Dragon Ball KY   作:だてやまと

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ウルフハリケーン

 亀の甲より年の劫と言うが、両方を背負っている人間も珍しい。地球が誇る天下無敵の武術の神様、武天老師――亀仙人その人である。

 長い年月をかけて体内の気をコントロールする術を見出し、奥義かめはめ波を編み出したのも亀仙人であり、悟空やクリリンの才能を開眼させて幼くして地球最強クラスの達人に育て上げたのも亀仙人。御年数百歳を数えても平然と生き抜いており、そこらの若者よりもよほど溌剌と、貪欲にエロに食い付く姿は、不老長寿の水を飲んだという話もあながちウソには聞こえない。

 その亀仙人の経験と知識。とりわけ知恵はイザというときに頼りになる。普段こそおちゃらけた姿を見せるが、悟空たちにとっては尊敬する師匠であるのだ。

「武天老師さま。どうやら精鋭部隊は潰し合いを始めたようです……かなり良い流れですね」

 ヤムチャの報告に、亀仙人はこくりと頷き、周囲の様子を確認する。戦士たちは気配を殺しながらスラッグの拠点付近の物陰に隠れており、緊急の事態にもすぐ対応できるように構えている。もっとも、戦士たちと言ってもカリン塔に向かったチャオズがいないので、ヤムチャとラディッツ。それに悟飯の三人しかおらず、あとは戦士と呼べるかどうか怪しい亀仙人にチチとランチである。一応、チチは気のコントロールをすぐに覚えた結果、舞空術も使えるようになっている。ビーデルですらできたことであるので、亀仙流を修めて悟空と組手を幾度も交わしたチチにとっては、そう難しいことではなかったのである。

 一方、ランチは未だに空を飛ぶ段階までは到達していないものの、カリン塔をよじ登ろうとした腕力と体力だけは生半可なものではなく、技術面はともかくとして大いに伸びている。雑魚を蹴散らす程度ならば十分に可能であろう。

「……よし、ヤムチャ。お主は精鋭部隊の集まる場所へ行き、共倒れしたところに殴り込みをかけるのじゃ。正々堂々と戦いたいかもしれんが、地球の危機であることをよく考えてな」

 やや消極的ではあるが、亀仙人の言葉にヤムチャは迷いなく頷く。亀仙人ほどではないが、やはり元の世界で重ねた年月によってヤムチャも老獪な部分を持っている。さらに、自分ではどう足掻いても越えられない壁というものにぶち当たった経験だってあるのだ。未知の危機に対して慎重すぎるほど慎重に動くのは当然である。

「それなら、俺も行こう」

 ラディッツも名乗りを上げるが、これを亀仙人が制する。

「お主はこの場の要じゃて。悟飯も強いが、経験が浅い。万が一クウラやサイヤ人、悪のナメック星人と相対した場合、お主がおらねば誰が戦うというのじゃ」

「……確かに。機を見て突撃するならば、素早くて勝機をよく知るヤムチャが適任でもあるか……わかった。ヤムチャ、この場はオレが命を賭して守ろう」

 素直に納得するラディッツだが、これは亀仙人の存在が戦士たちの中でも特別であることを理解しているからだ。弟やヤムチャ、クリリンが普段着ている道着が、そもそもこの亀仙人の流派の証であることを知って以来、この老人に興味が尽きないのである。確かに実力は戦士たちにまったく敵わないが、その教えに感銘を受けたのだ。

「武道を学ぶことによって心身ともに健康になり、それによって生まれた余裕で、人生をおもしろおかしくはりきって、過ごしてしまおうというものじゃ!」

 クリリンや悟空が弟子入りして最初に教えられたことだそうだ。

 あくまでも強さを求める戦士たちではあるが、根底には人生を楽しもうとする気概が満ち満ちている。強くなることは即ち敵を一方的に嬲ることができると考えていた頃には想像もつかない発想であった。

 強くなれば、周囲を眺める余裕が生まれる。そうすれば、人生は楽しくなる。それがこの老人が長い年月をかけて辿りついた答えであったのだろう。

 様々な強敵が現れていく中、戦士たちは必要に駆られて。あるいは、より高みを目指して修業に明け暮れているが、どんなに辛い修業でも、一日の終わりにシャワーを浴びると、とても良い笑顔で笑っていた。人生を楽しんでいるからこそ生まれる笑顔であろう。ラディッツは己の弱さを知り、より強くなりたいと願うと同時に彼らのように人生を楽しみたいと願うようにもなっていった。

