Dragon Ball KY   作:だてやまと

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クリリンVSチャオズ

 審判は震えていた。最早、彼らに実況を挟む余地など無いのではないか。先ほどの戦いなど、見蕩れるばかりで一言も発することができなかったではないか。

「さあて、次はオレとチャオズか。あいつの超能力は鍛えるとか関係なく痛えからなあ」

 クリリンは実に嬉しそうにぐっと背伸びをして、武舞台へと向かっていく。対するチャオズもまた、控え室からふわりと空を飛んで武舞台に降り立つ。

 こうして向かい合い、戦うのは前々回の天下一武道会以来となる。クリリンにしてみれば、その後からこの世界に遡行してきたので、実に数十年ぶりという形になる。あの頃はまだ亀と鶴で争っていたわけだが、もはや二人は戦友であり、あのときのような因縁は無い。

 だが、それとは別にできあがった因縁はある。あくまでも一個人の、武道家としての因縁だ。仲間であり、共に武に励んだ同志であるが――否、同志だからこそ、真正面からぶつかり合いたいのである。

 武舞台で両者は毅然と立ち、試合開始の合図を待つ。精神は研ぎ澄まされ、悟空やヤムチャたちはごくりと唾を飲んだ。しかし、審判はわからない。はたして、彼らの勝負を、ただ近くで見たいからという理由だけで存在している自分が宣言していいのかどうか。

 そんな迷いを打ち消したのは、他でもない。先ほどの戦いで度肝を抜かれ、もしかして撮影などではないんじゃないかと薄々思い始めたサタンである。隣で観戦している悟空に「これ一体何なんだ?」と小声で確認したところ「誰が宇宙船に乗るか決めてんだ」という、まったく意味のわからない返事が返ってきた。

 ただ、どうやら映画の撮影ではないらしい。派手なトリック合戦だと思いたいサタンであるが、トリックで空を飛んだり手からオーラのようなものが出てくるものであろうか。

 わからないことだらけではあったが、唯一わかるのは格闘家として、審判の合図なくして試合は始まらないということだけだった。

「審判、さっさと合図してやるんだ!」

「し、しかし……」

「審判が居なければ単なる組み手か喧嘩。最悪殺し合いになる。お前がいるから試合なんだ。ほら早く始めろ」

 格闘家としての本分。決して相手を殺すことを目的にするのではない。己の磨いた技をぶつけ合い、勝利に邁進する。闘争本能という人間が生まれながらに持ち合わせているモノを、心置きなく全力で発揮する場所は、やはり試合という形式でなければならない。

 長じてからは名誉と利益に執着を見せるようになったサタンだが、格闘家としての本分を決して失ったわけではない。そして、未だチャンピオンという栄光を手にしていない彼は、夢中で強さを追い求める一人の天才格闘家である。

 サタンの言葉は審判に己の責務を自覚させる。そうであった。孫悟空の死闘は。ジャッキー・チュンとも、天津飯とも、マジュニアともそうであったように、互いの死力を尽くした試合をいずれも宣言したのは紛れも無く自分であり、勝利を宣言したのも自分であった。開始と終結を告げることが、試合を試合とする最も明確なものである。

「第三試合、クリリン選手対チャオズ選手。試合開始ッ!!」

 かつての好カードが再び、時を越えて始まった。

 

 

 先手を取ったのはクリリンだった。開始の合図の一拍後に、真正面から突進して距離を詰める。界王拳は使っていない。

 対するチャオズもやはり、界王拳を使わず、超能力も使わず迎え撃つ。

 戦闘力をどんどんと倍加させていく界王拳は最早、戦士たちにとって必須技能であり、それを使わないのは格下相手か、或いは長期戦に備えて消耗を抑える時ぐらいのものである。修行でも地力を上げる筋力トレーニング以外では界王拳を使っている。

 実際に、戦闘力2万ほどで一瞬とはいえど10倍や20倍まで引き上げることが出来るのも、長い修行の中、界王拳を使い続けた結果である。界王拳は単に便利な強化法ではなく、高度な気のコントロール技術の集大成であり、技術である以上は、高めることが出来る。

