Dragon Ball KY   作:だてやまと

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ラディッツVSベジータ

 仲間たちがそれぞれ戦う中、悟空とラディッツはベジータを相手に唯一、数で勝る勝負を展開していた。

 即席のタッグであるが、一年間も一緒に修行をしていた上に、二人は血を分けた兄弟でもある。連携に不安は無く、攻防に隙もない。

 だが、それでも押されているのは悟空たちであった。

「はああっ!!」

 ベジータが正面から向かってくるのを、ラディッツが防御に専念して悟空が裏に回り込む。がっしりと受け止めたはずのベジータの拳は重く、受け止めた右腕が痺れそうになるほどの破壊力を秘めている。

 裏に回った悟空が蹴りを放とうとするが、それを回し蹴りで迎撃するベジータに、悟空は敢え無く吹き飛ばされる。

「くく、所詮は最下級戦士だな。兄弟揃ったところで、俺に傷一つつけることなどできん」

 嘲笑うベジータだが、事実として悟空の攻撃は一度もベジータに届くことはなく、全てが躱されるか反撃で返り討ちにあっている。

「ちっ……カカロット、まだ戦えるな?」

「あたりめえだ。けど、正直なところきっついぞ。2倍じゃついていけねえや」

 悟空の言葉にラディッツも頷くしかない。2倍界王拳でもってしても、ベジータの戦闘力には追いつかない。悟空たちの界王拳は、身体に極端な負担を強いずに可能な倍率は3まで。4倍になると一分ほどで体中が痛み出す。

 だが、3倍とて長時間戦えるわけではない。もって五分が限度だろう。

「仕方ない。カカロット、お前は手を出すな」

 ラディッツはそれだけ言って、一気に界王拳のレベルを一つ上げる。三倍界王拳である。

「あ、兄貴?」

「三倍が通用しなければ、体力を消費するだけだ。俺が様子を見てやろう」

 そう言うか否か、ラディッツはベジータめがけて突進する。急激に伸びた速度に、ベジータは咄嗟に避けて難を逃れるが、反射神経でギリギリ躱せたという様子で、驚きが表情に出てしまっている。

 好機とばかりに、ラディッツは次々と拳を繰り出していく。様子見とは言ったものの、ラディッツの本音で言えば、一対一の勝負をしてみたかったのである。

「ベジータ。お前はいつも俺を馬鹿にしていたな。だが、それも今日までだ!!」

 足元に気弾を打ち込み、土煙を巻き上げるラディッツに、ベジータは嘲笑う。

 所詮は最下級戦士である。視界を奪って攻撃するつもりであろうが、それはラディッツにもベジータが見えないということだ。少し場所を変えて、襲ってきたラディッツに反撃すればそれで終いである。

 すうっと身体を移動させて、元々いた位置に狙いを絞ってラディッツが来るのを待ち構えるベジータだが、当然というべきか。ラディッツは気を正確に探り当てて、油断しているベジータの頬を思い切り殴り飛ばした。

「ぐうっ……貴様ッ!!?」

「最下級戦士を舐めるなよ。俺のオヤジは、最下級戦士だが、エリートを超える力を持っていた。俺は最強の下級戦士、バーダックの息子だ!!」

 かつて見た、父親の背中は大きく広く、逞しかった。

 いつからだったろうか。あの大きな背中に憧れつつも、最下級戦士であることを理由に修行を怠ったのは。自分よりも弱い奴を相手にしてばかりで、成長などひとつもしなくなったのは。

 亡き父親の誇りを忘れ、のうのうとベジータの言いなりに働いていたのは。

「エリートを超えたところでどうなる。俺はエリートの上にサイヤ人の王子、ベジータだ!!」

 思わぬ攻撃に怒ったベジータが、本気の一撃をラディッツに放つ。だが、それをがっしりと受け止めたラディッツは、全力でベジータを投げ飛ばし、気を一点に集中させる。

「サイヤ人など、ここにいる四人に、カカロットの息子で五人しかいない。王子を気取るお前は、単なる子供だ!!」

 最大限に高めた気を拳に集め、振りかぶってベジータに投げつける。これぞ、闘士を再び燃やしたラディッツが界王拳よりも真っ先に習得に励んだ技。憧れ続けた亡き父親が得意とした、まだ赤ん坊だった悟空には知る由もない、父の形見とも言える技。

