Dragon Ball KY   作:だてやまと

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チャオズVSナッパ

 幼い頃から兄弟子の天津飯と共に厳しい修行に明け暮れ、矮躯ながらも常識をはるかに超える達人へと成長したチャオズだったが、ひとりのハゲによってその輝かしい戦歴に傷がついた。

 師匠である鶴仙人がライバル視している亀仙人。その弟子たるクリリンという、同じく矮躯でありながら、心技体の全てにおいて敗れた決定的な敗北であった。

 鑑みれば、チャオズは未だかつてどんな強敵を相手にしても勝ったことがない。挙句、かつての恩師の変わり果てた姿に動揺して、自分だけが天下一武道会の決勝に駒を進めることすらできなかった。

 なんて情けないのだろう。兄弟子であり親友。否、家族とすら思っている天津飯は、魔封波を自力で身に付けて魔族と戦い、あの桃白白を一撃で倒したというのに。孫悟空に本気で戦わせるにまで至ったというのに。

 小さな体を突き抜けるのは、いつも天津飯の足を引っ張ってしまうのではないかという不安と、自分ひとりが弱いという劣等感だった。超能力こそ身につけてはいるが、格上には効果もなく、かつての歴史ではサイヤ人という強敵に自分の力が一切通用しない場合のために、自爆する覚悟をあらかじめ決めていた。一人弱い自分が、天津飯の忠告も無視してついていったのは、もしもの時に天津飯の命を救えるようにと思ってのことだった。

 それだけの劣等感を抱きながら、それでも戦士たる自分を否定することもできなかった。強くなりたい。誰よりも、どんな時でも強くありたい。

 人という存在を超越するために必要な、断固たる意思。そう、たとえば。もしも平和な世界になり、老いた手を見て――あの頃にもっと強ければと後悔していた時に、時間を遡行できるのならば、迷わずしているであろうほどの、強烈なまでの信念を、チャオズもまた胸に秘めていた。

「どどん波!」

「ちっ!」

 チャオズとナッパの戦いは、既に数分を経ていた。小さなチャオズを見て、捻り潰してやろうと息を巻いて突進するナッパの勢いを超能力で殺ぎ、距離を保ちながらどどん波で応戦する。

 まだ足りない。界王拳を使えば対等の戦闘力に至るであろうが、体格と戦いに対する慣れにおいては、ナッパとチャオズに大きすぎる隔たりがあった。

 チャオズは高速で不規則に飛び回り、ナッパを振り回す。体力がありそうなナッパに持久戦はあまり得策ではないが、機を見つけねば勝てるものも勝てない。

「いつまで逃げるんだ、このチビが!!」

 本来の戦闘スタイルに持ち込めないナッパは、見るからに弱いチャオズに振り回されていることに苛立ちながらも、まだ自分が優位であるとの見立てで頭に血が登りきっていない。

 チャオズの戦闘スタイルは、その矮小な身体と容姿で油断を誘い、相手の本来の力を発揮させないというものに形成されていた。気もまだ抑えたままであり、数値上は3000に満たないであろう。故に超能力も足止めほどにもならず、ナッパもだからこそ追いかける。

「ええい、ハエか貴様は。逃げ回ってばかりの弱虫が!」

「ひひ。攻撃が当たらないだけだろ?」

 挑発も織り交ぜて、とにかくナッパから理性を消すことを優先させる。果敢に攻めるナッパの攻撃が随分と大味になってきて、より守りやすくなっている。あと少しだった。

「クソチビがッ!!」

「ここだあっ!!」

 攻撃に移るときにできる僅かな隙をチャオズは見逃してはいなかった。それまで抑えていた気を一気に開放。さらに界王拳を使って、突っ込んでくるナッパの腹にめがけて頭突きをカマす。

「お、おおうッ!!?」

「はあっ!!」

 態勢が揺らいだところで、超能力を発動。界王拳との併用はどう修行しても不可能だったために、界王拳は一度消した状態である。しかし気を開放した状態での超能力は、ナッパの身体を一瞬ではあるがピタリと止めた。

「たあっ!!」

 追い打ちの蹴りを加え、反動で大きく距離を取る。思わぬ反撃に遂にナッパの理性が消し飛んだ。

「ち、チクショウがぁああッ!!」

「新鶴仙流、太陽拳!!」

 ここで選択した技は、太陽拳。元来、鶴仙流のこの技は後に多くの戦士が使用している。悟空にクリリン。そしてセルに至るまで。如何に目くらましが有効なのかがよくわかる。

 当然ながら、チャオズも太陽拳の使用は可能である。チャオズを中心に強烈な閃光が走り、視界を奪われたナッパは混乱によってその場でぶんぶんと拳を振り回して暴れだした。

「どどん波!!」

 動きが鈍いナッパにどどん波が直撃する。しかし、流石はタフなナッパである。直撃にも関わらず、超硬ラバープロテクターが砕けただけであり、少々のダメージを食ったものの一層猛り狂っている。

