勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜   作:といα

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第24話 もう二度と

「これで‥‥‥あと2人」

 

 アベルは顔の血を全て拭いながら、残った2人に視線を向ける。

 

「パ、パパっ‥‥‥!!!」

 

「こ、この化け物が!!!! 近寄るなぁぁ!!!」

 

 それは騒動の元凶リパルと、その父ルバリ。

 傭兵が全て倒されたことで、彼らは完全に弱腰となっている。

 

「そ、そうだっ!! それ以上動くな!! この子がどうなってもいいのか!!?」

 

 だがルバリが懐に隠し持っていた短剣を、アリシアの首に向けようとする。

 

「ーーー黙れ」

 

 アベルは冷たい声を出すと、一気に距離を詰めて左拳を振り抜く。少しも躊躇しない。

 ルバリの雰囲気から、アリシアを殺す覚悟は無いと分かりきっていたのだ。

 

「ぶごぉぉッ!!?」

 

 そしてアベルの思い通り、ルバリが短剣で彼女の首を切る間もなく‥‥‥アベルの右手が、彼の顔面を殴り飛ばす。

 

「ごふっ、ば、、ばけ‥‥‥」

 

 ルバリが涙と血を流しながら呻き声を吐き、仰向けに昏倒する。

 

「ぱ、パパぁぁぁッ!!!」

 

 リパルは父の状態を案じるも、駆け寄る事が出来ない。雇っていた傭兵を全て倒したアベルに、両足が震えている。

 

「な、なんだよお前ッ!!! ナパロ家の嫡子である僕に喧嘩を売って、タダで済むと思ーーー」

 

 苛立ちを見せたリパルの声は、視界を埋め尽くした()によって遮られる。その後に発したのは、到底言葉とは思えない呻き声。

 

「ぐぼぁッ!!?」

 

 アベルは手加減して、リパルの顔面を殴り飛ばした。仰向けに倒れて泣き叫ぶリパルを、淡々と見下ろす。

 

「お前こそ、タダで済むと思うな。どうして罪もない人の人生を‥‥‥簡単に奪うような真似ができる」

 

 そう言ったアベルの目は、どこまでも吸い込みそうな深淵を覗かせていた。

 

「ひ、ひいッ!?」

 

 リパルが必死に逃げようと後ずさる。彼の股からは液体が漏れ、床の一部に広がる。

 

「ゆ、許してッ!!! か、金ならいくらでもやるから!!!」

 

 リパルが恥も外聞も知らぬ発言を行う。

 懇願する彼の姿は、見ていられないほど醜い。

 

「アリシアの人生を‥‥‥勝手に金で買おうとした奴の言葉は、やっぱり説得力あるな」

 

 アベルは完全に煽るような言葉を返すと、しゃがみ込んでリパルの首を掴む。

 

「つ、冷たッ!?」

 

 すると首の周囲の気温が下がっていき、リパルは驚きの声を漏らす。それを見ていたアリシアも驚いていた。

 

「よかったな。僕の氷属性魔術はこれくらいが精一杯だが、アリシアが同じ事をすれば‥‥‥お前は冷凍人間だ」

 

「ひ、ひいッ!!!!」

 

「今から試してもらおうか?」

 

 アベルは意識的に、リパルの恐怖を煽っていく。もう二度と、アリシアへ近づけないように。

 

「楽に死ねると思うなよ」

 

 アベルは淡々と呟くと、空いていた右手でリパルの顔を殴る。

 

「ごふぁっ!! い、いだいッ!! やめデェェェェェ!!!」

 

 リパルが悲鳴を上げるが、アベルはお構い無しに殴り続ける。

 

「黙れよ」

 

 左手でリパルの首を掴んだまま気温を下げ、右手で手加減して殴り続ける。

 できるだけ、意識を保たせたまま苦しむように。

 

「がぁ、ぁ、は」

 

 リパルはもう、顔の原型を留めてないほど殴られ放心状態となっていた。馬乗りになって恐怖を刻み込んだ少年は、ようやく立ち上がる。

 