 そして、気のコントロール技術に関して言えば、戦士たちの中で特に優れているのがチャオズとクリリン。それにヤムチャである。取り分け界王拳は体内の気をコントロールする技術であり、気の操作ともいえるが、これを最も得意とするのがチャオズであった。次いでヤムチャが迫るが、クリリンは気の変化に秀でている分、操作は二人ほど得意ではない。

 だが、チャオズには無く、二人にあるのは数十年の経験値。取り分け、途中で修行をやめたヤムチャよりも、長く修行を続けていたクリリンは、仲間の誰よりも気の扱いに優れた戦士となっている。

 つまり、二人の戦いとは力と力ではなく、技と技の戦いなのである。

 クリリンはチャオズに迫る途中、一瞬にして界王拳を8倍にする。先ほどのピッコロのように、極力身体へ負担をかけないために界王拳を使うタイミングを見計らっているのである。

 しかし、何よりも特筆すべきはその切り替えのスムーズさにある。気をコントロールするために集中した様子は無く、瞬時に、そして流れるように戦闘力を8倍にしてみせたのだ。ギニュー特戦隊との戦いで悟空も瞬間的な気のコントロールで消耗を抑えたが、それを単なる開放ではなく、界王拳で行うことはしなかった。

 眼前で突如として戦闘力を跳ね上げたクリリンに、しかしチャオズも負けてはいない。

 繰り返すが、そもそも気の操作を最も得意とするのはチャオズである。界王拳の一瞬の切り替えをクリリンが行うことなど、長らく共に修行をしていたチャオズにとっては百も承知。迎撃のタイミングを見計らい、やはり一瞬で界王拳を10倍まで高めて初撃をかわすと、次の瞬間には界王拳をやめてしまう。切り替えの滑らかさも速度も、クリリンと遜色が無いものであった。

「まったく、真似しやがって」

「ボクにも必要なことだし、真似しないほうがバカだ」

「ははっ、そりゃ言えてらあ」

 二人はにやりと笑い、本格的に戦うべく構える。この戦いはやはり、単に戦闘力を高めて勝つだけのシンプルなものにはなりそうもないと、二人は理解する。どのタイミングで、どれだけの時間、どのような倍率で界王拳を使うかが勝負の分かれ目となる。迂闊に倍率を上げて長時間戦うと疲弊したところを、温存していた相手に倒される。かといって、温存しすぎると押し負ける。

 両者は武舞台の中央で格闘戦をはじめ、攻撃の瞬間。或いは回避や防御の瞬間だけに絞った界王拳を使う。倍率も状況次第で細かく選び、瞬時に切り替えて消耗を極力押さえ、そして最大の攻撃に転じようとする。

「うっひゃあ。すげえやクリリンとチャオズ。あんな戦い方もあるんだなー」

 これには悟空も驚きを隠せず、その場で界王拳の切り替えを試みるが、あまり速いとはいえない。ここまでの精度で切り替えられる戦士は、今戦っている二人を除けば、やはり長年の経験があるヤムチャぐらいのものであり、それでも速度で言えばチャオズとクリリンにはいくらか劣る。

 戦闘力が信条のベジータにしてみれば、尚更この戦いには目を見張るものがある。素直になれないプライドの高さはあれど、負けず嫌いで向上心は誰よりも強い男である。先ほどの戦いで会得した気のコントロール技術にあわせて、気を探る術をこの戦いの観戦で徐々に身に付けつつある。

 クリリンは攻撃の瞬間に一気に10倍まで高め、それをチャオズがギリギリの位置で15倍まで高めて受け流すと、そのまま拳をクリリンに叩き込む。お互いに何度も相手の攻撃を喰らっているのだが、当たる瞬間に界王拳で強化してダメージを最小限にとどめている。肉体への負荷と、ダメージのバランスを考えながら常にベストの倍率を選択している様子は、ベジータの気を探る訓練には非常にプラスとなっている。

「なるほどな。チビの考えそうなことだ」

 口ではそう言いながら、自身も背が低い部類に入るベジータである。戦闘力のコントロールが単に実力を隠すものだけではないことを明瞭に顕す戦いに、新たな修行項目を付け加える。あのレベルまでコントロールをできるようになれば、フリーザ戦で役に立つだろう。

