無価値スキル【価格表示】が覚醒したら、ガラクタで最強になった。   作:鍵宮ファング

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第36話 コレにて一件落着……?

「……ド!」

 

 声がする。

 

「……ラド!」

 

 誰かが俺を呼んでいる。

 

 そういえば、あれから俺はどうなったんだ?

 

 ベリアルを斬って、奴の身体が崩れて、それから――。

 

「クラド!」

 

「クラド殿! 起きてください!」

 

 瞼(まぶた)を持ち上げた途端、全身が一斉に痛みを訴えた。

 

 肩も腰も頭も痛い。むしろ、痛くない場所を探した方が早そうだ。

 

「痛(ツ)ァッ!」

 

 反射的に起き上がろうとした俺の額(ひたい)を、ヴェルカが掴んで地面へ押し戻した。

 

「バカ、そんなすぐ起きたら傷が開くだろうが」

 

「だったらもう少し優しく戻せ!」

 

「いっけね」

 

 舌を出すヴェルカへ文句を言う間もなく、今度はミリスが胸へ飛び込んできた。

 

「クラド! よかった、生きてた……!」

 

「ミ、ミリス……肋(あばら)、肋(あばら)が……」

 

 聞こえていない。

 

 ベリアルを倒した直後に仲間の抱擁(ほうよう)で死ぬのだけは、さすがに勘弁してほしい。

 

「こらこらミリス殿。その辺にしておかないと」

 

「だって、だって……」

 

「このままじゃクラドが死ぬぞ?」

 

 ヴェルカが笑う。

 

 つい数秒前、自分が俺の頭を地面へ押し戻したことは忘れたらしい。

 

 ……いや、ちょっと待て。

 

「俺って確か、落ちてなかったか?」

 

 そこまで思い出したところで、カグヤがミリスを引き剥がしながら振り返った。

 

「あの後、ヴェルカ殿が受け止めてくれたんですよ」

 

「ったく、最後まで世話の焼ける弟子だよ、お前は」

 

 そう言うくせに、ヴェルカの口元は少しだけ緩んでいた。

 

「……ヴェルカ」

 

「あ?」

 

「ありがとう」

 

「き、気持ち悪ぃこと言うなよ。鳥肌立つだろ」

 

「おい! 人が素直に礼言ってんだから受け取れよ!」

 

「いらねえよ。現金で寄越(よこ)せ」

 

「結局金かよ!」

 

 まったく。

 

「それよりクラド殿、身体は本当に大丈夫ですか?」

 

「全然大丈夫じゃない。たぶん骨、何本かいってる」

 

「……治療していただきましょう」

 

 そこでようやく、俺も大きく息を吐いた。

 

 改めて周囲を見る。

 

 夜市だった場所は見る影もない。

 

 石畳は抉(えぐ)れ、建物は崩れ、《価格暴落(フォール・アウト)》に呑まれた一帯には瓦礫すら残っていなかった。

 

 灰だけが、夜風に舞っている。

 

 そして――ベリアルはいない。

 

「……本当に、倒したんだよな」

 

「ええ。気配は完全に消えています」

 

「じゃあ……ミナスガルドは助かったの?」

 

 ミリスの問いに、俺は頷いた。

 

「ああ」

 

 無傷とは言えない。

 

 それでも、この街が地図から消える最悪だけは阻止できた。

 

「……助かったよ」

 

 そう口にした途端、全身から力が抜けた。

 

「クラド!」

 

「大丈夫……たぶん」

 

 そういえば俺たちは、ヴェルカの《ご利用は計画的に(クレジット・ライフ)》で無理矢理動いていたんだった。

 

 そして確か、あの能力には――。

 

「ヴェルカ。あれって、後から利子付きで返ってくるんだよな?」

 

「ああ。そういや言ってたな」

 

 やけに軽い返事だった。

 

「――ごふっ」

 

 次の瞬間、ヴェルカが血を吐いた。

 

「ヴェルカ!?」

 

「あー……来たわ、ツケ」

 

 その場に尻をつき、苦々しく顔をしかめる。

 

「悪い。私、死んだかも」

 

「軽く言うなよ!」

 

「いや、まあ……余裕だ」

 

「どっちなんだよ!」

 

 冗談とは裏腹に、顔色は真っ青だった。

 

