神奈川県警の女神様   作:かなっち館長

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第24話 K-17の設計図

黒崎宗一郎殺害事件は、一応の解決を見た。

 

後妻の黒崎玲子は殺害を認め、甥の黒崎拓真も死体移動の仕掛け作りに関与したことを供述した。

 

遺産をめぐる殺人。

 

古い洋館。

雨の夜。

濡れない死体。

無人で消えたワゴン車。

 

新聞やニュースが喜びそうな要素は揃っていた。

 

だが、押村奏斗の中では、事件はまだ終わっていなかった。

 

捜査一課の机の上に、一枚の写真が置かれている。

 

黒崎邸の物置で見つかった古い図面。

 

その端に、鉛筆で小さく書かれていた記号。

 

K-17

 

押村はその文字をじっと見つめていた。

 

「押村」

 

横溝重悟警部の声が飛んだ。

 

押村は顔を上げる。

 

「はい」

 

「またそれ見てんのか」

 

「気になります」

 

「まあ、気になるのは分かる」

 

横溝は缶コーヒーを机に置き、押村の隣に立った。

 

「玲子も拓真も、この記号については知らねぇって言ってるんだろ」

 

「はい」

 

「嘘は?」

 

「拓真は本当に知らないように見えました。玲子は……分かりません」

 

「便利な答えだな」

 

「確信が持てません」

 

横溝は腕を組む。

 

「黒崎邸の仕掛け自体は、拓真が作った。本人も認めてる」

 

「はい」

 

「だが、その元になった構造図は古い。しかも、拓真が知らなかった隠し通気口まで正確に描かれていた」

 

押村は頷いた。

 

「拓真の知識だけでは、あの仕掛けは作れません」

 

「つまり、誰かが図面を渡した」

 

「その可能性が高いです」

 

横溝は舌打ちした。

 

「また面倒な方向に転がりやがったな」

 

押村は写真を手に取る。

 

「K-17という記号が、設計番号なのか、人物の署名なのか、事件を示すコードなのか」

 

「あるいは、ただの落書きか」

 

「その可能性もあります」

 

「お前がそう思ってねぇ顔してる」

 

押村は黙った。

 

横溝は鼻で笑う。

 

「分かりやすくなったな、押村」

 

「そうでしょうか」

 

「ああ。千速と付き合い始めてから、特にな」

 

押村は一瞬だけ手を止めた。

 

「今、その話は関係ありません」

 

「あるかもしれねぇぞ」

 

「ありません」

 

その時、執務室の入口から声がした。

 

「何の話だ?」

 

押村と横溝が振り向く。

 

萩原千速が立っていた。

 

交通部・第三交通機動隊小隊長。階級は警部補。

 

制服姿ではなく、今日は交通規制関連の報告で本部に来ていたらしい。

手には封筒を持っている。

 

横溝がにやりとする。

 

「噂をすれば千速だ」

 

千速は目を細める。

 

「何だよ、重悟。その顔」

 

「別に」

 

「絶対何か言ってただろ」

 

押村が静かに言う。

 

「君の話を少し」

 

「仕事の話か?」

 

押村は答えるまでに、少し間が空いた。

 

千速はその間で察した。

 

「仕事じゃねぇな」

 

横溝が笑った。

 

「鋭いじゃねぇか」

 

「殴るぞ」

 

「職場で暴力はやめろ」

 

千速は押村の机に封筒を置いた。

 

「昨日のワゴン車の件。交通部で確認した追加資料だ」

 

押村は封筒を受け取る。

 

「ありがとう」

 

「県道で発見された無人ワゴン車、ブレーキに細工があった。手製の簡単な解除装置だが、妙に出来がいい」

 

横溝の顔が仕事のものに変わる。

 

「拓真が作ったんじゃねぇのか」

 

「本人は認めてる。でも、構造を聞いたら説明があやふやだったらしい」

 

押村は資料を開いた。

 

中には写真が数枚。

 

ワゴン車のサイドブレーキ付近。

細いワイヤー。

小型のスプリング。

タイマー式の解除器具。

 

