Dragon Ball KY   作:だてやまと

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悟飯VS人工マン

 クリリンとヤムチャ、天津飯が人工マンを相手にして、チャオズがナッパを。そして悟空とラディッツがベジータの足止めにかかっているところで、悟飯とピッコロはそれぞれ人工マンとの一騎打ちに挑んでいた。

 もっとも、ピッコロにとって人工マンがいくら栽培マンより強かろうが、並々ならぬ成長を遂げているのだ。まったく問題にならない。

「しゃあっ!!」

 勢いよく腕を伸ばして、人工マンの足を掴むと、手刀で首を狙う。急所を狙って相手に大ダメージを与えるつもりだったのだが、本人の予想以上にピッコロは強くなっていたらしい。人工マンの首が胴と離れて、ころころと転がっていった。

「しまった。悟飯に戦いの見本を見せるつもりだったが……まあいい。悟飯、貴様の腕でも十分に倒せる相手だ。落ち着いて対処しろ!」

「はい、ピッコロさん!!」

 孫悟飯の初陣である。本来はナッパとの対峙で怯えまくり、窮地に立ってようやくその才能を開花させた悟飯であるが、今回は格下とは言わずとも、手頃な相手であろう。ヤムチャの狙いも悟飯に良い初陣を飾らせて、自信をつけさせることにある。

「シャアアッ!」

「たあっ!!」

 人工マンと対峙した悟飯は、相手が子供ということで油断している人工マンの突撃を迎え撃つ形で蹴り飛ばし、距離を取る。

「ふうっ……ふうっ……!!」

 初の実戦という緊張感が悟飯を凄まじく襲うが、動きは悪くない。サイヤ人の血を引く悟飯もまた、生まれながらの戦闘の才能を持っている。

 ましてや、母親は地球人の女性としては現時点で間違いなく最強の座についているチチである。いずれは人造人間ながらもベースが地球人でありながら、超サイヤ人のベジータと互角であったクリリンの嫁が最強となるが、今の時点ではおそらく改造すらされてはいまい。

 後に好敵手から「お前がナンバーワンだ」と賞賛される戦闘民族サイヤ人の生き残り、孫悟空。そして生身の地球人女性としては義娘と並んで最強格たるチチ。サイヤ人と地球人の混血児は強いということもあるが、それ以上に地球人としても祖父、母ともに達人である血筋が悟飯の驚くべき潜在能力の秘密でもある。

 この一年で頼りない少年としての面影はなりを潜め、まだ幼いながら組手のときは戦士の表情を見せるようになってきた。まだまだ戦闘力は未完成で戦士たちの中では基礎力は最も低いが、伸び代が一番高いのも悟飯である。

 人工マンは悟飯手強しと見て、慎重に攻める作戦に切り替える。十分な距離から頭頂部を真っ二つに割り、溶解液を悟飯にめがけて飛ばしつける。

 そのモーションに警戒をしていた悟飯は大事をとって大きく距離を取り、先程まで自分がいた位置が溶解液によってジュウジュウと音を立てて溶けるのを見てぞっとする。

「ピ、ピッコロさん……」

「お前のスピードならば十分に避けられるだろう。恐れずに戦うのだ」

 戦いの師匠であるピッコロの指示は端的だ。半年間の修行でも、ピッコロは多くを語らずに実践にて悟飯を鍛えた。戦いにおいては勿論パワーも技術も重要であるが、事前に敵の攻撃を察知する観察眼などが勝敗を大きく分けることがある。すべてを丁寧に教えていては、単に従順なだけで応用力のない戦士となってしまうので、あくまでもアドバイスは最低限に抑える。今回は実戦であるが、実戦こそが最も勘が磨かれるときだ。悟飯の最終戦闘力は4400ほどと、人工マンとは互角な上に、まだ気のコントロールが完璧でないので界王拳も使えない。しかし、悟飯はその潜在能力の一端を垣間見せることにより、飛躍的に戦闘力を増す。その力の引き出し方もまた実戦でなければ磨かれない。

 溶解液は予備動作が長いので、簡単に避けることができると悟飯は見切りをつけて、しかし直撃すれば気の防御など関係なく溶かされそうでもあることを注意する。遠距離戦ならば避けることもたやすいと思って、気弾を放って人工マンを追い詰めようとした。

