神奈川県警の女神様   作:かなっち館長

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第26話 風見台の夜

風見台は、三浦半島の海沿いにあった。

 

かつて灯台が建っていた岬。

今は展望台と小さな資料館だけが残り、昼間は観光客が海を眺めに来る。

 

だが、夜になると様子は変わる。

 

海風が強く吹きつけ、波の音が岩場に砕ける。

街灯は少なく、展望台へ続く道は暗い。

車一台がようやく通れるような細い県道が、崖沿いに伸びていた。

 

「夜に来る場所じゃねぇな」

 

横溝重悟警部は、車を降りるなり低く言った。

 

押村奏斗は展望台を見上げた。

 

「だから、犯人はここを選んだのかもしれません」

 

「どういう意味だ」

 

「人目が少ない。海風で音が消える。転落事故に見せかけることもできる」

 

横溝は顔をしかめた。

 

「嫌な場所だな」

 

「はい」

 

押村は手帳を開いた。

 

廃工場で見つかった紙。

 

第十八案は、まだ始まっていない。

風見台

 

それだけでは、被害者も日時も分からない。

 

だが、犯人がわざわざ残した以上、ここに意味がある。

 

そして、千速の調べで分かったことが一つあった。

 

風見台へ続く県道で、ここ数日、同じ車両が何度も目撃されている。

 

黒い車ではない。

 

白い軽トラック。

 

地元の工事業者を装っていたが、そのナンバーは登録されていなかった。

 

横溝が周囲を見回す。

 

「千速は?」

 

「道路側を確認しています」

 

「交通部の仕事とはいえ、よく動くな」

 

「彼女は止まりません」

 

「褒めてんのか、心配してんのか」

 

押村は少しだけ黙った。

 

「両方です」

 

横溝は鼻で笑った。

 

「分かりやすくなったな、お前」

 

その時、無線が入った。

 

『奏斗、聞こえるか』

 

千速の声だった。

 

押村はすぐに応答する。

 

「聞こえる。どうした」

 

『展望台へ向かう県道に妙な跡がある。ガードレールの一部だけ、新しく交換されてる』

 

押村の目が動く。

 

「交換?」

 

『見た目は普通だ。でもボルトが新しい。しかも、固定が甘い』

 

横溝が無線に顔を近づける。

 

「事故を起こさせる仕掛けか」

 

『たぶんな。車をぶつけたら、ガードレールごと外れて崖下へ落ちる』

 

押村は展望台へ続く道を見る。

 

「第十八案は、転落事故型か」

 

千速の声が低くなる。

 

『それだけじゃない。路面に薄く油の跡がある。雨が降ったらかなり滑る』

 

横溝が舌打ちした。

 

「胸糞悪ぃ仕掛けだな」

 

押村は空を見上げた。

 

雲が厚い。

 

天気予報では、深夜から雨。

 

犯人は雨を待っているのかもしれない。

 

黒崎邸の第十七案も、雨が鍵だった。

 

「千速、そこを保全してくれ。鑑識を向かわせる」

 

『分かった』

 

「それと、一人で奥へ行くな」

 

少し間が空いた。

 

『分かってる』

 

横溝が小声で言う。

 

「今の間は怪しいな」

 

押村は無線を握ったまま続けた。

 

「千速」

 

『何だよ』

 

「本当に一人で行くな」

 

今度は千速が少し息を吐いた。

 

『行かねぇよ。小隊長だからな』

 

押村は小さく頷いた。

 

「分かった」

 

風見台の周辺は、すぐに封鎖された。

 

表向きは道路整備の緊急確認。

観光客や地元住民への混乱を避けるため、事件性は伏せられた。

 

千速は白バイを県道の入口に停め、部下たちに指示を出していた。

 

「車両はここで止めろ。地元住民なら迂回路へ誘導。報道が来ても余計なことは言うな」

 

「了解です」

 

新井が駆け寄ってくる。

 

「小隊長、ガードレールの写真とボルトの状態、押村警部補に送りました」

 

「よし」

 

「それと、油の跡ですが、展望台方向から下ってくる車線側だけにあります」

 

