「わぁーーーっ!!」
(さて、どうしたものか…)
慌てふためくあんなの横で、ひなたは冷静に思考を巡らせていた。
「なんでひなたはそんなに冷静なの~~!?」
「慌ててもしょうがないからね…ほらあんな、深呼吸して落ち着いて」
「スー、ハー…って、落ち着けないよ!私達落ちてるんだよ!?」
あんなの言う通り、部屋にいた筈の二人は現在真っ逆さまに落ちていた。あんなと一緒にいた小動物も一緒だ。
「ひなた!下見て!女の子が!」
「えっ?」
あんなの言う通り、二人の真下には一人の女の子の姿があった。このままでは地面に激突すれば彼女もタダでは済まないだろう。
「…しょうがない」
そう呟いたひなたはあんなを抱き抱えた。所謂お姫様抱っこで。
「ひ、ひなた!?」
「しっかり掴まってて。上手い事着地…」
「ポチ~!」
「する…え?」
突然の事にひなたとあんなは呆然としてしまった。何故なら小動物が突然膨らみ、クッションの様に二人を包み込んだからだ。
「た…助かったの…?」
「…みたいだね」
「…ひ、ひなた…そろそろ降ろしてほしいんだけど…」
そう言っていたのはひなたにお姫様抱っこされているあんなだった。恥ずかしいのか、あんなの頬が真っ赤に染まっていた。
「えっ?うん…」
「ポチポチ~!」
ひなたはあんなを抱っこしたまま小動物から降り、あんなを降ろした。
「さっきまで部屋にいた筈なんだけど…」
「…もしかして、これのせい?」
あんなが手に持っているのはどこか不思議な形をした懐中時計だった。
「あんな…それって…」
「これ、私の部屋に置いてあったんだ。あの時はお母さんからの誕生日プレゼントだと思ってたけど…どうしたのひなた?ボーっとしてるけど…」
「…何でもないよ」
「あ、あの!」
話しかけてきたのはこの場にいたもう一人の少女だった。
(如何にも名探偵が着そうな服だな…)
ひなたが思っている通り、少女が着ているのは名探偵と言えばコレ!と言われそうな服だった。
「妖精を連れているという事は、お二人はキュアット探偵事務所の名探偵ですよね!?」
「名探偵…?」
(キュアット探偵事務所…あっ、この建物の事か)
ひなたはそう考えながら目の前にある建物に目を向けていた。
「あっ!私、小林みくると言います!」
「わ、私は明智あんな!こっちはひなただよ!」
「神津日向。あんなとは昔からの幼馴染みなんだ」
「フーン、幼馴染み…それだけなの?」
「え、そうでしょ?あんなは僕にとって大切な幼馴染み。いつも一緒にいてくれるだけで楽しいよ」
「ひなた…あ、ありがとう…(もう!何で恥ずかしげもなく言えるの~!)」
あんなはそう口にするが、心の中では羞恥心に駆られていた。
「…じゃなくて!何で私達外にいるの!?さっきまで部屋の中にいた筈なのに!教えてよひなた~!!」
「僕に言われても…あんな、一旦落ち着いて…」
あんなはひなたの両肩を掴み、彼女をブンブンと降っていた。
「…もしかして、既に探偵テストは始まってる?」
そんな二人のやり取りを見ていたみくるは小声でこのような事を言っていた。
「フフッ、お二人の疑問に、この私がお答えしましょう!」
するとみくるは高らかにそう口にし、懐から虫眼鏡を取り出した。
「かの名探偵、シャーロック・ホームズは靴の汚れや傷を見て、どこから来たのか言い当てました!あなた達はズバリ!…」
そう言ってみくるは二人の足を見るが、二人共靴を履いてなかった。それもそうだ。何故なら先程までひなたとあんなは部屋の中にいたのだから。
「…履いてないじゃないですか~~!!」
「うん、ピッタリ!」
あれからみくるに連れられ、二人は靴屋に足を運んでいた。あんなが履いているのは桃色の靴で、ひなたが履いているのは青色のスニーカーだ。
(…あれって、俗に言うブラウン管テレビだよな?)
