黒いワンボックスカーは、県警本部の敷地を抜け、朝の横浜市街へ消えていった。
その後ろ姿を、押村奏斗は一瞬だけ見失った。
目では追っていた。
頭でも理解していた。
萩原千速が連れ去られた。
犯人は資料との交換を要求している。
指定は、押村奏斗一人。
すべて分かっている。
それなのに、足が動かなかった。
地面には、千速の無線機が落ちている。
ついさっきまで彼女が持っていたものだ。
「奏斗」
そう呼ぶ声が、まだ耳に残っていた。
横溝重悟が押村の肩を強く掴んだ。
「押村!」
その声で、押村はようやく息を吸った。
「……追跡を」
「もう手配してる!」
横溝は怒鳴るように言った。
「だが、相手はこっちの配置を読んでる。普通に追っても逃げられるぞ」
押村は千速の無線機を握りしめたまま、顔を上げた。
「車両の特徴は黒のワンボックス。ナンバーは確認できませんでした」
「防犯カメラを洗う」
「県警内のシステムは使わない方がいいです」
横溝が一瞬だけ黙る。
押村の声は低かった。
「相手は県警内部に情報網を持っています。こちらが正規の手順で照会すれば、動きが筒抜けになる」
「じゃあ、どうする」
「交通部の外部連絡網を使います」
押村は顔を上げ、すぐに周囲の交通部隊員へ視線を向けた。
「萩原小隊長の部下はどこですか」
一人の若い白バイ隊員が前に出た。
「第三交通機動隊の新井です」
以前、黒いセダンを目撃した隊員だった。
押村は彼を見た。
「新井巡査長。萩原小隊長の指揮下で、信用できる隊員だけを動かしてください」
「はい」
「無線は通常回線を使わないでください。個別連絡で、主要道路の目撃情報だけを集める。追跡はしない。発見しても距離を取る」
新井は一瞬、悔しそうに唇を噛んだ。
「追わないんですか」
「相手は萩原警部補を人質にしています。追い詰めれば危険が増します」
「……分かりました」
押村は続ける。
「県警の照会端末は使わない。民間の防犯カメラ提供は、横溝警部の判断で限定的に依頼します」
横溝が頷いた。
「俺が信用できる所に当たる」
押村はようやく動き出した。
その姿は冷静に見えた。
だが、横溝には分かっていた。
押村は今、必死に感情を押し殺している。
冷静でいなければ、千速を助けられない。
そう自分に言い聞かせているだけだ。
横溝は押村の前に立った。
「押村」
「はい」
「一つだけ言っておく」
「何でしょうか」
「千速を助けたいなら、今のお前は絶対に一人で動くな」
押村は黙った。
横溝はさらに低い声で言った。
「相手の狙いは、資料だけじゃねぇ。お前だ」
押村は視線を落とす。
スマホには、犯人からのメールが残っていた。
『三年前の資料と交換だ。押村奏斗、一人で来い』
一人で来い。
分かりやすい罠だった。
だが、千速がそこにいる。
押村は静かに言った。
「それでも、行く必要があります」
横溝の目が鋭くなる。
「一人では行かせねぇ」
「分かっています」
その答えに、横溝は少しだけ目を細めた。
押村はゆっくりと続けた。
「一人で行くように見せます」
午前九時二十分。
県警本部の一室に、臨時の捜査拠点が作られた。
ただし、公式なものではない。
横溝が信用できる刑事二名。
千速の部下である第三交機の隊員三名。
そして押村。
人数は少ない。
だが、今はそれが必要だった。
机の上には、地下保管庫から持ち出した資料箱が置かれている。
焦げた段ボール。
煤のついたファイル。
焼け残った写真。
その中には、三年前の夜の決定的な証拠があった。