 戦士たちが二人の戦いを参考にしつつも、熱く見守る中、クリリンはチャオズの見事な気の流れに感服しながらも、まだ超能力さえ使っていないことに対する不気味さを覚えていた。

 勝負であるから、あえて封印するようなことはしないだろう。かつては卑怯に思えた超能力だが、たとえ先天的に得た能力であろうが無かろうが、それを駆使するのは当然のことである。クリリンとて並の地球人とは比べ物にならないほどの才能を持っているのだ。宇宙規模で見れば凡才でしかないのだろうが、地球で考えれば紛れも無い天才。壁という壁を戦いのたびに乗り越えて、人間という枠を外れて強くなるには、努力だけでは到達できないものがある。

 サイヤ人や戦闘タイプのナメック星人。魔人や人造人間という人智を超えた存在が身のまわりにゴロゴロしているから卑下してしまいがちであるが、宇宙でも限りなく恵まれた才能の持ち主であることに違いは無い。

 そして、チャオズにもそれが言える。どうやら地球人というのは、可能性だけは他の強種族に匹敵するのではないかとヤムチャは思う。

 この無茶な遡行に一抹の光を見出したのも、ウーブという地球人の存在がある。悟飯の稀有な潜在能力は純粋なサイヤ人を超えており、地球人の血が為せる業であろう。トランクスと悟天など、7、8歳の頃から超サイヤ人に覚醒していたのだ。

 純粋な地球人は仲間の中ではクリリンとヤムチャ。それにチャオズぐらいのものである。鼻が無かったり、妙に色白で老けることを知らなかったりと、本当に地球人なのか疑いたくなる面々ではあるが地球人なのだ。

 閑話休題。つまるところ、地球人とは鍛えなければ脆弱ながらも可能性を秘め、そして気のコントロールに優れた種族と言うことが出来る。その二人の戦いであるから、技巧を凝らした極めて高いレベルに至るのは言ってしまえば必然のことであろう。

「どどん波!」

「かめはめ波っ!」

 不意打ち気味のチャオズのどどん波も、気の流れを完璧に把握しながら戦うクリリンに先読みされてかめはめ波で相殺される。二人は再び激しい格闘戦にもつれ込みながらも、格闘戦のまま宙に昇っていき、空高くでなおも戦い続ける。

「……チャオズのやつ、そろそろかな」

 天津飯が二人の勝負を見守りながら、ぽつりと呟く。格闘の勝負ではお互いの技量が互角に近い以上、僅かながらにリーチが長く、地力の戦闘力で勝るクリリンに分がある。それをここまでの勝負にしているのは、チャオズが切り札を残し、クリリンも常に警戒していたからだ。

「はっ!」

 そして、天津飯の独白から間もなく、遂にチャオズが超能力を使った。両手をクリリンに向けて、強烈な腹痛を伴う念波を叩きつける。

 これに対抗する術は一つしかない。相手よりも格段に高い戦闘力で、超能力を跳ね除けるしかないのだ。元の歴史のナッパにまったく超能力が効かなかったのは、その戦闘力に差がありすぎた為であり、クリリンは否応無く界王拳の使用を強制されるようなものだ。

 ただし、弱点も存在する。チャオズ自身が界王拳を使えなくなってしまうのだ。超能力を行使するのに集中させる気と、界王拳を行使するために集中させる気は、集中させる場所と性質が異なる。故に、クリリンは瞬間的な界王拳ではなく、他の戦士同様に常時界王拳に移行する。

 こうなってしまっては、勝負を決める必要があるのがクリリンである。最低でも3倍界王拳を維持しながら戦わねば、超能力の餌食となる。一方、チャオズは先ほどまでと変わらず、通常状態と界王拳を使い分けることが可能のままだ。

「でやあああっ!」

 3倍界王拳で突っ込むクリリンに、すかさず超能力から5倍界王拳に切り替えたチャオズがカウンターで頭突きを決める。鳩尾に強かに入った頭突きに思わず動きを止めたクリリンのパチンコ頭を、チャオズがサッカーボールよろしく蹴り上げる。

「ぐがっ!?」

「はああっ!!」

 矮躯である以上、どうしても渾身の一撃でも他の戦士ほどの威力に至らない。そのためにチャオズは速度をよく鍛えており、体勢を崩したクリリンに連打で攻撃を打ち込んでいく。

