勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜 作:といα
ノールたちは、先を歩く黒髪少女についていく。
「ベールバーナにある、王国軍の詰所です。あ、騎士団の人は殆どいません。私も近くにいたから招集されただけなんで」
そして、王国軍の詰所へと辿り着く。
道中で繰り広げられたシレーナの話は、その大半が話す必要がない事だった。ノールたちが適当に相槌を打ち、彼女が話す。その繰り返しだった。
「ここに、事件の被害者とその家族を保護しています。あ、貴族の屋敷みたいに意味のない茶菓子とかは出ないので、どうかあしからず」
そしてシレーナは淡々と呟くと、玄関の扉を開けて先導していく。
「こっちに来てくださーい」
その後ノールたちは、シレーナの案内で王国軍の詰所に到着する。それほど大きくない建物の中に入り、廊下を歩く。
「ここです。被害者の少女と、その母親がいます」
やがて、先導していたシレーナの足は小さな部屋の前で止まった。
「コンコン。さあ面会のお時間ですよー」
実際にそう言ったシレーナは、扉を数回ノックした。そして、素早く扉を開ける。
「ーーーアベルくんっ!?」
扉を開けた先には、勢いよく顔を上げて勘違いしたエルフの少女がいた。その隣には、彼女の母親が座っている。
「残念ですが、ご所望のアベルくんではありません。ですが、金髪少年と面識がある方たちをお連れしました」
シレーナは淡々と話すと、扉の横に立つ。
「‥‥‥どうぞ?」
中へ入れと、彼女の横目が促している。いや、実際に口に出している。
ノールたちは何も言わず、中へと足を踏み入れた。
「それでは、ごゆっくり。何も出ませんが」
やがてシレーナは素早く扉を閉めて、早々に立ち去っていった。室内に、微妙な空気が流れ出す。
「あ、あのっ‥‥‥アベルくんは無事なんですか!?」
その空気を壊したのは、事件の被害者であるアリシア。
「‥‥‥ごめん。何も知らないんだ。俺たちもアベルの事が知りたくて、ここに来たんだ」
ノールが穏やかな笑顔を作り、アリシアの前にしゃがみ込む。フィーアも同様に、彼女の前にしゃがんで目を合わせる。
「俺たちはアベルと同じ冒険者で、パーティーを組んでいる。昨日、何があったか聞かせてくれないか。昨日あった騒動の首謀者って、本当に」
ーーーガチャッ。
ノールの声は、扉の音によって遮られる。
「あ、失礼。腰を折ってしまいましたね。ですが話があるので、お邪魔しますよ〜」
現れたのは、ボサボサの茶髪に顎の無精髭が印象的な、身なりを意識していないような30歳前後の男。
「俺はアストリア王国騎士団、五番隊の隊長をしているハーティアと申します。今、昨日の首謀者である少年の
ハーティアは頭を掻きながら呟くと、室内の空気がざわめく。
裁判という重々しい言葉に、ノールたちは息を呑んだ。
「その結果‥‥‥彼は殺人未遂の実刑が課せられました」
ハーティアの口から、簡潔な結論が発表される。
「ーーーなんでッ!!?」
真っ先に反応したのは、アリシアだった。
彼女は眉を顰め、これ以上ないほど睨みつける。
だが、ハーティアの態度は変わらない。
「多数の重傷者を出した残虐性から、危険因子だと判断ーーー2日後に、処刑されるそうです」
ハーティアの言葉は、あまりに淡々としていた。
「判決があまりにもおかしいです!!! 彼に何の罪があると言うんですかッ!!!?」
アリシアの大声が室内に響き渡る。彼女の全身から魔力を滲み出し、周囲が冷たくなっていく。
「彼女の言うとおりです。不可解な点が多すぎる。王国軍は何が正しいか分からないほど、落ちぶれてしまったんですか?」
それはノールも同じだった。
目を細めて怒りを露わにし、暴言を吐く。
「ハッ、何が王国騎士団よ。エリートだかなんだか知らないけど、結局は王家や貴族の権力に逆らえない犬じゃないの??」
特に過敏に反応したのは、フィーアだった。
「この子を命懸けで助け出したアベルが極刑? はぁ?? 平民を馬鹿にしてんの???」
もはや嫌悪感を少しも隠さず、暴言を吐きまくっていた。
「お前ら落ち着け。別にこいつが処遇を決定したわけじゃない。伝えに来ただけの奴を、一方的に責めるのは酷だろ」
ただ1人、バンギネスは仲間を落ち着かせるように淡々と話す。だが、彼の両拳は震えている。
「まあ、王国騎士団や王国軍の奴に不信感を抱くのは仕方ないがな」
そして一瞥し、ハーティアを睨み付けていた。
「‥‥‥俺から言えるのは、申し訳ないという事だけです。お悔やみ申し上げます」
ハーティアは軽く頭を下げると、踵を返して扉を開けた。もう、全てが終わったのだ。
「アベルくんっ‥‥‥アベルくんっ!!」
「何が王国騎士団よっ!!!? 権力の犬畜生団に改名しろ無能集団がッ!!!」
直後に響くアリシアの大声、フィーアの暴言。
それを背中に浴びながら、ハーティアは扉を閉める。
「‥‥‥ったく。今のままじゃ、善悪の判断すら出来やしない。だから貴族は癪に障るんだよ」
そして溜め息を吐いて頭を掻きながら、彼はふらふらと歩き出すのだった。
「悪いな‥‥‥少年」
その後。
アリシアとノールたちは、必死に判決の不信感を訴えた。だが、状況は一変せず‥‥‥2日が経つ。
「うそっ‥‥‥」
アリシアが、地面に両膝を落とす。全身が震え、視界が滲む。息が、苦しくなっていく。
「ーーーいやぁぁぁぁぁッ!!!!」
金髪少年の生首が、周囲の目に晒された。