黒いセダンには、三人が乗っていた。
運転席、久我悠真。
助手席、証言者の男。
後部座席、戸倉圭吾。
監察官室次席、戸倉警視正の息子。
横溝が写真を睨んだ。
「久我だけじゃねぇ。戸倉も自分の息子を守った」
押村は頷いた。
「はい。三年前の事件は、複数の警察幹部が関与した隠蔽事件です」
「で、戸倉は今逃げてる」
「おそらく」
新井が地図を広げた。
「黒いワンボックスの目撃情報が入りました。県警本部を出た後、国道を避けて港湾方面へ向かっています」
押村の目が動く。
「港湾方面」
「はい。複数の隊員が距離を取って確認しています。最終目撃は大黒ふ頭方面です」
横溝が舌打ちする。
「また港かよ」
押村は地図上に指を置いた。
「港湾エリアなら、人気のない倉庫が多い。人質交換には向いています」
その時、押村のスマホが震えた。
室内の空気が一気に張り詰める。
差出人不明。
本文には、場所と時刻が記されていた。
『午前十一時。大黒ふ頭第七倉庫。資料を持って来い。警察を連れてくれば萩原千速は死ぬ』
添付画像が一枚。
押村は画面を開いた。
そこに写っていたのは、椅子に縛られた千速だった。
口元には布が巻かれている。
額に小さな傷。
だが、目は生きていた。
強い目だった。
カメラを睨みつけている。
押村の指が震えた。
横溝が画面を覗き込み、奥歯を噛んだ。
「千速……」
押村は画像を拡大した。
千速の背後に、鉄骨。
古い壁。
窓から差し込む光。
床に積まれた木箱。
「大黒ふ頭第七倉庫で間違いなさそうです」
横溝が言う。
「罠だ」
「はい」
「でも行くんだな」
「はい」
押村は即答した。
横溝は短く息を吐く。
「作戦は」
押村は地図を見た。
「私が資料を持って正面から入ります。横溝警部は裏手の搬入口から待機。第三交機は周辺道路を封鎖せず、離れた位置で退路を監視してください」
新井が驚いたように顔を上げる。
「封鎖しないんですか」
「相手に包囲を悟らせないためです。逃げ道を完全に塞ぐと、人質に危害が及ぶ可能性がある」
横溝が低く言う。
「逃がすのか」
「逃げると思わせます」
押村は地図上の一本道を指した。
「大黒ふ頭から出る主要ルートは限られています。相手が千速を連れて逃げるなら車を使う。逃走ルート上でタイヤを止める準備だけしてください。ただし、合図があるまで動かない」
新井は頷いた。
「了解しました」
横溝が押村を見る。
「お前はどうする」
押村は資料箱から一部のファイルを取り出した。
「本物の資料は持っていきません」
「偽物か」
「一部は本物にします。相手が確認しても即座には見破れないように」
横溝は眉をひそめた。
「資料を渡さずに、千速を助ける。簡単じゃねぇぞ」
「簡単ではありません」
押村は静かに言った。
「ですが、千速も資料も渡しません」
その声に、室内の誰も口を挟まなかった。
そこには、押村奏斗の決意があった。
普段のような冷静さだけではない。
怒りも、恐怖も、愛情に近い感情も、すべて抱えたまま、それでも前に進もうとする声だった。
横溝は押村をじっと見た。
「押村」
「はい」
「千速を助けたら、ちゃんと言え」
押村は一瞬、意味が分からず横溝を見た。
「何をですか」
横溝は呆れたように眉を寄せた。
「そこから説明しねぇと分かんねぇのか、お前は」
新井たちは気まずそうに視線を逸らす。
押村はわずかに考え込む。
横溝は大きくため息をついた。
「まあいい。今は千速を助けるのが先だ」
「はい」
「だが忘れるなよ。無事に戻ったらだ」
押村は静かに頷いた。