「……だから嫌いなんだよ、この能力」

 

 ヴェルカが薄く笑う。

 

「いいか、お前ら。このツケは……高く付くからな」

 

「結局俺たちに請求する気かよ!」

 

 返事はなかった。

 

 そのままヴェルカは、俺たちにもたれかかるように意識を失った。

 

 ――ちなみに。

 

 命に別状はないと分かったのは、それから三十分後のことだった。

 

 *

 

 ――ベリアルの一件から、一週間が経った。

 

 結果だけ言えば、俺たちは勝った。

 

 ただし、その代償として夜天競売会(ノクス・アウクティオ)は跡形もなく吹っ飛んだ。

 

 会場だったオペラハウスは全壊。競売客には重軽傷者多数。それでも死者は、奇跡的にゼロだった。

 

 それから、ゴールド・スケイル。

 

 ベリアルの供物となったアルベリオとゼロの遺体は見つからなかったが、瓦礫の下からは奴隷売買の記録や違法競売の帳簿、悪徳商人たちの名簿が山ほど出てきた。

 

 その結果、ミザールやガノックをはじめ、ゴールド・スケイルの残党と悪徳商人たちが次々と捕縛された。

 

 会長を失い、金のメッキまで剥がれたゴールド・スケイルは事実上崩壊。夜天競売会(ノクス・アウクティオ)も、これで終わりだろう。

 

「……でも、なんかまだ腑(ふ)に落ちないんだよなあ」

 

 今朝の新聞を瓦礫の上に放る。

 

 一面には、

 

『ゴールド・スケイル崩壊! 夜天競売会(ノクス・アウクティオ)の闇、ついに暴かれる!』

 

 なんて見出しがでかでかと躍っていた。

 

 ちなみに、俺たちがいるのは宿屋でも酒場でもない。

 

 元・オペラハウス。その残骸のど真ん中だ。

 

 この一週間、俺たちはカグヤの貨物を探して、毎日のようにここを掘り返している。

 

 ミリスが瓦礫を浮かせ、カグヤが砕き、俺がひっくり返す。

 

 それでも、肝心の荷物だけが出てこない。

 

「まあ、お上にとっちゃゴールド・スケイルは都合のいいスケープゴートだからなァ」

 

「スケープゴート……」

 

 全部ゴールド・スケイルの仕業ということにしてしまえば、話は早い。

 

 けれど俺たちは知っている。

 

 あの場所には、もう一つ別の組織がいた。

 

「汚ぇ権力者のお得意なやり方さ」

 

 ヴェルカはワイン瓶を傾け、最後の一滴まで飲み干した。

 

「それに《奈落の楔(マグナ・クレイドル)》は、そう簡単に尻尾を出す連中じゃねえ」

 

「……知ってるような言い方だな」

 

 俺が言うと、ヴェルカの手が一瞬だけ止まった。

 

「って、腑(ふ)に落ちないのは別のことだよ」

 

「別ぅ?」

 

「ラグナだよ、ラグナ」

 

 新聞を指で叩く。

 

 ミザールとガノックの名前はあるのに、ラグナだけが載っていない。

 

「アイツだけ捕まってないじゃねえか」

 

「そりゃ逃げたからだろ」

 

「逃げた?」

 

「ああいう女狐はしぶといからなァ。今頃、別のカジノで遊んでるんじゃねえか?」

 

「……アンタが言うと説得力あるな」

 

「あァ?」

 

「なんでもない」

 

 命は大切にしよう。

 

「クラドー!」

 

 その時、瓦礫の向こうからミリスの声が飛んできた。

 

「さっきから何してるの? ミリス、もう疲れた」

 

「そろそろ交代するか? あ、新聞でも――」

 

「興味ないからいいや」

 

 そんな真顔で言わなくても。

 

「というより、ヴェルカ殿はまたお酒ですか!」

 

 今度はカグヤが瓦礫の山から顔を覗かせた。

 

 頭には埃、頬には泥。ここ数日ですっかり見慣れた姿だ。

 

「昨日やっと目覚めたばかりなんですよ? また身体壊しても知りませんからね」

 

 そう。ヴェルカは昨日までずっと眠りっぱなしだった。

 

 一時は死んだかと焦ったものの、ダメ元で酒を供(そな)えてみれば、

 

「うっひょー! 酒だ酒だァ!」

 

