勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜 作:といα
「はい、あ〜ん」
「‥‥‥」
アベルは自分の口元に運ばれてきたスプーンを、目を細めてガン見する。その態度に、シレーナが溜め息をつく。
「元気ないですね〜」
「‥‥‥」
「まさか、ふーふーまで要求してます〜? 罪人のくせに尊大な態度ですねー」
「ーーー自分で食べたいんですよ!!?」
アベルは終始、彼女との接し方に困っていた。もはや何度、大声を出したか分からない。
「だってスプーンみたいな凶器、渡せるわけないでしょー。目とか抉ってきそうですし」
「食べる時に言うのやめて貰えます!? それに牢屋の外に出ればいいじゃないですか!!」
「‥‥‥ごうか〜く。正常な判断が出来てますね」
「あなたは出来てますか!?」
こんな生産性皆無の会話が続いた後。
アベルは結局、枷を付けられたまま1人で食べた。
「‥‥‥おいしい」
「あはっ♪」
罪人にしては‥‥‥豪華と思える食事を。
「最後の晩餐はどうでした〜? シレーナさんが真心込めて運んできたんですよー?」
「はいとてもおいしかったです」
アベルは無心で声を出す。
シレーナの話を真面目に聞くのは、無意味だと悟っていた。そんな態度に、シレーナが目を細める。
「せっかく餞別として豪華な食事にしてあげたのに、酷い態度ですね。さすがの私も堪忍袋の尾が」
「ーーー思ったよりも仲良さげだなぁ」
階段から声を出して現れたのは、ハーティア。
「あ、お父さーん」
「誰がお父さんだ!!?」
シレーナの一言に男が声を荒げると、わざと咳払いをして視線を下げる。そして牢屋のベッドに腰を下ろしている、アベルと目を合わせる。
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
アベルとハーティアは、互いに見つめ合っていた。
「目と目が合う〜」
シレーナの声など、全く届いていなかった。
「‥‥‥ごめんなさい」
するとアベルは、勢いよく頭を下げた。目を見開いて佇むハーティアには気付かず、話を続ける。
「あれから考えて‥‥‥気付きました。ハーティア
「少年‥‥‥」
「あの日は‥‥‥僕が弱かったから、運命を変えられなかった。それが全てです」
アベルは歯を噛み締めながら、自分の両手を睨み続ける。
「僕は‥‥‥胸を張って生きたい。後ろめたい事や、気になる事なんて無く、ただ純粋に‥‥‥」
『セリカに会いたい』
そんな言葉を、口には出さず心の中で呟く。
それは決して、誰にも話していないアベル自身の‥‥‥心の芯。
「‥‥‥お前は立派だよ、少年」
ハーティアが僅かに口角を上げて呟いた。
アベルは少し気恥ずかしくなり、ぺこりと頭を下げて反応する。
「んじゃ、スッキリした所で俺の話を聞いてくれ」
ハーティアの真剣な表情に、アベルは生唾を飲みながら耳を傾ける。
「まずアリシアという嬢ちゃんと、彼女の母親は無事。王国軍が保護してるから、間違いは起きないだろう」
「っ! そう、ですか。よかった‥‥‥」
アベルは安堵の息を吐き、自然と笑みがこぼれていた。
「次にノール、フィーア、バンギネスとかいう冒険者。特にお咎め無しだ。まあ無関係だから当然だな」
「っ! それを聞いて、安心しました」
アベルは嬉しそうに声を漏らす。
大切な人たちが無事。それを聞いただけで、心残りが解消されていった。
「そして最後、お前の処遇だ。お前は今、世間的に
「‥‥‥へ?」
アベルは思わず、素っ頓狂な声を出した。言葉の意味が分からず、無意識に視線が泳ぐ。
「時間でいうと‥‥‥約6時間前だ」
「何が、6時間前ですか‥‥‥?」
「お前の
「〜〜〜!?」
アベルは不意に自分の首を触る。当然、首は身体と繋がっている。
「あれほど精巧な生首の
「それ、お前が言う?」
「はぃ?」
「お前も嬉々として製作風景を眺めてただろうが。『死臭まで再現してる〜!』って面白そうによ」
シレーナとハーティアの会話から、アベルは少しだけ話を理解する。
自分そっくりの首を周囲に見せる事で、死んだように見せかけたと。
「‥‥‥なんで、そんなことをしたんですか」
すると次に来るのは、疑問。
死んだことにされて、自分が生かされている今の状況。アベルにとっては、理解不能の問題だった。
「お前の言う通りだ。当然、こんな回りくどいことをしたのは理由がある」
ハーティアが不敵に笑うと、後ろ手に持った何かをアベルに近づける。
「!? いったい何をーーー」
「じっとしてろ」
やがて両手首の所で回すと‥‥‥嵌められていた手錠が、音を立てて床に落ちた。
「今から試験を行う」
「‥‥‥はっ??」
アベルは声を漏らす間も、足の拘束具が外されていった。