千速が続ける。

 

「うちの整備担当が言ってた。車に詳しい人間なら作れる。でも、現場で確実に作動させるには、かなり計算が必要だって」

 

押村の目が細くなる。

 

「拓真には無理だと?」

 

「無理とは言わねぇ。でも、誰かの手本があったと思う」

 

横溝が押村を見る。

 

「またK-17か」

 

千速が眉を上げる。

 

「K-17?」

 

押村は写真を見せた。

 

「黒崎邸の物置で見つかった図面の端にあった記号だ」

 

千速は覗き込む。

 

「……何だこれ」

 

「分からない」

 

「でも、お前の顔だと、絶対何かあるって思ってるな」

 

横溝が笑う。

 

「ほらな」

 

押村は少し困ったように二人を見る。

 

「顔に出ていますか」

 

千速と横溝が同時に言った。

 

「出てる」

 

押村は黙った。

 

千速は資料を机に置く。

 

「で、どうするんだ?」

 

押村は答えた。

 

「黒崎邸をもう一度調べます」

 

横溝が頷く。

 

「だろうな」

 

千速も当然のように言う。

 

「私も行く」

 

押村は千速を見る。

 

「交通部の管轄外だ」

 

「ワゴン車の細工は交通絡みだろ。それに県道も関係してる」

 

横溝が肩をすくめる。

 

「理屈は通るな」

 

押村は少しだけ考え、頷いた。

 

「分かった」

 

千速はにやりと笑う。

 

「素直でよろしい」

 

横溝がぼそっと言う。

 

「今の、完全に付き合ってる女の顔だな」

 

千速が即座に睨む。

 

「重悟」

 

「何だ」

 

「現場で置いてくぞ」

 

「俺が車出すんだよ」

 

黒崎邸は、事件の夜とは違い、昼の光の中にあった。

 

雨に濡れていた庭は乾き始め、白い外壁には昨日よりも古さが目立っている。

 

人が死んだ直後の建物には、独特の静けさがある。

 

押村は玄関前で足を止めた。

 

千速が隣に並ぶ。

 

「昼に見ると、また雰囲気違うな」

 

「夜より構造が分かりやすい」

 

「そういう見方かよ」

 

「ほかに?」

 

「普通は、古くて不気味とか言うんじゃねぇの」

 

押村は洋館を見上げる。

 

「古くて不気味だ」

 

「取ってつけたように言うな」

 

横溝が後ろから歩いてくる。

 

「お前ら、漫才は中でやれ」

 

「やってねぇよ」

 

三人は屋敷の中へ入った。

 

管理人が案内に出てくる。

 

黒崎家の関係者はすでに別の場所へ移され、屋敷の中は警察の管理下にあった。

 

まず向かったのは、問題の物置だった。

 

一階奥。

書斎の真下に位置する部屋。

 

そこにはまだ、仕掛けの痕跡が残っていた。

 

床に残るワイヤーの跡。

壁の隙間。

天井の通風口。

 

押村は図面を広げた。

 

「この図面は、黒崎邸の改修時のものではないようです」

 

横溝が尋ねる。

 

「根拠は」

 

「建築事務所の印がありません。縮尺も正確ではあるが、手書きに近い」

 

千速が覗き込む。

 

「誰かが個人的に調べて描いた?」

 

「そう考えています」

 

千速は図面の端を指す。

 

「このK-17って、部屋番号じゃねぇのか?」

 

「部屋はKで始まりません」

 

「じゃあ、Kは黒崎のKとか」

 

「可能性はある」

 

横溝が腕を組む。

 

「十七番目の黒崎邸?」

 

押村が顔を上げる。

 

「今、何と?」

 

「いや、適当に言っただけだ」

 

押村は図面を見る。

 

「十七番目……」

 

千速も表情を変えた。

 

「同じような仕掛けが、他にもあるってことか?」

 

押村は黙ったまま、写真をもう一枚取り出す。

 

