Dragon Ball KY   作:だてやまと

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弱虫VS緑色

 サタンが勘違いしながら見守る中、天津飯とベジータは超スピードで乱打戦を展開していた。

 急所を抉ろうとする天津飯の狼牙風風拳。それをいなし、隙あらば反撃に転ずるベジータ。界王拳によって高まった気に、どう足掻いても天津飯の優勢は変わらないのだが、ベジータの刹那での状況判断力。そして勝負勘は凄まじい。紙一重で致命的なダメージを避け、ひたすらに待つ。

 界王拳の最大の弱点である、過負荷による時間制限。耐えれば、勝機は訪れるのである。全神経を集中させて、とにかく攻撃を正面から喰らわないように心掛ける。単に防戦だけではない。ヤムチャに比べると必勝の気合に欠ける狼牙風風拳であり、隙も少ないものの存在している。これを見逃さずに反撃していく。

「息詰まる攻防戦。もはや、私の目には何が起こっているのかすらわかりません!」

 審判はただひらすらにスカウターを頼って、攻防を見守る。目で追いきれずとも、肌で二人の激突がわかるのだ。ビリビリと大気が震えるような拳の重なる衝撃に、審判は思いつく限りの言葉でたった一人の観客にこの戦いのすばらしさを伝えようとする。

「ん……どうしたことでしょう。天津飯選手、戦闘力が下がっているようですが……」

 そして、気付く。天津飯の戦闘力が22万から5万近くまで減っていることに。どうやら、肉体への負荷が大きすぎて、界王拳を3倍にまで引き下げたようだ。天津飯の通常状態での最大値は22000。激しい戦いで消耗した結果、ベジータとの差がほとんど無くなってきていた。

 これを見逃すベジータではない。巡ってきた勝機に、一気呵成に反撃に出る。

「ふははははっ。サイヤ人の王子たるこのオレ様の頭脳に敵うものなどいるものか!」

「ここにいるぞ」

 渾身の力で天津飯を殴りつけようとしたベジータに、その天津飯がにやりと笑い、ベジータの拳を真正面から、人差し指一本で受け止める。再び何が起こったのかわからなくなり、呆けるベジータだが、気を読まずとも理解できるほどに、天津飯の身体からオーラのようなものが立ち上っていた。

「ま、まさかキサマ!!」

 ふと気付いたベジータだが遅い。界王拳10倍の負荷に耐え切れずに、引き下げたのではなかったのだ。勿論、維持する限界時間は近かったが、余力を残した。

 すなわち、この機を狙ってくるベジータをカウンターで仕留める為に。

「つあっ!」

 ベジータの脇腹に天津飯の蹴りが深く突き刺さり、流石のベジータも気を込めていない箇所への強烈な一撃に吹き飛ばされ、場外――ちょうど、サタンの真横――にぼとりと落ちた。

 映画撮影だと思い込んでいたサタンは、いきなり吹っ飛んできたべジータに慌てつつも、咄嗟に出演のチャンスと思って、観客らしく慌てつつも、ベジータを気遣う様子を見せる。

「だ、大丈夫か……?」

「ええい、うるさいっ。ちくしょう、たかが三つ目族になんてザマだ!」

 サタンが差し出した手を払い、負けたことに憤慨する独特のヘアスタイルをしたチビは、なるほど中々の演技派である。普通はいくら負けたことが悔しくとも、差し出された手を払うような真似はしない。しかも悔しそうな顔は演技とは思えぬ鬼気迫るものがあり、これほどの役者を知らなかったことを恥じた。

 その後、すぐに派手な色の道着のハゲたチビが、演技派の男に豆を食べさせると、肩で息をしていたはずの男は急に元気になり、やはり映画の撮影で演技だったのだろうと一人、サタンが得心した。

「あれ、サタンじゃないか」

 だが、ふと声をかけられてサタンは振り返る。ハゲたチビ。すなわちクリリンがサタンの顔を見て驚いていたのである。

 知らない男だが、サタンも幾つかの格闘大会で優勝経験があり、まったくの無名というわけではない。さてはファンかと、にこやかな笑顔でクリリンと握手する。

「いやあ、私も有名になってきたかな」

「はは、相変わらずだなあ。そうだ、折角だから見物していくか?」

 クリリンの言葉に、先ほどから見物していたサタンであるが、どうせならば撮影を間近で見ようと頷いた。妙にフランクなチビだが、少々の無礼など気にしない度量の広さを持たねば、後に圧倒的なカリスマなど持ち合わせはしない。サタンはクリリンに案内されて、選手控え室と武舞台を繋ぐ、最も見晴らしの良い場所に陣取った。

 審判が試しにスカウターでサタンを測ってみると、中々に強い66,6という数値であった。審判自身が5であるから、彼も稀有な才能を持った立派な格闘家である。孫悟空たちがあまりにも強すぎて相手になることはないが、スカウターを見なくとも、長年格闘技を最も間近で見続けてきた審判にはわかる。彼は悟空たちさえいなければあらゆる大会で優勝できるほどの腕の持ち主だ。

