Dragon Ball KY   作:だてやまと

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修行!

 カリン塔を離れた二人が向かったのは、カプセルコーポレーションであった。別にヤムチャがブルマに会いに来たわけではない。確かに現時点では恋人同士なのだが、未来を知る二人にとって、ブルマはすっかりベジータの妻として定着してしまっており、ヤムチャとしてはあまり顔を合わせたくないほどである。しかし、それでも向かうのは、悟空を超えるためには、どうしても必要なものがあったからだ。

「何、重力制御室?」

 ブルマの父、ブリーフ博士に面会をした二人は、理由を告げることもせずに要求を突きつけた。これは決して無礼を働こうという思惑ではなく、博士を理解しているからこその振る舞いである。ホイポイカプセルという重力や質量を制御するシステムを開発したブリーフ博士は、一代で巨万の富を手に入れた人間である。だが、その本質は根っからの科学者であり、新たなる研究が最大にして唯一の道楽なのだ。特許によって幾らでも転がり込んでくる金の使い道などロクに無く、適当に寄付をしたり面白そうな研究をしている科学者に支援をしてみたりと、かなり大雑把な使い方をしている。手元に巨額の金を使わずに置いておくと、経済が滞って最終的に自分も損をすることを彼はよく知っていた。

 そんな博士であるからこそ、娘の友人の頼みなど朝飯前に受け入れてしまう。ましてや、彼らがピッコロ大魔王に立ち向かい、自分たちの命を救ってくれたに等しい存在であれば尚更であった。

「ふうむ。確かにホイポイカプセルの原理を応用すれば難しくないがね。修行に使うとなると広さと頑丈さが必要になってくるだろう?」

「出来れば、気圧操作もできると尚更ありがたいです。高所トレーニングも兼ねられるので」

「ほう、それは面白い。肉体への負荷は相当だが、効果的な修行を同時平行で行える環境というのは研究として楽しそうだ。幸い、庭にスペースがあるからそこを改造しよう」

 実にアッサリと話は決まった。そして、博士の恐ろしいところは作ると決めた時には、既に実行に移しているという点だ。重力制御室という言葉を聞いた時から構想がすぐに頭に浮かんでいたのだろう。電話を取り出して瞬く間にカプセルコーポレーションの社員に必要な資材を集めるように連絡している。

 悟空がナメック星に行くために使用した宇宙船など、数日で作られたものである。ブルマの頭脳や行動力もまた賞賛に値すべきものであるが、それが父親譲りであることは間違いない。

 

 ちなみに、クリリンとヤムチャが重力制御室での修行を決めたのは、亀仙人の甲羅つきトレーニングから始まり、神様謹製のの超重いシャツやリストバンドをつけての修行。さらに界王星での十倍重力下でのトレーニングに、宇宙船での修行と、とにかく悟空が超重力下での修行を幼少からずっと続けてきたことにある。

「やっぱり、気の強さじゃ勝てないと思うんだ。あいつらホラ、そのうち金色になるし」

「ですよねえ」

「でもさ、セルのときにトランクスが気ばっかり強くして、セルにボコられてただろ。やっぱり戦いはスピード優先だ」

 元々、ヤムチャとクリリンはパワーで押すタイプの戦士ではない。小柄なクリリンに至ってはその傾向が特に顕著で、豊富な技と素早い動きだけを見れば、ピッコロやベジータでさえも認めたほどである。ヤムチャもまた、単純なパワー勝負では天津飯に遅れを取るが、その本領は狼牙風々拳のような速度と技量での勝負。或いは操気弾のような高度な気のコントロールにある。気の絶対量で敵わない反面、二人の持ち味を最大限に伸ばしてやれば、活路を見出すことはできるのだ。

「オレ達はがむしゃらに強くなることばかりを考えていたが、それだけじゃきっとダメなんだ。長所を伸ばしに伸ばして、自分たちだけの強さを手に入れる。勿論、基礎もしっかりとやらないとすぐに戦いについていけなくなっちまうけどな」

 自分たちの長所で戦う。それは本来ならば当然のことであるはずだが、戦力に於いて圧倒的な差がある場合、長所や短所は無意味になる。クリリンもヤムチャも、己を限界まで極めて尚、サイヤ人や多くの敵には手も足も出なかった。ならばこそ、まずは己の限界を超えるという荒業を成し遂げねばならないのだ。そして、彼らに追いついた上で、自分たちの長所で戦う。少なくとも、現時点ではまだそれは可能なはずだ。可能であるならば、それをしないわけにはいかない。

