Dragon Ball KY   作:だてやまと

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すばらしい神の水

 聖地カリンに聳え立つ、一体誰がどうやって作ったのかわからないカリン塔。

 その頂上に住むカリン様は、再び訪れた二人の戦士の逞しい姿に、思わず見蕩れていた。

「うむうむ。よくぞここまで強うなったものじゃ。地球の危機を救った英雄じゃのう」

 全てを観ていたカリン様は、先ほどの死闘も御存知であり、まずは労をねぎらった。ちなみにヤジロベーは神様の修行も受けず、カリン塔でぐうたらしながらも、仙豆の栽培という大役を仰せつかっており、着実に在庫を増やしている。

「して、何用かな。仙豆はまだ随分と余っているようじゃが」

「……単刀直入に言えば、超神水をいただきにきました」

 クリリンが言うと、カリン様はふと首を傾いでポリポリと短い手で頭を掻いた。

「何故今なのじゃ?」

 ナメック星に行き、フリーザの野望を挫くという目標は遠見の術で知っていた。だが、これまで地道に修行を重ねてきたクリリンとヤムチャが急に超神水に頼るという行動に出たのが理解できなかったのだ。

 だが、それはあくまでも地球という惑星の中での常識だからこその判断だ。無論、カリン様はフリーザが恐ろしい強敵であるということをベジータの言葉から把握している。だが、それでもクリリンたちならば何とかできるのではないかと思うのだ。

 しかし、ただ単に修行をしただけでは到底敵わない相手であることを、クリリンは知っている。かつての歴史でもクリリンは厳しい修行を繰り返してきた。地球人としての限界はとうに超えていた。

 だが、足元にも及ばなかった。それだけの相手なのだ。

「カリン様、お願いします」

 多くは語らなかった。ただ、思いは伝わったのだろう。カリン様はやれやれと肩をすくめて超神水を取り出した。

「わかった。ヌシらの強くなりたいという気持ちには何も言えぬわい」

 カリン様はコップを二つ取り出して、とぽとぽと超神水を注ぎ込む。クリリンとヤムチャはそれを躊躇うことなく手に取り、ぐいっと一気に呷った。

 身体を痛めつける修行は散々繰り返し、今更それを厭う事は無いが、毒を呷るという行為は初めてであり、流石に不安はある。

 超神水に打ち勝ち、パワーアップするためには強靭な生命力と、凄まじい精神力が必要だという。幼かった悟空よりも今のクリリンたちのほうが生命力は高いだろう。

 ただ、精神力。これに関しては当時のピッコロ大魔王打倒という悟空の精神に勝れるか否か。当然ながらわかるようなものではない。

「……ぐッ!?」

 二人の身体に、異変が起こる。

 これまでの修行や戦闘で受けたダメージのどれとも違う、内部から焼かれるような苦しみ。肉体への苦痛には違いないが、痛めつけるのが目的ではない。明らかに生命そのものへの攻撃である。

 いくら肉体を鍛えようが、これに打ち勝つのにどう関係するというのだろうか。クリリンとヤムチャはその場に倒れこみ、必死に焼けるような苦しみに耐えようとする。

「ぐああああっ!?」

「ぎゃああああっ!!」

 先ほどまでの死闘でも出なかったような苦悶の悲鳴がカリン塔の頂上からこだまする。あまりの痛々しさに、ヤジロベーは仙豆を引っ掴んでクリリンの口に放り込もうとするが、カリン様がそれを留める。

「死ぬぞこいつら!」

「仙豆で回復するようなものではないのじゃ。打ち勝たねばならん」

 カリン様とて、援けられるものならば援けている。だが、それでは駄目なのだ。

 あくまでも、己の力で超神水を克服しなければならない。今まで、十五人の達人がこれに挑み、たった一人を残して全滅した。その一人が、孫悟空。

 或いは彼の仲間ならばと思うが、これまでの悲しい結果を見れば、確率は低い。それでもカリン様は願う。

「勝て、クリリン、ヤムチャ。打ち勝つのじゃ!!」

 