千速は目を細めた。

 

「つまり、帰り道を狙ってる」

 

「はい」

 

風見台へ上っていく時ではない。

 

展望台から帰る時。

 

夜、雨、下り坂、緩んだガードレール、油。

 

車はカーブを曲がり切れず、ガードレールを突き破り、崖下へ落ちる。

 

見た目は単独事故。

 

だが実際は、計画された殺人。

 

千速は拳を握った。

 

「誰を落とす気だ……」

 

その時、新井が言った。

 

「小隊長、今夜ここで何かイベントありますか?」

 

「イベント?」

 

「資料館の前に、簡易ステージみたいなものがありました」

 

千速は振り向く。

 

「ステージ?」

 

「はい。椅子も数脚。誰かが集まる予定だったのかと」

 

千速はすぐに押村へ連絡した。

 

資料館は、風見台の展望台近くに建っていた。

 

小さな白い建物。

 

中には昔の灯台の写真や、海難事故の記録が展示されている。

 

押村と横溝が中に入ると、受付には誰もいなかった。

 

閉館時間は過ぎている。

 

しかし、資料館の裏手には確かに簡易ステージが組まれていた。

 

椅子が六脚。

小さなマイクスタンド。

電源コード。

照明。

 

横溝が顔をしかめる。

 

「誰がこんなもんを」

 

押村は椅子の上に置かれたパンフレットを拾った。

 

そこには、こう書かれていた。

 

追悼朗読会

海に消えた灯を読む夜

主催:風見台郷土文化会

 

横溝が読み上げる。

 

「追悼朗読会?」

 

押村はパンフレットの日付を見る。

 

「今日です。午後十時開始」

 

「こんな夜にか」

 

「海難事故の慰霊を兼ねた朗読会のようです」

 

「参加者は」

 

押村はパンフレットの裏を見る。

 

出演者名が並んでいた。

 

朗読家。

郷土史家。

地元新聞の記者。

元灯台守の遺族。

 

そして、一番下に。

 

特別協力:黒崎美怜

 

横溝が目を細める。

 

「黒崎?」

 

押村は頷いた。

 

「黒崎宗一郎の長女です」

 

「また黒崎家か」

 

押村は周囲を見回した。

 

「黒崎美怜は画廊を経営している。文化会と関わりがあっても不自然ではありません」

 

横溝は低く言う。

 

「だが、第十八案の舞台に名前が出るのは不自然だな」

 

「はい」

 

押村はすぐに美怜へ連絡を取らせた。

 

返答はすぐに来た。

 

黒崎美怜は、今夜の朗読会に出席予定。

すでに風見台へ向かっている可能性がある。

 

横溝が叫ぶ。

 

「すぐ止めろ!」

 

村上が電話をかける。

 

だが、つながらない。

 

「圏外か、電源が切れています!」

 

押村はパンフレットを握りしめた。

 

「彼女が標的かもしれません」

 

横溝が無線で指示を飛ばす。

 

「周辺道路、黒崎美怜の車を探せ! 車種とナンバーを照会しろ!」

 

千速からすぐに応答が入る。

 

『黒崎美怜の車両情報、来た。赤のコンパクトカー。県道入口のカメラに二十分前に映ってる』

 

押村は息を止めた。

 

「もう風見台に入っている」

 

『探す。奏斗、そっちも展望台を見ろ』

 

「分かった」

 

雨が降り始めた。

 

最初は細かい霧のような雨だった。

 

だが、海風に乗って横殴りになり、あっという間に路面を濡らしていく。

 

千速は白バイではなく、交通部の車両で県道を上っていた。

 

白バイでは危険すぎる。

そう判断したのは千速自身だった。

 

無茶はしない。

 

今の自分は、小隊長だ。

 

だが、焦りはあった。

 

黒崎美怜の赤い車はまだ見つからない。

 

「小隊長、展望台の駐車場に赤い車を確認!」

 

無線が入る。

 

千速はすぐに応答した。

 

「車内は?」

 

『無人です!』

 

「本人は資料館か展望台だな」

 