 と飛び起きた。

 

 酒が出てくるまで狸寝入りしてたんじゃないだろうな。

 

「昨日まで寝込んでたのに、もう飲んでんじゃねえよ」

 

「バカ言ってんじゃねえ。これでも生死の境を彷徨ってたんだぞ、私」

 

「その割には、起きた時は元気そうだった」

 

「分かってねえなあミリス。酒は百薬(ひゃくやく)の長(ちょう)なんだぞ?」

 

「だからといって、病み上がりですぐ一本空けるのはどうかと……」

 

 まったくカグヤの言う通りだ。

 

 一週間前まで悪魔相手に命懸けで戦っていた連中の会話とは思えない。

 

 でも、ヴェルカが酒を飲み、俺たちがそれに呆れる。

 

 そんな騒がしさが戻ってきたことに、少しだけ安心していた。

 

「じゃ、ミリス。交代しよう」

 

「うん」

 

 力なく両腕を垂らして戻ってきたミリスと入れ替わり、俺も腰を上げる。

 

「クラド殿、こちらをお願いします!」

 

「今行く!」

 

 カグヤは土と灰にまみれながら瓦礫を退かしている。

 

 一週間前なら着物の袖に泥が付くだけでも気にしていそうだったのに、今ではすっかり慣れたものだ。

 

「――皆さん!」

 

 不意に、カグヤの声色が変わった。

 

「どうした?」

 

「少し、こちらへ!」

 

 駆け寄ると、カグヤが灰を払い除けた先に、泥で汚れた木の板が覗いていた。

 

「箱?」

 

「ミリス殿、持ち上げてもらえますか?」

 

「任せて!」

 

 ミリスが両手を伸ばすと、積み重なっていた石材がゆっくり浮き上がる。

 

 その下から現れた木箱を見て、カグヤの顔が一気に明るくなった。

 

「ありました! これです、私の貨物です!」

 

「マジか!」

 

「やっと見つかった!」

 

「おー、よかったじゃねえか」

 

「一番働いてない奴が言うな」

 

 言いながら、木箱を引っ張り出す。

 

 だが、木箱の全身が露わになると、今度はカグヤの顔から笑みが消えた。

 

 箱の角は欠け、側面には何本も亀裂が走っている。

 

 あれだけの戦闘に巻き込まれたのだ。形が残っているだけでもマシなのかもしれない。

 

「……結構、やられてるな」

 

「中身を確認します」

 

 さっきまでの笑顔を消し、カグヤが箱の前に膝をついた。

 

 留め金へ伸ばした指が、僅かに震えている。

 

 蓋を開けると、俺たちも揃って中を覗き込んだ。

 

 最初に目に入ったのは、黒い鞘に収められた一振りの刀。

 

 その隣には札で封じられた小箱や巻物、用途の分からない道具がいくつも並んでいる。

 

「これが例の妖刀か?」

 

「はい」

 

 カグヤは妖刀の鞘や柄、封印の札を確かめると、残りの荷物にも手早く目を通していく。

 

 やがて最後まで確認し終え、長く息を吐いた。

 

「……大丈夫です。全部、無事です」

 

 その瞬間、力が抜けたようにカグヤがその場にへたり込んだ。

 

「よかったぁ……」

 

 普段の澄ました顔はどこへやら。やっぱり、相当心配だったんだろう。

 

「よかったね、カグヤ!」

 

「ミ、ミリス殿、ちょっと近いです……!」

 

 ミリスに抱きつかれながら、それでもカグヤは嬉しそうに笑っている。

 

 俺もようやく肩の力が抜けた。

 

 ゴールド・スケイルは崩壊し、夜天競売会(ノクス・アウクティオ)も終わった。

 

 探していたカグヤの貨物まで、無事に戻ってきた。

 

「……これで、今度こそ一件落着だな」

 

 そう思っていたのは、どうやら俺たち三人だけだったらしい。

 

 ヴェルカはいつの間にか酒瓶を下ろし、珍しく真面目な顔でこちらを見ている。

 

「……ヴェルカ?」

 

「ああ」

 

 少しだけ黙ったあと、ヴェルカは頭を掻いた。

 

「クラド。ミリス。カグヤ」

 

 いつものふざけた調子ではない。

 

「今夜、少し話がある」

 

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