Dragon Ball KY   作:だてやまと

17 / 33
ヤムチャVSベジータ

 満月こそ想定外ではあったものの、パワーボールで大猿化することを先んじて知っており、十分に対策を立てていたヤムチャとクリリンにとって、ベジータを大きな被害なく元に戻したのは、ほぼ想定の範囲内であったと言えるだろう。

 畏敬の念を抱くベジータの尻尾が切られたとあって、ナッパも焦るだろうと踏んでいた戦士たちであったが、こちらは少々想定外の方向になったようだ。

 がっぷりよつに組み合ったピッコロとナッパであったが、至近距離からナッパが自身の最高の技である気功波を、口から発射したのである。防ごうにも両腕を塞がれ、逃げ場のないピッコロはこれに直撃して、辛うじて頭部は避けたものの、左半身を失う痛手を負った。最高の技と自負するだけあり、その威力は大猿と化した今、山の一つを軽く吹き飛ばす威力がある。

「やべえっ!!」

 悟空と悟飯が左半身を失い、地面に伏せるピッコロの援護に向かう。致命傷を負わせたと確信したナッパは、すかさずクリリンに狙いを定めて攻撃を開始していた。

 サイヤ人は戦闘民族である。たとえ仲間が危機に陥ろうが、平静を失うような愚かな真似はしない。ベジータが尻尾を失った今、ナッパが率先して尻尾切りをしたクリリンを狙う。危険を冒してまで尻尾を切ったということは、すなわち大猿化したサイヤ人に地球人が敵わないと自白しているようなものである。クリリンの気円斬さえなければ大猿化は解かれない。

 勿論、それはベジータとて同じだ。随分と頭にくる野郎共だと思いながらも、冷静にどう戦うかを考える。

 おそらく、大猿化したナッパをクリリン一人では抑えられない。数人がかりで尻尾を斬るように動いてくるだろう。だが、ナッパはクリリンを意識して動き始めたので、不意を突かれることはまずない。ならば、自分は尻尾を斬る最大のチャンスを生み出した男――ヤムチャを仕留めてしまえば、ナッパが暴れる横で一人ずつ順番に仕留めることができる。

「あの世で自慢するといい。誇り高きサイヤ人の王子の尻尾を切ったことを。地球人にしては上出来だった!」

 ベジータがヤムチャめがけて突進する。これに反応したのが、ヤムチャ本人と、近くにいた天津飯だった。

 二人がかりでベジータを止めて、みんなにナッパのしっぽを切ってもらう。その算段が天津飯の頭の中で瞬時についた。

「いくぞヤムチャ!」

「来るな天津飯!」

 界王拳で加速しようとしていた天津飯に、ヤムチャが待ったをかける。直後、ベジータが猛スピードでヤムチャに突っ込んだ。

 単純ゆえに強力な頭突きであった。これをヤムチャは咄嗟に両腕を十字に組んで受け止める。空手で言う十字受けであり、これを崩すのは至難と言われる鉄壁の守りである。

 そのような技術程度で、どうにかなるのか否か。答えは、どうにかなる。

 小細工や技術が意味をなさないほどの実力差。それがヤムチャたち地球人が戦いについていけなくなった理由である。逆を返せば、実力が拮抗すればするほど、ヤムチャたちが諦めきれずに磨き抜いた技が生きるのである。

「ヤムチャ!」

「悪いな天津飯。こいつの相手は俺に任せてくれないか?」

 ベジータを大きく突き飛ばして距離をとったヤムチャが、天津飯に笑みを浮かべながら頼む。

「ひとりで戦うのか!?」

「ああ。ずっと考えてたんだけどな……やっぱり、許せないんだ。俺自身でケリをつけたい」

 天津飯には、ヤムチャの言葉の意味がよくわからなかった。当然である。ヤムチャが許せないのは、これから先に起こることに対してのものだからだ。

「頼む、天津飯。俺にやらせてくれ」

「……いいだろう。任せるぞ」

 天津飯は多くを聞くこともなく、ヤムチャに任せてナッパとの戦いに赴いていく。

 すまないと思いつつも、ヤムチャはこの時を待っていたのだ。どれだけ自分の行動が馬鹿げているかなど、よくわかっているのだが。

 それでも、いつの間にか最愛の恋人を目の前で奪っていった男を、許せるはずがなかった。

「あいつは、やっぱり渡せない……何も言わず、ただ修行ばっかりしてる俺を、結局愛想をつかさずに心配してくれてた。そんなあいつをずっと無視してきた俺も許せないが、奪っていくお前は、絶対に許せない!」