 一気呵成に決めてしまえると踏んだチャオズは、ポンとクリリンを宙に蹴り上げて、自身もクリリン目掛けて飛び上がる。大猿と化したナッパの気功波すら打ち破った、渾身の突撃からの頭突きである。しかも、チャオズはさらに改良を加えていた。

「でえいっ!!」

 ぐるんと、チャオズはクリリンに突っ込みながら自身に回転を加える。これぞ、矮躯で攻撃力に欠けるチャオズが知恵を絞って考えた威力の底上げ法。ボクシングで言うコークスクリューブロー。空手の正拳突きも、回転によって威力を上げている。頭突きであってもその原理に変わりは無い。

 回転を伴ったチャオズの頭突きは、クリリンの腹に直撃する。これにはクリリンも手酷いダメージを負い、とどめとばかりに場外を狙ったチャオズの蹴りを受け入れるしかない。

 顎を正確に打ち抜いたチャオズの蹴りに、吹き飛ばされながらもクリリンはにやりと笑う。

 ああ、やはりチャオズも戦士なのだ、と。元の歴史では最も早くに一線を退いてしまった仲間ではあるが、その実力は、高めればここまでになる。矮躯を技術でカバーして、実に多様なスタイルで戦うことが出来る。

 こんな相手と戦えることが嬉しい。そして、勝てばその喜びは格別のものとなる。

「波ッ!!」

 クリリンは場外を免れるためにかめはめ波を放ち、その反動で逆にチャオズめがけて突き進む。完全に決まったと思っていたチャオズだが、油断などしていない。クリリンの戦い方は何というか、実に慣れているのだ。

 たとえるならば、自分よりもずっと格上の相手との戦いですら何度も生き延び、勝利に繋げるような。粘り強く、多彩で、そして一撃必殺の可能性を秘めているように思えるのだ。

 迎撃しようと構えるチャオズに、クリリンは尚もかめはめ波を放ち続け、ぐんぐんとチャオズに迫る。まさかこのまま体当たりをしてくるのかと構えるチャオズだが、違う。

「でやあああっ!!」

 チャオズの目前まで迫ったクリリンが選択した攻撃は、後ろ回し蹴り。それを見切って避けたチャオズに、クリリンはさらに乱打を放って再び格闘戦に挑む。

 界王拳を高め、或いは解除して。チャオズもまた、そのいたちごっこに付き合う形で超能力を狙うフリをして界王拳からの攻撃を繰り出したりと、伯仲する実力の同タイプの戦士ならではの接戦を繰り広げる。

 先ほどの回転頭突きに手痛いダメージを食らったクリリンのほうが、微かに不利という状況。戦士たちや審判、サタンが見守る中、チャオズが長い格闘戦の中で遂に見出した絶好の隙に、ありったけの力で超能力を叩き込もうとしたときだった。

「ばっ!!」

 突如、クリリンがまるでチャオズを真似るように両腕を突き出した。何のことだと驚いたチャオズだが、次の瞬間、後頭部に激しい衝撃を受ける。

「ぎゃっ……!?」

 何が起こったのか理解できないチャオズに、クリリンは渾身のボディブローを叩き込む。『く』の字に折れ曲がったチャオズに、さらにヤムチャ譲りの連打を浴びせかけ、とどめとばかりに至近距離でかめはめ波を打ち込む。威力は大したことではないが、体勢を整えきれないチャオズは、かめはめ波に押されて場外の芝生に激突した。

「……い、痛たたた……な、なんで背中から攻撃が……?」

 チャオズは負けたことを知り、落胆しながらも先ほどの不可思議な攻撃に首を傾げる。まさか真剣勝負に水を差すような仲間たちではないし、間違いなくクリリンの攻撃であるはずだ。残像拳でもなく、間違いなく目の前にいたはずのクリリンが、どうして背後から攻撃を仕掛けることが出来たのだろうか。まさか、知らないうちに超能力を身に付けていたとでも言うのだろうか。