ワゴン車のサイドブレーキ解除装置。

 

そこにも、細い金属板に小さな刻みがあった。

 

鑑識写真を拡大すると、かすかに読める。

 

17

 

横溝が低く唸った。

 

「偶然か?」

 

押村は静かに答える。

 

「偶然ならいいですが」

 

千速が顔をしかめる。

 

「同じ番号が二つ。嫌な感じだな」

 

その時、管理人が不意に口を開いた。

 

「あの……K-17というのは、もしかすると地下室の箱かもしれません」

 

三人が同時に振り向く。

 

横溝が鋭く問う。

 

「地下室?」

 

管理人は気圧されたように頷いた。

 

「この屋敷には、古いワインセラーがございます。今はほとんど使われておりませんが、黒崎家の古い資料や美術品の木箱も置かれていまして……」

 

押村が尋ねる。

 

「箱に番号が?」

 

「はい。Kの番号で管理されています。K-1、K-2というように」

 

千速が押村を見る。

 

「当たりか?」

 

押村はすぐに言った。

 

「案内してください」

 

地下室への階段は、厨房の奥にあった。

 

分厚い木の扉を開けると、冷たい空気が流れてくる。

 

階段は狭く、古い石造りだった。

 

千速が先に覗き込む。

 

「暗いな」

 

横溝がライトを点ける。

 

「足元気をつけろよ」

 

「私に言ってんのか?」

 

「全員にだ」

 

「絶対私に言っただろ」

 

押村が静かに言う。

 

「千速、足元」

 

「お前まで言うな」

 

それでも千速は慎重に階段を下りた。

 

地下室は想像以上に広かった。

 

ワインラック。

古い木箱。

壊れた家具。

使われなくなった額縁。

 

湿った空気の中に、埃と木材の匂いが混じっている。

 

管理人が棚の奥を指した。

 

「あちらがK番号の箱です」

 

押村はライトを向ける。

 

木箱が並んでいた。

 

K-11。

K-12。

K-13。

 

そして奥に。

 

K-17

 

横溝が手袋をはめる。

 

「開けるぞ」

 

箱の蓋は古びていたが、最近開けられた跡があった。

 

釘が一部だけ新しい。

 

横溝が慎重に蓋を外す。

 

中には、古い書類と写真が入っていた。

 

押村は一枚ずつ取り出す。

 

黒崎邸の古い図面。

使用人の名簿。

改修工事の記録。

 

そして、一冊の薄いノート。

 

表紙には何も書かれていない。

 

押村が開く。

 

中には、手書きの文字で細かくメモが書かれていた。

 

雨天時、二階書斎の窓から吹き込む雨量。

床材の摩擦。絨毯を滑らせるための角度。

停電時間は六十秒以内。人間は暗闇で声を聞くと視覚確認を怠る。

死体を濡らさないこと。違和感は推理を誘導する。

 

千速が低く言った。

 

「何だよ、これ……」

 

横溝の顔も険しくなる。

 

「黒崎玲子のメモか?」

 

押村は首を横に振る。

 

「違います」

 

「なぜ分かる」

 

「筆跡が違う。それに、これは殺人計画というより――」

 

押村はページをめくる。

 

そこに、赤いインクで文字が書かれていた。

 

第十七案:黒崎邸・雨天密室型

 

押村の声が低くなる。

 

「殺人の設計図です」

 

地下室の空気が、さらに冷たくなった気がした。

 

千速はノートを見つめる。

 

「第十七案ってことは……」

 

横溝が続ける。

 

「少なくとも、十六個は別の案がある」

 

押村はページをめくった。

 

最後のページに、短い文章がある。

 

現実に使うには、協力者の心理誘導が必要。

金銭、恨み、恐怖。

人は自分の殺意を自分のものだと思い込みたがる。

 

千速は眉を寄せる。

 

「意味が分からねぇ」

 

押村は静かに言う。

 

「黒崎玲子は、自分で計画を考えたと思っているかもしれない」

 

横溝が目を細める。

 

「だが、誰かがその殺意を誘導した」

 