 しかし、甘いとピッコロは舌打ちをする。予備動作が長ければ当然、近づけば溶解液など飛ばしている暇がなくなるということでもある。寧ろ、溶解液を頼るような腕であるならば、格闘戦に持ち込んで押し込むほうが有利に働くであろう。未だに恐れの残る悟飯の戦い方は歯痒いものすらあった。

 かくして、悟飯の気弾はあっさりと人工マンに躱され、悟飯に怯えの色が見えることを理解すると、逆に押し込めようと近接戦に挑んでくる。

 悟飯は慌てて迎撃するが、全てが後手後手となり、思うように攻撃に移れない。苛立つピッコロだが、潜在能力さえ発揮すれば悟飯にとって人工マンなど一瞬で消滅させることが可能であることも知っている。

 サバイバル修行の中、腹を空かせた恐竜に追いかけられていた悟飯は、決死の場面で底力を発揮して恐竜の顎を撃ち砕く一撃を放ったのだ。以後、恐竜は悟飯を見ると怯えて逃げるほどであり、追いかけては手刀で恐竜の尻尾をスライスして食料にしていた。

 まだロクに戦闘も教えていない五歳児にしては、破格の戦闘力を引き出したのだ。きちんと育てた今、それを発揮させれば人工マンなど相手ではなくなるはずなのだ。

 しかし、悟飯は消極的な戦法であるが故に、手痛いダメージを喰らうわけでもなく、だらだらと戦闘を長引かせている。勿論悟飯は必死で戦おうとしているのだが、ピッコロにとっては本気を出さずに手古摺っているのと同義である。

 何か、爆発的なきっかけがあれば良いものを、と思っている時だった。

「かめはめ波ッ!」

 少し離れた場所で戦っていたチャオズが、ナッパの気功波をかめはめ波で相殺していた。

 その姿はボロボロで、おそらく厳しい戦闘で激しく傷ついたのだろう。しかし、天津飯の助太刀でナッパと大きく距離をとったチャオズの目から、闘志は消えていなかった。

 ろくに体も動かないほどに痛めつけられているにも関わらず、目は死んでいなかったのだ。

 チャオズは修行の時、いつもだれかの影に隠れているように静かに、まるで自分が邪魔にならぬようにと配慮しているのではないかと疑うように、端の方で淡々と己を鍛えていた。悟飯の目から見れば、あまり戦いを好まない、少し自分に似ている存在でもあったのだ。

 そんなチャオズが、己の力量が敵に届かなかったことを悔やみ、涙まで流している。

 自分が、こんな量産型の雑魚に手間取っているあいだに、激戦を繰り広げた仲間が傷ついているのだ。

「……う、うわあああッ!!」

 危機的状況ではない。否、それどころかさしたる劣勢ですらない。それでも、悟飯は己の勇気を奮い立たせて気を一気に開放した。

 どうん、と土煙が舞って、人工マンの視界が一瞬遮られる。戦いの最中によそ見をする間抜けに、止めを刺そうと突進している最中であった。

「ギ!?」

 土煙の中から、小さな影が飛び出してくる。幼いながらも、闘士を滾らせた小さな戦士が、自分を倒そうという断固たる意思を瞳に宿していた。

 これは不味い。そう思って横に軌道を変えようとするが、悟飯の動きは人工マンよりもずっと早かった。逃げようとする人工マンの顔面を思い切り殴りつけて、地面に叩きつける。

「ギャッ!!」

「はあぁっ!!」

 地面をボールのように跳ねる人工マンの身体に、悟飯は思い切り頭突きをカマし、もつれ合うように地面に転がった。

「うううッ……くらえっ!」

 素早く姿勢を整えてトドメとばかりに、気功波を放って人工マンを消滅させる。まさしく一瞬のできごとに、人口マンは痛みを感じる間もなく、この世から消え去った。

 あとに残った悟飯は、大きく肩で息をしながら、少し離れたところで見ていたピッコロを振り返る。

「……ピッコロさん」

「まあまあだな」

 ニヤリと口元だけで笑うピッコロは、それだけ呟いてそっぽを向く。

 素っ気ない師匠だが、ピッコロが自分を褒めることなどそうはない。むしろ、まあまあとまで言われたのは初めてのことである。

 初めての戦いは、とりあえず一段落。悟飯はへたりとその場に座り込むと、一番離れた場所で戦っている三人の男に目を向けた。

 敵であるベジータ。そして優しく強い父親と、もうひとりの師匠である叔父へと。


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