 最初は、今更恋愛などにうつつを抜かすことはないと思っていたし、事実、この世界に来てからブルマの手すら握ってはいない。

 それでも、ブルマはちっとも愛想を見せることのないヤムチャと別れるでもなく、浮気をするでもなく。たまに様子を見に来ては文句を言いながらもヤムチャの顔を見ると安心したように笑った。

 愛していたのだと、思い知ったのだ。自分はこの女性を本気で愛していたのだ。結局、結婚することもなく老いたのも、この女性より愛せる人をみつけることができなかったからだ。

 奔放に強さを求めていたあの頃の自分は、それでも遠くベジータに及ばなかった。

 だからだ。いつの間にか子供を産んでいたブルマに何も言えず、ベジータに文句をつけることもできなかった。

 この世界で、もしも後ろを省みることができるほどの強さを得たのならば。世界を守るだけの強さを手に入れることができたのならば。

「来いよベジータ。地球人を舐めるなよ」

 トランクスという一人の青年が、人造人間の襲来を伝えてくれた。悟空の心臓病を治してくれた。そして、未来から来たのではなく、この時間に生まれたトランクスは悟天と共にブウを追い詰めた。

 それだけではない。ベジータが地球に馴染み、家族を得ていつしか仲間となっていった影に、ブルマの存在が無いはずがない。下手をすれば、トランクスどころかベジータさえも味方となることはなく、この無謀な挑戦は無謀のまま終わるだけになるかもしれない。むしろその可能性が高すぎるほどだ。

 自ら危機的状況に追い込むような真似をして良いはずがない。そして、おそらくは仮にここで勝ったとしても、いずれは追い抜かれてしまう。

 ベジータは努力を惜しまない。悟空という最大最強のライバルに対して、最後まで追い抜こうと血のにじむような努力を繰り返してきた。サイヤ人の特性や強さも相まって、どう足掻いたところでヤムチャが敵う相手ではなくなるだろう。

 だが、それでも。戦士としてそんな強大な存在を打ち破りたいと願うのは単なる無謀であるはずがない。今なら倒せるという思い上がりでも、打算でもない。

 この先。たとえ金色に光ろうが、その壁を越えようが。自分はそれを超えていく。

「小細工ばかりの貧弱な地球人が、図に乗るなァ!!」

「いくぞ、狼牙風風拳!」

 弾かれたように飛び出すベジータと、それに呼応するように果敢に前に出たヤムチャが激しく交差する。

 界王拳によって高めた気と、一撃が致命となり得る急所攻撃を絶えず繰り出す狼牙風風拳の相性はいい。対するベジータも体格的には小柄な部類であり、速度と技量に優れた戦士である。そう易易とヤムチャの攻撃を喰らうことはしない。

 激しい拳の応酬が必然的に起こる。ヤムチャの拳がベジータの喉笛を狙ったかと思えば、すかさずベジータがそれを拳で弾き、そのまま蹴り飛ばそうとする。そこを見切ったヤムチャが蹴りを肘打ちで迎撃。傾いた姿勢をそのままにローリングソバットを繰り出すが、ベジータも同じく回転をしながら遠心力を乗せた拳で相殺する。

 一瞬の攻防に幾つもの技が使用され、それらをお互いに認識すると、また別の技を繰り出す。ベジータの天性によってヤムチャの技は見切られ、ヤムチャの長年の経験がベジータの技を封じる。お互いに技を消費しあい、一撃を与えることを至上命題と据える。