千速は車を降り、雨の中を走った。

 

展望台へ続く石畳。

 

風が強い。

 

海鳴りが近い。

 

資料館の裏には、朗読会の椅子が雨に濡れていた。

 

誰もいない。

 

「どこだ……」

 

千速は周囲を見回した。

 

すると、展望台の柵の向こう、灯台跡の石段付近に人影が見えた。

 

女性が一人。

 

黒崎美怜だった。

 

だが、様子がおかしい。

 

彼女は傘も差さずに、雨の中で立ち尽くしている。

 

その少し後ろに、もう一人。

 

黒いレインコートの人物。

 

千速は叫んだ。

 

「黒崎さん!」

 

美怜が振り向く。

 

その瞬間、黒いレインコートの人物が動いた。

 

美怜の背中を押すように腕を伸ばす。

 

千速は走った。

 

「やめろ!」

 

美怜の足が滑る。

 

展望台の柵は古く、一部が外されていた。

 

転落用の仕掛け。

 

千速はぎりぎりで美怜の腕を掴んだ。

 

「掴まれ!」

 

美怜が悲鳴を上げる。

 

千速は全身の力で引き戻す。

 

その横を、黒いレインコートの人物が走り抜けた。

 

「待て!」

 

千速は追おうとした。

 

だが、美怜が地面に倒れ込んでいる。

 

放っておけない。

 

「新井! 犯人は資料館裏へ逃げた!」

 

『了解!』

 

千速は美怜の状態を確認した。

 

「怪我は?」

 

美怜は震えていた。

 

「わ、私……あの人に呼び出されて……」

 

「誰に」

 

「父のことで話があるって……」

 

千速は顔を上げた。

 

雨の向こうで、人影が資料館の裏へ消える。

 

その先には、押村たちがいる。

 

押村は資料館の裏手で、黒いレインコートの人物と鉢合わせた。

 

相手は一瞬だけ足を止めた。

 

顔はフードとマスクで隠れている。

 

押村は警察手帳を示す。

 

「警察です。止まりなさい」

 

相手は答えず、横の階段へ走った。

 

押村が追う。

 

横溝も遅れて叫んだ。

 

「押村! 一人で突っ込むな!」

 

押村は足を止めなかった。

 

だが、声は聞こえていた。

 

「裏側へ回ってください!」

 

階段は濡れて滑りやすい。

 

犯人は土地勘があるのか、迷わず資料館の脇道へ入る。

 

そこは崖沿いの細い通路だった。

 

押村は距離を詰める。

 

あと少し。

 

その時、犯人が何かを足元に投げた。

 

金属音。

 

押村は反射的に止まる。

 

小さな筒状のものが転がっていた。

 

煙が噴き出す。

 

発煙筒。

 

視界が白く染まる。

 

「くっ……」

 

押村は腕で口元を覆った。

 

その煙の向こうで、エンジン音がした。

 

犯人が車に乗った。

 

押村は煙を抜ける。

 

黒い車が走り出すところだった。

 

今度はセダンではない。

 

白い軽トラック。

 

千速が言っていた偽装車両。

 

「横溝警部!」

 

「分かってる!」

 

横溝が無線で叫ぶ。

 

「白い軽トラが逃走! 県道を下るぞ!」

 

だが、その下り道には油と緩んだガードレールがある。

 

犯人はその仕掛けを知っている。

おそらく、避ける道も知っている。

 

しかし、追う側は危険だ。

 

千速の声が無線に入る。

 

『追跡するな! 下りカーブは滑る! 先回りしろ!』

 

押村は無線を握った。

 

「千速、迂回路は」

 

『灯台跡の裏に旧管理道がある。狭いが、徒歩なら下れる。車より先に合流点へ出られるかもしれない』

 

横溝が怒鳴る。

 

「危ねぇぞ!」

 

押村は答える。

 

「行きます」

 

「押村!」

 

「一人では行きません」

 

押村は隣にいた村上を見る。

 

「村上、来い」

 

村上は一瞬青ざめたが、すぐ頷いた。

 

「はい!」

 