 

 

 クリリンとヤムチャが超神水を飲んでから、三日が過ぎようとしていた。

「……う、うぅ……」

 痛みに呻くクリリンに、最早体力は残されていない。様子を見守っていたカリン様も、痛々しいクリリンの様子に思わず目をそむけるようになっていた。

 孫悟空が超神水を飲んだときは、六時間で効果を現した。だが、その10倍以上の時間が経っても、クリリンたちはただ苦しむばかりだ。

「ぐ……はっ……」

 ヤムチャもまた、ぜえぜえと息を吐く最中、苦痛に声をあげる。底知れない体力と生命力。そして精神力である。三日間、地獄の苦しみにもがいている。悟空よりも素養が低い所為で長引いているのか、或いは精神が打ち勝てないでいるのか。いずれにせよ、そろそろ限界だろうとカリン様が登り来る朝日をみた。

 クリリンは、途方も無い苦しみの中で、己の精神の中を彷徨っていた。

 この境地に至ったのは二日目を過ぎたあたりからだ。必死に耐えようとする中、気付けば意識を失っていたのか、意識の中にもぐりこんだのか。よくわからない闇の中に佇んでいた。

 空を飛ぶ要領で意識の中を進んでいく。途中、大きな光の塊をみつけた。

 気を感じ取ると、このような光の塊のようなビジョンが脳裏を掠める。だとすれば、この光の塊はクリリン自身の気ということになるのだろうか。

 クリリンは、気を探る。他にも幾つかの塊があるようだった。

「……奥がありそうだな」

 クリリンはさらに意識の奥深くへと進んでいく。感じ取った気の中でも、最も大きいものを見つけ、手を伸ばす。

 どうやら潜在能力を引き出すという特殊な能力の正体とは、この意識の中の光の塊を解き放つということなのだろう。本来は修行によって無意識に解き放っていくものかもしれない。ただ、悠長にそれを待つ時間が無いのも確かだった。

 大きな光を解き放つと、ふわりと身体が浮いたような気がした。

「……なるほど。こういうことか」

 潜在能力の解放を最長老様に行ってもらったことのあるクリリンは、覚醒しようとしている肉体と、先ほど触れた光の塊が融合していくような感覚に、ひとり得心した。

 

 

「ほほ、うまくいったようじゃの」

 意識が現実に引き戻されたクリリンを待っていたのは、ヤジロベーによる仙豆の投与とカリン様の笑顔だった。隣を見ると、ヤムチャが晴れやかな笑顔でクリリンを見守っていた。

「ヤムチャさん」

「俺もさっき目が覚めた。我ながらびっくりだよ」

 苦笑するヤムチャの気を探る。なるほど、界王拳も使わず、気を開放すらしていないにも関わらず凄まじいパワーだ。クリリンもまた、己の力が大きく上がっているのがわかった。

「二人そろって、大したもんじゃ。強さに際限がないようじゃて」

「はは、だったら苦労しませんよ」

 カリン様の言葉に自嘲気味に呟くヤムチャに、クリリンもやはり苦笑いを浮かべる。

 パワーアップは果たした。おそらく戦闘力に換算すれば、気を開放して2万近くに至るであろう。界王拳も一瞬であれば10倍近くまで使えそうで、だとすれば最大で20万。

「とりあえず、あと33万は底上げだな」

「……先は長いなぁ」

 今までの修行で地道に積み上げた成果よりも、この三日の苦しみで得たパワーのほうが大きいというのは少々癪な部分もあるのだが、背に腹は変えられない。戦いについていけなくなっては、そもそも時を越えてまで再び戦う意味がないのだから。

 クリリンとヤムチャは丁寧にカリン様に礼を述べ、ヤジロベーから仙豆を追加で受け取ると、再び修行に戻るためにカリン塔を飛び立った。

「……あいつら、ここを何だと思ってるんだ?」

「少なくとも、ヌシが何故ここにいるのかもワシにはわからんのじゃがな」

 