 一度相手の足を止めると猛追が可能なヤムチャ。そして、一撃さえ決まればギャリック砲で止めをさせると考えているベジータも、必然的に同じ状況を求めているのだ。

「ふっ!」

 やや牽制気味に放ったヤムチャの拳は、ベジータを捉える。だが、あくまでも牽制であることを見抜いたベジータが敢えて覚悟して喰らい、微かな隙に乗じて蹴りを食らわせようとする。

 これを避けようとするヤムチャだが、直撃こそ避けたものの胸に一撃を受ける。ダメージで言えばヤムチャが多く食らった形だが、体制を崩すには至らない。追撃で足を封じようとするベジータにカウンターとして気功波を選択。これに出鼻をくじかれたベジータは、流石に作戦を変えようと距離を取る。

「……驚いた。まさか、ここまでやってくれるとはな」

「まだ余裕があるようだが、それもここまでだ。次は決めるぞ」

 言うや否や、ヤムチャが再び突進する。だが、ベジータはそれに付き合うことはせずに、大きく距離を取ると、全身に力を込める。気の開放を知らないベジータだが、力をセーブすることぐらいはできる。

 つまり、今までのやりとりはあくまでも実力を出し切っていなかったということだ。

「覚悟しろ。ちょっとだけ、このベジータ様の本気を見せてやろう」

「……ちっ、野郎。本気じゃなかったか」

 スカウターで数値化したときのベジータの戦闘力は20000。だが、今のベジータは軽く26000を超えている。

 そして、ヤムチャ。修行の最後に測った数値は6800。元の世界での同時期の悟空が5000ほどであることを考えれば、破格の成長である。今まで3倍界王拳でベジータと攻防を繰り広げていたが、4倍ともなれば肉体への負担が激しい。

 だが、ヤムチャは笑う。何も本気を出していなかったわけではないが、己に文字通り枷をつけていたからだ。

「俺も本気でやろう……いい修行だと思ったが、そうも言っていられない」

 ヤムチャはそう言うと、腕につけていたリストバンドを外し、靴を脱ぐ。

 ご理解いただけたであろう。修行の最中から、着替えることもせずに現地に向かったヤムチャである。当然、衣服も修行中のものである。

 もっとも、重い装備を身につけているのはヤムチャとクリリンだけである。他の者は超重力での修行を最初からこなす必要があったが、クリリンとヤムチャは既に克服していた。そのために、地力を少しでもあげようと、全身に重りを仕込んで修行を重ねていたのである。

 合計で200kgの重りを全て外したヤムチャ。敢えて数値化すれば、界王拳を使用することなく8000に至る。だが、それでも界王拳3倍ではまだ負けてしまう。4倍も使用可能ではあるが、肉体への負荷を考慮すれば3倍がベストなのだ。

「まだお前の方が戦闘力は上だ……だが、負けん」

 ヤムチャは界王拳3倍のまま、ベジータに突っかかる。本気のベジータにとって、相手もまだ本気ではなかったことの驚きはあったものの、戦闘力で言えば2000の開きがある。先ほどよりもヤムチャの速度に翻弄されることはなく、余裕を持って攻撃を躱すことができた。

「ふん、それが限界だろう。少々重りを外したところで、サイヤ人には勝てん」

「繰気弾!!」

 ベジータが喋っているあいだにも、ヤムチャは攻撃を緩めない。元々、戦闘力が及ばない勝負を考慮し続けたヤムチャである。後の圧倒的なまでの実力差を考慮すれば、24000と26000など誤差に等しい。

 戦闘力が全てだと思い込んでいる奴らを倒すために、ヤムチャは修行を重ねていたのだ。

「腹の中でなければ、そんなもの!」

「そうかい。じゃあもう一個繰気弾!」

 繰気弾を単に腹で暴れまわっただけの鬱陶しい気弾と勘違いしていたベジータに、その必殺技を追求したヤムチャ。その違いは如実に現れた。

 二発の繰気弾はヤムチャの周囲をゆっくりと周り、まるでヤムチャを護るかのようだ。だが、これは防御ではない。

 三つ目族の末裔たる天津飯が腕を増やせるのを知っているヤムチャだが、自分にはそれができない。だが、似たことならばできると考えて編み出した、ヤムチャ流の四妖拳がこれである。