そんな中、ひなたの目に入っていたのは店内に置かれていたブラウン管テレビであった。ひなたが生まれた頃には既に薄型テレビの世の中になっていたが、前世代に当たるブラウン管テレビの存在をひなたは知っていた。
(ブラウン管テレビはもう使えない筈だし、何よりCMの内容もどこか古臭い…もしかして…)
ひなたが導き出した一つの可能性。それは突拍子もなく、ありえない可能性だが、靴屋に来るまでに町の景色や人々の雰囲気を目にしたひなたにとっては、この可能性しか考えられなかった。
「ひなた、どうしたの?」
「…何でもない(まぁ、この事は後で考えよ。あまりあんなを不安にさせたくないし)」
「…あの、やっぱりありえませんよ。部屋から落ちてきたなんて」
「本当だよ!私、嘘つかないから!」
「あんなは筋金入りの正直者だから、信じて良いよ」
「あの…それって褒めてますか?」
「…それであんな。さっきから気になってたけど、この…妖精?って誰なの?」
「わかんない…急に部屋に入って来たから…名前はポチタンだったよね?」
「ポチ?」
あんなは妖精に名前を確認しようとするが、当の妖精であるポチタンは言葉を発さなかった。
「ポチポチじゃわかんないよ?」
「…その子、おしゃぶりをしてますね」
みくるの言う通り、ポチタンの口にはおしゃぶりが加えられていた。
「何らか理由で、赤ちゃんになって喋れなくなった!…どうです、今の推理?探偵テストは合格ですよね!?」
「た、探偵テスト…?」
「…これまでの話から推理するに、探偵になる為のテスト…って言った所かな?」
「その通りです!名探偵は様々な難事件を調べ、解決し、人々を助ける!みんなの憧れであり、希望!私は、そんな名探偵になる為に探偵テストを受けに来たんです!」
「わぁ~…凄いね!何だかひなたのひいお祖父ちゃんみたい!」
「え?…もしかして、ひなたさんのひいお祖父さんも名探偵なんですか!?」
「そうだよ!それに、ひなたのひいお祖父ちゃんっていうのはね…」
「ポ、ポチ~!!」
するとポチタンは身体から紐の様な物が出てきて、ポチタンはポーチのような姿になってあんなを引っ張っていった。
「わ、わわぁ~~~!?」
「あ、あんな!…みくるさん、お金払っといて」
「え、えぇっ!?」
ひなたは靴屋を後にしてあんなを追いかけていった。しばらくするとあんなに追いつき、あんなを引っ張っていたポチタンの動きも止まった。
「ハァ…ハァ…」
「大丈夫?」
「な、なんとか…」
「ま、待ってくださ~い…!」
少しするとみくるも追いついてきた。
「く、靴の代金、建て替えておきました」
「あ、ありがとう!」
「ここは…結婚式場?」
一同がやって来たのは大きな結婚式場だった。ポチタンは式場に入りたいのか、手を伸ばしていた。ひとまず三人は式場に入ってみる事にした。
(…なんだか、慌ただしいな)
式場に入ったひなた達の目に入ったのは何かを探している様子の女性スタッフだった。するとこの場にウェディングドレスを着た女性やって来た。
「「花嫁さんだ~!!」」
花嫁の登場にあんなとみくるは目を輝かせていた。
「ありがとうございます。でも、もう諦めます」
「えっ、でも…」
「…式に、間に合いませんから」
スタッフにそう口にする花嫁。彼女の顔はどこか悲しそうであった。
「たちゅけて…」
ポチタンが悲し気にそう呟いていた。
「あんな」
「…うん!」
「あ、あの、二人とも?」
するとひなたとあんなが二人の元へ歩いていった。
ひなた達はスタッフと花嫁から事情を聴く為に式場の控室に案内されていた。
「改めまして、私はこの式場のスタッフの幸野です」
「想田まりです」
スタッフが幸野、花嫁がまりと言う名前の様だ。
「それで、何があったんですか?」
「実は…式で着ける筈だったティアラが、なくなっていたんです…」