 つまり、ラディッツにとっても武天老師は精神的な師匠であり、尊敬に値する人物であったのだ。

「どう呼ぶべきか……弟に倣って亀仙人のじっちゃん……やはりしっくり来ないな」

「ほっほ。好きに呼べばよかろうて」

「そうか……否。そうですか……武天老師さま。地球の危機です。一致団結した動きが必要になるでしょう。オレを好きに使ってください。生命すら惜しくはありません」

 ラディッツがフリーザ以外に。そして、心の底から敬語を使ったのは初めてのことだった。

 だが、ラディッツの言葉に、亀仙人はにこりともしない。まるで、幼子を諭すようにポンとラディッツの頭に手を置き、静かに呟いた。

「死ぬな。これが一番大事で、何より優先する命令じゃ」

「……わかりました」

 涙を流しそうになるのを堪えて、ラディッツは深々と頭を下げた。

 

 

 そして、かつて同じく「死ぬな」という言葉をアドバイスとして受け取ったことのあるヤムチャは、気を消しながらそれぞれの精鋭部隊が集まる荒野に辿りついていた。

 それぞれがお互いを敵とみなしているようで、激しい戦闘が展開されている。どうやらサイヤ人であるターレスは部下にこの場を任せて、一足先にスラッグの拠点に向かったようであり、姿はない。

「はっはっは。神精樹の実を食い続けてきた俺たちだ。多寡が魔族に後れを取るか!」

「ふん。魔族を舐めるなよ……その神精樹とやらで得た貴様らのエネルギーはオレが頂いてやろう」

「ククク……雑魚どもが吠える吠える。クウラ機甲戦隊、参る!!」

 三すくみの様相を呈する精鋭部隊のぶつかり合いは、数で勝るターレス一味。特殊技能に長けたスラッグ軍団。そして少数だが戦闘力が頭一つ抜けたクウラ機甲戦隊という塩梅である。

 個々の戦闘力で敵わないとみるや、ターレス一味は連携を図ってフォローし合い、それに呼応してスラッグ軍団の動きもまとまり始める。一点突破を目指して、一気呵成にターレス軍団の一人、アモンドを討ち取ろうとするが、全員まとめて殺してしまおうと、クウラ機甲戦隊が気功波を放って、結果として状況は膠着。ヤムチャはじっとその様子を見ているしかない。

 乱戦は続く。どうしても個々の力で劣るターレス一味が次第に押され始め、クウラ機甲戦隊が有利となっていく。このままでは機甲戦隊が丸々生き残ると判断したヤムチャは、一瞬だけ気を高めて繰気弾を作り出すと、地面に向けて放つ。繰気弾は土中を掘り進み、クウラ機甲戦隊の一人、ドーレの背後から襲い掛かる。

 後頭部に繰気弾が直撃したドーレは勢いよくスラッグ軍団の方向へと吹き飛ばされ、これをドーレの攻撃だと勘違いしたスラッグ軍団の一人、巨漢のゼウエンがカウンターのつもりで拳を放つ。

「ぐはっ!?」

 無防備な後頭部を打ち抜かれた挙句、続けざまに鳩尾に拳を突き立てられたドーレはたまったものではない。そのままゆるゆると倒れ、気絶したところをゼウエンが首を踏みつけて骨を折り絶命させる。

「くっくっく。馬鹿な野郎だ……吹き飛ばされてきたようにも見えたが、流れ弾でも食らったか」

 ゼウエンが笑うが、繰気弾はまだ消えてはいない。笑って大口を開けていたゼウエンの、その大口の中に強引に押し入って、そのままぐいぐいと体内へと侵入。大猿化したベジータならばともかく、巨漢であるだけのゼウエンは食道をぶち破られ、内臓を破壊されてそのまま斃れる。

「くそ、この妙な気功弾はあのクラッシャー共の攻撃か!!」

 仲間を倒されたクウラ機甲戦隊とスラッグ軍団は、こっそりと裏で操っているヤムチャではなく、繰気弾が狙わなかったターレス一味の仕業であると勘違いしたようだ。無論、ヤムチャの思惑通りの形となったわけである。

 急に敵が減ったと思って喜ぶのも束の間、ターレス一味に二つの勢力の矛先が向いたことにより、一層攻撃の手が厳しくなる。ターレス一味のアモンド・レズン・ラカセイの三名は瞬く間に討ち取られていき、数で勝っていたはずが残りはダイーズとカカオの二人だけとなる。

 だが、こうなると不思議なもので、今度はまだ三人残っているスラッグ軍団へと攻撃の方向が向けられる。まるでバランスを取らねばと思っているかのようであるが、個々の実力で勝るクウラ機甲戦隊は、既にスラッグ軍団を壊滅させれば勝ったも同然であり、ターレス一味としては、勝つためにはスラッグ軍団とクウラ機甲戦隊に潰し合いをしてもらう他ない。戦闘は継続しているがその実、安全圏から気功波を撃っているだけの消極的攻勢である。

