Dragon Ball KY   作:だてやまと

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ヤムチャVS悟空

 第四試合の悟空と悟飯の戦いは、半ば当然ながら悟空の勝利という形で決着がついた。

 秘めたる力はあれど、まだ幼く経験も浅い悟飯が、歴戦の戦士たる悟空の試合運びや見切り。さらに冷静さなどで敵うはずもなく、良くも悪くも若い父親と幼い子供という構図がそのまま当てはまったといえる。

 続く第五試合。疲れを残していない悟空はそのままヤムチャと戦うつもりであり、ヤムチャもまた、観戦に徹していてウズウズと疼く身体を抑えきれなくなっていた。

 武舞台で正面から立ち合い、試合の開始をじっと待つ。

「ヤムチャ……おめえはすげえよ。オラ、ぶっちぎりで強くなったと思ったのに、いつの間にか追い抜かれててよ。おかげでオラ、さらに強くなれた」

「あっという間に追いついておいてよく言うぜ」

 二人にそれ以上の言葉はいらない。二人の視線が火花を散らすかのようにぶつかり合い、これから始まる戦いに胸が躍る。

 そう、戦いとはこうでなくてはならない。ふつふつと燃え滾る闘志とは裏腹に、ぞくりとくるほどの相手の強さ。ぴんと張りつめた緊張感は、両者の実力が伯仲しているからこそ切れることなく、お互いの実力を最大限にまで高めてくれる。

「第五試合、開始!!」

 審判の掛け声に、両者はその緊張感を吹っ切るかのように真正面から激突する。

 ヤムチャは界王拳を一気に高め、両腕から操気弾を射出。ベジータ戦で披露した操気弾と狼牙風風拳の併用である。

 一方悟空も界王拳での突撃であるが、こちらは操気弾の代わりにと、小さな気功波を二発、ヤムチャめがけて打ち込む。ヤムチャの目論見では、いきなり操気弾との連携で一気呵成に序盤戦を押し切るつもりでいたのだが、アテがはずれて操気弾はまず気功波を撃墜。ヤムチャ本人より一歩遅れて悟空に突っ込む形になった。

 流れるような連続攻撃に、さらなる手数を生む繰気弾と狼牙風風拳の併用だが、隙のない攻撃ゆえに、連携もまた難しい。激しい乱打戦に突入した悟空とヤムチャの間に、繰気弾が割って入る隙が無い。

「だああっ!!」

 悟空はヤムチャの得意分野であるはずの純然たる格闘でも、やはり強い。繰気弾の介入を許さないように猛攻を仕掛ける。ヤムチャもこれに対応すべく繰気弾の操作をやめて格闘戦に集中する。

 体格は同程度。すなわちリーチも変わらず、両者の力量に勝負は委ねられる。

「でやああああっ!!」

「はああああっ!!」

 武舞台の中央で二人は紙一重の攻防を続ける。ヤムチャの拳が悟空に迫ると、それを悟空が弾いてカウンターの蹴りを放つ。しかし、それはヤムチャの肘打ちで弾かれる。

 一歩も引かないというわけではない。極めて短いスパンの中ではあるが、優勢劣勢がある。だが、それが極めて目まぐるしく入れ替わり、一進一退を繰り広げることから戦士たちは声を上げることも忘れて二人の戦いに見入る。

 それでも、クリリンにはお互いの長所と短所がわかっている。元々の戦闘力が同じ程度であるが、それぞれの特性とでも言おうか。たとえば、タフネスならば悟空に分があるし、技のキレならばヤムチャに一日の長がある。それらをすべて考えると、ヤムチャは早い時点での決着を望み、悟空は長期戦に持ち込むことも厭わないであろう。最初から繰気弾の併用で全力を出したのは、ヤムチャもお互いの性質を理解した上での戦略であった。

「このままじゃラチがあかないな。悟空、本気で行くぞ!」

「へへ、そうこなくっちゃ!」

 両者はがしりと両手を組みあい、力比べに移行する。界王拳の倍率をぐんぐんと上げていき、両者ともに10倍に至るが、拮抗するばかりでびくとも動かない。

 ここで悟空が先に動く。不意に力を抜いて腰を落とし、ヤムチャをつんのめらせたところを、下から思い切り両足で天高く蹴り上げたのだ。だが、これは一度ヤムチャが見たことのある展開である。予想して当然であり、対策は容易かった。