「じゃあ、重力制御室が完成するまで、とりあえずは軽く組み手といきましょうか。カリン様相手じゃ本気も出せなかったですし」

「おう。けど、気円斬だけは勘弁しろよ。もう死ぬのは勘弁だから」

 クリリンとヤムチャは、笑いながら距離をとって、不意に気を静める。軽い組み手といえども、同格の存在との勝負である。

 まず最初に動いたのはヤムチャだった。素早い身のこなしという一点においてはクリリンに分があるが、狼牙風風拳のような、格闘の連携攻撃にはヤムチャのほうが一日の長がある。間合いを詰めて、格闘戦に持ち込めばリーチや体格の差で優位に立てる。

 風をまいて突進するヤムチャに、クリリンも素早く反応する。まずは後方に大きく跳び、距離をとってから小さな気弾を牽制で放ってヤムチャの勢いを殺そうとするが、ヤムチャも戦闘においては老練の域である。手刀で気弾を弾いて、さらに距離を詰める。

「しゃあっ!」

 クリリンを間合いに捉えたと見て、ヤムチャが鋭い突きを繰り出す。クリリンはそれを身を低くして避けると、敢えて前進して懐に潜り込み、脇腹を狙って拳を突き出す。小柄で手足も短いクリリンであるが、それ故に最大限まで近接すると、極めて格闘が困難になる。勢いを乗せた攻撃を行おうとするには近すぎるのだ。尤も、相手の懐に入り込むのが至難の業であるため、ヤムチャのように突進を仕掛けてくる相手でなければ取れない戦法でもあるのだが。

 クリリンの拳は、咄嗟に身体を捻ったヤムチャに寸前でかわされたが、体勢を崩したところに追撃をかける。牽制の足払いから、不意打ちの顔面への連携攻撃に、ヤムチャは分が悪いと見て大きく後方に飛びのいた。

「リーチが短いことを武器にするとはな」

「あんまり身長、伸びなかったものですから」

 クリリンが自嘲気味に呟く。武闘家として、大きな体格はそれだけで憧れであり、クリリンもまた成人してからも身長が伸びることをずっと期待していた。だが、結局人並みの身長に至ることは無く、それを運命と割り切って短躯ならではの戦法を編み出した頃には、戦いについていけなくなっていた。気の操作を得意としており、それを最大の武器にするとは決めているが、格闘戦が出来なくては話にならない。

 一拍の間を置いて、今度はクリリンが攻撃を仕掛ける。先ほどは意表を突いた攻撃で機先を制したが、格闘戦においてはヤムチャに利がある。

 クリリンを迎え撃つ形になったヤムチャは、クリリンが取った行動とは逆に、ぶつかり合うように突撃する。すかさずクリリンは気弾で自分の進路を急激に変えてかわそうとするが、ヤムチャがすがるように軌道を変えて追いかける。直線の動きでは分が悪いと見て、クリリンは舞空術を随所に織り交ぜた撹乱戦法に切り替える。

「はっ!」

 ある意味、愚直なまでにクリリンを追いかけるヤムチャの拳が空を切る。目で感じようとせずに、気を捉えて攻撃を繰り出すのだが、初動の差からクリリンには攻撃が届かない。

 さらにクリリンは動きに緩急をつけて、ヤムチャの攻撃を誘う。ヤムチャもそれが陽動であることは理解していたが、敢えてクリリンの作戦に飛び込んだ。

 逃げてばかりでは話にならない。クリリンはヤムチャの攻撃の隙を見て、飛び蹴りを放つ。だが、ヤムチャはそれを待っていた。

 クリリンの飛び蹴りを、かすかに身体を捻ってダメージを最小限に抑えると、そのままクリリンの胴を両腕でがっちりとつかみ、地面に叩きつける。

「ぐぇっ!?」

「しゃあっ!」

 身体が軽くバウンドして、反応しきれないクリリンにヤムチャはすかさず連打を浴びせる。一度捕まえてしまえばヤムチャ得意のラッシュで、一気呵成に勝負はつく。

 風をまいて襲い掛かる、狼の牙の如き拳。亀仙流として一から鍛えなおしてからは、その修行から導き出された動きで翻弄しつつ攻撃する、新狼牙風風拳である。

 激しい連打に、クリリンは為す術も無く打ちのめされていく。だが、ヤムチャもスピードだけは本気だが、パワーは抑えている。決してクリリンを倒したいわけではなく、あくまでも組み手である。さほど堪えてもいないだろうが、一旦仕切り直すために距離を開ける。

「いてて……やっぱり連打となるとヤムチャさんから逃げるのは難しいなぁ」

「お家芸ってやつだ。そう簡単に逃げられちゃ話にならないさ」

 ヤムチャが手を伸ばすと、クリリンはその手に掴まって身体を起こす。

「さあ、続けようか。経験はあっても、まだ勝負勘が帰ってきていないみたいだしな」

「へへ、また修行しなくちゃいけないことより、また強くなれることのほうが嬉しいとか。俺たちどこかおかしいですね」

 クリリンとヤムチャは呵々と笑い、再び組み手に明け暮れた。

 