「ライオットジャベリン!!」

 気を投げつけるという、放射するかめはめ波とは違う種類の気功波であるライオットジャベリンは、常に放ち続けることができるかめはめ波と違って軌道を変えたり、気功波同士の勝負で押し勝つことはできないが、当たれば強烈なダメージを与えることができるという特性も持っている。言わば、一撃必殺の博打技にも近い特性である。

 しかし、そんな技を父であるバーダックは好んで使用した。一瞬のタイミングを見極め、たとえ格上であろうとも絶対に負けないという気概で、この技を選び続けてきたのである。

 だが、今のラディッツは界王拳によって父の戦闘力を超えているものの、長年の激戦で培った相手の動きを見切るという経験が不足している。ライオットジャベリンの特性を瞬時に見抜いたベジータが、すかさず気功波の衝突による相殺を図る。

 だが、それを見越してこそのライオットジャベリンだ。ベジータが相殺して油断した隙を狙って、立て続けに二発目のライオットジャベリンを放つ。

 この技は相殺されると弱く、博打技で気の消費も激しい。だが、威力と速射性が高いのだ。一発目は布石。威力も敢えて抑えた。しかし、今度のライオットジャベリンは違う。ラディッツが最大限に気を込めた、全身全霊の父の忘れ形見である。

「ぬ、ぐうううッ!!」

 完全に想定の範囲外であった二発目のライオットジャベリンに、ベジータは懸命に逃げようとする。だが、虚をついた一撃というものに、身体は思うように反応できないものである。なんとか直撃を避けたものの、足元に着弾したライオットジャベリンは激しい爆風を巻き上げてベジータの身体を包み込んでいく。これが父バーダックであったならば、確実に直撃させていただろうとラディッツは思うが、ならばそれができるまでに、自分を鍛えぬけば良いだけの話である。

 サイヤ人の全盛期は長い。そして、その間は地球人では衰える一方であるにもかかわらず、成長を続けることができる。戦闘民族と自ら言って憚らないのは、この戦闘に特化された肉体の成長もあってのことだ。

 そして、そのサイヤ人のエリートにして王子。ベジータは戦闘民族の誇りを持つ、気高い男である。渾身のライオットジャベリンはベジータの超硬ラバースーツを吹き飛ばすほどの威力があり、左半身のスーツはあちこちが破損していたが、本人は未だに健在であった。

 無論、手痛いダメージはくらっている。弱虫と侮った下級戦士が、まさかこれほどまでに高い威力を持つ隠し球があったとは思いもしなかったのだ。

 だが、それはベジータにとってマイナスの事実だけではなかった。高いプライドと唯我独尊の性格ではあるが、相手の力量を正しく測り、それに対応する術を持っているのは百戦錬磨の戦士たる所以である。

 思うに、ラディッツや悟空の急激な成長には、戦闘力を操作した上で、さらに効率的に戦闘力を発揮する――界王拳と彼らが呼ぶ技があってのものであるということを、ベジータはよく理解していた。そして、その高度な気のコントロールは、おそらく通常時の肉体でなければ不可能であるということも。

「く、くく……人工マンは全滅。ナッパも地球人のチビに押される始末。なるほど、弱虫という言葉だけは取り消してやろう。だが、ここで貴様らは死ぬ」

 ベジータとしても、この手はあまり好まなかった。何よりも、醜くなることを嫌う男だからだ。

 だが、そうも言ってはいられない。わざわざ日数を調整してやってきたのは、あくまでも奥の手を使うためだった。

「ナッパ、空を見ろ!!」

 チャオズと戦い、距離をとっていたナッパに、べジータの声がかかる。

 すでに夕刻に差し迫り、赤く染まりかけた大地。その空に浮かぶのは、真円を描いた夕月だった。

 歴史はクリリンやヤムチャの知らないところで変わっていた。ピッコロは悟飯が大猿化することによって、月を消さねばならないという判断を下したが、この世界では悟飯は大猿化することなくサバイバルを終えた。したがって満月を見るとサイヤ人が変身するということを知っているのは、この中では最初に尻尾を切るという術を編み出したヤムチャ。そして天下一武道会で目撃したクリリン。本人がサイヤ人のラディッツの三人のみである。

