勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜 作:といα
「ふっはぁぁッ!!!」
プージが勢いよく大剣を振り下ろす。
かなりの重量であるはずの大剣を、彼はいとも簡単に操っている。
「っ!!」
アベルは臆する事なくギリギリで躱し、一歩踏み込んで彼の懐に入り込む。
「それはさっき見せただろ!?」
だがプージが、大剣を手放した。そして右の回し蹴りを繰り出した。
「っ!?」
アベルは側面からの鋭い蹴りを左腕で防御するが、勢いを殺せずに後方へ吹き飛ぶ。
「ちッ」
アベルは背中から壁に激突し、思わず舌打ちする。そして顔を上げた瞬間にはーーープージの前蹴りが眼前に迫っていた。
「ッ!?」
アベルは身体を横に倒しながら転がることで、迫り来る右足を回避。直後、プージの前蹴りが壁の一部を粉々に破壊する。
「やべっ、抜けねえ!?」
するとプージは右足が壁に嵌ったのか。
慌てた様子で声を出す。
(今だ!!)
すぐに立ち上がったアベルは、すかさずその隙を突こうと駆け出す。
「ーーーなんてなぁ!?」
だがアベルの死角からーーー落ちていたはずの大剣が、勢いよく投げられる。
プージが右足を簡単に引き抜き、右手で大剣を投擲物のように投げたのだ。
「っ!?」
虚を突かれたアベルは、足元に飛んでくる大剣を反射的に飛び越えて躱す。
「素直でいいガキだ!!!」
だが行動が読まれていたのか、プージが勢いよく手を伸ばす。跳躍したアベルは、手を伸ばしてくる彼の右腕が迫る。まるで、引き寄せられているように。
「ゔっ!!」
そして、乱雑に首を掴まれてしまった。
「ぐっ!?」
直後、アベルの口から声が漏れる。
プージが右手首を絞めながら、左手で何度も何度も殴り付けてきた。
9歳のアベルと大男のプージでは、あまりにも体格差が大きすぎた。首を掴まれて持ち上げられては、子どものアベルは何もできない。
「がっ!!? ぐっ、!?」
それでもアベルは懸命に両手を胸の前に寄せ、プージの殴打を防ごうとする。だがプージがそれを嘲笑うかのように、アベルの首を締め上げた。
「う、ぐ‥‥‥ぎぃ‥‥‥!!」
アベルは苦悶で顔を歪ませながら、口から血や唾液が垂れ落ちる。その様子を、プージが息を吐きながら見つめていた。
「いくら強いといっても、所詮ガキだ。俺とお前じゃ、力の差が余りにも違う。努力だけじゃあ、どうしようもねえ事もあるんだよ」
魔力による身体強化術が相当な練度だとしても、アベルの元の身体能力は9歳の少年である。
まだ成長期を迎えていない身体で、大男のプージと戦うのは限界があった。
「戦いってのは命(タマ)の取り合いだ。どんな事をしても生き残った方が偉い。心の汚ねえ奴が勝つ世界なんだよ」
まるでプージが、誰かに授業でもしているかのように呟いた。それは、9歳のアベルを評価しているようにも見えた。
「アベルくんッッ!!!!」
アリシアの悲痛な声が、室内に響き渡る。
身長も違う、体重も違う、手足の長さも違う‥‥‥あまりにも、2人には力の差がありすぎる。
「‥‥‥」
アベルは次第に、身体を脱力させる。
それはもう、生命の危機であることを示しているかのようだった。
「9歳で傭兵を数人倒したんだ。無鉄砲に突っ込んでこなかったら、輝かしい未来が待ってただろうに。結局、バカは早死にするわけだ」
プージが溜め息を吐き、首を絞める右手に力を加え始める。
「アベルくんっ!!」
「死ね死ねっ!! 首を折られて死ねっ!!」