 

 急激なパワーアップを果たしたクリリンとヤムチャが戻ってきたとあって、戦士たちはその秘密を問いただし、既に超神水を飲んだ悟空以外の面々が我先にとカリン塔にすっ飛んで行った。ただし、悟飯は流石に悟空と留守番であり、実戦を経験したこともあって、かなり本格的にクリリンとヤムチャ、悟空の三人で悟飯を鍛えた。

 潜在的な能力の高さは折り紙つきの悟飯であるが、精神力に一抹の不安が残るのも確かである。前の歴史よりも精神的にタフになったとは言えども、悟空のように幼少から死闘の中にあり、大魔王打倒への激しい執念を持っていたりはしないのだ。強くなるということに喜びを見出すほかの戦士たちと違い、悟飯は必要に駆られて強くなっている側面がある。

 無論、本人とて自分の意思で修行をしている。だが、それに人生を捧げる者と、必要だからとこなす者に、実力は兎も角として精神的な違いが生まれるのも仕方の無いことであろう。意志など強要するものでもなく、まだ幼い悟飯を責めたりする者はいない。

 ただし、少なくとも本人に強くなろうという意志はあるので、修行となると本格的だ。悟飯に足りないのは敵との戦闘経験と、底知れない潜在能力を扱うための気のコントロールの二点である。組み手による擬似戦闘の繰り返しにより、この一年間でかなり良い動きをするようになったが、まだ気の開放となると不十分な面がある。戦闘はやはり実戦の緊張感なくしては効果も薄い。どうせ長い時間を取ることが出来ないのならばと、ヤムチャによる気のコントロール技術の講義と、悟空による組み手。さらに必殺技となる気功波にはクリリンがそれぞれ悟飯に指導する。

 いきなり強くなったクリリンとヤムチャが気功波を受け止める修行を悟飯に施した結果、うっかり殺しかけて悟空が青ざめたが、仙豆で事なきを得て、ついでにサイヤ人の特性が発揮。悟飯が図らずも戦闘力を一気に伸ばすという事態になった。

 無論、ベジータの乗ってきた宇宙船はカプセルコーポレーションに運び込まれ、ブリーフ博士の指揮のもとで、徹底した改装が施されている。まず、メインの部屋は重力を300倍まで設定可能な超重力トレーニングルームとなり、誰が聞くかもわからないステレオセットも完備である。

 ちなみにナメック星の場所であるが、一年前に生身のまま修行に赴いたヤムチャと天津飯を界王様はよく覚えていてくれた。サイヤ人戦もしっかりと観戦しており、心の声でヤムチャに賞賛を送り、フリーザと戦うと言い出したときには流石に慄いていたものの、フリーザと戦わずにナメック星を救うという条件の下に場所を教えてもらった。当然、そんな約束を守るつもりなど皆無である。

 かくして、クリリンたち同様に無事パワーアップを果たした天津飯たちがカリン塔から帰って来たときには、かなり強くなった悟飯が出迎え、宇宙船も急ピッチで改造中であった。留守中に自分の船を勝手に改造されていたベジータは文句を散々に言ったが、文句を言うだけしか出来ないのも事実であった。

 ベジータはまだ界王拳が使えない。迂闊に教えると裏切ったときに面倒ということもあり、どうせ超サイヤ人になったならば、負担の大きな界王拳は無用の長物となる。ナメック星に行くまでに会得できるほど簡単な技でも無いので、ベジータは地力の底上げと気のコントロールに絞って修行することになった。

 元の歴史では、一度の戦いで気を探る術と戦闘力のコントロールを身に付けるという離れ業をやってのけたベジータである。プライドが邪魔をして素直に説明を受けない一面などはあったものの、自分と引き分けたヤムチャには一目を置いており、主にヤムチャが教えるという形で決着がついた。

 

