終わったと、ベジータは思った。
ヤムチャとの勝負が終わり、ナッパを見たときは既に、カカロットとチビでハゲの地球人が特大のかめはめ波を放ったところであった。あれはたとえ、万全の状態で大猿になったとしても、多大なダメージを負う上に避けられない。しかも、地球人たちは不思議な豆で体力を回復してしまう。
ナッパは息絶えて、己も立って歩くことはできても、戦うほどの力は回復していない。カカロットの息子と一対一でも負けてしまうだろう。
「貴様、名前は?」
隣に立つ男に、話しかけた。相打ちとは言えども、自分を倒した男の名前ぐらいは知っておきたかった。
「ヤムチャだ」
「そうか、ヤムチャ。早く殺せ。カカロットの真似だと言っていたが、ナッパをあっさり殺したぞ」
それはヤムチャにとっても少々予想外だったことだ。まさか、殺してしまうとは思わなかった。
よくよく考えれば、割と悟空は容赦なく殺している。レッドリボン軍など、生身で突撃した兵士はともかくとして、飛行機に乗ったりしていた者は容赦なくかめはめ波を打ち込んでいたりする。無理に命を奪うことはないという方針を固めたのは、ベジータを逃したあたりからだった。
「さて、どうしたものやら」
「殺せ。ナメック星人のつくった願い球で永遠の命さえ手に入れれば、フリーザとて倒せるかと思ったが潰えた」
結局、自分はサイヤ人の王子であるという誇りを持っていたが、単なるフリーザの駒でしかなかったのだろうと思う。
宇宙最強の戦闘民族であるはずだと思い込んでいただけで、地球人にさえ負けるようではフリーザを倒すなど夢のまた夢。最強に至れないのであれば、死んでしまったほうがいいような気がした。
「……フリーザ?」
「ラディッツに聞いただろう。オレ達はフリーザの部下として働いてきた。安心するといいぜ、どうせお前達も死ぬ。オレを倒して息が上がるようじゃ、フリーザには勝てない」
自嘲気味に呟いたベジータに、ヤムチャは内心でほくそえむ。
ピッコロが死なないままにベジータを倒してしまい、あまつさえ大猿になったナッパをそのまま倒してしまったので、どうしたらフリーザに到達できるかと思っていたのだ。
直接会ったことがないフリーザだが、宇宙の平和のためには倒しておかねばならない存在だ。そして、これ以上先に進むための絶好の壁でもある。
「……まあ、そう慌てるなよ。地球はいい惑星(ほし)だぞ。なんと言っても、良い女がいる」
ヤムチャはそれだけ呟いて、ナッパを倒した悟空たちと合流した。
「すまない。お前達には馬鹿な話に聞こえるかもしれないが、どうか見逃してやってくれないか?」
歴史を少し変えたら、未来は大きく変わる。トランクスが現れただけで、人造人間がえらく強くなっていたのだから、変化とは予想しない方向に行くらしい。
居並ぶ面々に頭を下げて頼み込むのは、悟空の兄にして、ベジータに散々馬鹿にされ続けてきたラディッツだった。
「確かに地球を滅茶苦茶にしようとして、俺たちを殺そうとした相手ではあるが……それでも、俺たちサイヤ人の最後の同胞なんだ……できることならば、ナッパも生き返らせたいと思っている」
ラディッツの言葉に、悟空たちは苦笑していた。
どうやら悟空が甘いのは遺伝か何かなのだろう。当初は血も涙も無い戦士と思っていたラディッツだが、基本的に甘いのだ。
かつての歴史でも、肉親を殺すことに何の情も湧かないと言いつつ、甥を殺したくないと言ったり、何かと矛盾していた。それは、冷酷でなければならないという戦士の性分を貫こうとする気持ちと、出来ることならば殺したくないという気持ちが入り混じっているからだった。
「よせ、ラディッツ。貴様のその甘えた部分には反吐が出る」
ベジータが吐き捨てるように言うが、ラディッツは動じない。ラディッツの甘さは、決して他人に対してだけではなく、ラディッツ自身に対してもまた甘いものだった。鍛錬を怠り、自分よりも弱い相手とばかり戦う軟弱な姿勢は、およそ戦闘民族とは言いがたい。故にベジータはラディッツを弱虫となじり、あざけた。