「分かりました」
本当に分かっているのか怪しかったが、横溝はそれ以上言わなかった。
大黒ふ頭第七倉庫。
午前十時五十五分。
海風が鉄骨を鳴らしていた。
古びた倉庫の周囲に人影はない。
遠くでコンテナを運ぶクレーンの音が聞こえるだけだ。
押村は一人、正面入口へ歩いていた。
手には資料が入った鞄。
上着の内側には拳銃。
だが、それを抜くつもりはない。
今は千速の命が最優先だった。
倉庫の扉は半分開いていた。
押村は中へ入る。
薄暗い空間。
高い天井。
積み上げられた木箱とコンテナ。
床には埃と油染み。
そして中央に、千速がいた。
椅子に縛られている。
口元の布は外されていた。
押村の姿を見ると、千速は目を見開いた。
「奏斗!」
押村は足を止めた。
「萩原」
「来るなって言いたいところだけど、来ると思ってた」
「怪我は」
「額を少し切っただけだ。大したことねぇ」
千速はいつものように強がって笑った。
だが、手首には縄の跡があり、頬にも赤い痕があった。
押村の奥で、怒りが静かに燃え上がる。
「よくも――」
「奏斗」
千速が遮った。
「冷静でいろ」
押村は一瞬、息を止めた。
人質にされている千速に、冷静さを諭される。
いつもなら皮肉の一つも返すところだが、今はただ頷いた。
「分かっている」
倉庫の奥から拍手の音が聞こえた。
ゆっくりと、男が現れる。
戸倉警視正だった。
その後ろには、銃を持った男が二人。
さらに奥の影には、もう一人の若い男が立っていた。
戸倉圭吾。
三年前、黒いセダンの後部座席に乗っていた男。
押村は彼を見た。
「戸倉圭吾さんですね」
若い男は怯えたように父親の背後へ下がった。
戸倉警視正が静かに笑う。
「よくここまで辿り着きましたね、押村警部補」
「萩原を解放してください」
「資料が先です」
「彼女の無事が先です」
戸倉の目が冷たくなる。
「立場を理解していないようだ」
男の一人が千速のこめかみに銃を向けた。
押村の目が鋭くなる。
千速は歯を食いしばった。
「奏斗、渡すな」
戸倉が笑う。
「勇ましいですね、萩原警部補」
千速は戸倉を睨みつけた。
「あんた、自分の息子を守るために、三年前の少年を見殺しにしたんだな」
戸倉の表情が少しだけ歪んだ。
「言葉を選びなさい」
「図星かよ」
「黙らせろ」
銃を持った男が千速の髪を掴む。
押村の足が一歩動いた。
「やめろ」
戸倉が押村を見る。
「資料を」
押村は鞄をゆっくりと床に置いた。
「ここにあります」
「開けなさい」
押村は鞄を開ける。
中には焦げたファイルと写真のコピー、一部の原本が入っている。
戸倉の目が動いた。
「本物ですか」
「一部は」
戸倉が眉を寄せる。
「正直ですね」
「嘘をついても、あなたは確認するでしょう」
「では全部渡しなさい」
「萩原を解放したら」
戸倉は小さく笑った。
「交渉できる立場だと?」
押村は静かに言った。
「できます」
「なぜ?」
「あなたは資料を燃やし損ねた。私を殺しても、資料がすべて消えた保証はない。萩原を殺せば、あなたは交渉材料を失う」
戸倉の表情が冷える。
押村は続けた。
「あなたは今、私を脅しているのではない。焦っている」
千速は押村を見た。
この状況でも、押村は相手を観察している。
恐怖を押し殺し、怒りを抑え、言葉で追い詰めている。
だが、その指先がわずかに震えていることに、千速だけが気づいた。
「押村奏斗」
戸倉は静かに言った。
「君は優秀だ。だから惜しい」
「何がですか」
「組織に逆らう者は、組織に潰される」
