神奈川県警の女神様   作:かなっち館長

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第83話 こちら側へ

奏斗と横溝が第三交通機動隊の詰所に到着したのは、それから十五分後だった。

 

廊下を歩く足音が近づく。

 

扉が開く。

 

先に入ってきたのは横溝重悟だった。

 

鋭い目で詰所の中を見渡し、千速と玲奈の前で足を止める。

 

その後ろから奏斗が入ってきた。

 

奏斗はまず千速を見た。

 

怪我はないか。

無理をしていないか。

怒りで先走っていないか。

 

その全部を確認するような視線だった。

 

千速はすぐに言う。

 

「私は大丈夫だ」

 

奏斗は小さく頷いた。

 

「分かった」

 

横溝が低く言う。

 

「で、朝倉」

 

玲奈は立ち上がり、深く頭を下げた。

 

「申し訳ありませんでした」

 

横溝の目がさらに鋭くなる。

 

「謝罪は後だ。千速から聞いた。お前、押村に近づけって言われてたんだな」

 

「はい」

 

「公安の情報を聞き出せ、と」

 

「はい」

 

「黒いバイクの件はどこまで知ってた」

 

玲奈は顔を上げた。

 

目は赤くなっていたが、逃げてはいなかった。

 

「最初から計画の全体は知らされていません。ただ、私が第三交機に配属される前から、押村警部補に接触するよう指示されていました」

 

奏斗は静かに聞いていた。

 

玲奈は続ける。

 

「黒いバイクが現れることは、最初の事故の前には知りませんでした。でも二度目以降は、私の反応も見られていると分かりました」

 

横溝が眉を寄せる。

 

「今日の移送車両は」

 

「昨夜、狙われる可能性があるとだけ連絡がありました。具体的な手口は知りませんでした」

 

千速が封筒を机に置く。

 

「これが脅しの写真だ」

 

奏斗は写真を一枚ずつ見た。

 

第三交機の車庫。

捜査一課の廊下。

玲奈の自宅前。

千速の部屋の外観。

 

最後の一枚を見た時、奏斗の表情が消えた。

 

千速が横から言う。

 

「その顔やめろ」

 

「どの顔だ」

 

「今から一人で消えそうな顔だ」

 

奏斗は写真から目を離し、千速を見る。

 

「消えない」

 

「本当だな」

 

「ああ」

 

横溝が不機嫌そうに割って入る。

 

「いちゃつくな。今は事件中だ」

 

千速が睨む。

 

「いちゃついてない」

 

「どう見てもそうだろうが」

 

「重悟、黙れ」

 

「お前が黙れ」

 

玲奈はそのやり取りを見て、ほんの一瞬だけ表情を緩めた。

 

けれど、すぐに顔を伏せた。

 

自分には笑う資格などない。

 

そう思ったのが、千速には分かった。

 

「朝倉」

 

「はい」

 

「今は下を向くな。話すことを話せ」

 

「……はい」

 

奏斗は椅子に座らず、玲奈の正面に立った。

 

「朝倉さん。連絡手段は」

 

玲奈はスマートフォンを取り出した。

 

「差出人不明のメッセージです。履歴は残っています。ただ、いくつかは消しています」

 

「復元できる可能性はあります」

 

「はい」

 

「直接会った黒い車の男について、覚えていることは」

 

玲奈は目を伏せ、記憶を探った。

 

「顔は見えません。声は低め。年齢は四十代以上に聞こえました。車は黒いセダン。ナンバーは……見えませんでした」

 

「場所は」

 

「港北のコインパーキングです。夜でした」

 

横溝がすぐに言う。

 

「三森に周辺カメラを洗わせる」

 

奏斗は頷いた。

 

「お願いします」

 

玲奈は拳を握りしめた。

 

「私のせいで、小隊長や押村警部補が狙われるかもしれません」

 

千速は即座に返した。

 

「もう狙われてる。お前が黙ってても変わらない」

 