「……クリリンさん、武天老師様に彼を鍛えていただいては如何でしょうか?」

「んー。悪くないですけどね。中途半端に強いサタンも嫌だなあ」

 クリリンからすれば、自分とは違う意味で地球人の最強の男であるサタンを下手に鍛えるのは如何なものかとも思う。娘のビーデルが舞空術を使いこなしているあたり、彼もまた鍛えればかなりの線まで行くのであろうが、下手に気を感じたりすればセルと戦う前に逃げ出してしまうだろう。地球を救ったヒーローとしての彼は、後にその名声を活かしてブウ打倒に大きなウエイトを占めることになる。また、地球人で唯一、一度も死ななかった男でもある。迂闊に戦いの場に出して死なれては、なんとも後味が悪い。

「まあ、アドバイスぐらいはしておきますよ」

 結局、クリリンはサタンを無理に鍛えることはしないでおいた。

 

 悔しがるベジータをヤムチャが宥めている間に、第二試合へと移行する。

 武舞台に立つのは、かつては世界中を恐怖に陥れた悪の化身。現在はすっかり悟飯を気に入ってしまい、周囲の戦士とも仲間意識が芽生えたピッコロ。

 そして、彼に向かい合うのは宇宙の強戦士、戦闘民族サイヤ人にして孫悟空の兄。最下級戦士で弱虫と揶揄されていたが、克己に努めて殻を打ち破ったラディッツ。賢く優しい甥をサイヤ人流の溺愛。つまり、厳しく鍛えるという少々尖った愛情を注いでおり、ピッコロとは悟飯の師匠ポジションを常に争っている。

「へへ、緑色よ。キサマとは一度、きっちりと勝負をつけておかねばならんと思っていたんだ」

「それはこっちの台詞だ弱虫。いいか、悟飯よく見ておけ。本当の戦い方を教えてやるぞ!」

「あ、ズルいぞてめえ。悟飯、見るのはオレのほうだ。腕を伸ばしたり巨大化したり、こんな野郎の戦い方なんぞ参考になるか!?」

 既に勝負は始まっているのだろうか。二人の師匠に名指しで呼ばれた悟飯はオロオロしながらも、やがて妙案を思いついた。

「二人とも頑張って!」

 もう、どっちも応援してしまえばいいという結論である。二人の師匠は同時に頷いて、審判の合図と共にいきなり全開で真正面から挑みあった。

「界王拳10倍!!」

「界王拳10倍!!」

 二人の戦闘力はほぼ互角。超神水によってパワーアップした後も、二人の実力差は変わらなかった。数値にして23000。10倍界王拳を使用した今、23万という数値である。

 奇しくも、二人の戦法は同じであった。様子見などという温い真似はせずに、一気呵成に攻め勝つべきだと判断したのだ。

 両者が先制攻撃を狙い、全く同時に拳を突き出す。拳同士がぶつかり、それを機にピッコロは反動を利用した回し蹴り。ラディッツもまた回転しながら裏拳を繰り出す。

「はあああっ!!」

「だああああっ!!」

 がつんと両者の脚と拳が再び交差する。拮抗する戦闘力と、長い修行でお互いの技を知る二人の戦いは全くの互角だ。

 このままでは泥試合になると、両者は直感する。実力が同じでは、長引くだけで決着がつかない。

「やっちまうか……界王拳、15倍だッ!!」

 ラディッツが先んじて限界を超えた界王拳の選択を決断する。一気に戦闘力は34万に至り、審判は実況することすら許されないまま、再びぶつかり合いが始まる。

「へっ、焦ったな弱虫。てめえがパワーならオレはスピードだ。一生かかっても追いつけんぞ!」

 同じ実力だからこそ、界王拳の限界値もわかる。10倍でも相当の負担である。それを15倍にしたとなれば、一瞬で身体にガタが来てしまうのは目に見えている。

 ベジータ同様、一旦回避と防御に努めようとするピッコロだが、それを判らずに界王拳を引き上げるラディッツではない。

「ずあああッ!!」

 真正面から突っ込み、ピッコロを追い詰める。狭い武舞台ではそうそう逃げ切れるものではない。だが、当然ながら戦士たちにとって武舞台などちょっとした足場のようなもので、空を飛べば360度、回避の方向は増す。迷うことなく空に飛んだピッコロに、ラディッツはにやりと笑う。

 武舞台を壊してはいけないという制約の中、新たに考案した技を使う方法を考案していたのだ。

 そもそも、ラディッツの持つ父譲りの必殺技であるライオットジャベリンは一撃必殺の博打技であり、当たると格上相手でも通用するが、当たらなければ損失が大きい。素早さに特化した敵には向かないこともあり、状況を極めて選ぶ技である。

