勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜   作:といα

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第25話 アストリア王国騎士団

 最北端の街ベールバーナ。

 名門貴族、ナパロ家の屋敷前。

 

「待ってください!! 彼は何も悪くないんですっ!!」

 

 少女の大声が周囲に広がる。

 それは騒動の被害者、アリシア。

 彼女は今、王国軍の兵士たちに保護された。

 

「‥‥‥‥‥‥」

 

 そして、意識の無いアベルは‥‥‥兵士に抱えられたまま、どこかへ連行されようとしている。

 

「アベルくんは、ただ私を助けてくれただけなんです!! 1人であの傭兵たちに立ち向かって、それでっ‥‥‥!!」

 

「‥‥‥悪いな嬢ちゃん。名門貴族の当主と嫡子が虫の息なんだよ」

 

 アリシアの言葉に割り込んだのは、1人の男。

 

「事態の究明をしないと、な」

 

 30歳前後、乱れた茶髪、顎には無精髭。

 騎士制服のボタンの上二つを開けている。

 不真面目そうな印象が、外見から醸し出している。

 

「今回の一件は、この少年に詳しく問い詰める必要がある。嬢ちゃんと家族は王国軍が保護するから」

 

「問い詰めるって‥‥‥何を!? まさかアベルくんが罪に問われると!? あの最低な貴族親子から私を助けてくれた彼が、罪に問われるんですか!?」

 

 彼の言葉に、アリシアが叫ぶように訴えた。目には涙を溜め、睨み付けるように見上げている。

 

「王国法を適用して話を伺うだけだ。だが貴族をあれほど殴ったなら、どんな処遇になるか分からん」

 

 だが、男は少しも動じない。

 

「あ、俺は王国騎士団のハーティアね。ちなみに王国軍は、アストリア王国騎士団の下部組織。それじゃあ」

 

 その男は、ハーティアと名乗った。

 彼は軽く頭を下げると、部下に指示して踵を返す。

 

「‥‥‥何が王国軍よ!! 何が王国騎士団なの!? 結局、権力に逆らえない武装集団じゃない!!!」

 

「アリシア!!」

 

 アリシアがありのままを叫ぶと、彼女の母親が抱きしめて阻止する。だがアリシアは必死に‥‥‥手を伸ばし続ける。

 

「アベルくんっ‥‥‥!!!」

 

 彼女の悲痛な叫び声が周囲に響きわたる。

 名門貴族の屋敷前ということで、多くの人が興味本位で一部始終を眺めていた。

 

「‥‥‥ったく、俺だって納得してねえっつの。こんな貧乏くじ引かされてよ」

 

 ハーティアが頭を掻きながら、部下を引き連れて撤収していく。

 

「‥‥‥でも、収穫はあったな」

 

 彼は一点を見つめて、小声で呟いた。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 アベルの自由行動、5日目。

 最北端の街、ベールバーナ。

 

「アベルーーー!!! どこにいるんだーーー!!」

 

「聞こえてるなら返事してぇぇぇ!!!」

 

「おい、本当に見つからねえぞ」

 

 冒険者のノール、フィーア、バンギネス。

 3人は街中を走り回っていた。それも、昇級試験の前日であるにも関わらず。

 

「もっと早くに気付くべきだった‥‥‥なんで気付かなかったんだ」

 

 ノールは両手を震えるほど強く握る。爪が食い込み、手の平から血が垂れていた。

 

「そういえば昨日の昼‥‥‥街中で騒ぎがあったって聞いたぜ」

 

 バンギネスは汗を拭いながら呟く。普段は無愛想な彼も、今は懸命に捜索を続けている。

 

「アベル‥‥‥いったいどこにいるのッ!?」

 

 フィーアは涙を溢れさせて、いなくなった少年の身を案じていた。顔は青ざめており、必死に走り回っている。

 

「ーーー聞き覚えのある名前ですね」

 

 すると、ノールたちに話しかけた人物がいた。

 

 長い黒髪が印象的な、切れ長の目をした少女。

 白を基調とした騎士制服に身を包み、姿勢よく立っている。

 

「どうも。13歳で騎士になった天才です」

 

 年齢は13歳と、騎士階級としては異例の若さ。

 

「‥‥‥俺は冒険者ギルド『エルトリンデ』所属、B級冒険者のノール。君の名前は?」

 

 ノールは警戒した様子で話しかける。

 黒髪の少女は、綺麗な所作で軽く頭を下げる。

 

「私はアストリア王国騎士団、五番隊所属のシレーナ。歴代最年少で騎士になった、天才少女です」

 

 シレーナと名乗った少女が、淡々と自己紹介する。なぜか聞いてもいない情報を追加して。

 

「王国軍は兵士の階級が集まる一般的な組織で、日々の治安維持に努めます。まあ普通の軍人です。そして騎士階級以上の人のみ、王国騎士団に配属されます。つまり、私は国内屈指の精鋭集団の1人という事です」

 

 シレーナは淡々とした口調で、またしても誰も聞いていない話を始める。

 

「すごいですねーーーじゃあ昨日の事件も知ってますよね?」

 

 それは思わず、ノールが話を切り替えるほどだった。

 シレーナは少し白けた様子で息を吐くと、皆が聞きたかった事を話し始める。

 

「アベルという名の金髪少年は、昨日のナパロ家襲撃事件の首謀者です。今は王国法に乗っ取り、身柄を預かっています」

 

「しゅうげき、事件‥‥‥?」

 

 彼女の言葉に、真っ先に反応したのはフィーアだった。青ざめた表情で唇が震え、動揺を隠せない。

 

「っ‥‥‥」

 

 それは、黙り込んでいたノールも同じだった。

 

「‥‥‥襲撃事件だあ? ずいぶんと貴族の肩を持った言い回しだな。どうせナパロ家の馬鹿どもが勝手なことをして、自業自得な目に遭っただけだろ」

 

 ただバンギネスだけはわざとらしく笑いながら、シレーナへ直接言い放つ。

 

「理性的なあいつが、この街で騒ぎになるほどの行動を起こした理由は1つしかねえ」

 

「と言うと?」

 

「エルフの嬢ちゃんだろ。貴族はエルフ大好きだしなぁ。言ってること間違ってるか、シレーナさんよぉ」

 

 バンギネスは、堂々と自分の考えを話した。王国軍の騎士であるシレーナへと。

 するとシレーナが、目を細めて微笑んだ。

 

「‥‥‥あなたって、見かけによらず頭が切れるようですね。お名前は?」

 

「明日、B級冒険者になるバンギネスだ。外見と中身は関係ねえだろ」

 

 バンギネスは悪態をつきながら名乗った。

 やがてノールとフィーアも落ち着きを取り戻し、シレーナを問い詰めるように目を合わせる。

 

「どうやら、首謀者の少年とは面識があるようですね。いいでしょう。事件の被害者の元へ案内します。あなたたちの話も聞かせてもらいますが」

 

 シレーナは微かに息を吐くと、踵を返して歩き始める。

 

「‥‥‥行こう」

 

 ノールたちは、小さく頷きながら彼女の後を追った。

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