「組織とは、あなたのことですか」
「秩序のことです」
押村の目が鋭くなる。
「あなたの言う秩序は、罪を隠すための言葉です」
「違う」
初めて、戸倉の声が強くなった。
「警察が揺らげば、市民の信頼が失われる。幹部の息子が死亡事故を起こし、監察がそれを知りながら隠したなどと公になれば、県警全体が崩れる」
「だから、少年一人の命をなかったことにした」
「必要な犠牲だった」
その瞬間、千速が椅子の上で身を乗り出した。
「ふざけんな!」
倉庫に声が響く。
「必要な犠牲? あの子は母親にプレゼントを持って帰る途中だったんだぞ! あんたらの面子のために死んだんじゃねぇ!」
戸倉は千速を睨んだ。
「黙れ」
「黙らねぇよ」
千速の目は燃えていた。
「警察の信頼を壊したのは、事件を起こした息子じゃねぇ。隠したあんたらだ」
押村は千速を見た。
その言葉は、押村が言いたかったことでもあった。
戸倉の顔に明確な怒りが浮かぶ。
「もういい」
彼は部下に視線を向けた。
「資料を回収しろ。押村は処分する。萩原もだ」
千速の顔が険しくなる。
押村はゆっくり息を吸った。
その瞬間。
倉庫の外から、車のブレーキ音が響いた。
戸倉が振り返る。
同時に、搬入口側のシャッターが激しく開いた。
「神奈川県警だ! 動くな!」
横溝重悟の怒鳴り声だった。
彼を先頭に、刑事たちがなだれ込む。
戸倉の部下が銃を向ける。
だが、その背後から白バイ隊員たちが突入した。
新井たち第三交機の隊員だった。
「萩原小隊長を離せ!」
現場は一瞬で混乱した。
押村はその隙を逃さなかった。
床に置いた鞄を蹴り飛ばし、戸倉の部下の視界を遮る。
同時に、千速へ走った。
「萩原!」
銃を持った男が押村に向けて腕を上げる。
横溝が叫ぶ。
「押村、伏せろ!」
銃声。
弾は押村の肩をかすめた。
痛みが走る。
だが、押村は止まらなかった。
千速の前に飛び込み、椅子ごと彼女を倒すようにして射線から外した。
「奏斗!」
「無事か」
「お前が撃たれただろ!」
「かすっただけだ」
「嘘つけ!」
押村はナイフで縄を切ろうとする。
手がうまく動かない。
千速が低く言う。
「落ち着け。お前、手ぇ震えてる」
押村は息を呑んだ。
千速は真っ直ぐに押村を見た。
「私はここにいる。だから焦るな」
その言葉で、押村の呼吸が少しだけ整った。
縄が切れる。
千速の手が自由になった瞬間、彼女は立ち上がった。
「借りは返す」
「萩原、無理は――」
「うるせぇ!」
千速は近くにいた男の腕を掴み、鮮やかな動きで投げ飛ばした。
男は床に叩きつけられ、拳銃が滑る。
横溝がそれを蹴り飛ばし、部下を取り押さえた。
「千速! 無事か!」
「無事だ! 奏斗がちょっと撃たれた!」
「何だと押村ァ!」
「かすっただけです」
「それ後で説教だ!」
倉庫の奥では、戸倉が息子の圭吾を連れて逃げようとしていた。
押村が立ち上がる。
「戸倉!」
戸倉は振り返り、銃を手にしていた。
自分で持っていたのか、部下のものを拾ったのか。
銃口は押村に向けられている。
「来るな」
押村は足を止めた。
千速が横に並ぶ。
横溝も銃を構える。
戸倉の背後で、圭吾が震えていた。
「父さん、もうやめよう……」
戸倉が怒鳴る。
「黙れ!」
圭吾は涙を浮かべた。
「三年前からずっと怖かったんだ……悠真が人を轢いて、父さんたちが全部隠して……俺、何度も言おうとした。でも父さんが……」
「黙れと言っている!」
押村は静かに言った。
「戸倉警視正。もう終わりです」
「終わらない」
戸倉の声は震えていた。