 蹴り上げられながらも、ヤムチャは思い切り悟空の手を握り、離さない。これには悟空も驚いて身体の制御がきかず、空中で舞空術によって体勢を整えたヤムチャが、強烈な前蹴りを悟空に突き入れる。

「かはっ!?」

「もらった!」

 相手の姿勢が崩れた状態というのは、ヤムチャにとって絶好の機会である。ここぞとばかりに得意の狼牙風風拳をたたき込み、このまま勝負をつけようとする。

 さすがの悟空も超神水によってパワーアップしたヤムチャには敵わなかったかと仲間たちが意外とあっさりとした結末に思わずため息をつこうとした時だった。悟空は滅多打ちにされながらも、かめはめ波を放って――およそ見当違いの方向ではあるが、その推進力によってヤムチャと大きく距離をとった。

「はっ……はっ……へへ、やっぱ強えな。オラ嬉しくてしかたねえや」

「試合だから流石に致命傷は与えられないが……その分、かなりダメージになる部分を狙ったんだがな。本当にタフだよお前は」

 殺すつもりではない試合という形になると、殺傷力に重きを置いた気の爪を作り上げることもままならないヤムチャにとって、なかなかの不利ではある。悟空もそのあたりは承知であり、殺し合いとなれば既に自分が負けているであろうことは悟っていた。

 試合だから仕方ないとヤムチャは割り切っているが、悟空としては、長い時間をかけて編み出したヤムチャの必殺技を封印させてしまっているというこの状況にフェアではない、もどかしさを感じている。

「どうすっかなあ。オラも何か技を封印してえところだけどよ。オラのオリジナルって技、ねえんだよなあ……あ、ジャン拳なら……って、あれもじいちゃんに習った技だな」

「気にするな。あと、ジャン拳を封じたところで、そもそも使わないだろう」

 ヤムチャが苦笑するが、確かに悟空は自分で技を考案したことはない。必殺技の代名詞ともいえるかめはめ波は亀仙人の編み出した技であり、その後も元気玉、瞬間移動と悟空にしかない特技を引っ提げてくるわけだが、どれもこれも習って身につけたものだ。

 対するヤムチャは、狼牙風風拳を筆頭として繰気弾もオリジナル。かめはめ波こそ亀仙人のもとで修業して身に着けたが、基本的に我流である。

「かめはめ波、無しにすっか」

「切り札をなくしてどうする。別に気にしなくていいから、早く決着をつけようぜ」

「けどよ、フェアじゃねえのに勝ったってオラ、嬉しくねえよ」

 悟空らしいといえば、悟空らしい。ヤムチャはやれやれと肩を竦め、ふわりと舞空術で空に舞い上がった。

「それじゃあ悟空、一発勝負だ。もしもお互いに、生きてフリーザを倒したら、そのときに真剣に戦おうぜ。ドラゴンボールがあるんだから死んでも平気だしよ」

「そっか。そうだな。けど一発勝負ってどうすんだ?」

「簡単だ。かめはめ波で勝負するんだ」

 ヤムチャの提案に、悟空はなるほどと頷いた。確かに有利不利を無しに勝負をするには、同じ技をぶつけ合ったほうがいいだろう。ヤムチャが空を飛んだのは、武舞台を壊さないための配慮であろう。

 全力を尽くし、その末に決着をつけたいと思う気持ちは悟空にもヤムチャにもある。だが、あくまでも後の強敵を意識してきたヤムチャが編み出した技は、到底試合のためのものではない。クリリンが気円斬を編み出した理由と同じだ。悟空でもまともに勝てる相手ではない強敵がやってくると知り、相手を殺すつもりの技を磨き上げた。

 事実、気円斬はフリーザにさえ危険視されて、一度目の変身を果たした後にも慌てて回避に努めたほどである。その刹那の時間が勝利にどれほどの貢献を果たしたのかはわからないが、一対多の状況で、自分の存在を無視させなければ、有利に働くことは間違いない。

「ヤムチャもクリリンも、地球を守るために、そういう技を編み出した。オラはサイヤ人だからかな。強くなることしか考えられねえみてえだ」

 悟空はふわりと宙に舞い、気を貯め始める。負けないために強くなると後にベジータが評したとおり、相手を殺すことなど優先しない悟空は、サイヤ人だからではなく、本人の性質によって殺めるための技を身に着けることなどしていない。

