戦いの口火を切ったのは、悟空とラディッツのサイヤ人兄弟だった。
「いいかカカロット。ベジータは本物の天才戦士だ。シッポも鍛えており、弱点はない。最低でも二倍界王拳を使わないと話にならんだろう」
「ああ、けどヤムチャに策があるみてえだ。三倍までで抑えて、四倍は封印しねえと身体にガタがきちまう」
「よし、とにかく足止めだ!」
どう、と勢いよく二人がベジータに殺到する。先手を打った悟空たちに続くように、ピッコロが一匹の人工マンに気功波を放って注意を引きつけた。
「悟飯、一匹に集中しろ。他は周りに任せるんだ!」
「はい、ピッコロさん!!」
そうしている間に、チャオズもナッパと対峙をして、超能力を放つ。思わず蹲るような腹痛を引き起こすような超能力ではない。全身の神経を麻痺させる強烈な超能力を放つが、さすがにナッパの動きを完全に止めるには至らない。
「ぐっ……妙な技を使いやがるが……腹が痛くて戦えないなら名門出のエリートではないわっ!!」
これで、チャオズがナッパとの戦いを引き受けることが確定する。ヤムチャの策がほとんど当たりである。
しかし、天津飯を囲うように散った四匹の人工マンは、少々ヤムチャの思惑を外れた。残る三匹がヤムチャとクリリンに対峙して、足止めにかかってきているのだ。
「天津飯!!」
「任せろ。お前たちはその三匹を早く片付けるんだ!」
天津飯は両腕を交差して、ゆっくりとそれを開く。すると、まるで残像のように天津飯が二人に分かれていく。
「四身では少し危うい。二身でいくが……腕は八本だ」
二身の拳に重ねがけするのは、四妖拳。力を込めると肩口から腕が二本、にょきにょきと生えていくという、一体何がどうなっているのかさっぱりわからない技だ。戦闘力を半分にして二人に分かれた分を、腕の数で補う形である。それでも、戦闘力4400の人工マンをそれぞれが二匹ずつ相手にするには分が悪い。
「ヤムチャさん、三匹なら一気に押し込めます。天さんを助けないと」
「ああ。早速だが使わせてもらおうか……クリリンが考えてくれた、俺の新しい技の出番だ」
ヤムチャはすうっと腰を落とし、気を集中させる。そしてゆっくりと、狼牙風風拳の構えを取る。ヤムチャと天津飯が界王星へと赴き、界王拳を習得しているあいだにクリリンが考案し、ヤムチャがそれを改良して実戦に投入した、この技。名を――
「真・狼牙風風拳!」
かつて、新と銘打って狼牙風風拳を披露したのは、天下一武道会。相手は天津飯だった。実力及ばず決まりはしなかったが、この技であったならば、天津飯は死んでいたかもしれない。
「しゃあっ!」
超スピードで一匹の人工マンに詰め寄り、鋭い手刀を振るうヤムチャだが、ギリギリで人工マンはそれを躱す。
だが、気づいたときにはその人工マンの肩口から腰辺りまで、袈裟懸けに身体が裂かれていたのである。残りの二匹がヤムチャを見ると、その両の拳はぼんやりと光って――まるで爪のような形に研ぎ澄まされたエネルギーが見えた。
これこそが、クリリンの考えた新しい狼牙風風拳。既に単なる連続攻撃の域を抜け出して、古今無類の近接格闘攻撃に上り詰めたヤムチャの代名詞を、よりそのモチーフに近づけつつ、性能を高めるために考えたのが、気による爪を作り出しての攻撃であった。
気の形状を変化させる術は気円斬にて習得しており、気をいくつも箇所に集中させるという界王拳の修行もこの技の習得に一役買った。拳の甲から鈎爪の如く伸びた気爪は、気円斬のような回転こそしていないものの、切れ味はその鋭さで十分。しかも一発勝負ではなく、ヤムチャが接敵している限り、この爪の驚異は消えない。虎視眈々ならぬ狼視眈々とでも言うべきだろうか。
「おおおッ!!」
続けざまにもう一匹の人工マンの背後に回り込み、両腕を突き出して気爪で人工マンを引き裂く。その勢いや留まることを知らず、天津飯に集中していたうちの一匹も頭上から縦に割っ裂くと、本来相手にすべき最後の一匹を見やる。
「はっ!!」
が、既にクリリンが面倒とばかりに界王拳を行使。瞬時に人工マンの腹をかめはめ波で撃ち抜いて屠っていた。
流石に強い。そう思いつつ、天津飯は三匹のうち一匹をどどん波で撃ち抜くと、やはり界王拳を行使。彼もまた独自に編み出した技を披露する。
「八連どどん波!!」
二人の天津飯が、それぞれ四の腕から同時にどどん波を発射する。うち二発が先行し、人工マンの動きを封じた後に、それぞれに三発ずつの本命が飛んでくる。頭、心臓、腹と見事に打ち抜かれた人工マンは二匹同時に突っ伏した。
「うへえ。助ける必要なかったんじゃないか……」
「それよりも、全部きちんと息の根を止めただろうな。うっかり瀕死で残すと、ボロクズになりかねんぞ」
ヤムチャは二の轍を踏まないように、倒した人工マンの気が完全に消えていることを確認する。問題ない、これで神様に続き、苦渋を舐めさせられた相手への――もっとも、それの亜種のような奴らではあるが――時を超えた復讐は完了だ。
ノルマを達成した三人は、周囲の様子を確認する。
「どうする。加勢するか?」
天津飯の問いに、それぞれの戦闘を見たヤムチャはゆっくりと首を横に振った。
「大丈夫だろう。もしも劣勢ならば駆けつけるが……みんな、修行の成果を発揮したくてウズウズしていたんだ。自分たちの技がどれだけ通用するか、ちゃんと確認できるまで待ってやろう。悟飯はある程度、経験を積んだほうがいいだろうしな」
決して暢気に観戦するわけではない。それぞれが目の前の戦いに集中できるようには動くが、必要以上の手助けはしないだけだ。
この戦いに勝つためだけならば、一気呵成に決めてしまうのも悪くはない。だが、後に続くナメック星――全員が生き残れば行く必要があるのかどうかもわからないが――での戦いでは、戦闘力が数万を超える敵がウヨウヨとしているのだ。悟飯に死闘の経験がなければセル戦も危うく、そうなれば未来はない。
「ヤムチャ……俺はチャオズが気がかりだ。確かにチャオズは強くなった。あのスカウターで測った最後の数値は、4300。界王拳を使えばナッパに負けはしないだろう。だが……」
「ああ。弟弟子だもんな。だが……心配はいらないようだぞ?」
やや離れたところで戦うチャオズとナッパを見て、ヤムチャは相好を崩す。
そこには、短い体躯ながらナッパと懸命に戦うチャオズの姿があったのだ。
遂にやらかしました、オリジナル技。
オリキャラだけはやめておこう。それだけはしないでおこうと思ってはいますが、オリ技は入れないとヤムチャの技が足りないんですよ……
思い出したんですが、オリジナル小説でも弱い主人公で異世界を旅する話とか書いてました。いや、ヤムチャとクリリン強いですけど、後半の空気っぷりから弱い印象拭えません。
弱いキャラが好きみたいです。