玲奈の顔が歪む。

 

千速は続ける。

 

「だから、ここから先は黙るな」

 

玲奈は震える声で答えた。

 

「はい」

 

奏斗はスマートフォンを受け取らずに、玲奈へ言った。

 

「このスマートフォンは、まだ相手と繋がっています。こちらで保全しつつ、次の連絡を待ちます」

 

玲奈が顔を上げる。

 

「待つんですか」

 

「はい。相手は、あなたがまだ従うと思っている」

 

横溝が口元を歪めた。

 

「そこを使う」

 

玲奈は息を呑んだ。

 

「囮に、なるんですね」

 

千速の目が鋭くなる。

 

「朝倉を一人にはしない」

 

奏斗はすぐに答えた。

 

「もちろんだ」

 

「もちろん、で済ませるな」

 

「君と第三交機、捜査一課で監視をつける。朝倉さんには単独行動させない」

 

「ならいい」

 

横溝が玲奈を見る。

 

「朝倉。お前、怖いか」

 

玲奈は少し黙った。

 

そして、正直に答えた。

 

「怖いです」

 

「ならいい」

 

玲奈は驚いたように横溝を見る。

 

横溝は腕を組んだまま言った。

 

「怖いって言える奴はまだ使える。怖くない顔して勝手に動く奴が一番危ねぇ」

 

千速が横からぽつりと言う。

 

「重悟にしてはいいこと言うな」

 

「おい」

 

奏斗が小さく言った。

 

「横溝警部らしいです」

 

「押村、お前も後で殴る」

 

わずかに空気が緩んだ。

 

それでも、事件は終わっていない。

 

むしろ、ここからが本番だった。

 

その夜、玲奈のスマートフォンに新しいメッセージが届いた。

 

詰所ではなく、捜査一課の一室。

 

室内には奏斗、横溝、千速、三森。

 

そして玲奈がいた。

 

スマートフォンは机の中央に置かれている。

 

画面が光る。

 

差出人名はない。

 

明日午前十時。大黒ふ頭第三倉庫。押村を連れてこい。萩原には知らせるな。

 

玲奈の顔色が変わった。

 

千速の目が怒りで冷える。

 

「私には知らせるな、ね」

 

横溝が低く唸る。

 

「分かりやすく罠だな」

 

奏斗は画面を見つめる。

 

「相手は、朝倉さんがこちらに話したことをまだ知らない可能性が高い」

 

三森が端末を操作しながら言う。

 

「送信元は追跡困難です。使い捨ての回線を経由しています」

 

横溝が机を指で叩く。

 

「大黒ふ頭第三倉庫。黒いバイクが動くには都合がいい。逃走路も多い」

 

千速は地図を見る。

 

「倉庫街なら白バイも使える。ただし、また不審物や人を使う可能性がある」

 

奏斗は頷く。

 

「だから、追跡ではなく封鎖です」

 

玲奈が震える声で言う。

 

「私が押村警部補を連れていくふりをすればいいんですね」

 

千速がすぐに言う。

 

「お前だけで動くな」

 

「はい」

 

玲奈はもう逆らわなかった。

 

千速は奏斗を見る。

 

「奏斗」

 

「何だ」

 

「無茶するな」

 

「しない」

 

「即答は怪しい」

 

「しない」

 

「もう一回言っても怪しい」

 

横溝が呆れたように言う。

 

「お前ら、緊張感どこ行った」

 

千速は横溝を見ずに言った。

 

「無茶する前科がある奴には何度でも言う」

 

奏斗は何も言えなかった。

 

玲奈はそのやり取りを見て、胸が痛くなる。

 

自分のせいで、この二人をまた危険に巻き込む。

 

だが、もう黙ってはいない。

 

玲奈は顔を上げた。

 

「小隊長」

 

「何だ」

 

「私、逃げません」

 

千速は玲奈を見る。

 

「逃げるなとは言ってない」

 

玲奈が目を瞬く。

 