ラディッツが動じなかったのは、己への甘さを精算したからに他ならない。それこそ血反吐を撒きながらも、懸命に強くなろうとする地球人たちと共に過ごし、共に血反吐を吐いた。
己への甘えを捨て、そして残ったのは悟空と同様。人に優しく、己に厳しく。そんな標語のような精神を完成させてしまったのだ。それはベジータの言うとおり、戦士としては致命的な弱点となりえる。だが、そんな甘さを抱えた地球人たちにのおかげで、ラディッツはとてつもないパワーアップを果たした。
「なあ、カカロット。頼む!」
「オラはいいけどよ」
「クリリン、ヤムチャ!」
「……まあ、ベジータはとりあえず生きてるんだし、無理に殺さなくていいんじゃないか。幸い、俺たち誰も死んでないし」
「そうだな。それに、さっきベジータに聞いたんだが、フリーザってのが親玉らしいぞ。そいつを倒さないと同じことの繰り返しにならないか?」
ヤムチャの問いに、ラディッツはびくりと身体を震わせる。知っているに決まっている。
「だが、フリーザは巨大隕石の衝突で滅びた惑星ベジータから、俺たちサイヤ人を救ってくれた恩人だ」
おそろしく強く、残酷な悪の化身。だが、絶対的なカリスマも併せ持つフリーザに、ラディッツは心酔はしないまでも、恩義を感じていた。
「……つくづく、お前の甘さにはムカッ腹が立つぜ。フリーザが救ってくれただと……あいつが滅ぼしたに決まっているだろうが。ヤツはサイヤ人を恐れ、芽が出ないうちに滅ぼした」
「な、何を言っているんだベジータ」
「そうでなければ、他所の惑星を攻めていたお前の父親が何故死んだ?」
ラディッツは今まで信じてきたことを否定されて、目の前が真っ暗になったような気がした。
誰に聞いたわけでもない。ただ、ベジータは確信していた。戦闘民族として、フリーザの部下として各地で戦闘を繰り広げていたサイヤ人が一気に四人にまで減った。本来ならば有り得るはずのない現象だ。
「……フリーザが、親父を……俺たちの星を……?」
「ああ。しかも、長年の夢とかいう永遠の命を手に入れるために、ヤツは今、ナメック星を探しているはずだ」
「……ドラゴンボールか。確か、ナッパが緑色の故郷と言っていたな……ということは、おい緑色。お前の故郷が危険じゃないか!」
ラディッツの言葉に、ピッコロは黙ったままだった。どうやら己がナメック星出身ということは戦いの最中に知ったのだが、ピッコロ大魔王は地球で神様に追い出された悪であり、いわば地球生まれである。その生まれ変わりたるピッコロは、ナメック星人と言われてもピンと来ない。
だが、もしも自分のルーツがそのナメック星にあり、そこが危機というのであれば、気にかかるのも確かである。ラディッツは己の価値観を破壊され、悟飯の師匠ポジションを争うとは言っても仲間に違いの無いピッコロの故郷の危機とあり、わなわなと拳を震わせている。
クリリンはそっと目を瞑り、これからのことを考える。やはり、フリーザとは戦っておかねばならない。まかり間違って不老不死になられても困る上に、悟空の超サイヤ人への覚醒は必須と言える。ナメック星に行かねばならない理由はいくらでもあった。
「行こう」
クリリンの言葉に、ラディッツとピッコロが振り返る。自分たちの惑星を守るために戦った今回とは違い、ピッコロが死んだ過去ともまた状況が違う。敢えて行く必要は無いように天津飯たちには見えるだろう。
事実、ラディッツやピッコロは何故クリリンが行くと言い出したのか、不思議がっている。ピッコロの故郷ではあるが、あまりピッコロに帰属意識も無いので尚更だろう。
だが、先を知るクリリンにとっては、やはり行かねばならない場所なのだ。すなわち、詭弁でも良いので周囲を納得させてしまえばいい。
「ベジータが地球に来たってことは、フリーザもわかってるはずだ。これで終わってくれるとは思わない……先手を打って不老不死になる前にフリーザを倒さないといけない」