 ベジータとナッパがやってきてから、十日。宇宙船の改装は終わり、ナメック星に向かう準備は整った。

 だが、元々二人で使用するために乗ってきた宇宙船である。丸型宇宙船に比べれば遙かに大きく、修行の場も確保したものの、全員が乗り込むには狭すぎるという問題もあった。

「頑張っても五人が限度だな」

 完成した宇宙船を見て、ヤムチャが呟いた言葉であった。大型化する案もあったのだが、ベジータが流石に猛反対したのである。地球人の科学力と、フリーザ一味やサイヤ人の科学力には宇宙船ひとつを取ってみても、大きな開きがあることは一目瞭然であり、いくら地球随一の科学者であっても、下手をすれば壊れてしまうとの危惧である。当然といえば当然の危惧ではあるが、ベジータの想像以上にブリーフ博士は優秀であった。

 悟空やベジータが戦闘の天才であるならば、科学の分野でそれ以上の天才っぷりを発揮するのがブリーフ博士なのである。

 質量保存の法則を無視したホイポイカプセルの発明。超重力装置。さらに元の歴史では一ヶ月に満たない期間で、丸型宇宙船を超重力装置完備で大型化に成功させている。ロボットや人造人間の製造という点では他の科学者に遅れを取る部分もあるが、総合力と人格を踏まえてみれば、間違いなく宇宙でもトップクラスの天才である。一人娘のブルマもタイムマシンを限られた設備で開発してしまう天才であるが、これはもう血筋としか言いようがない。

 だが、ベジータがそれを知る由はない。思いのほか、まともに仕上がったと内心で胸を撫で下ろすだけだ。

「問題は誰が行くかだな」

 クリリンの言葉に、戦士たちはそれぞれの顔を見る。

 孫悟空・孫悟飯・クリリン・ヤムチャ・天津飯・チャオズ・ピッコロ・ラディッツ・ベジータ。合計九人が候補であり、約半数しか乗ることが出来ない。真っ先に口を開いたのはベジータであった。

「当然だがオレの船だ。オレが行くのは当たり前だろう」

 流石にこの理屈は筋が通っていた。全員が素直に頷く。

「故郷を踏み躙られようとしているのだ。指をくわえて見ているわけにはいかんな」

 次に名乗り出たのがピッコロである。これもやはり心情的に文句をつけようがない。そして、問題はここからだった。

 元の歴史を辿るのであれば、クリリンと悟飯。それに悟空となる。ヤムチャは留守番の憂き目に会うし、天津飯も黙ってはいない。

「オレの気円斬は格上相手にも有効だし、行くならオレかな」

「宇宙人共に狼牙風風拳を御披露させてもらおうか」

「悪いが俺が行かせてもらうぞ。超神水で得た力を試してみたい」

「オラも行きてえよ。フリーザって野郎と戦ってみたいしな」

「故郷を破壊されたのだ。サイヤ人の生き残りとして、フリーザを倒したい」

「お父さんやラディッツ伯父さん、それにピッコロさんが行くなら、ボクも行きたいです」

「天さんが行くならボクも行く」

 当然の如く、全員が全員譲る気持ちなど皆無であった。悟飯の挙手には驚いたが、サイヤ人戦で思うところがあったのだろう。留守番に甘んじるつもりはない。

「どうやら、素直に譲るようなヤツはいないようだな」

 クリリンが苦笑いを浮かべると、全員は無駄に力強く頷いた。戦士として全員が全員一流であり、己の力量を試す場所を求めている以上、これは止むを得ない。

「どうすんだ。ジャンケンでもすっか?」

 悟空の問い掛けに、クリリンはしばらく考えたが、やがてゆっくりと首を横に振った。

 不満が出ずに、五人を選ぶ方法。ジャンケンで負けて留守番では納得できない者が多いだろう。最も効果的かつ、全員が認める方法はひとつしかない。

「仕方ない。勝負するしかなさそうだ」

 クリリンの言葉に、戦士たちは我が意を得たりと嬉しそうに頷くのであった。

 


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