千速は続ける。

 

「本当に危なければ逃げろ。だが、黙って一人で行くな」

 

玲奈の目が揺れる。

 

「……はい」

 

「それでいい」

 

奏斗は静かに玲奈へ言った。

 

「朝倉さん。明日、あなたには相手に返信してもらいます」

 

「はい」

 

「内容は短く。余計なことは書かない」

 

玲奈は頷く。

 

そして、震える指で入力した。

 

了解。

 

送信。

 

その二文字は、今まで何度も打ってきたものだった。

 

だが、初めて意味が違った。

 

従うためではない。

 

終わらせるための二文字だった。

 

翌朝。

 

大黒ふ頭は、海風が強かった。

 

倉庫群の間を風が抜け、鉄骨がわずかに軋む音を立てている。

 

午前十時の少し前。

 

玲奈は指定された第三倉庫の前に立っていた。

 

隣には奏斗。

 

表向きには、玲奈が奏斗を連れてきた形になっている。

 

少し離れた位置には、千速が白バイで待機していた。

 

さらに外周には第三交機の隊員たち。

 

横溝と三森は捜査一課の車両で別方向を押さえている。

 

玲奈は小さく息を吐いた。

 

「押村警部補」

 

「はい」

 

「私、まだ怖いです」

 

奏斗は前を見たまま答えた。

 

「怖くて当然です」

 

「でも、今日は逃げません」

 

「逃げるべき時は逃げてください」

 

玲奈は少しだけ笑った。

 

「小隊長と同じことを言うんですね」

 

「千速の方が正しいことが多い」

 

「そうですね」

 

その時、倉庫の中から音がした。

 

金属がぶつかるような軽い音。

 

玲奈の顔が強張る。

 

「この音です。前回の現場で聞いた音と似ています」

 

奏斗は小さく頷いた。

 

「合図ですね」

 

直後、倉庫のシャッターが少しだけ開いた。

 

中から黒い服の男が一人出てくる。

 

顔にはマスク。

 

帽子を深く被っている。

 

その背後で、エンジン音が響いた。

 

黒い大型二輪。

 

倉庫の中に隠されていた。

 

男が低い声で言う。

 

「スマホを出せ。録音機器もだ」

 

奏斗は静かに言った。

 

「あなたが連絡役ですか」

 

男は笑った。

 

「質問する立場だと思ってるのか?」

 

玲奈は拳を握った。

 

その声。

 

黒い車の男と同じだった。

 

「この人です」

 

玲奈が言った。

 

男の目が玲奈へ向く。

 

「裏切ったか、朝倉」

 

玲奈は震えながらも、逃げなかった。

 

「もう従いません」

 

男の目が細くなる。

 

「白バイ隊員ごっこに情が移ったか」

 

その言葉に、玲奈は唇を噛んだ。

 

だが、次の瞬間、はっきり言った。

 

「ごっこじゃありません」

 

男が動いた。

 

手元から何かを取り出す。

 

小型の発煙筒。

 

奏斗が反応するより早く、玲奈が叫んだ。

 

「煙幕!」

 

同時に男が発煙筒を投げた。

 

白い煙が一気に広がる。

 

倉庫内の黒いバイクがエンジンを吹かす。

 

だが、その瞬間。

 

外から白バイのサイレンが鳴った。

 

千速の声が無線に響く。

 

『全車、封鎖! 対象を外へ出すな!』

 

黒いバイクが倉庫から飛び出そうとする。

 

しかし、出口正面にはすでに千速の白バイが回り込んでいた。

 

千速は車体を横に向け、逃走ラインを塞ぐ。

 

「逃がすかよ」

 

黒いバイクは急旋回し、側道へ抜けようとする。

 

そこへ新井が入る。

 

「こっちも塞いでます!」

 

黒いバイクはさらに進路を変える。

 

倉庫裏へ。

 

だが裏手には横溝の車両が待っていた。

 