 チャオズの持つ技で最も威力の高い技であるどどん波で大したダメージにならないというのは、チャオズにとっては決め技が無いということになる。自分のペースではあるが、このままずるずると戦い続けてもタフなナッパにいつか捕まり、手痛い攻撃を喰らうことになる。

 ならば、こちらも全力を尽くすのみだ。チャオズは再び気の流れをコントロールして界王拳を発動させる。しかも今回は二倍。チャオズの気を開放した戦闘力が4300であるため、一気に8600まで跳ね上がっている。

 チャオズが2倍界王拳で戦える時間は三分間が限度である。気のコントロールに対する技術は決して悪くはないのだが、超能力という独自の技術の研鑽に努めたためだ。元々、超能力も気を利用した技術であるのだが、この超能力と界王拳の相性がとにかく悪い。共に体内の気をコントロールする技術であったために、界王拳で集中させるべき箇所と、超能力の行使のために集中させるべき箇所が全く違うという現象が起こってしまった。

 ただし、利点もあった。ヤムチャのように気の流れのコントロールは不慣れであったが、体内の気を特定の場所に集めるという技術に関しては誰よりも得意とするところであったのだ。界王拳の習得が最も早かったのはヤムチャと天津飯という教える側を除けば、チャオズだった。

 急激に戦闘力を高めたチャオズの突撃に、ようやく視界が戻ってきたナッパは反応することもままならない。

「はあっ!!」

 突撃の勢いをそのままに頭突き。クリリンよりもさらに矮躯という格闘家として恵まれないにも程があるチャオズは、もはや懐に潜り込んでの格闘すらままならない。超能力を駆使した戦いを主としているが、戦闘力で明らかに格上の相手に腹痛程度では話にならない。

 かくなる上は、突撃しかなかったのだ。小さな身体でも、速度と気で強靭になった肉体はそれだけで武器となる。

 チャオズの作戦は見事に功を奏した。少なくとも、後ろで手に汗を握り締めながら観戦していた天津飯にはそう見えた。

 だが、戦闘民族サイヤ人のエリートとして育ったナッパにも意地があった。百戦錬磨の戦士としての経験と知恵もあった。避けきれないと悟り、戦闘力でも分が悪いと見るや、ナッパは敢えてチャオズの一撃を正面から受け、多大なるダメージと引き換えに、意識だけは手放さず、丸太のような太い両腕でチャオズの身体をがしりと掴んだのである。

「ぐ、ぐふふ……捕まえたぞ、チビが!」

「あ、あぐっ!?」

 両腕でがっちりと脇腹を掴まれたチャオズは、そのままナッパの膝に身体を叩きつけられて、さらに頭突きを喰らう。界王拳は維持していたものの、ナッパのタフネスとパワーは戦闘力という単純な数値だけで推し量れるものではなかったらしい。素早い動きは苦手なようだが、それを補うパワーがあり、それが発揮されると手がつけられない。

 膝蹴りと頭突きで滅多打ちにされていくチャオズに、天津飯が不味いとばかりに飛び出す。それに気づいたナッパは、まずは数を減らすべきだとチャオズを始末しようと口をカパッと大きく開いた。

 ナッパの最強の技である、口からのエネルギー弾である。至近距離でのこの技は死に繋がる。

「チャオズ!!」

 天津飯が叫び、必死に飛びかかるが時すでに遅し。放たれたエネルギー弾を止める術がない。

 だが、チャオズはかつてのチャオズではない。天津飯とともに神様のもとで修行を重ね、天津飯がヤムチャと界王星へと修行に行った後に、きちんと神様の修行を終えた。さらに、クリリンたちと合流してからは超重力下で亀仙流の面々と修行を重ねてきていたのだ。

 もはや、チャオズの必殺技は超能力とどどん波だけではない。

「かめはめ波ッ!!」

 ナッパが気を口に集中させていることに気付いていたチャオズもまた、時を同じくして亀仙流の必殺技――組手で幾度となく見て、そして喰らった技――を放っていたのである。

 貫通力や殺傷力で勝るどどん波とは違い、かめはめ波は純粋な攻撃力。すなわち火力に優れた技だ。至近距離でぶつかりあったナッパの気弾とチャオズのかめはめ波は激しくぶつかり合い、ほとんど互角の競り合いをした後に掻き消えた。

「はっ!!」

 必殺の技を瞬時に切り返されて唖然としているナッパに、遅ればせながら助太刀に入った天津飯の蹴りが炸裂する。不意打ちの一撃にチャオズを手放してしまったナッパは大きく吹き飛び、チャオズはようやく解放されたものの、サンドバッグにされたダメージは流石に大きく、がくりとその場に倒れた。

