの前受けて、D級に上がっただろ? 今度は俺たち3人に、その案内が来たわけだ」

 

 ノールが声を弾ませて呟くと、飲んでいた紅茶のカップを口に近づける。彼は一口飲んで息を吐くと、フィーアとバンギネスに目を向けた。

 

「昇級認定試験は5日後。だからしばらくは、試験の準備を優先して依頼は受けない。それでいいな」

 

「もちろんよ。だってA級認定試験なんて、超難関だし」

 

「‥‥‥そうなの?」

 

 アベルは率直に疑問を呟く。まだ冒険者になって日が浅く、詳しい事は分からない。

 何よりアベル自身が冒険者について、もっと知りたくて仕方なかった。

 

「冒険者の等級はF、E、D、C、B、A‥‥‥そして、S。冒険者は星の数ほどいるが、等級が上がるに連れて、その数は減っていく」

 

「それってどれくらいなの?」

 

 アベルは即座に聞き返した。

 冒険者に関する知識は、まだまだ不足している。

 

「目安だけど‥‥‥アストリア王国内で、C級は500人。B級は300人。A級は100人」

 

 その質問に答えたのは、フィーアだった。

 

「国内全体の冒険者の中で、数百単位なの!?」

 

 アベルは目を見開いて大声を出す。

 王国内の冒険者は、万の単位を軽く超える。

 その中での数百は、まさに実力者の証。

 

「え、じゃあS級は‥‥‥?」

 

 アベルは恐る恐る声に出して尋ねた。今までの話からして、更に少ない事に勘付きながら。

 フィーアが本部の掲示板を眺めながら、口を開く。

 

「国内でーーー10人前後」

 

「じゅっ、10人!?」

 

 アベルは再度大声を出し、身を乗り出した。

 精鋭、実力者という言葉では生温い‥‥‥限られた頂点。

 

「実際に見た事は無いけどね。もしS級の冒険者を見かけたら、その冒険証は疑えって言われるくらいだし」

 

「まあ、普通は偽造って思うからな」

 

 フィーアの言葉に、バンギネスが便乗して話す。

 アベルは2人を交互に見つめながら、真剣に話を聞いている。

 

「ちなみにA級冒険者になると、アストリア王国騎士団から士官の勧誘をされるらしいわ。まあ噂だけど」

 

 フィーアが追加で情報を口にする。

 バンギネスが鼻で笑いながら明後日の方を向く。

 

「冒険者について分かったところで、話を戻そうか。俺とフィーアはA級、バンギネスはB級の昇級認定試験がある」

 

 ノールが優しく微笑みながら、本題を話す。

 さっきの話を聞いた事で、アベルは生唾を呑んだ。

 

「試験は超難関。だから、念入りに準備する時間を設けたい」

 

「全力で挑むわ。筆記試験とか間違いなく、今までが生易しいほどの記述問題ばかりだろうし‥‥‥」

 

「俺も絶対落としたくないからよ、念入りに準備するぜ」

 

 フィーアとバンギネスは快く了承した。だが、ここで問題が残る。

 ノールが眉を下げて、少し重たそうに口を開く。

 

「アベル‥‥‥悪い。今回は俺たち3人が試験だから、依頼を受けられない。それでもいいか」

 

 試験が無いアベルは、数日間どう過ごすかという問題である。

 

「ううん、大丈夫。依頼はいつでも受けられるけど、試験は決まった時しか受けられないから」

 

 アベルは微塵も気にした素振りを見せない。

 3人の試験が大切だと、心の底から思っている。

 

「それに僕のD級認定試験の時に助けてくれた。だから今度は僕が助ける番だよ。何ができるか、分からないけど‥‥‥」

 

 そしてアベルは苦笑いを浮かべながら呟いた瞬間。

 

「アベルぅぅぅぅぅッ!!!」

 

「!?」

 

 フィーアに勢いよく抱きつかれていた。

 

「ちょっ、フィーアさん」

 

「ほんっとに良い子!! その気持ちだけでも嬉しいわ! 絶対に合格するからねっ!!」

 

「わかったから!?」

 

 彼女が抱擁しながら頭も撫で始めた事で、アベルはジタバタ暴れ出す。この時、アベルは猛烈に恥ずかしさを感じていた。

 

「それじゃあ5日間は依頼を受けず、各自で準備だ」

 

「もちろんよ」

 

「念入りに対策しねえとな」

 

 ノールの言葉に、フィーアとバンギネスが迷わず返事をする。

 