「はあっ!」

 繰気弾を纏いながら、ヤムチャがベジータに突撃する。大振りの初撃をベジータは難なく躱すが、その隙に一つ目の繰気弾がベジータの脇腹めがけて飛んでいく。

「ぬっ!?」

 腕でガードするベジータに、二つ目の繰気弾が飛来する。今度は顎を狙っており、これを頭を下げて躱したベジータだが、躱した先にはヤムチャの膝が待ち構えていた。

 下がってくる顎にめがけて、渾身の力で膝蹴りをぶち当てるヤムチャに、さすがのベジータも大きく吹き飛ばされてしまい、どさりと地面に倒れる。

「ぬ、ぐッ!?」

 顎を揺らすと、膝に来る。それはいくら鍛えようが抗えない肉体構造であり、脳を揺らされる衝撃は胃の中への攻撃の比ではない。倍の拳で攻め立てるかのような攻撃だが、それだけではない。繰気弾には体勢など存在せず、予測不可能な部分を狙われるのである。思った以上に厄介だと認識したベジータは、これ以上この戦法に付き合うのは得策ではないと、再び突っ込んでくるヤムチャに対して、カウンターを仕掛ける。

「ギャリック砲!!」

 咄嗟ゆえに威力は絞られてはいるが、それでもベジータの必殺技とも言えるギャリック砲。まっすぐと向かってくるヤムチャに避けるすべは無い。

 否、無いはずだった。

 ギャリック砲の光に飲み込まれるヤムチャの姿を確認したベジータがにやりと口角をあげた瞬間、背後から強烈な飛び蹴りがベジータの後頭部を打ち抜いていた。

「な……なん、だと……?」

「古い手だが……残像拳だ」

 目で敵を捉えることしかできないベジータにとって、残像拳は悪夢と化す。目が回りそうな一撃に意識が飛びそうになるが、辛うじて堪えてヤムチャに相対しようとするが、時はすでに遅い。

 疾風を巻く荒野の餓狼は、この好機を逃すほど暢気でも悠長でも無い。

 左右から襲いかかる繰気弾をいなそうとしたところに、ヤムチャの狼牙風風拳が炸裂する。喉を狙った掌撃は辛うじて防いだものの、肺を狙い打った拳をモロに喰らい、続けざまに顎を打ち抜かれ、上半身をガードすれば繰気弾が両脚の太腿を執拗に攻め立てる。

 大腿部への攻撃は、相手の速度を鈍らせる。天津飯の言であるが、戦いにおいて最も重要なのはスピードであり、取り分け速度に自信のあるヤムチャは、実力の拮抗する相手の機動力を削ぐことによって、本来の得意な戦法を可能とするのだ。

 鳩尾を貫くような激しい突きから、さらに急所という急所を滅多打ちにしていくヤムチャに、ベジータは為すすべもなくボロ雑巾のようになっていく。

 だが、無論戦いの天才であり、サイヤ人の王子たるベジータが体勢を崩されてラッシュをくらった程度で戦闘不能になるはずがない。ヤムチャの拳は変幻自在で、およそ隙らしい隙は見当たらないが、連携を意識している上に、急所を狙うことを至上命題としているために一撃の重みは、急所を微かにズラしてやるだけで随分と軽減される。