「チャオズ、仙豆だ!」

 最早、過保護にも思える天津飯だが、天涯孤独の身であり、長年の恩師たる鶴仙人のもとを離れた天津飯にとって、チャオズは弟弟子というだけの存在ではない。すでに家族なのだ。

 戦いに備えて、あらかじめカリン様に仙豆を極力作っておいてもらうように頼み込んでいたのが、ここで功を奏した。かつての歴史でも仙豆はサイヤ人戦を前にカリン様からクリリンたちも受け取っていたが、修行に傷ついた身体を癒すために使い切っていたのだ。考えなしの結果ではなく、悟空とピッコロの二人がかりでも敵わなかったラディッツよりも強いサイヤ人を相手にするためには、本番での回復ではなく、少しでも強くなるための修行だっただけの話だ。寸暇を惜しんで鍛えてきたからこそ、仲間たちは死にながらも、辛うじてクリリンは生き残って元気玉を作り出すという役割を果たした。

 クリリンが生き残ったのも、それまでに天津飯たちがナッパと戦い、攻撃の隙を与えたりと、微力ながらも勝利へと貢献していたのだ。仙豆の無駄使いなどはしていない。

 だが、今回はすでにクリリンとヤムチャによって、平和な時でもカリン様に仙豆を作ってもらうように頼み込んでいる。修行中もうっかり組手で半殺し状態に陥った場合などに使ったが、実は全員が袋いっぱいの仙豆を持参しているのである。

 無論、己の力試しの場でもあるので、戦闘中にポリポリと食べることはしなかったが、チャオズはすでに限界だった。十分な戦果とまでは言えなくとも、自爆でも驚かせるだけに終わったかつてと違い、確実にダメージを与えて、本来ならば三倍界王拳で圧倒することもできた。ナッパのタフネスがチャオズの計算の上をいったという意味では、敵を測り損ねたチャオズにも反省すべき点はあるのだが、それでも上々の成果であろう。

「よくやったぞチャオズ」

 天津飯の言葉も、純粋な賞賛のものだった。小さな身体で、よくもあの大きなナッパと渡り合えたものだと、心の底からチャオズを褒めた。

 だが、チャオズの顔は浮かないものだ。やはり、自分は勝てないのだ。あれだけの修行を重ねても、自分は負けてしまう。それが悔しくて仕方なく、目頭から涙がぽろぽろと溢れた。

「天さん、ボクは……弱いね……」

「何を言うんだ。お前は強い。サイヤ人相手に、確かに手痛い反撃は食らったが、十分に戦えていただろう?」

「ううん。結局、天さんに心配をかけた……それが、悔しい……」

 いつも、兄弟子についていくだけで精一杯だったチャオズだが、それでも天津飯と対等の強さにまでたどり着きたいという思いを秘めていた。

 これでナッパに勝つことができれば、少しは胸を張れるだろうと思っていたのだが、やはり結局はこうして介抱されている。

 悔しい。だが、なぜ悔しいばかりで諦めようとは思わないのだろうか。

 これだけはっきりと、自分の力が及ばないと理解していても、どうして諦めるという選択が頭をよぎることすらしないのだろうか。涙で視界が歪む中、チャオズはそれでも「足りない」と呟いた。

 まだ、足りない。もっと強くなりたい。今回は心配をかけてしまったが、次は安心してもらいたい。

 ならば、答えは決まっている。涙を拭って、両の足で大地を踏みしめる。

「天さん、ボクはもっと強くなるよ。もっともっと、強くなるよ!」

「ああ……ああ。そうだ、チャオズ。俺たちはもっともっと強くなる。サイヤ人よりも、ほかのどんな奴らよりも強くなろう!!」

 チャオズとは逆に、涙を目に浮かべた天津飯は力強く応えて、チャオズと同じくまっすぐと立つ。

 二人の姿の眩さに、さらに後方で見守っていたヤムチャとクリリンは己の立場を鑑みて苦笑する。

「……やっぱり、あいつらがいてくれてよかったな。金色の戦士もピンクの魔人も知らないあいつらが前向きでいるから、ここまで来れた」

「ええ。オレたちより純粋に、強さを求めてますからね……ああ、記憶があるから前より強くなってるけど、記憶が邪魔になるとは思わなかったなあ」

 それでも、やはり諦めることを知らない二人もまた、戦士なのだろう。




原作ではまともに戦うシーンが天下一武道会でのクリリン戦。そしてサイヤ人編での自爆のみというチャオズ。
悟空と直接話をしたことすらないという、Z戦士に数えられているにも関わらずの不遇キャラです。

まともな格闘をしたのはクリリン戦だけで、蹴りと頭突きが印象的だったので、そこから戦法を拾い上げて構成してみました。
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