(‥‥‥せっかく自分の時間が多くなるし、筋トレと走り込みを重点的にやろうかな)

 

 こうしてアベルは5日間の間、自由時間が格段に増えた。

 

「ねぇノール、バンギネス。もう少しだけど、そろそろ決まった?」

 

「決まったよ。少し悩んだけどな」

 

「マジかよ‥‥‥何も決まってねえよ」

 

 そして最近、3人が何かを話し合う姿を見るようになった。それも、小声で。

 

「?」

 

 時折見せる3人の不自然さが、アベルは少し気になった。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 アベルの自由時間、1日目。

 正午12時、最北端の街ベールバーナ。

 

(まずは言われた通り、露店を見て回ろう。昼も何か普段食べなさそうなものを‥‥‥)

 

 アベルは、特にあてもなく街中を歩き始める。

 冒険者ギルドが隣接しているため、街並みが発展している。

 殆どを孤児院で過ごしてきたアベルにとって、ベールバーナの街並みは全てが新鮮だった。

 

(‥‥‥でも。こんなことして、意味あるのかなぁ)

 

 だがアベルは、あまり乗り気ではなかった。そもそも、本来は自主鍛錬をする気だったのだ。

 

『アベル、せっかくだし街を歩いてみろ。どんな事でも、後で知らなくて後悔する時もある。それに外の空気に触れるのは、他に代え難い経験になる』

 

 だがノールに念押しされたため、アベルは街中を歩き回っているのだ。

 

『人の強さは、純粋な力や魔術だけじゃない。思考力や社交性も大切だ。考えが偏った頭でっかちな人間は、誰からも相手にされないぞ』

 

 彼の言葉が、脳裏によぎる。

 

「‥‥‥確かに。セリカと再会しても、前みたいに話せなかったら意味が無いよね」

 

 時折ノールの言葉を思い出し、アベルは心の中で強く念じる。自分には、足りないものが沢山あるという事を。

 

 

「ーーーおい、なんでこの街にいるんだよ!!」

 

 

 アベルは無意識に振り返る。

 少し離れた所で、少年が大声を上げていたのだ。

 

「エルフには広大な森があるんだろ!? 多種族禁制を掲げている奴らなのに、なんで人間が住む街に居るんだよ!!」

 

「そ、そんなの‥‥‥私が言ってるわけじゃない」

 

 そして3人の男子に囲まれている、1人の少女。

 水色の長い髪を真っ直ぐに下ろし、顔立ちも作り物であるかのように整っている。

 白いワンピースを着ている彼女は、どこか浮世離れした魅力を醸し出している。

 そして‥‥‥両耳が尖っていた。人間とは異なる種族であることの、証。

 

(あれがエルフ‥‥‥フィーアさんの話でしか聞いたことなかったけど、実在するんだ)

 

 アベルは興味を持って、無意識に近づいていく。

 次第に距離が近くなる事で、エルフの少女と目が合う。

 

「おいっ、なんだよお前」

 

「何か文句あるのか!?」

 

 やがて彼女を囲む複数の男子たちが声を荒げるも、アベルは気にせず無視する。

 

「ほんとに耳が尖ってる‥‥‥君、名前は?」

 

 そして座り込んだ少女の前でしゃがみ込むと、目を見つめながら話しかけた。

 

「ぇ‥‥‥あっ、危ないっ!」

 

 少女は突然声を出した。

 アベルの背後にいた男子が、勢いよく拳を振りかぶったのだ。

 

「ーーーいきなり失礼だと思うよ」

 

 アベルは少し不機嫌そうに呟く。

 そして背後から迫り来る拳を‥‥‥後ろに伸ばした右手で受け止める。

 

「なっ!!」

 

「っ、こいつッ!!」

 

 すかさず、別の男子が側面から襲いかかる。

 するとアベルは掴んだ相手の腕を横へ引っぱり、自分と男子の間に割り込ませる。

 

「いてっ!!」

 

 直後、その子の頬に拳が命中。涙目で殴った男子を睨み付けると、次第に仲間割れが始まる。残った1人も仲裁に入らなければならない状況になった。

 

「ちょっと聞きたいことあるから、ついてきて」

 

 その隙を突いたアベルは手を差し出して少女を立ち上がらせると、そのまま引っ張って走り出す。

 

「あ、あのっ、あなたは」

 

「あとで話すよ。とにかく今は離れないと」

 

 そしてアベルは、彼女を連れて離れていった。

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