ベジータとヤムチャが激しい戦闘を繰り広げている間に、クリリンたちは大猿化したナッパとの攻防を展開していた。
尻尾を切れば勝てる相手であり、当然ながら尻尾を切ることに全力を尽くしているのだが、クリリンは戦いながらも、ひとつの考えを頭によぎらせていた。
もしかすると、大猿のまま戦っても勝てるのではなかろうか。
いくら大猿化しても、ナッパの元々の戦闘力は6000前後。10倍しても6万程度となり、界王拳を使えば数値上ではかなり近づく。そして、こちらには人数の分がある。
これから先は、少々の修行で差を埋めることが出来る相手ではなくなってくる。圧倒的な経験不足の悟飯のためにも、強大な敵との戦闘は必要なのではなかろうか。
「みんな。このままでも倒せるぞ。全力でいくぞ!」
クリリンの決断は早かった。こと、ナメック星では最も弱い戦士としてのポジションになりながらも、知恵と立ち回りでドラゴンボール集めに奔走して、ピッコロの蘇生に大きく貢献しているのだ。戦闘力も技術も磨きぬいてきたクリリンだが、戦士たちの頭脳となりうるだけの知略も持ち合わせている。
一番驚いたのは、大猿化したときの恐ろしさを良く知るラディッツだった。
「勝てるのか!?」
「勝つんだよ!」
ラディッツの言葉に反射的に言い返したクリリンは、ヤムチャと同じく身に纏っていた錘(おもり)を取り外し、本来の速度を取り戻す。さらに、界王拳を5倍まで高めて突撃する。
最も警戒するクリリンが突っ込んできたとあって、ナッパもこれを迎撃に入る。巨大な腕で横から薙ぎ払ってくるが、クリリンは地を蹴る瞬間に足の裏からかめはめ波を打ち出して爆風で急加速。腕を潜り抜けて腹に体当たりをぶちかます。
界王拳によって高められた気と、急加速によって高まった威力に、さすがの大猿ナッパもダメージを負う。激しく咆哮して、躍起にクリリンを追い払おうとするが、大振りの攻撃に掴まるわけがない。
自分よりも格上と戦った経験は、誰よりもクリリンが多い。あのフリーザとでさえも、クリリンは恐れながらも勇敢に立ち向かったのである。
「なるほどな。小さいことも武器になるのか」
さきほど、ナッパに対抗しようと巨身術を行使したピッコロが、クリリンの戦い方に感心した。悟飯に仙豆を食べさせてもらい、さきほどの戦いで失った左半身を再生すると、同じくクリリンの戦い方に活路を見出していた悟空とラディッツに目配せをする。
どう、と三つの気炎が上がり、三人の戦士がナッパに向かう。
真っ先にナッパに至ったのはラディッツ。クリリンの一撃でかすかによろめいたナッパの膝頭を狙い、やはり界王拳で強化して突っ込む。これにナッパの拳が近づくが、その拳めがけて悟空がかめはめ波を打ち込む。
「いいぞカカロット。それでこそ我が弟だ!」
悟空の援護もあって、ラディッツはナッパの膝に強烈な蹴りを浴びせて、さらにナッパの身体を土台にして頭の上まで飛び上がっていく。悟空は横に、ピッコロは背後に回りこみ、三者三様に構える。
「魔貫光殺砲!」
「かめはめ波!」
「ライオットジャベリン!」
それぞれの必殺技を三方向から打ち込む。貫通力に優れ、致命の一撃となるピッコロの魔貫光殺砲をまずナッパが避けるが、そうなれば当然巨体のナッパにかめはめ波とライオットジャベリンを避ける手立ては残されていない。
腕でライオットジャベリンを防ぎつつ、かめはめ波の直撃を許すナッパだが、全身の体毛がぶすぶすと煙を上げる中、それでも雄雄しく立っている。
「天さん!」
「いくぞチャオズ!」
追撃に入るのは鶴仙流の兄弟弟子。防御姿勢に入ったナッパの後頭部にチャオズが全力で頭突きに入る。小さな体躯を大砲の弾に見据えたかのような突撃は、誰よりも舞空術に優れたチャオズにとって下手な気功波よりもよほど優れた攻撃となる。
「ちょこまかと!!」
チャオズの突撃に気付いたナッパが振り返り、口から気功波を打ち出してチャオズを迎え撃つが、先ほどに述べたとおり、今のチャオズは下手な気功波よりも強力な弾である。
「貫け、チャオズ!」
「だあああああっ!!」
小さな体躯がナッパの気功波に飲み込まれていく。だが、天津飯は慌てない。
チャオズならば。そう、あの頼りない弟弟子ではなく、戦士として立派に戦うチャオズならば、これしきの攻撃で消し飛ぶはずがないと確信していた。
チャオズは全身から気を放出しながら、荒れ狂う気功波を掻き分けるように突き、進み、破る。消し炭になっているであろうチビが無傷で突っ込んでくる様に、ナッパは思わずぽかんと呆け、その直後に鼻っ柱を穿たれた。