 ベジータは守備に専念しながら待っていた。ヤムチャがトドメを刺すために渾身の一撃を放つ瞬間を。

「はあああっ!」

「馬鹿め!」

 かくして、ヤムチャの本気で放った拳は、ベジータの拳で相殺される。

 拳同士が激しくぶつかり合い、痛み分けに思えるがそうではない。ヤムチャはベジータの鼻っ柱を狙う一撃。それに対してベジータは最初からヤムチャの拳を狙っていた。

 パンチ一つをとっても、そこには長年の技術が詰まっている。最高速に乗り、相手にヒットさせる瞬間に威力を生むためには、スナップを効かせる必要があり、裏を返せば本来の目標よりも手前で当ててしまうと、拳が固まりきらずに手首を痛める結果となる。

 カウンターということもあり、ベジータの作戦は見事に決まった。ヤムチャは思わず悲鳴を上げて飛び退る。繰気弾もコントロールを失って虚空へと消えていった。

「ふははっ、感触でわかるぞ。貴様の右腕は骨が折れたな」

「くっ……流石に、簡単には勝たせてくれないか」

 右の拳はベジータが言うように罅が入り、まともに動かない。痛みなど我慢できるし、おそらくはこのまま殴ることもできるだろうが、それは腰の入っていないパンチと同じく、大きな威力には至らない。

 腰にぶら下げた仙豆の袋がヤムチャの脳裏を掠める。仙豆さえ食べればベジータの打倒は容易である。軽く20粒以上あるのだ。だが、そうして勝ったところで、嬉しいのだろうか。

 最終的には勝たなければならない。元の歴史でもヤムチャや天津飯は死んだものの、クリリンや悟空のおかげで撃退には成功した。勝利は必要だ。

 だが、いくらナッパが大猿化したとしていても、クリリンが健在である以上、尻尾を斬ることに関してはそう難しくはないのだ。

「すまん、みんな」

 ヤムチャはそれだけ呟いて、全身の気を一気に開放する。界王拳5倍。それが現在のヤムチャが肉体へ過度の負荷をかけつつも維持できる最大値だ。

「終わりだ、ベジータ!」

 数値化すれば、戦闘力は4万に至るヤムチャの気に、ベジータは流石に慄いた。ただし、あれほどの底力がありながら今まで使わなかったのも不思議だと考える。

「さては、時間に制限があるな」

 瞬時に見抜いたベジータは、ヤムチャを侮ることなく距離を置くことを優先した。凄まじい速度で突っ込んでくるヤムチャに、ベジータは回避にのみ専念して、とにかく時間を稼ぐ。本来ならば5倍界王拳で捉えられない相手ではないのだが、片腕が使い物にならないヤムチャは、逃げるベジータを追い詰めることができなかった。

 ならば、これはどうだろうか。

「か…め…は…め……波ァッ!!」

 界王拳5倍によるかめはめ波。現在のヤムチャが出せる最大威力の攻撃だった。

 ベジータは当然逃げようとする。だが、ふと気づく。なぜ、この当たるはずのない唐突なタイミングでのかめはめ波なのかと。

 そして、気付いたときにはベジータは全力でギャリック砲を放っていた。逃げることはできたが、状況がそれを許さなかった。

 5倍界王拳のかめはめ波とギャリック砲がぶつかり合い、激しいスパークを引き起こす。全力でエネルギーを放出させるベジータだが、そもそも戦闘力で言えば今のヤムチャは、ベジータの倍近くあるのだ。

 辛うじて威力を落としたものの、かめはめ波はベジータに迫り、飲み込んでいく。

「う、おおおおおッ!!」

 それでも尚、ベジータは両腕を突き出して懸命にかめはめ波を止める。

 彼の背中には、朧げな満月があった。

 そもそも、月を破壊できないのは二体の大猿によって気を溜める時間がなかったことと、仮にあっても気功波そのものをかき消されるおそれがあったからだ。だが、ベジータは逃げている。その状況ならば、月の破壊は可能となるのだ。

 ベジータとしては、大猿になったナッパがいるからこそ、ヤムチャと対峙できているわけである。消耗は痛いが、ナッパの戦闘力では元に戻った途端に大勢に嬲られる。戦友を思ったわけではなく、単純な計算でベジータはかめはめ波と向かい合った。そして、なんとか堪えた。