 父、バーダックはこれを決して外さないという気概で使い続けたが、気概だけでどうにかなる戦闘が続くわけがない。ベジータ戦以降、新技の開発に取り組んでいたのである。

 参考にしたのは、修行の中で見せてもらった天津飯の気功砲である。溜めが長く威力の高い面攻撃であるが、速い敵に当たらない上に隙が大きい。そこで速射性に増して、威力こそ控えめであるが面攻撃を可能とする、いわばライオットジャベリンと対を為す技。その名も――

「ライオットマーベリック!」

 空を舞うピッコロに向けて右の拳を突き出した刹那、数え切れないほどの小さな気弾がラディッツの拳から放射状に放たれる。いわばショットガンのように気弾を放ったのである。

 無数の気弾は一発の威力こそ低いものの、回避は不可能に近く、迎撃も数が多すぎてままならない。さらに、元々の気を界王拳15倍によって高めておくことで一発の威力の低さをカバーすることにも繋がる。

 このラディッツの新必殺技には、流石のピッコロも反応しきれず、空中で気弾の滅多打ちを喰らう。一発一発の威力は大したものではないが、大量に。しかも一斉に襲い掛かるのがこの技の長所である。

「はああっ!!」

 そして、さらにこの技の長所は連発が可能であることにある。続けざまに左の拳を突き出したラディッツに、しかしピッコロも負けてはいない。ラディッツ同様に両手の拳を突き出し、真っ直ぐとラディッツに向かって突き進む。

 放射状に放たれる気弾に逃げ場は無いが、身体を一直線にラディッツに向けることで被弾を最小限にとどめることは可能だ。さらに、両の拳に集中させた気が少々の弾など軽く掻き消してしまう。

「20倍だッ!!」

 一瞬。ほんの一瞬だけではあるが、限界を超えた界王拳を行使するピッコロに、ラディッツは慌てて身体を腕でガードするが、思わぬ形で技を封殺された上に、突然の凶悪なまでの戦闘力の上昇についていけずに、防御姿勢の整う前にピッコロの突撃を喰らう。

 なんとか腕で受けたものの、その衝撃は生半可なものではない。バランスを崩され、大きく吹っ飛ばされたところに、超スピードで回り込んでいたピッコロがトドメの蹴りを放つ。

 ラディッツはさらに遠くまで吹き飛ばされ、なんとか舞空術で場外だけは免れたものの、強烈な二発を喰らい、戦闘続行は困難であると判断する。いくらピッコロが限界を超えた界王拳を行使したと言っても時間にして僅か一秒にも満たないものであり、一瞬全身が痛みを覚えた程度であろう。気のコントロールの経験において一日の長があるピッコロにできることで、ラディッツにはまだ一瞬で界王拳を瞬時に高め、すぐに戻す真似はできない。ただでさえ激しいダメージに、界王拳15倍どころか、10倍すら続行困難である。

 冷静に考え、最後にちらりと悟飯を見るラディッツだが、現時点で踏ん張ったところでやはり敵わないだろう。それでも最後までと思わないでもないが新技であり、他の誰もが使っていない散弾をモチーフとしたライオットマーベリックにはまだ改良の余地もある。

「……悔しいが、参った」

 ラディッツは潔く負けを認め、ふわりと場外に着地する。ピッコロはにやりと笑い、ラディッツに仙豆を投げて寄越す。

「悟飯の師匠として相応しいのはオレのようだな……だが、あの技は悪くない。改良して悟飯に教えてやるといい」

「……へっ、借りを作っちまったか」

 ラディッツはピッコロの投げた仙豆をダイレクトに口でキャッチすると、そのまま飲み込む。すうっと身体が軽くなり、先ほどよりも戦闘力が上がったことを実感する。死の淵というほどのダメージではなかったが、一瞬とはいえども自分よりも遙かに高い戦闘力を持つ相手と対峙したことが、サイヤ人の戦闘本能を喚起させたのだろう。より強靭な肉体へ、より破壊力を増した攻撃へと本能が肉体を導く。

「くそ、地球人たちは血反吐を吐きながら強くなっていくというのに、オレはこんなことで」

 宇宙の強戦士、戦闘民族サイヤ人の中でも戦いこそ好きだが甘さの抜けないラディッツは、地球人の持つ不屈の闘魂に尊敬の念を抱かずにはいられない。

 蘇るたびに強くなるような真似をせずとも、彼らは激しいトレーニングによって限界を超えて、なおも強さを求めている。自分もまた、そうありたいと願う。そのためには、危機に陥らないほどの強さを見につけねばならない。

 ラディッツの克己の精神は今、サイヤ人という生まれ持った戦闘本能にすら打ち勝つに至ったのである。




オリジナル技紹介

ライオットマーベリック
散弾銃のごとく気弾を放つ、ああ幽白で見たアレですね。という技。
名前の由来は散弾銃「マーベリック 88 ブルパップ ライオット・ショットガン」から。
ラディッツさんはゲームとかでサタデークラッシュとかいう直訳「土曜日を壊す」という、よくわかんない名前の技を使うのですが、あんまり好きじゃないので自分で技増やしました。
ライオットジャベリンというバーダックの技の名前は好きです。

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