まりがなくした物はティアラだったようだ。何でもまりの母親も結婚式で着けた物だったらしく、娘であるまりも着ける事になっていたが、いつの間にかなくなっていたようだ。
「あの、そこにあるティアラは何ですか?」
そう言いながらひなたが指を指した先にはティアラが一つ置いてあった。
「それは1時からの式に間に合うように、式場が用意してくれた物なんです」
ひなたの疑問にそう答えたのはまりだ。幸野によればまりのティアラと似た形と大きさの物を用意したらしい。その際にティアラの写真も見せてもらったが、確かに大きさは全く同じだった。
「確かに、大きさは一緒か…」
「もしかして、これが本当の探偵テスト…?」
「みくるちゃん?」
「…安心してください!私が必ず見つけ出してみせます!」
それからひなた達はまりがティアラを失くすまでに会ったという三人から話を聴く事にした。
「まりさんが最後にティアラを見てからこの部屋に出入りしたのはあなた方三人…つまりこの中に、ティアラを盗んだ犯人がいます!」
みくるは高らかにそう告げる。
「そんな!ありえないですよ!」
だがまりからそれはないと否定され、思わずみくるは固まってしまう。
「…で、ですよね~!ちょっと話を聞こうかな~って…」
「いや、ありえる」
「え?」
「現段階では可能性に過ぎないけど、まりさんが会ったというあなた達三人の誰かが犯人というのは充分考えられる事だ」
「な、なんだかひなた君って、探偵みたいね…」
ひなたの話を聞いていた幸野が思わず呟く
「フッフッフ…ひなたは天才と言われた名探偵・神津恭介の曾孫なんです!これまで警察の手に負えなかった難事件を沢山解決してきたんですから!」
自慢げな表情をしたあんながひなたの曾祖父の事をこの場にいる全員に語った。
「神津恭介って、日本三大名探偵のかい!?」
「ひ、ひなたさんって、あの神津恭介の曾孫なんですか!?」
「あれ?言ってなかった?」
「聞いてませんよ!!」
この場にいる人達、特にみくるはひなたの曾祖父の名を聞いて驚きを隠せないでいるようだ。
神津恭介…昭和の時代に名を轟かせた名探偵であり、明智小五郎、金田一耕助と並んで日本三大名探偵と称されている人物だ。
ちなみに三大名探偵の一人である金田一耕助にも孫がいるらしく、高校生の頃はひなたの様に事件に巻き込まれてはそれを解決していったようだ。
「では、ひとまず話を伺います。まずはカメラマンの…」
「宇都見です。僕は花嫁さんを撮りに来たんだ」
「なるほど…あなたは確か、まりさんの友人の…」
「藤井ともか!私、まりにお願いがあって来たの」
「お願い?」
「ブーケをともかの方に投げてほしいって」
「あっ、それってブーケトス!」
「お願いってアリなんですね」
「まり、OKって言ってくれたよね?」
「ともかが珍しく遅刻しないで来たから、つい…」
「珍しく?…ともかさんって遅刻の常習犯なんですか?」
「アハハ、お恥ずかしい…」
どうやらともかの遅刻癖は本当の様で、ともかは恥ずかしそうにそう言っていた。
残りの一人であるスタッフの幸野は式の準備で控室を出入りしたくらいで、目ぼしい情報は持っていなかった。
他にも宇都見が被っていた帽子やともかのバッグにティアラを隠せないかあんなとみくるが予備のティアラで確認したが隠せそうになかった。それは幸野が持つ小さなポーチも同じ事だろう。
「…ここまでありがとう。でも、もう良いんです。やっぱり、ティアラは諦めます…」
「そんな!」
「っ…」
まりの言葉に思わずあんなは叫び、みくるは悔しそうな表情をしていた。
「…なるほどね」
そんな中、一人笑みを浮かべている者がいた。言わずもがなひなたの事だ。
「みんな、犯人がわかったよ」
「えっ!?」
「ほ、本当ですか!?」
「うん。ハッキリ言って、犯人が使った手口は至ってシンプルで単純な物だったと言うしかないな」
そう口にしながら、ひなたは犯人を指差した。
「ティアラ盗難事件の犯人は、あなただ」