実際にフリーザがわざわざ地球まで来るか否かはわからない。前の時間ではサイボーグ化して、父親まで連れてやってきたが、悟空に対する復讐のためにやってきたわけであり、そっとしておけば当分は攻めて来ないだろう。だが、実際に放置していい問題でも無い。魔人ブウを探すのに躍起になっている界王神は、フリーザの悪行三昧を放置しており、宇宙の平和を考えれば、倒しておくに越したことは無いのだ。
「はっ……地球人風情が、フリーザを倒すだと?」
ベジータが鼻で笑うが、その地球人風情と戦い、ものの見事にボロボロにされた身である。だが、それでもフリーザの恐ろしさを知る身としては、クリリンの言葉が絵空事どころか単なる妄想にしか聞こえなかった。
「いいか。別に貴様らが死ぬのは勝手だが、フリーザはたとえオレが十人いようが勝てる相手ではないんだぞ」
「修行するさ。お前、一年前のラディッツの戦闘力を知ってるだろう。たった一年で、ラディッツはここまで伸びたんだ。オレ達だってまだまだ強くなれる」
クリリンの言葉に、ベジータはふと顔を上げる。
確かに、この一年間で修行をしたのはベジータも同じであるが、ラディッツはカイオウケンという妙な技を使っていたにしても、一時的にベジータを凌駕する戦闘力に至っていた。決してベジータは適当に修行をしたわけではない。基本的に悪と呼ばれる存在のベジータだが、強さを求める姿勢は至って真摯であり、前の歴史ではセルとの戦いの後、最大の宿敵が死んだにも関わらず修行を続けていたのだ。
だが、そんなベジータよりも、ラディッツ達は伸びていた。元々の戦闘力に開きがあったからこそ今回は良い勝負にはなったものの、元が同じであったならば惨敗であっただろう。下級戦士のラディッツやカカロットが伸びて、エリートな上に天才で王子たる自分が伸びないのは、修行法に違いがあるからだ。
しかも、地球人は戦闘力のコントロールもこなし、無駄な体力を消耗させずに。しかし時としてカイオウケンたる爆発的な戦闘力の上昇を実現させていた。
戦闘力のコントロールはラディッツにできていたならば、自分に出来ないはずが無い。しかも、気を完全に消せばスカウターに察知されることもなく、隠密行動すら可能となる。これはスカウターに頼り切ったフリーザ一味にとっては行動面で極めて有利である。
だが、ベジータはまだ完全な気のコントロールができていない。クリリンたちと戦ううちに、その方法はわかってきたのだが、取り分け重要なカイオウケンという驚異的な技術がなくてはフリーザにはおよそ届かない。
それに踏まえて、地球人と侮っていたが、ヤムチャという男はベジータと互角の力を持っていた。はっきり言って、戦力として敵に回ると厄介なことこの上ないが、味方になれば役に立つ。ザーボンやドドリア。それにキュイなどは各個撃破すれば恐れるほどの相手ではなくなっているが、ギニュー特戦隊だけはいただけない。まとまって行動する上に個々が強い。
「貴様ら、本気でフリーザと戦うつもりか?」
「お前が恐れるぐらいだから、よっぽど強いんだろうな。けど、倒しておかないといけない相手ってことは、そのお前が一番よくわかってるはずだぞ?」
クリリンの言葉に、ヤムチャが頷き、後ろで様子を見ていた戦士たちも次々に頷く。
今の自分たちよりも遙かに強いという宇宙の覇者、フリーザ。これほどいい目標は他に無いと天津飯など燃えに燃えている。唯一、悟飯ぐらいのものだろう。大勢の命を救わなければならないという使命感に燃えていたのは。
「はっきり言うぞ。今の数十倍はレベルアップしなければ、フリーザとはまともに戦えない。そして、フリーザは貴様らが地球人だとわかった以上、地球に向かったオレも処刑するだろう。やるからには一蓮托生だ」
さりげなく。そう、実にさりげなくベジータは言外に行動を共にする旨を伝えている。後に仲間と呼べるまでに至るベジータなので、クリリンとヤムチャは少々早い加入という気分であるが、先ほどまで死闘を繰り広げ、実際にナッパは少し離れた場所で死んでいる。人工マンなど既に戦いの余波で塵芥となって吹き飛んでおり、他の戦士たちにとってみれば何故いきなり仲間になろうとしているのか不思議であった。
