無価値スキル【価格表示】が覚醒したら、ガラクタで最強になった。 作:鍵宮ファング
ついさっきまでの殺気と血の臭いで満ちていた保管庫が、嘘のように静まりかえっている。
その
「まさか、ここで貴方と再会するとは。夢にも思いませんでした」
冷静さを保ちつつ、信じられないものを見たようにヴェルカを見据える。
「奇遇だな。私からすりゃあ、とんだ悪夢でしかねえが」
対するヴェルカは、まるで旧友に再会したような気軽さで笑う。
なのに空気だけは、さっきまでとは比べものにならないほど重かった。
「ヴェルカ殿? 彼は一体?」
「知り合い?」
カグヤとミリスが、口を揃えて恐る恐る
アルベリオの声。ヴェルカの目。
どう見ても、初対面の空気ではなかった。
「……さァね」
しかし、ヴェルカは心底どうでもよさそうに肩を
「あんな鼻につくガキンチョ、知らねえな」
……絶対知り合いだ。
いや、知り合いとか、そんな生易しい関係じゃない。
だがそれ以上は何一つ語ろうとしなかった。これで話は終わりらしい。
「てか、それより――」
「あん? どうしたクラド?」
「なんでここにいるんだよ」
そう訊ねると、ヴェルカは「あー」と面倒臭そうに頭をガリガリと掻いた。
「いやさあ、部屋で
そう言いながら、手に持ったワインを一気に飲み干して語り始めた。
***
競売会参加者専用のスイートルーム。
夜景を見下ろせる大窓の前で、ヴェルカはソファに腰を預けながらワイングラスを揺らしていた。
「さて、と。今夜は景気良く行くかァ」
おつまみを片手に飲む。
塩漬けにした肉に
「ふぃ~、最っ高~!」
晩酌から一時間も経たぬうちに出来上がった。
その調子のまま、続けて三本目の栓を抜いた直後――。
――カチャッ。
背後で、安全装置の外れる音が連鎖した。
ワインの香りが、一瞬にして死臭に変わる。
「……あンれェ?」
ヴェルカはとぼけた様子でワインを一口飲み、
「随分とド派手なルームサービスじゃねえか」
頼んだっけ? と酒に浮かされた脳みそで考えながら、静かに両手を挙げる。
「お気に召しませんでしたか?」
黒服の一人が静かに返す。
続けて感情のない声で、一歩ヴェルカに歩み寄る。
「我々は、格式を重んじるホテルでして」
「ほぉ、そいつは結構」
ケラケラと笑いながら、ヴェルカはワイングラスに手を伸ばす。
「動くな」
声と同時に、十二丁の銃口が睨む。
銃口の射線は、ヴェルカの脳天。
だが、彼女は何食わぬ顔でグラスを揺らし、静かに一口呑み込んだ。
「酒飲んでる客に銃口向けるたァ、
「……何?」
背後の黒服が訝しんだ、次の瞬間。
ヴェルカは、手にしたグラスごと黒服の顎を打ち上げた。
ドスッ、と鈍い音が静寂を生む。
「おかげで、せっかくのワインの香りが台無しだ」
黒服たちの反応は早かった。
「撃て」
誰かの乾いた号令から間を置かず、魔道銃の閃光が室内を埋め尽くす。
だが、ヴェルカは迷うことなく倒れ込む黒服を片手で持ち上げた。
無数の弾丸が、黒服のやや出っ張った腹を蜂の巣に変える。
「悪ぃな。困った時は、近くにいる奴を盾にしていいって、師匠の教えなんだ」
そんな師匠いねえけど。とケラケラ笑いながら、ソファの縁に手をかける。
そのまま、かけた手を軸に脚を横薙ぎに振り抜く。
赤いハイヒールが黒服の側頭部を叩き潰し、吹き飛んだ男が背後のテーブルに激突する。
高級ワインが宙を舞った。
「やべっ、もったいねえ」
ヴェルカは飛び散るボトルを片手で掴み取ると、空中でそれを一気に飲み干し、
「空き瓶処理は頼んだぜ!」
そのまま真正面にいた黒服の脳天を打ち抜いた。
赤い
その隙に、別の黒服が背後に回る。
だがヴェルカは振り向きもしない。
「ったく。テメェら、一端の始末屋ならよく覚えときな」
言いながら、床に落ちた灰皿を蹴り上げる。
丸まった縁を少しだけ伸ばし、ヴェルカは言葉を紡いだ。
「誰かを始末する時ゃ、銃よりナイフの方が便利だぜ」
言うが早いか、銀色の円盤が空中で刃のように回転した。
「な――」
一人目の指が飛ぶ。
二人目の首筋が裂ける。
三人目の魔道銃が、真っ二つに断ち斬られる。
黒服たちは、自分の身に何が起きたのか理解出来ていなかった。
戸惑いが客室に充満する中、ヴェルカだけが凜と佇んでいた。
「
遅れて、黒服たちは一斉に膝を付いて倒れた。
ドサドサと人影が崩れ落ちる中、ヴェルカは深く溜息を吐いた。
足下ではワイン瓶が無様に転がり、カーペットが真っ赤に染まっている。
それがワインの染みなのか、或いは鮮血なのか。今となっては分からない。
***
「……で、多分クラドの方もバレたんだろうな~って思ってさ」
ヴェルカは、まるで散歩中に起きた出来事を振り返るような口調で、肩を竦めた。
「そしたら案の定、マジに死にかけてやんの」
「笑い事じゃねえよ!」
「いやあでも、間に合ってよかったぜ。あと三秒遅かったらお前、顔面潰されてたぞ?」
「縁起でもねえこと言うなよ!」
本当にこの状況を理解しているのか?