横溝は舌打ちする。

 

「俺も行く」

 

「横溝警部は本線側をお願いします」

 

「指示すんな!」

 

「必要です」

 

横溝は押村を睨んだ。

 

だが、すぐに判断した。

 

「分かった。死ぬなよ」

 

「はい」

 

押村と村上は旧管理道へ走った。

 

旧管理道は、道というより獣道だった。

 

木々に覆われ、足元は泥で滑る。

 

雨が激しくなる。

 

村上が息を切らしながら言う。

 

「警部補、これ本当に下れますか!」

 

「下ります」

 

「答えになってません!」

 

「足元を見てください」

 

「はい!」

 

押村は慎重に、しかし速く進んだ。

 

頭の中では、地図を組み立てている。

 

軽トラックは県道を下っている。

ただし、油のあるカーブを避けるなら、一度脇道に入るはずだ。

 

その合流点。

 

そこに先回りできれば。

 

無線が入る。

 

『白い軽トラ、県道下りを進行中! 速度落ちません!』

 

千速の声。

 

『奏斗、聞こえるか』

 

「聞こえる」

 

『その道、途中で崩れてる箇所がある。右側に寄るな』

 

「分かった」

 

『絶対落ちるなよ』

 

「努力する」

 

『努力じゃなくて確約しろ』

 

押村は泥道を走りながら、少しだけ息を吐いた。

 

「落ちない」

 

『よし』

 

村上が横で小さく言う。

 

「こういう時でも会話がいつも通りですね……」

 

「走れ」

 

「はい!」

 

やがて、木々の隙間から道路が見えた。

 

合流点だ。

 

その先からエンジン音が近づいてくる。

 

押村は村上に指示した。

 

「無理に止めるな。運転手を確認する」

 

「はい」

 

白い軽トラックが現れた。

 

ライトが雨を切り裂く。

 

速度は速い。

 

だが、合流点の手前で一瞬減速した。

 

押村はその瞬間、運転席を見た。

 

フード。

マスク。

顔は見えない。

 

しかし、助手席に何かが置かれている。

 

白い羽のステッカー。

 

いや、違う。

 

紙だ。

 

押村は目を凝らした。

 

紙には大きく文字が書かれていた。

 

第十八案・未完成

 

軽トラックはそのまま走り去った。

 

「追いますか!」

 

村上が叫ぶ。

 

押村は首を横に振った。

 

「追わない。危険です」

 

その直後、遠くで鈍い音がした。

 

軽トラックが急停車した音ではない。

 

何かが爆ぜるような音。

 

続いて、炎が上がった。

 

村上が叫ぶ。

 

「車が!」

 

押村はすぐに走った。

 

道路の先。

 

軽トラックは崖沿いの空き地に突っ込み、炎を上げていた。

 

爆発ではない。

 

発火装置。

 

証拠隠滅だ。

 

運転席は空だった。

 

犯人は途中で脱出していた。

 

押村は炎の熱を受けながら、拳を握った。

 

「逃げられた……」

 

村上が息を呑む。

 

「でも黒崎美怜さんは助かりました」

 

押村は顔を上げた。

 

そうだ。

 

今回は死者を出さなかった。

 

第十八案は、未完成。

 

犯人が残した言葉通り。

 

だが、それは勝利ではない。

 

犯人は、計画が崩れたことすら演出に変えている。

 

横溝が車で到着し、怒鳴った。

 

「押村! 無事か!」

 

「はい」

 

「犯人は」

 

「逃走しました」

 

横溝は燃える軽トラックを睨みつけた。

 

「くそっ!」

 

千速も遅れて到着した。

 

雨具のフードを外し、押村の前に立つ。

 

「怪我は」

 

「ない」

 

「本当だな」

 

「本当だ」

 

千速は一瞬だけ押村を睨んだ。

 

それから、小さく息を吐いた。

 

「ならいい」

 

押村は千速を見る。

 

「黒崎美怜は」

 

「無事。軽い擦り傷だけだ」

 

「よかった」

 

千速は燃える軽トラックを見る。

 

