Dragon Ball KY   作:だてやまと

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気円斬

 まずは、ナッパを任されたピッコロが動き出した。

「かああああっ!!」

 最大限に高めた気を開放したピッコロは、攻撃に移るわけではなく、その場に留まり続けていた。だが、その肉体に起こった変化に、ナッパは戸惑いを隠せない。

 身体が、膨れ上がっている。否、巨大化している。

 敢えて技の名をつけるとすれば、巨身術とでもいおうか。ピッコロが天下一武道会にて悟空と対峙したときに披露した技である。

 これもまた四妖拳と同じく、どのような理屈で成立する技なのかクリリンにはさっぱりわからないが、相当のインパクトであった。大猿と戦おうというのであれば、気功波による攻撃しか戦法がないに等しいクリリン達であったが、サイヤ人でなくとも、巨大化だけはできる戦士が仲間にいたのだ。

 決して気の最大量が上がるわけではないが、巨大化したことによって速度はそのままに攻撃力は増している。気の強さだけでは測りきれない戦闘力という数値は、確実に上がっているだろう。勿論、大猿化したサイヤ人の戦闘力十倍という数値も、巨大化して増した攻撃力などを含めた倍率だ。

「な、てめえは……さてはナメック星人だな……へへ、聞いたことがあるぜ。不思議な力を持っていて、例えばどんな願いだって叶えてくれる球を作ったりできるんだってな」

「へっ、生憎俺は戦闘型でな。できることは精々、お前たちを倒すぐらいだ」

 巨大化したピッコロは、ナッパとがっぷり四つに組み合って、力比べの勝負を挑む。大猿化したナッパの腕力に、単に巨大化しただけの自分がどれほど対抗できるのかを知る必要があった為だ。

 大猿化したナッパは、強さに絶対の自信を持っている。ピッコロが挑んだ力比べを堂々と受けて立ち、四肢に力を込める。案の定、ぐいぐいと力で押すと、ピッコロはいとも容易く押され始めた。

「ぬうっ……!!」

「ぐはははっ、所詮はナメック星人だな。大猿化したサイヤ人に敵は無いわ!!」

「言いたいことを言いやがるぜ」

 力では分が悪い。ならば速度ではどうだと、ピッコロは巨体を翻してナッパと距離を取ると、超スピードでナッパの背後に回る。だが、ナッパとて巨体ではあるが、速度も落ちてはいない。すぐにピッコロの超スピードに反応して、逆に裏をとったかと思えば、すぐさま蹴り飛ばし、追撃に口から気弾を飛ばす。

 これを避けきれないピッコロは、全身の気を防御に回して耐えると、弾き飛ばされる勢いをそのままに距離を取る。なるほど、現時点で速度もパワーも相手が上である。だが、それは承知の上で一対一を挑んだのだ。

 巨大化したピッコロと大猿化したナッパでは、戦闘力の伸びが違う。倍率で言えば大猿化のほうが良いので、元々の戦闘力で言えばナッパに分があるだけ、その差は開く一方となる。

 だが、今のピッコロには界王拳がある。大猿化と違い、肉体の構造は変わらないために、界王拳と巨大化の併用は当然可能である。

「本気でやらせてもらうぜ。魔王だって命は惜しくてな」

 一気に引き上げる界王拳は三倍。ピッコロが気を開放した瞬間、周囲に浮いていた雲が全て吹き飛び、驚愕したナッパは、自分と同等の巨体が猛然と襲いかかってくるのに対応しきれなかった。

 強烈な拳を腹に受ける。だが、獣と化したナッパの体毛と弾力に富む皮膚は、界王拳によって高められた威力をも殺ぎ、逆にナッパの反撃を許す。力任せに振り上げられた拳がピッコロに襲いかかり、咄嗟に腕でガードするが、巨体が大きく吹き飛ばされる。

「ちっ……クリリン、早くベジータを何とかしろよ……」

 かつては卑下していた。だが、見直した。さらに、いつの間にか大きく差をつけられていた地球人。百戦錬磨の技を持ち、その姿は小さいなれど、味方であるという現在は頼もしくも見える。

 修行中は、彼の多岐にわたる技と素早い動きには翻弄されっぱなしで、どちらかというと力でぐいぐいと押すタイプのピッコロは、結局一度も組手で勝てなかった。

 クリリンならば、ベジータでもなんとかしてくれるのではないだろうか。そう思ったからこそ、自分ひとりでナッパを引き受けたのだ。界王拳を使えば、大猿と化したナッパ相手でも、なんとか戦える。

 勝てなくても、活路は見える。一人きりで世界を征服しようと考えていた頃からは、およそ考えられないことだとピッコロは自嘲した。

 

 一方、クリリン達はベジータを囲むように展開しながらも、凶悪と言いたくなる様なベジータの猛攻に攻めあぐねていた。

 果敢に足元に潜り込もうとする天津飯を、ベジータは踏みつぶそうとする。流石に潰されるのはゴメンだと逃げるしかなく、その隙を突いて後ろから迫る悟空とラディッツは尻尾に弾かれてしまう。悟飯とチャオズが気功波で援護するが、これに至っては無視されてしまっているという塩梅である。