「終わりだ、降りろ!」

 

ライダーは止まらない。

 

狭い隙間へ強引に入ろうとする。

 

白バイでは追いにくい角度。

 

これまで何度も使った手だ。

 

だが、千速はもう読んでいた。

 

「朝倉!」

 

千速の声が飛ぶ。

 

玲奈は反射的に動いた。

 

白バイに跨り、千速の後方から倉庫脇へ回る。

 

「前に出るな」と言われ続けてきた。

 

でも今は、千速の指示がある。

 

玲奈は逃げ道の出口へ白バイを入れた。

 

無理に詰めない。

 

追わない。

 

ただ、逃げ道を消す。

 

黒いバイクが玲奈の前で急停止した。

 

ライダーが舌打ちし、バイクを捨てて走り出す。

 

その瞬間、奏斗が煙の中から飛び出した。

 

ライダーの腕を取り、地面へ押さえ込む。

 

「確保!」

 

横溝も連絡役の男を取り押さえていた。

 

「こっちも確保だ!」

 

煙が風に流されていく。

 

倉庫前に、静けさが戻ってきた。

 

玲奈は白バイに跨ったまま、息を荒くしていた。

 

千速が近づいてくる。

 

「朝倉」

 

玲奈は振り返る。

 

「はい」

 

「よく止めた」

 

その一言で、玲奈の中に張り詰めていたものが切れそうになった。

 

「……はい」

 

泣かなかった。

 

泣く代わりに、ヘルメットの中で何度も息を整えた。

 

逮捕された男たちは、黒い組織の末端協力者だった。

 

上層部へ直接繋がる証拠は少なかった。

 

それでも、使用された端末、車両、資金の流れから、公安が追っていた別件との接点が見つかった。

 

奏斗の公安時代の情報を探ろうとしていた理由も、黒瀬事件の残務資料に絡むものだった。

 

ただし、事件の全貌はまだ遠い。

 

黒い組織は、尻尾を切るのが早い。

 

今回捕まったのは、あくまで手足の一部に過ぎなかった。

 

それでも。

 

白線の向こう側から伸びていた手を、一本断ち切ることはできた。

 

数日後。

 

第三交通機動隊の車庫。

 

玲奈は千速の前に立っていた。

 

処分は免れない。

 

彼女が組織に関与していた事実は消えない。

 

ただし、脅迫を受けていたこと、途中から捜査に協力したこと、現場で犯人確保に貢献したことは考慮されることになった。

 

当面は職務から外れ、事情聴取と監察の判断を待つ。

 

玲奈は制服姿で、深く頭を下げた。

 

「萩原小隊長。本当に申し訳ありませんでした」

 

千速は腕を組み、黙って見ていた。

 

「謝罪は聞いた」

 

「はい」

 

「私はお前をすぐ許せるほど、できた人間じゃない」

 

「分かっています」

 

「部下として信じようとした。その信頼を利用されかけた。そこは腹が立ってる」

 

玲奈は唇を噛んだ。

 

「はい」

 

千速は一歩近づく。

 

「でも、お前が最後にこっち側を選んだのも見た」

 

玲奈の目が揺れる。

 

千速は続けた。

 

「それも消さない」

 

「……はい」

 

「これからどうなるかは、私が決めることじゃない。お前が警察官でいられるかどうかも分からない」

 

「はい」

 

「でも、もし戻れるなら」

 

玲奈は顔を上げた。

 

千速は真っ直ぐに言った。

 

「次は、自分の足で立て。誰かに命令されてじゃなく、自分で白バイに乗れ」

 

玲奈は今度こそ、涙をこらえきれなかった。

 

一筋だけ、頬を伝う。

 

「はい……」

 

千速は少し困った顔をした。

 

「泣くな。こっちがやりにくい」

 

「すみません」

 

「謝るな」

 

その言葉に、玲奈は泣きながら少し笑った。

 

「はい」

 

新井が少し離れた場所で鼻をすすっていた。

 