「犯人は逃げたか」

 

「はい」

 

「でも、止めた」

 

押村は黙った。

 

千速ははっきり言った。

 

「今回は止めたんだよ、奏斗」

 

押村はその言葉を受け止めた。

 

第十八案は、まだ始まっていない。

 

そう書かれていた。

 

だが、始まる前に止めたわけではない。

 

始まりかけた殺人を、ぎりぎりで止めた。

 

「そうだな」

 

押村は静かに言った。

 

「今回は、止めた」

 

黒崎美怜は、救急車の中で震えていた。

 

千速がそばに座る。

 

「落ち着いたか」

 

美怜は小さく頷く。

 

「はい……助けてくださって、ありがとうございました」

 

「礼はいい。誰に呼び出された」

 

美怜は唇を震わせた。

 

「封筒が届いたんです」

 

「封筒?」

 

「父が殺された本当の理由を知りたければ、風見台へ来い、と」

 

千速は目を細める。

 

「差出人は」

 

「ありません。でも……」

 

美怜はバッグから濡れた封筒を取り出した。

 

千速は手袋をはめ、それを受け取る。

 

裏には、白いシール。

 

割れた羽。

 

千速は押村を呼んだ。

 

押村は封筒を見るなり、表情を引き締める。

 

「同じだ」

 

横溝も近づく。

 

「中身は?」

 

美怜は震える手で紙を差し出した。

 

そこには、短い文章が印刷されていた。

 

あなたの父は、第十七案の所有者だった。

あなたは、第十八案の証人になる。

風見台で、真実を見る。

 

横溝が低く吐き捨てる。

 

「証人だと?」

 

押村は紙を見つめる。

 

「犯人は、美怜さんを殺すつもりではなかった可能性があります」

 

千速が驚く。

 

「でも、押されかけたぞ」

 

「はい。だから、途中で計画を変えたのか、あるいは――」

 

「あるいは?」

 

押村は静かに言った。

 

「誰かが美怜さんを殺そうとしたことで、第十八案が未完成になった」

 

横溝が眉をひそめる。

 

「つまり、設計者とは別の実行犯がいる?」

 

「可能性があります」

 

千速は腕を組む。

 

「黒いレインコートの奴が、設計者とは限らねぇってことか」

 

「はい」

 

横溝が空を見上げた。

 

雨はまだ降っている。

 

「登場人物が増えてきたな」

 

押村は紙の文字を見つめる。

 

証人になる。

 

犯人は美怜に何を見せようとしたのか。

 

第十八案とは何だったのか。

 

風見台で、本来起きるはずだった事件は何か。

 

その時、村上が燃えた軽トラックから回収されたものを持ってきた。

 

「警部、警部補。これだけ燃え残っていました」

 

それは金属製の小さなプレートだった。

 

焦げているが、文字が読める。

 

K-18

 

横溝が低く言った。

 

「また番号か」

 

押村はプレートを見つめた。

 

K-17は黒崎邸。

K-18は風見台。

 

殺人の設計図には、番号がある。

 

なら、この先も。

 

K-19。

K-20。

 

続く可能性がある。

 

千速が押村の隣に立つ。

 

「奏斗」

 

「何だ」

 

「犯人は、事件を物語みたいに作ってる」

 

「そうだな」

 

「でも、物語なら終わりがあるはずだ」

 

押村は千速を見る。

 

千速の目はまっすぐだった。

 

「終わらせよう」

 

押村は頷いた。

 

「ああ」

 

横溝が二人の横で腕を組む。

 

「まずは、このKシリーズとやらの正体を暴くぞ」

 

雨の中、風見台の灯台跡は暗く沈んでいた。

 

かつて海を照らしていた灯は、もうない。

 

だが、犯人が闇の中に隠れようとしても。

 

押村は必ず、その足跡を拾う。

 

千速は必ず、その逃げ道を塞ぐ。

 

横溝は必ず、その胸ぐらを掴む。

 

K-18は未完成に終わった。

 

だが、事件は終わっていない。

 

割れた羽の影は、まだ夜の向こうで揺れていた。

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