勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜   作:といα

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第18話 エルフの少女

「はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥」

 

 エルフの少女が、息を切らして膝に手を置く。

 

「ごめん、ちょっと走り過ぎた。大丈夫?」

 

 アベルは謝りながら、彼女を近くのベンチに座らせる。少女が話せない間に、アベルは自分から自己紹介を始めた。

 

「僕はD級冒険者のアベル。君は?」

 

「あ、アリシアです‥‥‥」

 

 アリシアと名乗った少女は、おずおずと顔を上げる。

 

「さ、さっきはありがとうございました」

 

 それは感謝の言葉だった。アベルは少し驚き、目を丸くする。

 

「僕はただ、君に聞きたいことがあって連れてきたんだ。むしろ、邪魔してごめん」

 

「なんでアベルくんが謝るんです‥‥‥!?」

 

 今度はアリシアが目を丸くした。だが、アベルの言葉は止まらない。

 

「え、だって友達なんでしょ? そんな中に、僕は自分の都合で割り込んだから」

 

「‥‥‥へ?」

 

 アリシアが絶句し、目を見開いて手を振り始める。

 

「いや友達ではありませんよ!? まさか仲良さそうに見えたんですか!?」

 

「え、あの子たちと友達じゃないの?」

 

「そうですよ!?」

 

 もはや、収拾がつかない状態となっていた。

 

(あんなに男子たちは馴れ馴れしかったのに、彼女とは友達じゃなかったのか‥‥‥)

 

 アベルはセリカの他に同年代の知り合いがいないため、友達の概念が曖昧になっていた。

 

「‥‥‥ふぅん。じゃあいっか」

 

「軽いですね!?」

 

 アリシアはずっと目を見開いて過剰に反応していた。

 

「じゃあ、さっそく本題なんだけど」

 

 アベルは話を変えて、意気揚々と口を開く。

 アリシアが少し身体を硬直させて、生唾を呑む。

 

「エルフって魔術が得意なんだよね? もしよかったら教えてくれないかなっ!」

 

 アベルの口から飛び出したのは、純度100%の頼み事だった。アリシアが身体を脱力させながら、目を丸くして口を開く。

 

「え、魔術? そんな事ですか? あの‥‥‥もっと複雑な話が飛んでくるものだと」

 

「そんな事って何さ。僕にとってはこれ以上ない重要な話なんだよ!」

 

 アベルは口を尖らせて声を出す。自分の要件を軽く見られたと思い、

 その態度に、アリシアはさらに困惑した。

 

「‥‥‥アベル君って私が怖くないの? 私‥‥‥エルフなんだよ?」

 

 アリシアが、絞り出すような声を漏らす。身体を縮こませて、少し顔を下げながら。

 

「え、何が? エルフって魔術の扱いに長けた種族なんでしょ? すごいじゃん!」

 

 アベルは素直な感想を口に出した。

 エルフという種族という認識は、アベルにとって『魔術』が上手いというものだけ。

 

「アベルくん‥‥‥」

 

 アリシアが目を見開いた後、穏やかに微笑んだ。

 

「‥‥‥わかった! アベルくんに、私の魔術を教えてあげる! だからね‥‥‥私とお友達になって!」

 

 そして彼女は、少し緊張した様子で右手を差し出した。

 

「友達‥‥‥うん! これからよろしく!」

 

 アベルは笑顔で、彼女の手を握り返した。 

 

(友達っ‥‥‥!!)

 

 こうしてアベルは‥‥‥初めての友達ができた。

 

「ヅっ!?」

 

 そして、なぜか左肩が酷く痛んだ。

 

 

 

 時刻は夜。

 ギルド本部2階の酒場。

 

「友達ができただぁ!?」

 

 バンギネスの大声が響き渡る。

 だが彼は次の瞬間、隣に座るフィーアに頭を叩かれていた。

 

「何を驚くことがあるの? 同い年の友達なんて、素晴らしいじゃない。よかったわねアベル!」

 

 微笑むフィーアに、アベルは頭を撫でられる。

 もはや何かに付けて彼女に頭を撫でられるのが、習慣となっていた。

 

「これであと4日間、退屈せずに済むな! なあアベル、その友達の名前は?」

 

 ノールが意気揚々と質問する。子供の学校生活を書く、親のように。

 