 ヤムチャは一人、上空に舞い上がって、空からの攻撃を行っているが、ぶんぶんと振り回されるベジータの拳を避けるのが精一杯。クリリンはこの状況を打開するために、敢えて攻撃には参加していない。

 月を消すのは不可能に近い。そして、本来ならばお互いにフォローしあうはずのベジータとナッパが、ピッコロの奮戦によって分断されている。ベジータの尻尾を斬る最大のチャンスである。

 使用する技は気円斬以外に有り得ない。そして、気円斬を使えるのはクリリンだけである。

 気を操る術は皆が習得しており、気円斬もその応用である以上、修行次第では身につけることは可能である。実際、格上の敵がこの先に待ち構える中、ヤムチャも気円斬の特性を知って練習したのだが、クリリンのように鮮やかな切れ味の技に至らなかった。後にフリーザも気円斬のようなものを放ったことはあるが、悟空にしてつまらない技と言わしめている。

 親友の必殺技をしてつまらないと言う悟空ではない。悟空は知っていたのだ。クリリンの気円斬は、他の者が扱うそれとは切れ味も速度も違うのだと。

 丹念に気を練り上げて、薄氷のような厚みに仕上げ、さらに超回転を重ねる。気の扱いに長けて、それを己の長所として磨き上げたクリリンの必殺技は、そんなことをせずとも敵を屠ることのできるフリーザのそれよりも、精緻である。しかも、その高度な技術を死闘の最中に素早く繰り出すのは、もはや離れ業とも言える。あろうことか、それをフリーザ戦では連射するという神業にまで昇華させたクリリンは、単純な気の操作だけで言えばヤムチャはおろか、悟空よりも上を行く。

 ヤムチャもそれを知っている。ヤムチャが空中に舞ったのは、クリリンの気円斬を決める機会を増やすためでもある。

 そして、ピッコロが巨大化したことによって思い出す。悟空の行動を。それを実行できるのは、この場においてヤムチャしかいないことも。

「悟空、かめはめ波だ!」

 ヤムチャの声に、悟空が即座に反応する。気を高める隙は、天津飯が咄嗟に四身の拳で数を増やしての攻撃に切り替えてサポートする。戦士たちの連携は、この一年の修行でずっと高まっていた。

「かめはめ波ッ!!」

 界王拳で高めた気をもってして放たれた特大かめはめ波は、流石にベジータも無視できない。相殺を狙って口から気功波を放つ。

 戦闘力の高まったベジータの気功波は、見事に悟空のかめはめ波を相殺するが、そもそも防がれるのはわかっていた。ヤムチャの狙いは、相殺のためにベジータが大口を開けたことにあった。

「繰気弾!!」

 悟空同様に、気を高めていたヤムチャの放った繰気弾は、吸い込まれるようにしてベジータの口の中に入っていく。かつて、巨大化したピッコロの腹の中に入っていった悟空の如く。

「ぬぐっ!!?」

「りゃあああああッ!!」

 これにはベジータも悶絶した。なにせ、繰気弾は当たっても爆発せずに、ヤムチャが操作を手放すまで消えない。腹の中の鍛えようのない部分を、繰気弾が散々に暴れまわっているのだ。繰気弾の踊り食いとでも言おうか。悶絶するベジータに、ヤムチャは執拗に腹の中の繰気弾を暴れさせる。

「グアアアアッ!!?」

 未だかつて食らったことのない胃の中への攻撃に、ベジータはジタバタと暴れ狂う。この好機を逃すクリリンではなかった。

「気円斬!!」

 あくまでも目標はベジータの尻尾だ。ヤジロベーの刀で切れて、気円斬で切れないということはまず有り得ない。問題はバタバタと跳ねるように動く尻尾にどう当てるかだが、これにいち早く反応したのがラディッツだった。

「俺が抑える!」

 果敢にも暴れ狂うベジータに近づき、跳ね回る尻尾を捕まえようとする。その様子を見ていたチャオズは、全力を向けて尻尾のみに超能力を注ぎ込む。

 たとえ、全身の動きを止めることはできなくとも、ほんの一瞬。尻尾をピタリと止めることならばと。

「止まれええっ!!」

 チャオズの全力を放った超能力は、確かに一瞬だけではあったが、確実に動きを止めた。すかさずラディッツが尻尾を思い切り抱きかかえ、ぐいぐいと引っ張る。

「たあっ!!」

 この機を逃せない。クリリンは狙いを定めて、正確に気円斬を放った。

 長い修行の中でも気円斬の練度を上げることに費やした時間は殊更長い。かつてはフリーザにさえ通用した、敵が平然と再生するような環境でなければ己にも役割があるはずだと信じて練り続けてきた技である。セルやブウなどの再生が当然と言わんばかりの敵についぞ出番はなくなったものの、それでも長年の修行が嘘をつきはしない。

 気円斬は見事にベジータの尻尾を切り裂き、虚空の彼方へと消えていく。思わぬ攻撃の連打にベジータは成すすべもなく、矮小していく身体に唖然としながら、遂に相手が雑魚ではなく、強敵なのだと思い知った。




おそろしく間が空いてしまいました。
思いのほか難産で、仕事の忙しさと相まって死んでました。

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