 結果として、元の歴史ではベジータと和解して、ベジットという最強の戦士を生み出すに至ったわけだが、その甘さゆえにラディッツの拘束を解いて絶好の機会を失ったこともある。

 どちらが良いとか、悪いかという問題ではない。ただ、その二人が同じ舞台で決着を公平につけることが困難なだけである。

 無論、クリリンの気円斬しかり、ピッコロの魔貫光殺砲しかり、試合ではなかなか使いにくい技もある。だが、それらが必殺技と呼ぶにふさわしい一撃必殺の大技であるのに対して、ヤムチャの気爪は常時展開可能な技であり、使えないことがあまりにも大きな損失となるだけである。

 二人は大きく距離を開け、最大限にまで高めた気を掌に集中させていく。

「か……」

 ぐんぐんと高まっていく気に、仲間たちはごくりと唾を飲み、状況がいまいち理解できていないサタンですらもこれから起こることが、この試合を決定づけることなのだと予感する。

「め……」

 さらに高まる気に、大気が震えて雲が吹き飛んでいく。既に人としての枠を超えて強くなりすぎた戦士たちは、ひとつの気圧程度ならばすぐに生み出してしまう。

「は……」

 ぼう、と二人の掌に青白い光の玉が現れる。小さい光の玉はそれぞれの気を注ぎ込まれ、凝縮されていく。風船に水を注ぎ込むように、密度が高まっていった。

「め……」

 光の玉が輝きを増して、限界を超えたかのように膨れ上がる。ビリビリと肌を突き刺すような強力な気の塊は、両者ともにほぼ互角。

「波ーーーーッ!!!」

 二人が同時に叫び、同時に掌から特大かめはめ波が放たれる。まるでジェット噴射のごとく放たれたかめはめ波は、二人を結ぶ線上で衝突した瞬間に衝撃波を生み、この展開を予想していなかったサタンは吹き飛ばされて、屋根の上に陣取っていたベジータにしがみつく。

「ひいっ!?」

「何をしやがる、このアフロ!」

「たたった、助けてくれ!!」

「ええい、離れろ!」

 振りほどいたベジータに、サタンは南無三とばかりに拳を武道会場の屋根に突き立てる。藁葺であることが幸いして拳が屋根を突き抜け、飛ばされるのを免れた。

 閑話休題。二つのかめはめ波が激しくぶつかり合い、スパークを引き起こしながら押し合う。やや悟空が押しているが、ここでヤムチャは既に5倍に高めていた界王拳をさらに引き上げ、8倍まで引き上げる。

「波ーーーっ!!」

「うわわっ、こっちは10倍だああッ!!」

 悟空が負けじと、さらに上の段階まで引き上げる。流石にこれ以上の引き上げは不可能な悟空であるが、ヤムチャも全力を尽くすつもりで、負荷の少ない7倍まで引き上げる。

 通常時の戦闘力がほとんど変わらない悟空とヤムチャ。すなわち、勝負の分かれ目は界王拳の倍率となる。ぐいぐいと悟空のかめはめ波がヤムチャのかめはめ波を押し込んでいき、今にもヤムチャが呑み込まれそうになるが、その寸前、今度はヤムチャが一気に界王拳を15倍にまで引き上げる。

「ぬおおおおおっ!!」

 ほんの一秒にも満たない、一瞬の切り返し。だが、悟空を慌てさせるには十分であり、すかさず10倍に切り替えたヤムチャは懸命に耐える。

 悟空に及ばないスタミナを、一瞬の切り返しのみの反撃で補う。だが、それは焼け石に水という塩梅である。7倍による微かな時間の負荷の軽減だけでは、およそ足りない。熟練した気の扱いをするヤムチャであっても、クリリンたちのように素早い界王拳の駆け引きをしなければ、10倍はかなりの負担となる。だが、逆を言えば、一瞬でよければさらに上を引き出すことも可能であった。

 20倍が、元の歴史において悟空が使用した最高の倍率。今のヤムチャよりもずっと強靭な肉体をもってして、それが限度であった。だが、界王拳を学んでからの時間は、界王拳そのものの習熟度を上げている。ただでさえ己の気のコントロールに卓越したヤムチャは、肉体への負荷さえ気にしなければ、一気呵成に勝負を仕掛けることもできるのだ。