「はい」

 

押村はノートを閉じた。

 

「この事件には、設計者がいます」

 

黒崎玲子の再聴取は、その日の夕方に行われた。

 

取調室。

 

玲子は疲れた顔をしていたが、まだ崩れてはいなかった。

 

押村は机の上に、地下室で見つかったノートの写真を置いた。

 

玲子の表情が、一瞬だけ強張る。

 

横溝はそれを見逃さなかった。

 

「知ってるな」

 

玲子は何も言わない。

 

押村が静かに尋ねる。

 

「このノートを誰から受け取りましたか」

 

玲子は視線を逸らした。

 

「知りません」

 

「黒崎邸の地下室にあった。あなたはこれを見て、殺害計画を実行した」

 

「私は自分で考えたの」

 

押村は首を横に振る。

 

「いいえ。あなたは計画をなぞっただけです」

 

玲子の目が押村を睨む。

 

「だから何? 私が殺したことに変わりはないでしょう」

 

横溝が低く言う。

 

「誰に渡された」

 

玲子は笑った。

 

「刑事さんたち、本当に分からないのね」

 

「何?」

 

「渡されたんじゃない。見つけたのよ」

 

押村の目が動く。

 

「どこで」

 

「夫の書斎」

 

玲子は淡々と言った。

 

「あの人は、昔から変なものを集める趣味があった。古い犯罪資料、海外の事件記録、推理小説の初版本。地下室の箱も、その一部」

 

「このノートの存在を知っていたのは?」

 

「夫だけ……だと思っていた」

 

「思っていた?」

 

玲子は唇を噛む。

 

「事件の一週間前、電話があったの」

 

横溝が身を乗り出す。

 

「誰からだ」

 

「分からない。声は加工されていた」

 

「内容は」

 

玲子は目を伏せる。

 

「あなたの怒りは正しい、と」

 

取調室に沈黙が落ちる。

 

「そして、黒崎邸の地下に、あなたを自由にする方法があると言われた」

 

押村は静かに聞く。

 

「それで、K-17を見つけた」

 

「ええ」

 

「なぜ警察に言わなかった」

 

玲子は押村を見る。

 

「言えば、私の殺意が誰かに作られたと認めることになる。でも、違う。私は自分の意思で夫を殺した」

 

押村は低く言った。

 

「それでも、あなたを誘導した人物がいる」

 

玲子は笑った。

 

「なら探せばいいわ」

 

「探します」

 

玲子は押村を見つめる。

 

「その人、言っていたわ」

 

「何と」

 

「人は真実を欲しがる。けれど、真実に辿り着いた時、必ず後悔するって」

 

横溝が舌打ちした。

 

「趣味の悪い野郎だな」

 

玲子は小さく笑った。

 

「ええ。とても」

 

夜。

 

捜査一課の会議室に、資料が並べられた。

 

黒崎邸事件。

K-17ノート。

電話記録。

ワゴン車の細工。

拓真の供述。

玲子の新供述。

 

千速も交通部からの関連資料を持ち込み、会議室の端に座っていた。

 

横溝はホワイトボードの前に立つ。

 

「つまり、黒崎玲子は殺した。拓真は仕掛けを手伝った。だが、その前に誰かが玲子へK-17の存在を知らせた」

 

押村が頷く。

 

「はい」

 

「電話は?」

 

村上が資料を見ながら答える。

 

「発信元は公衆電話です。駅前の古い電話ボックス。防犯カメラは死角が多く、まだ確認中です」

 

千速が手を挙げる。

 

「その電話ボックス、黒崎邸へ向かう県道の近くか?」

 

村上が地図を見る。

 

「はい。車で十分程度です」

 

千速は腕を組む。

 

「事件前に下見した可能性があるな」

 

押村はホワイトボードに視線を向ける。

 

「設計者は、黒崎邸の構造を知っていた。K-17のノートの存在も知っていた。さらに、玲子の心理状態を知っていた」

 

横溝が言う。

 