「いや、別に怖いなら逃げておけばいいんじゃないのか?」
天津飯がベジータが己のプライドを傷つけず、こっそり仲間になろうとしていることなど気付かずに助言する。良くも悪くも空気を読めない硬派な男である。
これに慌てたのはベジータである。サイヤ人の王子であり、エリート戦士たる自分がせっかく仲間になってやろうとしているのに、空気を読まない三つ目の所為で台無しである。
「ば、馬鹿者っ。貴様らの科学力で作った船では一生かかってもナメック星にはたどり着けんぞ! オレの宇宙船でなければな!!」
これでどうだ。流石にこれならばなくてはならない存在として、実に有り難がられて迎え入れるであろう。ベジータはやはり自分は天才だと確信する。
「操縦方法がわかればオレ達だけでも行けるんじゃないか?」
「ええい、オレの船だぞ!」
空気の読めない天津飯と、プライドの高いベジータのまさかの舌戦に、クリリンは流石に苦笑いを浮かべながらも、これでベジータがへそを曲げてしまっては、折角早くから仲間になってくれる機会を逃すことになる。
「天さん、ベジータの力は是非とも必要だって。俺達が知らないことだって沢山あるんだし、いい修行相手にもなる」
「そ、そうか。いや、別に嫌だというわけでもないから構わないのだがな」
取り立てて被害の無かった戦士たちは、以前よりもベジータに対する当たりが弱い。ベジータを毛嫌いしていた天津飯も過去のことであり、ピッコロやラディッツを受け入れて慣れてしまったこともある。無理に着いて来なくても構わないという気持ちがあっただけで、ベジータを憎んでいるわけではない。
「じゃあ、よろしくなベジータ」
悟空が改めてベジータに挨拶をするが、それに素直に返せないのがベジータであり、つい「馴れ合う気はない」と跳ね除ける。
プライドを保ちつつ、仲間ポジションをキープしておこうという何とも図々しい態度であるが、ラディッツはそんなベジータの性格を知っている。
「とりあえず、ここにもう用は無いだろう。ナッパも出来れば蘇らせてやりたいから、死体を回収してくるぞ」
あまり長々と喋るのをベジータは嫌う。クリリンとヤムチャもそのあたりは承知であり、とりあえずベジータの宇宙船をカプセルコーポレーションに運び込み、具体的な作戦を練ろうと、話を纏め上げる。
悟空とラディッツがベジータと共に宇宙船を回収しにいき、ついでにナッパも宇宙船に運んでカプセルコーポレーションに向かう。天津飯とチャオズ、悟飯にピッコロは空を飛んでいき、クリリンとヤムチャは少しだけ遅れると言い残し、今後について話し合う。
「とりあえず、ひと段落ついたな。フリーザがドラゴンボールについて知っていたのは少々予想外だったが、おかげでナメック星に向かうことが出来る」
「ええ。神様の宇宙船じゃなくて、ベジータの宇宙船って違いはありますけどね。悟空がナメック星に行くときに使った宇宙船、たった一週間ぐらいで到着してましたから、きっと神様のより早いんでしょう。その間に、幾つかやっておかないといけないことがあります」
クリリンの言葉に、ヤムチャは思い当たる節があった。
ここまでの戦いは、良くも悪くも修行で追いつける範囲。逆を言えば、過去にも到達していた強さである。界王拳などの新しい技を手に入れたりという変化もあるが、少なくともかつてセルと戦ったときのクリリンは、今よりもまだ強かった。
だが、ここから先。すなわちフリーザと戦うとなると、かつての自分を超えねばならない。効率的な修行で遙かに力を増した状態でサイヤ人と戦ったわけだが、限界値が同じままではフリーザとは戦えない。
潜在能力の解放による強化を考慮しても、ここで大きく力を伸ばすに越したことは無いのである。
「カリン塔に行きましょう」
クリリンが言うと、ヤムチャは苦笑しながら頷き、ふわりと浮いた。
ストーリーを進めるために戦闘がない話も挟みつつ、サイヤ人編はこれにて一段落。
どうやったらフリーザ編に進めるのか。そんなことを考えながら書いたらこうなりました。