「お前が好き勝手やったから、僕も好き勝手やった。それだけだ」

 

 アベルは興味を失せたのか、放心状態のリパルを放置して踵を返す。

 

「どいつもこいつも‥‥‥身勝手に人生を狂わせやがって」

 

 そしてアベルは駆け寄り、()()と同じ目線までしゃがみ込んだ。椅子に拘束された彼女と。

 

「‥‥‥ごめん、遅れた」

 

「アベルくんっ‥‥‥私のせいで、こんな怪我をっ」

 

 アリシアが縛られた状態のまま、泣きじゃくる。

 アベルは少し困った様子で室内を物色し、やがて見つける。

 

「たぶん、これで手錠を外せるはず」

 

 それはアリシアの両手首に付けられている、魔力封じの手錠の鍵。鍵穴に差し込むと、手錠は音を立てて床に落ちた。

 

「もう少しだから」

 

 アベルは励ますように呟くと、椅子に縛られているアリシアの両手足の縄を解いていく。

 遂に‥‥‥アリシアが解放された。

 

「ごめんなさいっ‥‥‥私のせいでっ!!」

 

 だがアリシアは、両膝を床に付けて嗚咽を漏らす。アベルの顔を見て、ひたすら泣き続ける。

 アベルの額や鼻、そして口からは‥‥‥何度も出血した痕跡が残っていた。

 

「大丈夫、いい経験になったよ。それに鼻血は後遺症みたいなもので、戦闘の怪我じゃないし」

 

 アベルは意識して優しく話すと、鼻を抑えて苦笑を浮かべる。

 

「こ、後遺症‥‥‥?」

 

 

 アベルは今回、嗅覚を限界以上に魔力で強化した。

 それで脳が異常を検出し、鼻血が出たのだ。

 

「まあ、そのうち治るから大丈夫」

 

 彼女の匂いを嗅いでここまでやってきたと、アベルは自分の口で話すのを躊躇った。

 

「謝るくらいなら、もっと別の言葉が欲しい。僕は勝手に動いただけだから、それだけでお釣りがくる」

 

 アベルは少し飄々と言いのける。

 自分から何かをねだるのが恥ずかしいのか、少し視線を逸らして顔を赤くしていた。

 

「アベルくん‥‥‥うんっ、助けてくれて本当にありがと!!」

 

 そしてアリシアが‥‥‥笑顔で抱き着いた。

 涙は今も流れているが、彼女は憂いのない笑顔を浮かべている。

 

「やっぱ、感謝されるのって‥‥‥」

 

 アベルは次第に声が小さくなっていく。

 

「これで、恥ずかしくない、、自分に‥‥‥」

 

 そして、目を閉じて脱力してしまった。

 その背中を、アリシアが咄嗟に支える。

 

「アベルくん!? 大丈夫!?」

 

 嗅覚の強化による脳への一時的な後遺症。

 屋敷に侵入するまでと、室内までの激闘。

 さらにアリシアを助け出せたことによる、緊張の緩和。

 

「心は、ずっと‥‥‥‥‥‥」

 

 それらが重なった結果、アベルは意識を失ってしまう。

 

「ありがとう‥‥‥アベルくんっ」

 

 アリシアが優しく抱き締める。彼女の声は、既にアベルには届かなかった。

 

 

「ーーー動くな!!!」

 

 すると突然、第三者の声が扉の方から響き渡る。

 室内で唯一、意識のあるアリシアが顔を向けた。

 

「アストリア王国軍だ!! 状況を改めさせてもらーーー拉致されたのは君かい!?」

 

 扉の前に立っていたのは20歳前後の青年。白を基調とした隊服の胸元には、王国軍の紋章が入っている。

 

「王国、軍‥‥‥?」

 

 アリシアは事態が飲み込めず、言葉を反芻する。そして青年は室内の状況を見渡し、目を見開いた。

 

「な、何があったんだ‥‥‥」

 

 彼の視線は室内を細かく見渡し、やがて1箇所で止まる。

 

「‥‥‥‥‥‥」

 

 穏やかな表情で目を閉じている、金髪少年へと。

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