 ギャリック砲で威力を殺ぎ、身体を使って食い止めた結果、月は無事であった。ベジータとしては上々の結果となったが、ヤムチャにとっても悪いことではない。月を消すことができれば悟空たちの助けとなり、ベジータが受け止めれば多大なダメージか、消耗を促すことができる。理想はベジータを倒し、月まで消してしまうことであったが、それは望み過ぎであろう。

 既にヤムチャの全身には痛みが走っている。あまり長引かせることはできそうにもない。

「次で決めるぜ……」

 ヤムチャはさらに気を集中させて、界王拳を一段階引き上げる。すなわち、6倍へと。

 ビキビキと身体中が軋み、少しでも気を抜けば痛みが意識を掻っ攫いそうになる。だが、これが今のヤムチャの限界であり、最大の攻撃なのだ。

 激しい土煙を巻上げ、ヤムチャがベジータへと真っ直ぐと突き進んでいく。この気迫は避けきることができないと直感したベジータも、攻撃は最大の防御であると迎撃する。

「おおおおッ!」

 速度も、力も、そしてタフネスも。今のヤムチャはベジータを凌駕する。激しい痛みと引き換えに、渾身の力をもって放ったボディブローはベジータのガードを弾き飛ばし、深々と腹に食い込んだ。

「かはっ!?」

「ぜああああっ!!」

 連打。片腕が使えないヤムチャだが、既に感覚が麻痺しているのであれば、これほど便利な盾も無い。ベジータの反撃を使えない拳で受け止め、そのまま蹴りを浴びせかける。

 一発。二発。三発。四発。五発。

「波ーーーーッ!!」

 散々に打ち据えたところに、残った気を全て詰め込んだ渾身のかめはめ波で追撃する。為すすべなく直撃を許したベジータは勢いそのままに地面に叩きつけられ、盛大に血を吐いてぴくぴくと身体を小刻みに震わせる。

 最早、戦闘力など残っていない。虫の息であった。

「へ、へへ……頑丈な野郎だ……殺しちゃマズいから、助かったぜ……」

 ヤムチャもまた、全ての気を使い果たしてゆるゆると地面に降りると、そのままどうと倒れ伏した。

 勝ったのか、或いは引き分けか。もう立つ気力も無いヤムチャと、動くことすらままならないベジータ。やはり6倍は無理があったのか、一瞬の出来事であったにも関わらず、ダメージは多大である。

「引き分け、だな。倒したけど……自分が立てなくちゃ話にならない」

 ヤムチャはそれだけを考えると、もういいだろうと震える手で腰につけていた袋を開き、仙豆を口に放り込む。たちまちに全身の傷が癒え、拳の骨も元通り。体力まで回復した。

 驚いたのはベジータである。何とか耐え切って、とにかくナッパが大猿になっている間に逃げようと考えていたのだが、目の前の男がいきなり元気一杯の状態にまで戻ってしまったのだ。

「な、なんだと……」

「地球って惑星はな、でっかい宝島なんだ。不思議な球やら豆やら、いくらでも転がってる」

 ヤムチャは仙豆をもうひとつ取り出すと、半分に割って、さらにそれを割る。四分の一ほどのかけらになったが、これだけでも体力はある程度回復する。

「食え」

 このままでは死んでしまうかもしれないと、ヤムチャはベジータの口の中に仙豆を放り込む。反射的に飲み込んでしまったベジータだが、一瞬で歩ける程度にまで体力が回復して、思わず大きく跳び退った。

「き、キサマ……何故……」

「悟空でも同じことをしただろうからな。代わりに倒したんだ……最後まで真似させろよ」

 それだけ言って、ヤムチャはクリリン達がどうなっただろうと様子を見やる。

 体力が全快しているヤムチャと戦って勝てるはずの無いベジータも、仕方なくヤムチャに倣ってナッパを見るのだった。




ヤムチャ「元気玉!」
クリリン「似てるだけで繰気弾です」

ベジータ戦で考えたけど即ボツにしたネタ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。