千速が睨む。

 

「新井」

 

「はい!」

 

「お前が泣くな」

 

「すみません!」

 

車庫の空気が少しだけ緩んだ。

 

玲奈はもう一度、深く頭を下げた。

 

「ありがとうございました、小隊長」

 

千速は短く答えた。

 

「まだ終わってない。勝手に別れの挨拶にするな」

 

玲奈は顔を上げた。

 

千速は白バイに手を置く。

 

「戻ってこられるなら、戻ってこい。その時は、最初から鍛え直す」

 

玲奈は涙を拭い、しっかり頷いた。

 

「はい」

 

その夜。

 

千速の部屋。

 

奏斗は夕食の準備をしていた。

 

千速はソファに座り、少し疲れた顔で天井を見ている。

 

「疲れた」

 

「無理もない」

 

奏斗は味噌汁を運びながら答えた。

 

千速は身体を起こす。

 

「朝倉、泣いた」

 

「そうか」

 

「新井も泣いてた」

 

「新井さんらしい」

 

「怒っておいた」

 

「君らしい」

 

千速は少しだけ笑った。

 

それから、奏斗を見る。

 

「今回、お前は一人で突っ走らなかったな」

 

奏斗は味噌汁を置きながら言った。

 

「約束したから」

 

「約束を守る男だったか」

 

「守るよう努力している」

 

「よし」

 

千速は満足そうに頷く。

 

奏斗は向かいに座った。

 

「君も、朝倉さんを一人で抱え込まなかった」

 

「お前と重悟がいたからな」

 

「そうか」

 

「そうだ」

 

少しの沈黙。

 

千速は味噌汁を一口飲み、ぽつりと言った。

 

「人を引き戻すのは難しいな」

 

奏斗は静かに聞く。

 

「戻りたいと思ってても、戻れない奴もいる。戻れる場所があるって分かってても、怖くて足が動かない奴もいる」

 

「そうだな」

 

「でも、誰かがこっちだって言ってやらないと、たぶん戻れない」

 

奏斗は千速を見た。

 

「君は言った」

 

「言えただけだ。戻るのは朝倉自身だ」

 

「それでも、必要な言葉だった」

 

千速は顔を逸らす。

 

「また急に褒める」

 

「事実だ」

 

「うるさい」

 

奏斗は少しだけ笑った。

 

千速も、つられて笑う。

 

部屋の中は静かだった。

 

事件は終わった。

 

少なくとも、この章は。

 

だが、黒い組織の影はまだ遠くにある。

 

奏斗の公安時代の傷も、完全には消えていない。

 

千速の中にも、玲奈を信じきれなかった悔しさと、最後に選んでくれた安堵が残っている。

 

それでも今は、二人で同じ食卓にいる。

 

それだけで十分だった。

 

千速は箸を持ちながら言った。

 

「奏斗」

 

「何だ」

 

「次に何かあったら、最初から話せ」

 

「分かった」

 

「即答は怪しい」

 

「……最初から話す」

 

「よし」

 

奏斗は少し困ったように笑った。

 

千速はその顔を見て、ふっと表情を柔らかくする。

 

「監視同棲、継続だな」

 

「終わる予定があったのか」

 

「ない」

 

奏斗は小さく頷いた。

 

「なら、よかった」

 

千速は一瞬だけ目を丸くし、それから照れたように味噌汁を飲んだ。

 

「そういうの、さらっと言うな」

 

「すまない」

 

「謝るな」

 

いつものやり取り。

 

けれど、その声は少しだけ穏やかだった。

 

窓の外では、夜の道路を車のライトが流れていく。

 

白線の上を照らしては、すぐに過ぎ去る。

 

その白線のこちら側に、今は確かに二人がいた。

 

そしていつか、朝倉玲奈も。

 

自分の足で、こちら側へ戻ってくる日が来るかもしれない。

 

千速はそう願いながら、静かに夕食を続けた。

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