「死体の処理も任せていいか? 報酬は上乗せしよう」
その光景を見ているアリシアが泣き叫び、リパルとルバリは嬉しそうに笑う。
彼らはまるで貴族の遊戯かのように、アベルを見て楽しんでいた。
「ったく、気分悪いぜ」
そんな空気に、プージが目を細めて愚痴をこぼす。
「‥‥‥【
次の瞬間。
アベルは目を見開き、両手を前に突き出す。
「ーーーごぁッ!!?」
そして魔術式から放出した小さな氷が‥‥‥プージの左目に命中した。
「ガァァァァッ!!? このガキがぁぁぁッ!!!」
プージが絶叫しながら両手で目を押さえる。
アベルの首を絞めていた右手も、無意識に解放していた。
「ゴホッ!! ゲホっ‥‥‥!!」
アベルは辛うじて床に着地すると、何度も咳き込みながら両手に魔力を集める。
「僕だって‥‥‥目的の為には手段を選ばない人間だ!!!」
そしてアベルは堂々と言い放ち、迷いなくプージヘと突っ込んでいく。
「上等だぁぁ!!! これくらいのハンデはやってやるよ!!?」
プージが大声を出して顔を上げると、左目を閉じたまま身構える。だが、アベルの姿は無い。
「ーーーッ!!!」
アベルは彼の左目の方へ飛び込み、死角に入り込んでいた。
そして間近の壁を勢いよく蹴り、三角跳びの要領で‥‥‥プージの頬に右拳をめり込ませる。
「ぐぉッ!?」
呻き声と共に、プージの身体がよろめく。
アベルはその隙を見逃さず、距離を詰めて鳩尾に左拳を潜らせる。
ドンッと鈍い音が、室内に響き渡った。
「このッ、クソガキが!!!」
怒り狂ったプージが両手を広げ、掴み掛かろうとした。
「ーーーらッ!!!」
アベルは臆せず跳躍し、膝蹴りをぶち込む。
「ガッ!?」
魔力で強化した膝がプージの顎を穿ち、彼を後方へ浮かせる。
「がッ!?」
仰向けに倒れたプージが上体を起こした瞬間、アベルは前蹴りを放つ。まるで、プージの動きを読んでいたかのように。
「クソがっ!!!」
背中から壁に激突し、声を荒げるプージ。
「ーーー!!」
そして顔を上げた彼の視界にはーーー剣が映っていた。それは最初に倒された傭兵の剣。
まさに、彼自身がやった事が、返ってきている。
「舐めるなっ、クソガキが!!!」
プージが声を荒げ、顔の前に左手を割り込ませる。手のひらから血が溢れ出すが、気にせずに剣を受け止めた。
「ーーーぐぁぁぁッ!!!!?」
だがその直後、大量の出血と共にプージが叫ぶ。
「ぁぁぁぁぁッ!!!!」
アベルは大声を出しながら、落ちていた槍を手に持ち‥‥‥彼の左肩に突き刺したのだ。
まるでその場に固定するかのように、プージの肩を貫いた槍は、壁をも貫いていく。
これでプージは、槍を抜かない限り動けない。
「汚い奴が勝つんだろ!?」
アベルは勢いよく飛びかかり、右拳を振り下ろす。
そして、動けないプージを一方的に殴り始めた。
魔力で強化した両手で、何度も何度も殴り続ける。
「ガっ、この、ガキっ‥‥‥」
肩からの大量の出血と激痛、そして精神の消耗。
「ふざ、け‥‥‥」
やがてプージは自分の意志とは関係なく‥‥‥意識を手放した。
「ハアッ。ハアッ。ハァッ、ハァッ‥‥‥」
激闘を制したアベルは、座り込んで呼吸を整える。
だが、その時間はごく僅かなものだった。
「‥‥‥‥‥‥あと、2人」
そしてアベルは満身創痍の身体を奮い立たせて、残る2人を睨みつける。
「ひ、ひいッ!!」
「あ、悪魔の子だ‥‥‥」
嫡子のリパル、当主のルバリ。
2人の親子は全身を震わせ、淡々と歩いてくる金髪少年に怯えていた。