「名前はアリシア。氷属性魔術が得意らしくて、さっきまで教えてもらった。本当にすごかったんだよ!」

 

 アベルは嬉しそうに言葉を返す。

 

『ーーーすごっ!!』

 

『そ、そんな事ないよぉ‥‥‥』

 

 アリシアが作り出した氷の彫刻。

 それを思い出しながら、意気揚々と話したのだ。

 

 そして魔術の話題を聞けば、真っ先に反応するのは魔術師フィーアである。

 

「氷属性魔術!! それは凄い子ね。アベルと同い年で氷を扱うなんて、その子に会ってみたいわね」

 

「本当に凄い練度の氷属性魔術だった。教えてもらったけど、今日は全く出来なかったんだ。やっぱりエルフって魔術の扱いに長けた種族って再認識したよ」

 

 アベルはアリシアを褒め称えた後、嬉しそうに肉を口に頬張る。

 

「「「‥‥‥‥‥‥」」」

 

 すると突然、周囲に沈黙が訪れる。

 

「あれ? みんなどうしたの」

 

 アベルは不思議に思い、目を丸くして話しかける。 その問いかけに答えたのは、神妙な顔をしたノールだった。

 

「‥‥‥アベル。その友達って、エルフなのか」

 

 それは念入りに確認するような口ぶりだった。

 アベルは特に気にせず、「うん」と即答する。

 

「‥‥‥なあ、アベル。これからは、声を少し控えよう。彼女の存在を大っぴらに話すのは、危険だ」

 

 ノールが眉を下げて注意した。

 

「なんで?」

 

 その意味が分からず、アベルは素直に呟いて首を傾げる。

 

「ごめん、アベル。まだ必要ないかと思って、エルフについて詳しく話してなかったわね。せっかくだし、今から話すわ」

 

 するとフィーアが諭すように話しかけ、一息ついた後に口を開く。

 

「エルフはね‥‥‥数が少ない希少種族なの。長命な分、生殖意欲も低い」

 

「長命って‥‥‥長生きって事?」

 

 アベルは率直な疑問を口に出していた。

 だが、フィーアが淡々と話を続ける。

 

「外見はあまりにも整い過ぎてて、人間たちの視線を集める」

 

「それが‥‥‥なに?」

 

 アベルはまた聞き返す。話の意図が、何も分からない。

 するとフィーアが深呼吸して、口を開く。

 

「だからエルフは‥‥‥よく高値で人身売買される。つまり、誰かの奴隷にさせられることがあるの」

 

 そう言った彼女の声は、少し弱々しかった。

 あまりに残酷な事に、9歳の少年は両手を震わせる。

 

「‥‥‥なにそれ。そんなのおかしいよ!!」

 

 話を聞いたアベルは‥‥‥声を荒げた。両手で勢いよく机を叩いて、フィーアを睨み付ける。

 

「落ち着けアベル!!」

 

 だがその態度に、ノールが一喝する。

 アベルは「‥‥‥ごめん」と言って冷静になる。

 

「この話を、他の人に話さない方がいい。エルフを良く思ってない奴らも多い」

 

「‥‥‥みんなも、そうなの?」

 

 アベルは、無意識に声が小さくなっていた。

 友達となったアリシアの事を、信頼しているノールたちに‥‥‥悪く言われたくない。

 

「俺は普通に、優れた種族だと思ってるよ。長寿な分、豊富な知識と技術を持ってるし」

 

「私はエルフ大好きよ。魔術の扱いが桁違いだし、何よりすごく綺麗だし‥‥‥」

 

「考えたことねえな。無差別に襲いかかってくる魔物じゃねえんだから、敵対する理由は特にねえよ」

 

 ノールたちはそれぞれ、三者三様の言葉を述べる。 誰も、エルフを悪く言っている者はいなかった。

 

「‥‥‥そうだよね。わかった、今度から気をつける!」

 

 アベルにとって、それが堪まらなく嬉しかった。

 ノールたちも友達となったアリシアも、みんなが大切だからだ。

 

「そうだな、アベル。彼女と遊ぶ時は、なるべく周囲を気にした方がいい」

 

「うん、わかった!」

 

 アベルは笑顔で返事し。気兼ねなく食事を楽しんだ。

 

「‥‥‥」

 

 目を細めるノールの視線には、気付かなかった。

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