 こうして、今度はスラッグ軍団のドロダボが追い詰められた末に殺されてしまう。残るスラッグ軍団はメダマッチャとアンギラ。クウラ機甲戦隊はサウザーとネイズとなった。

 ヤムチャが亀仙人にこの単独任務を言い渡されたのは、単に機を見るのが得意なだけではなく、乱戦になればなるほどトリッキーな活躍をする繰気弾を使うという部分もあったのだ。自由に操ることができるだけに、乱戦でも不意打ちを決めやすく、特定の勢力を敢えて狙わないことにより場のコントロールさえこなしてしまう。

 さらに、ヤムチャは繰気弾をネイズの後方まで土中で移動させて、そのネイズを無視して、サウザー目掛けて一直線に突き進ませる。

「ぬっ!!?」

 この精鋭部隊の乱戦の中でも、最も戦闘力が高いのはサウザーである。流石に向かい来る繰気弾に気づいて気功波で迎撃するが、これを繰気弾は軽やかに避けてしまう。結果として、サウザーの気功波はネイズに直進することとなり、まさか味方の攻撃が飛んでくるとは思っていなかったネイズは為す術もなく黒こげになって事切れる。

「へへへ、馬鹿が同士討ちをしやがった。いくぜ、アンギラ!」

 メダマッチャが好機と見て、残ったサウザーに突進を仕掛ける。これに呼応したアンギラも突進していくが、二人同時でもサウザーは一歩も引かずに格闘戦を続ける。

「よし、今のうちに背後から全員撃ちぬくぞ!」

 蚊帳の外と化していたターレス一味が一気に勝負を仕掛けようと拳に気を集中させるが、そんなことはさせはしないとばかりに、ヤムチャは繰気弾でダイーズの頭を撃ちぬき、そろそろ良い頃合いだとみて、直接カカオにかめはめ波を放つ。

「う、うぐっ……き、貴様は地球人かっ!!?」

 突如現れた巨大な気の塊に掻き消されゆくカカオは、不敵に笑う地球人の姿を見た後に、この世から消え去る。

 ばたばたと倒れゆく精鋭たち。最後に残ったのは、スラッグ軍団の二人と、クウラ機甲戦隊のサウザーの三人であった。そして、ヤムチャがターレス一味に代わって乱戦の輪に入る。

「いくぞ、真・狼牙風風拳!!」

 ヤムチャの持つ技の中でも、最も殺傷能力に優れた技。それが気で爪を作り出して連打を浴びせる真・狼牙風風拳である。

 突然の闖入者に、三人は一斉にヤムチャに注目するが遅い。界王拳を一気に10倍まで高めたヤムチャは一気に距離を詰めて不意打ち気味にアンギラを引き裂き、メダマッチャを突き殺す。地球の危機であるからして、容赦はしない。

「……ふっ。なるほどな、貴様がドラゴンボールの在処を知る地球人最強の戦士か。確かに強いが……俺のほうが強い!!」

 サウザーはスカウターの数値を見て、にやりと笑って突撃する。

 だが、サウザーは勿論知らない。ヤムチャが瞬間的な界王拳の切り替えを行うことができることを。スカウターで拾いきれない一瞬の気の増幅が可能であることを。

 それでも、ヤムチャも知らない。サウザーもまたヤムチャと同じく気で作り出した刃での攻撃が得意技であることを。

 サウザーが攻撃の瞬間に、気の刃を発動させてヤムチャに斬りかかる。不意打ちのことで、流石にヤムチャも驚いて避けきれないと思っての一撃であった。袈裟がけに真っ二つになるヤムチャを脳裏に描いたサウザーだが、気の刃はヤムチャの頬を微めただけであり、次の瞬間、ヤムチャの気爪がサウザーの腹を貫いていた。

「……な、何故……?」

「簡単だ。手刀にしては間合いがやや遠かった。わざわざ空振りするような攻撃を繰り出すはずがないからな。似た技を持っているとすぐにわかったぜ」

 それだけ言って、ヤムチャは気爪をぐいっと引き上げてサウザーを切り刻む。残酷なようだが、地球を滅ぼしかねない悪を相手に情けをかける余裕はない。ベジータのように仲間になるかもしれないと脳裏をよぎりもしたが、それにしてもサウザーをはじめ、この精鋭部隊はあまりにも純粋すぎる悪なのだ。

 フリーザに渋々従いながらも野望を秘めていたベジータや、そもそも詰めの甘いラディッツ。大魔王ではない、純粋な悪ではなくなっていたピッコロなどとは根本が違う。

「……謝らないぜ。攻めてきたのはそっちなんだからな」

 無残な死体が転がる荒野に、ヤムチャはそれでもやり切れない思いを残しながら、仲間たちと合流すべく再び元の場所に戻っていくのだった。




たまには無双するヤムチャがあってもいいと思うんです。
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