「しまったッ!!!」

 ラディッツがナッパを止めようと地を蹴るが、ベジータが足止めに入る。クリリンとヤムチャがその隙にナッパに殺到しようとするが、それを見逃すベジータではない。気功波を連射してクリリンとヤムチャの注意を引きつけた上に、我を忘れて突進してくるラディッツを蹴り飛ばした。

 ほかの仲間は、一体何が起こっているのかわかっていない。ただ急にクリリンたちが青ざめて突進しただけに見える。そして、わからないままに、チャオズとの戦いを終えたばかりのナッパの身体に異変が起こったことだけを察知する。

「やべえ、ナッパを倒すぞ!!」

 悟空がいち早く反応して、ピッコロがそれに続くが遅い。すでにナッパは空に浮かぶ満月の光を両目に浴び、大猿へと変身を終わらせようとしていた。

 間に合えと、悟空がかめはめ波を放つが、変身をほぼ終えたのだろう。大猿と化したナッパの拳に弾き飛ばされ、虚空へと消えてゆく。あとに続いたピッコロが爆裂魔波をナッパにめがけて放つが、これも分厚い皮膚に遮られて、掻き消える。

「う、うぐ……」

 これまで数多の敵を倒してきたかめはめ波が、まるで玩具のように弾かれるという事態に、さすがの悟空も動きを止める。すっかりと変身を完了させたナッパは、今度はベジータの前に立って、あたり構わずに口から気功波をどかどかと撃ちまくった。

 まるで迫撃砲の連射である。荒野に次々と振り注ぐ気功波は爆風を巻き上げて悟空たちに回避を余儀なくさせる。こうしているあいだに、ベジータもまた大猿に変身を完了させて、二体の化物が戦士たちの目の前に立ちはだかることになる。

「な、なんてことだ……まさか、こうなっちまうなんて」

 クリリンはナッパとベジータの途方もない気に呆然とする。大猿と化したサイヤ人の戦闘力は十倍に跳ね上がる。界王拳三倍を行使してようやくベジータと対等に近い戦闘力になる戦士たちにとって、この差は絶望以外の何者でもない。ましてや、ナッパも変身してしまったのだ。戦士たちはまだ全員が生きているが、それでも状況は一気に悪くなったと言わざるを得ない。

「あ、あれは何なんだ!?」

「サイヤ人は満月を見ると、大猿に変身するんだ。尻尾を切るか、月が無くなれば変身は解ける」

 天津飯の驚きの声に、ヤムチャが簡潔に説明する。かつてはヤムチャとプーアルが協力して尻尾を切り、次は亀仙人が月を消して悟空の大猿化を戻した。この状況で最も手っ取り早いのは、二人まとめて大猿化を元に戻す、月を消すという方法だ。

 戦闘力で言えば、大きな差がある亀仙人ができたことである。今のヤムチャ達にとっては容易いことだ。

 だが、それを素直に実行できるかと言えば、そんなことはない。二匹の大猿が暴れ狂う中、それを掻い潜って気を集中させたかめはめ波を放つのは至難を極める。

 それでも、やるしかない。歴史を変えて、悟空たちを助けるという未来を創るはずが、思わぬところで苦しめる形になってしまいつつあるのだから。幸い、向こうが大猿化したと言っても、こちらにもサイヤ人は三人いる。悟空は尻尾を無くしたが、悟飯とラディッツは尻尾を生やしたままである。