疑問に思っていると、アルベリオが静かに口を開いた。
「知らないとは言わせませんよ、ヴェルカ」
「あン? お前、まだいたの?」
「八年前、貴方は“あの方”にギルドごと消されたはず」
鼻血を拭いながら、アルベリオは笑っていた。
しかしヴェルカは面白い冗談でも聞いたように笑い返す。
「相変わらずだなぁ、お前は」
飲み干したワイン瓶を床に投げ捨て、ヴェルカは真っ直ぐアルベリオを見据えた。
「商人が
「
アルベリオは否定した。
「私は、貴方たちが死ぬ瞬間をこの目で見ていますから」
「ならちゃんと見える
明らかに、空気が変わった。
さっきまでの軽口とは全く違う、冷たい緊張が走る。
「それで、何故生きているのです?」
「さあ。地獄が満員だったんじゃねえか?」
「亡霊が、ならば今度こそ地獄へ叩き落としてあげましょうか?」
「やれるもんならやってみな。女の幽霊は怖ぇぞ?」
意味が分からなかった。
アルベリオの笑みが、そこで初めて止まった。
「しっかし、本当にみみっちな。お前は」
「みみっちい?」
「今も相変わらず、“
「少なくとも、貴方のように現実から逃げ続けるよりは有意義ですよ」
「だったら、尚更タチが悪ぃな」
ミリスもカグヤも、割って入ることすらできなかった。
互いに睨み合っている。ただそれだけなのに。
「貴方は何も分かっていない」
アルベリオはやれやれ、と両手を挙げながら続けた。
「人は
「……ッ!」
「だから貴方は、あの時――」
アルベリオが一歩前へ踏み込んだ、その時。
「アルベリオ様!」
――ガチャガチャガチャッ!
突然、空気を断ち切るように黒服たちが雪崩れ込んできた。
人数は四十……いや五十以上か。手には狩猟用の魔道銃が構えられている。
「コイツら、いつの間に……!」
「ミリス殿、私の近くに」
カグヤは咄嗟にミリスを庇うよう前に出た。
血塗れの身体がふらつく。それでも札だけは離さない。
俺も床に散らばった金貨を掴み取って構える。
たとえ指が砕けようが、ここで止まるワケには行かない――。
「おいおい。こりゃあ、いいお友達を持ったなあ」
対するヴェルカは、まるで酒場の喧嘩でも始めるように肩を回す。
やる気満々、といった様子だ。
しかし――。
「――銃を下ろしたまえ」
アルベリオが、静かに告げた。
その声に、黒服たちは動揺を隠せずにいた。
「し、しかしアルベリオ様、
「聞こえませんでしたか?」
笑顔のまま、アルベリオは黒服たちを
それ以上は何も口にしない。だが彼らは、渋々と銃口を下げていった。
「……コイツは、なんの真似だい?」
ヴェルカは
「情けのつもりなら、余計なお世話だぞ」
「まさか。勘違いしないでいただきたい」
アルベリオは笑い声を殺し、ゆっくりと両腕を広げた。
「ヴェルカ。貴方が現れたおかげで《
愉しげに天井を仰ぎ、言葉を紡ぐ。
「八年前に死滅した行商ギルドの亡霊が現れる。きっと観客は熱狂するでしょうね」
「
「そう思われるなら、そう捉えてくれて構いません」
否定も肯定もしない。
ただ、それが確定事項だと言わんばかりに、アルベリオは静かに微笑んでいた。
「相変わらず、反吐が出る趣味してやがるぜ」
「お褒めの言葉として、受け取っておきましょう」
その返しすら、まるで予定調和のようだった。
ヴェルカは舌打ちしながら肩を鳴らす。
「ただし、明日の《
「ほぉ? で、もしその条件を破ったら、どうなるんだ?」
「そうですね、例えば――」
ヴェルカの問いに答える代わりに、アルベリオは腰から拳銃を取り出し――
――バンッ!
「ぐっ! あああっ!」
俺の右膝が爆ぜた。
何が起きたのか理解するより先に、焼けるような激痛が脳天を突き抜ける。
「クラド!」
「クラド殿ッ!」
ミリスとカグヤの悲鳴が重なる。
「ッ! テメェ、何しやが――」
「おっと、狙いが外れてしまいました」
ヴェルカの怒声を
「でも、これで貴方も分かったでしょう? 次は頭を狙います」
穏やかな微笑み。だがその奥には、無感情な殺意が宿っていた。
とても冗談とは思えなかった。
ヴェルカもそれを理解したんだろう。唇を噛みしめながら、小さく頷いた。
「……分かった。コイツらには悪いが、競売会が終わるまで大人しくさせる」
「
それを合図に、銃を下ろした黒服たちが俺たちの腕を掴み上げた。
「新しく、空いているスイートルームへお連れなさい。くれぐれも、殺さないように」
何も取り戻せなかった。
それどころか、俺は膝を撃ち抜かれた。
それなのに――。
黒服に連行される中、ヴェルカだけが妙に楽しそうに