「こんなことで、私の築いてきたものを終わらせるわけにはいかない」
千速が低く言う。
「終わらせたのはあんただ」
戸倉の指が引き金にかかる。
押村は千速の前に出ようとした。
だが、その腕を千速が掴んだ。
「奏斗」
「萩原」
「また一人で前に出るな」
押村は動きを止めた。
その一瞬。
横溝が叫ぶ。
「戸倉ァ!」
戸倉の視線が横溝へ動いた。
押村と千速が同時に動く。
千速が戸倉の腕を蹴り上げ、押村が銃を持つ手首を押さえ込む。
銃声が天井へ抜けた。
横溝が飛び込み、戸倉を床へ叩きつける。
「確保ォ!」
刑事たちが一斉に戸倉を押さえた。
手錠がかかる。
戸倉は床に伏せたまま、それでも叫んでいた。
「私は間違っていない! 組織を守ったんだ!」
横溝が低く言った。
「違うな」
戸倉が顔を上げる。
横溝は怒りを噛み殺すように続けた。
「お前が守ったのは、組織じゃねぇ。てめぇの息子と自分の地位だ」
押村は膝をついた圭吾を見る。
「戸倉圭吾さん」
圭吾は震えながら顔を上げた。
「三年前のことを、証言してください」
圭吾は涙を流しながら頷いた。
「……はい」
その瞬間、押村はようやく息を吐いた。
終わったわけではない。
久我誠一郎。
久我悠真。
宮永怜司。
佐伯慎吾。
戸倉警視正。
戸倉圭吾。
まだ供述を固めなければならない。
証拠も整理しなければならない。
組織の中で抵抗もあるだろう。
だが、最大の扉は開いた。
三年前の夜に車に乗っていた者が、証言する。
それだけで、事件は大きく動く。
千速が押村の肩を見た。
「奏斗、血」
押村は自分の肩を見る。
上着が赤く染まっていた。
「問題ない」
「あるに決まってんだろ!」
千速は怒鳴った。
その声が、倉庫に響く。
押村は少しだけ目を丸くする。
千速はそのまま押村の胸ぐらを掴んだ。
「何で私を庇って撃たれてんだよ!」
「君を助けるためだ」
「そういうこと聞いてんじゃねぇ!」
「では、どう答えればいい」
「分かれよ、それくらい!」
千速の声が少し震えていた。
押村は、その震えに気づいた。
彼女は怒っている。
だが、それ以上に怖かったのだ。
自分が連れ去られたことではなく、押村が傷ついたことに。
押村はゆっくりと言った。
「千速」
千速の手が止まる。
横溝が近くで顔をしかめた。
「おい、今ここで始めるなよ」
押村は横溝の声を聞いていないようだった。
千速だけを見ていた。
「無事でよかった」
それだけだった。
けれど、その一言に、千速の怒りは行き場を失った。
彼女は唇を噛み、目を逸らす。
「……馬鹿」
押村は静かに頷いた。
「そうかもしれない」
「否定しろよ」
「否定できる材料が少ない」
千速は少しだけ笑ってしまった。
涙が出そうになるのを誤魔化すように、押村の無事な方の肩を軽く叩く。
「帰ったら説教だ」
「横溝警部にも同じことを言われた」
「じゃあ二倍だな」
横溝が遠くから怒鳴る。
「救急呼べ! 押村が撃たれてる!」
押村はすぐに言った。
「かすっただけです」
千速と横溝が同時に叫んだ。
「黙れ!」
押村は黙った。
倉庫の外には、朝の光が差し始めていた。
海風が、焦げた資料の匂いと火薬の匂いを少しずつ流していく。
三年前から走り続けた黒いセダンの亡霊は、ようやく止まりかけていた。
だが、本当の終わりはまだ先にある。
これから、警察組織の中に隠された罪を、正式に暴かなければならない。
そして、押村奏斗にはもう一つ、向き合わなければならないものがあった。
事件ではない。
萩原千速への、自分の気持ちだった。