「ラディッツ、大猿になって食い止めてくれ!」

 これしかないとヤムチャがラディッツに頼む。だが、ラディッツはむしろ満月を見ないようにうつむいている。

「ダメだ……俺やカカロット。そして悟飯は下級戦士の子供だ。下級戦士は変身すると理性を失ってしまう。サイヤ人の本能のまま、破壊の限りを尽くすだろう」

「な……ッ!?」

 思わず絶句するヤムチャに、周囲も動揺を隠せない。悟空が凶暴になったのは、子供で自制が効かないだとか、そういうレベルの話ではなかったのだ。下級戦士と呼ばれる最大の理由は、その戦闘力の大小などではなく、変身後も理性を保てるかどうかが大きい。寧ろ、サイヤ人の最終形態として名高い大猿化によって理性を保てないことが、下級と蔑まされる最大の要因と言い換えたほうが正しいだろう。

「ふはははは。こうなっては貴様らにはどうしようもあるまい。戦闘力の差は最早絶望的。多少は鍛えていたようだが、残念だったな」

 高笑いするベジータに、クリリンは奥歯を噛み締める。何か、良い方法はないのだろうか。

 前回はナッパは既に殺されており、ヤジロベーの援護などがあって運良く尻尾を切れたが、二体も居てはフォローされあって、およそ隙など無いだろう。気円斬とて、迂闊に放っただけでは躱されるのがオチである。

「く、くそ……なんとかしないと。なんとかしないといけないのに……!!」

 心の底から絶望が顔をのぞかせる。

 自分たちが蒔いた種である。いくら元の世界に影響がないようにと神龍に頼んだと言っても、この世界で既に十年近くも修行に明け暮れているのだ。この世界で、自分たちと肩を並べて修行に勤しんだ仲間たちを失いたくはない。

 クリリンが必死にこの危機を乗り越えようと頭を巡らせる。だが、妙案など浮かばなかった。

 だが。それまで黙っていたピッコロが唐突に口を開いた。

「一匹はオレが引き受ける。お前たちは、全員でもう一匹を何とかしろ」

「へ……?」

「勝てるとは言わんが、食い止める程度ならできるだろう。お前たちがもう一匹をなんとかすれば、活路は開けるはずだ」

 ピッコロは確かに強くなった。共に修行した仲間の中では悟飯の次に弱かったが、元々の才能と種族。それに加えて、悟空に負けられないという思いが彼を急激に成長させた。

 だが、それでも今のクリリンとピッコロならば、まだクリリンのほうが一歩上なのだ。確かに再生ができるピッコロは強敵相手で腕を吹き飛ばされようが問題ないが、死ねば神様とドラゴンボールが無くなってしまう。

 止めなければと思うヤムチャだが、クリリンは一つだけ思い当たる節があった。

 ピッコロは彼我の実力差を測れない馬鹿ではない。破れかぶれならば、食い止めるなどと中途半端なことなど言わずに倒すと宣言するだろう。つまり、冷静な判断による決断と見て取れる。

「よし、ナッパは頼んだぞピッコロ!」

 クリリンがそう言うと、ピッコロはこくりと頷いて、気を高め始める。ならば、それに賭けようと、ヤムチャも頭を切り替える。

「俺たちはベジータか。とにかく、月を消す形がいいか?」

「いや、ベジータはパワーボールという人工の月を作る能力がある。尻尾を切ってしまったほうが早いだろう」

 ヤムチャの提言に、ラディッツが答える。どうやら、元から選択肢など無く、尻尾斬り一択であったようだ。

「斬るとなれば、クリリン。気円斬しかないだろう?」

「ええ。ですが、気円斬は避けるのはそう難しいことじゃない……」

 大猿化したベジータの尻尾を切ろうと、気円斬で背後から攻撃した過去を思い出したクリリンが答える。よほどタイミングを合わせなければ、避けられてしまうのは目に見えている。

「よし。じゃあオラたちが隙を作るぞ。兄貴とヤムチャに天津飯。オラと一緒に攻撃だ。悟飯とチャオズは援護してくれ」

 決断の速さは、悟空の長所でもある。全員が迷うことなく頷いて、一斉に行動に取り掛かる。

「へへ……元気玉を当てなきゃいけないときよりは、プレッシャーは低いかな」

 クリリンは久々の大仕事に緊張しながらも、一息ついて仲間たちが作ってくれるであろう隙を見逃さないために、神経を研ぎ澄ませていった。

 




兄弟タッグは尺と今後の都合でまともに描くことができませんでした。

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