「黒崎家に近い人物だな」

 

「あるいは、黒崎宗一郎の趣味を知る人物」

 

押村は地下室のノート写真を見る。

 

「このノートはかなり古い。紙の劣化から見て、少なくとも二十年以上前のものです」

 

千速が眉をひそめる。

 

「二十年前から殺人の設計図なんか書いてた奴がいるってことか」

 

「はい」

 

「気味悪いな」

 

押村は静かに言った。

 

「問題は、このノートを書いた人物と、今回玲子へ電話した人物が同一かどうかです」

 

横溝が低く唸る。

 

「二十年前に成人だったとして、今はかなり年食ってるな」

 

「ノートの筆跡鑑定を急ぎます」

 

その時、会議室の電話が鳴った。

 

村上が受ける。

 

「はい、捜査一課……はい。え?」

 

村上の顔色が変わった。

 

横溝が睨む。

 

「何だ」

 

村上は受話器を押さえながら言った。

 

「警部。防犯カメラの確認班からです。例の公衆電話付近に、不審な人物が映っていました」

 

「顔は」

 

「傘で隠れていて不明です。ただ……」

 

「ただ何だ」

 

村上は押村を見た。

 

「その人物が乗っていた車が、黒いセダンです」

 

会議室の空気が止まった。

 

千速の表情も変わる。

 

黒いセダン。

 

それは以前の事件でも、たびたび影のように現れた車だった。

 

押村は静かに立ち上がる。

 

「映像を確認します」

 

横溝が低く言う。

 

「また出てきやがったか」

 

千速は拳を握る。

 

「偶然じゃねぇな」

 

押村は何も言わなかった。

 

ただ、胸の奥で何かがつながる音がした。

 

黒崎邸。

K-17。

殺人設計図。

公衆電話。

黒いセダン。

 

今回の事件は、単独の相続殺人ではない。

 

誰かが、殺意を持つ人間を探し出し、精巧なトリックを与えた。

 

人を直接殺すのではなく。

 

人に殺させる者。

 

押村はモニターに映し出された防犯カメラ映像を見つめた。

 

雨の夜。

 

傘を差した人物が公衆電話から出てくる。

 

顔は見えない。

 

その人物は、路肩に停まっていた黒いセダンへ乗り込む。

 

車は静かに走り去る。

 

ナンバーは泥で隠れていた。

 

千速が低く呟く。

 

「また泥か」

 

押村は映像を止めた。

 

黒いセダンの後部ガラスに、かすかに白いステッカーが見える。

 

拡大しても、文字までは読めない。

 

だが、形だけは分かった。

 

鳥の羽のようなマーク。

 

横溝が顔をしかめる。

 

「何だ、あれ」

 

押村は画面を見つめたまま答える。

 

「分かりません」

 

しかし、分からないと言いながら、押村の目は鋭くなっていた。

 

千速が隣に立つ。

 

「奏斗」

 

「何だ」

 

「これ、長くなるぞ」

 

押村は頷いた。

 

「そうだな」

 

「また一人で抱え込むなよ」

 

押村は千速を見る。

 

「分かった」

 

横溝が後ろから言う。

 

「今の返事は信用できねぇな」

 

千速も頷く。

 

「同感だ」

 

押村は少し困ったように二人を見る。

 

「努力する」

 

「努力じゃ足りねぇ」

 

千速の声は強かった。

 

押村はその目を見て、静かに言い直した。

 

「抱え込まない」

 

千速は少しだけ表情を緩めた。

 

「よし」

 

横溝はホワイトボードに大きく書いた。

 

黒いセダン

 

そして、その下にもう一つ。

 

K-17

 

「押村、千速」

 

横溝の声が低くなる。

 

「ここからが本番だ」

 

押村は頷いた。

 

千速も腕を組み、鋭い目でモニターを見た。

 

黒いセダンは、雨の夜へ消えていった。

 

だが、今度は逃がさない。

 

誰かの殺意を設計し、事件を舞台に変える者。

 

その影が、ようやく見え始めていた。

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