 どうせ、このままではスタミナの差で負けてしまう。小細工を弄してみたが、やはりこの単純にして明快な決着のつけ方では、真っ向勝負が正しい選択のようである。

「ぐぎぎぎ……30倍だッ!!」

 ヤムチャの叫びと共に、かめはめ波は蛇口を大きく開放したかのように光の奔流の勢いを増して悟空に襲い掛かる。負けじと界王拳をたかめる悟空だが、気の操作・習熟度ではヤムチャに敵わない。それでも一瞬25倍ほどの気を放出したのだが、ヤムチャのかめはめ波の勢いは止まらず、悟空の間近まで迫る。

 あと一歩。最後の力を振り絞って気を込めるヤムチャだが、ここにきて、限界が訪れた。

 そもそも、10倍でも無茶だったのだ。それを続けた上に30倍という異常なまでの過負荷に、精神よりも先に肉体が限界を迎えた。

 悟空に迫っていたかめはめ波はふっと消え去ってしまい、ヤムチャは空中で気絶して、そのまま武舞台へと落ちていく。それを悟空が慌てて空中で受け止め、勝負は決着する。

「あいちちち……体中がバキバキになっちまった」

 気絶したヤムチャを武舞台におろし、悟空もそのまま武舞台に腰を下ろす。元々のタフネスの差が勝負を分けたが、もしもヤムチャがもう少しでも維持できれば、最悪悟空はかき消されていたかもしれない。

 それに加えて、ヤムチャはクリリンやチャオズのような細やかな界王拳の切り替えを行わなかった。流石に狼牙風風拳とは併用できなかったのかもしれないが、もしもクリリンとチャオズの試合のような動きをされていたら、そのまま押し負けていたかもしれない。

 実際のところ、悟空の考えた通りに使わなかったわけではなく、使えなかったという表現のほうが正しい。狼牙風風拳は間断のない連続攻撃であり、その動きの一つ一つが洗練され、あらゆる所作に繋がる道でもある。

 切り替えによる急な加速などが起こると、どうしてもヤムチャ自身が制御しきれないのだ。ただでさえ、操気弾の制御もあって神経を研ぎ澄ませている中、流石にそこまで手が回らない。戦士として、どうしても単純な強さではいずれサイヤ人やナメック星人に抜かれてしまうことがわかってしまうヤムチャは、自分だからできる戦闘スタイルを突き詰めようとしている。クリリンとチャオズが熟達した気の操作によって戦いを有利に進める手法を取っている以上、同じことができる人間が三人いる必要はない。戦闘力で言えばクリリンがどうしても頭一つ抜けるだけに、同じことをしているだけでは、自分は単なるクリリンの劣化でしかなくなる。

 ならば、格闘の技術を突き詰めていこうとヤムチャは考えた。狼牙風風拳という必殺技を持ち、体格にも比較的恵まれている自分には、それが最も良い道だと思ったのだ。

「……ぐっ……ん。どうやら負けちまったようだな」

 武舞台の上で意識を取り戻したヤムチャは苦笑いを浮かべ、道着の帯に結び付けていた袋から仙豆を取り出して、口に放り込みながら悟空を見上げた。

 単純なパワー勝負ではやはり勝てなかったが、かなり良い線まで行ったのではないかと思う。殺すことが目的ではない以上、どうしても磨いてきた技が使えない部分もあったし、クリリン達のような細やかな界王拳の制御が狼牙風風拳にも応用できるように改良を加えていかねばならないと痛感した部分もあった。

 ヤムチャは悟空と握手を交わし、揃って武舞台を去る。敗れたものの得るところの大きかったヤムチャは決して暗い表情ではない。フリーザという強大な敵を相手にしてみたかったものの、ナメック星に行かない分、地球にてまた修業できると思えば、より自分らしい技を磨くこともできるだろう。

「次こそは勝たせてもらうぞ」

 そう呟いて、ヤムチャはさらなる高みを目指すのであった。




PCが壊れてデータが吹き飛び、紆余曲折を経て時間が非常にかかってしまいました。
今後はもう少し早いペースを心がけます。

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