「へへ。答えはみんなが知ってるぜ」

 クリリンはすうっと地面に降り立ち、チャオズに手を差し出す。それを握って立ち上がったチャオズは、不思議そうに天津飯たちを見た。

 誰もが、ぽかんと呆けていた。それはそうだろう。彼らが見たものは、それほどまでに驚異的なものだった。

「天さん?」

「あ、ああ。クリリンは、チャオズに蹴られて場外を避けるためにかめはめ波を撃っただろう。あれが、土中に潜ったまま大きく後ろに回り込んでいたようだ。激しい格闘の最中に不意に土中から現れて、お前に当たった」

 かめはめ波は軌道を変えたり、場合によっては180度のターンすら可能な技である。土中を突き進んで後ろに回りこむことも不可能ではない。元の歴史で悟空がフリーザ戦で披露したような、その場に留めて時間差で発射するような芸当すら可能である。

 なので、戦士たちはクリリンの気のコントロール技術を知っていることもあって、そんなことで驚きはしない。何よりも驚いたのが、そんな高度な操作を息をつく間もない格闘戦をこなしながら行ったという事実であった。

「あ、あの戦いの中で、かめはめ波をコントロールしたの?」

 チャオズが信じられないという目でクリリンを見る。クリリンは少し照れくさそうに、無いはずの鼻の頭を掻くような素振りをしながらこくりと頷いた。

 前回の対戦のような、算数勝負とは比べ物にならないほどの高度な駆け引きによる戦闘だったのだ。相手の気を読み、ブラフを仕掛け。チャオズは目の前の戦いに集中して周囲など見えていないほどであった。

「ヤムチャさんが二つの操気弾を同時に操りながら、自分も格闘をしていただろ。オレも頑張れば似たことができるかもしれないって思って、試してみたんだ」

「で、でも……かめはめ波を撃ったのは場外を免れるためで……ってことは、あれも作戦だったってこと?」

「ワザと蹴られたわけじゃないけどな。舞空術じゃ場外になるような一撃が来たらこうしようって考えてたのは考えてたけど」

 事も無げに言うクリリンに、チャオズは感服するしかなかった。

 負けは負けであり悔しいという気持ちはあるが、以前のような憎しみに似た感情は沸きはしない。不思議と胸の内は爽やかで、駆け寄ってくる天津飯にも笑顔を向けた。

「へへ、また負けちゃったよ」

「いい勝負だったぞチャオズ。お前は俺の誇りだ」

 天津飯は励ましでもなく、フォローでもなく。ただ単なる素直な気持ちを述べた。

 あれほどまでに卓越した気のコントロールなど、天津飯にはできない。もしも自分とチャオズが戦ったならば、果たして勝てるのかどうか、極めて怪しい。どこか頼りない弟弟子は、ナッパという強敵との戦いでまた一つ自分の殻を打ち破り、戦士としての大きな成長を遂げていた。

 天津飯とチャオズが先ほどの戦いの感想や、さらに強くなるためにどうすべきかを語り合いながら控え室に帰っていく中、クリリンもまた控え室に戻る。そんなクリリンに、悟空が目を丸くしたまま近づいてきた。

「クリリン、オラすっげえ驚えたぞ。おめえ、ムチャクチャ強くなったんだなあ!」

「はは。超神水のおかげだよ」

「それだけじゃねえって。くっそー、悟飯とも戦ってみてえし、ヤムチャとも戦いてえし、クリリンとも戦いてえ!」

 よほど興奮したのだろう。戦いが大好きで仕方が無いサイヤ人の血が猛っている。好戦的といえばそれまでだが、血に飢えていると思われても仕方ない戦闘本能を、底抜けに明るく爽やかに表現してしまうのが、悟空がおおくの人々から愛される存在である理由であろう。

「今なら、悟空にだって負けないぞ」

「へへ。オラだって!」

 明るく笑いながら武舞台から帰っていく戦士たちの背中は、審判にとってまぶしいものだった。

 自分が求めていた戦いは、並の人間にはもはや観戦すらままならないレベルに至っていた。つまるところ、彼らが格闘家として世界に数多ある大会に積極的に参加しないのは、彼ら同士でしか満足できる戦いにならないからだ。

 なんという僥倖だろうか。唯一、その力を発揮しようと仲間全員を引き連れて参加する大会が、天下一武道会で、その審判が自分であるという幸運。

「第三試合、クリリン選手の勝利です!」

 感動に打ち震えて出なかった声を、ようやく出すことができた。


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