追撃は止まらない。これを好機と見据え、天津飯が禁断の技とまで言われた秘技を披露する。
ただし、威力こそ少々落ちるものの寿命を縮めたりするわけでもない。あくまでも高い威力を持つ技として洗練された形へと昇華させたものである。
「新気功砲!!」
どどん波のような点の攻撃ではなく。かめはめ波のような弾でもない。そう、敢えて言うならば面での攻撃。
一定範囲を照射する気功砲は威力もさることながら、あらかじめ宣言しなければ避けることなど不可能なほどの範囲攻撃である。真正面にナッパを捉えた新気功砲は強靭で柔軟な大猿の皮膚をも裂いていく。元の時間ではこのとき、まだ新気功砲は完成していなかったが、効率的な修行とクリリンとヤムチャによる助言により、彼らの気のコントロール技術は飛躍的に上昇している。
完璧な連携。そして、確かなダメージ。
そして、その先にあるのは十二歳と十三歳というまだ中学生になるかどうかという若さで伝説の格闘家と謳われた武天老師に弟子入りした、二人の戦士。
孫悟空の長い戦いの歴史の中でも、最初期に共に武に励んだ親友にしてライバル。かつての歴史では地球人という種族によって大きく実力が離れてしまったが、その技の発想や技巧は、多くの戦士に影響を与えただろう。
「クリリン!」
「悟空!」
お互いに声を掛け合うときには、二人は既に同じ構えを取っていた。
両の手を腰だめに構え、気を集中させる。
「か……」
実力こそ今の悟空たちにはるかに及ばないとはいえども、それでも戦士たちに尊敬されている師匠。助平でダメな部分も多々にあるが、みんなで集まるといえば決まってその師匠の家だった。結局、彼の考案した技は戦士たちにとって最も好まれる奥義に至る。
「め……」
無邪気に強さを追い求めた孫悟空。女の子にモテたいという不純な動機ながらも、いつしか地球人最強に至ったクリリン。
「は……」
共に学び、共に鍛え、共に戦った。
「め……」
かつては最大のライバルではないのかもしれない。実力は遠く離れていただろう。
だが、今この時間では二人は親友にして、紛れも無いライバルでもある。
「波ーーーッ!!!」
二つの特大かめはめ波がナッパめがけて放たれる。地を割り、風を縫って突き進む二つの閃光に、ナッパは死を感じる。
「う、うわああああああッ!!」
あらゆる生物を凌駕する、最強の戦闘形態たる大猿化。命ある限り成長期たるサイヤ人にとって、或いはこの形態ならばあの恐ろしい主ですら、いつか倒せるとナッパは思っていた。
だが、何と言うことだ。変身もしていない下級戦士と、弱小民族たる地球人の放った奥義に、死を感じ取ってしまっている。
本来、逃げるのに不向きな大猿という形態だが、本能が勝った。ナッパは震える身体に鞭打って、懸命に身体を翻して逃げに入る。幸い、特大かめはめ波の軌道はナッパの腹目掛けて撃たれており、後ろに下がればかめはめ波同士がぶつかって消滅するはずだ。
生存本能が見せる、瞬間的な反応は流石に凄まじい。長い溜め時間があったとしても、避けにくい大猿の身体がああも機敏に動けるものかとピッコロは舌を巻く。
だが、悟空はニヤリと。クリリンは不敵に笑っていた。
「てやっ!」
「ふんっ!!」
悟空は思い切り腕を右に振り、かめはめ波の軌道を強引に変える。クリリンは拡散気功波の要領で、悟空のかめはめ波に追随するようにかめはめ波を五つに割り、螺旋を描いてナッパに殺到する。
悟空の特大かめはめ波に、クリリンのかめはめ波が吸収されて行く。これこそ、共に修行に励んだ二人だからこそできる、一対一を好む戦士たちが、それでも地球を守るために編み出したひとつの答えだ。
「合体かめはめ波だーーーッ!!」
軌道を変えて、威力が膨れ上がったかめはめ波は、容易くナッパの背中を穿ってゆく。
「がは……っ!?」
避けきったと思っていたナッパは、突然のことに何が起こったのかわからないまま、血を吐いて倒れる。
ナッパが最期に見たのは、己の胸を穿ち、雲を突き抜けていくかめはめ波の軌跡だった。
神と神、観ました。仕事先が映画館なので速攻で観ました。
なんか敵が「超サイヤ人じゃないとフリーザに勝てない」と悟空に言ってました。
ブウ編終わった後の悟空の素の状態での戦闘力は1億5000万以下ってことですかね。
とりあえず指標のひとつにさせてもらいます。