 

 重力制御室はブリーフ博士の指示の元、三日で作り上げられた。

 分厚いコンクリートを敷き、鋼鉄で囲って、重力を閉じ込めた上に、衝撃に耐える仕組みになっている。広さも天下一武道会の武舞台程度はあり、まだ全盛期とは程遠いクリリン達にとっては十分すぎる頑丈さと広さである。ブリーフ博士曰く、ステレオの位置が定まらないとのことだが、基本的に修行中に音楽は聴かないので、全く無用の長物である。

 内部に入ったクリリンとヤムチャは、ステレオセットを無視して早速修行を開始することにした。

「何倍から始めようか?」

 ヤムチャが制御パネルを開いて、重力の設定コンソールを表示させる。重力は1,5倍から100倍まで自由に入力できるようになっていた。100倍と言えば、ナメック星に行く途中に悟空が修行していた時と同じ重量だ。

「まずは5倍くらいから始めましょうか。界王星で修行をしたときが、確か10倍でしたよね?」

「ああ、あのときよりも身体はまだ弱いからな。5倍だと俺で400Kg程度になる計算だが、まあそれぐらいなら容易いだろう」

 ヤムチャがコンソールを弄り、重力を5倍に設定する。途端に、二人の身体は地面に縫い付けられたかのようにずしりと重くなり、クリリンは思わず膝をついた。

「うげ……5倍でこれか……」

 想像を超える重さに、ふと先ほどまで自分たちが修行用に鉛入りのシャツを着込んでいたことに気付く。合計で50Kgになる錘であるから、小柄なクリリンにとっては自分の体重が倍になっているようなものである。実質、10倍の重力を受けている計算だ。

「ぬ、う……し、失敗した……と、とりあえず服を脱ぐぞ」

 ヤムチャは必死に服を脱ぎ、ようやく立てる程度の重みになった。クリリンも服を脱ぐと、立って見せる。

「……とりあえず、歩くところから始めようか」

「そうですね」

 二人の修行は、赤ん坊レベルからのスタートとなった。

 片足を上げる程度で手間取り、数時間後には耐え切れずに元の重力に戻した。歩くだけで一苦労である。

 だが、成果を得ることはできた。たった数時間の重力でも、元に戻ったときに嘘のように身体が軽かったのだ。成果が出れば修行は一気に楽しくなる。翌日も二人は5倍重力での歩行訓練に挑み、さらに日を重ね。最終的にボロボロになって動けなくなると、仙豆を食べて万全の状態に戻る。そんな無茶な修行を一週間も繰り返すと、5倍重力の中でも腕立て伏せ程度ならできるようになってきた。

 さらに一ヶ月。思うように身体が動くようになってくれば、組み手へと修行を移行。超重力下での組み手は思っていた以上にハードであり、二ヶ月を要した。

 結局、5倍重力を完璧にものにするのに要した時間は三ヶ月半近く。天下一武道会への期間のうち、八分の一が過ぎてしまっていた。

 だが、おかげで随分と気の総量と肉体の頑強さは増したといえる。組み手の相手が同じ修行を続けているものだから、誰かを圧倒するような達成感が無いのは残念であるが、成果は全て天下一武道会で見せればいいだけのことだ。

5倍重力の次は7倍。ここでも大いに苦労した。元々、通常の重力で生活するように構成された肉体であるから、どれだけ鍛え上げても、最初から10倍の重力の中で生まれたサイヤ人とは違って、中々成長してくれない。気を開放すれば10倍重力下でも動くことが出来るようになったが、肉体への負荷が減ってくれないのである。

 十数年、通常の重力に慣れ親しみ、その環境下で鍛えられてきた肉体を何とかしなければならなかった。どのような手段を取るべきかと相談するクリリンとヤムチャであったが、答えは長い戦いの記憶の中にきちんと存在していた。

「セルと戦ったとき、悟空は超サイヤ人の状態をベースにしてた。要は、あれだ」

 本来は戦闘形態である超サイヤ人の状態を日常生活でも維持することによって、負荷を減らす。つまり、強引に肉体を慣れさせてしまうという手段である。

 さらに強くなるためには、まず強くなるための土台を作らねばならなかったのだ。悟空が強いのは、生まれた環境や血によるものに、修行を上乗せしたものだ。同じ修行を続けてきたクリリンとの違いは、土台の部分でしかない。

 二人は早速、重力制御室に家財道具を持ち運び、まずは3倍重力下での「生活」を試みた。食事や読書、テレビ観賞など、リラックスできる環境で、きちんとリラックスできるまで身体を慣らそうとしたのである。

 勿論、トレーニングも欠かさないのだが、あくまでも筋力トレーニングと瞑想などに留め、人が生きるための活動のほとんどを超重力下で行うようにしたのである。もっとも、サイヤ人などには及ばないにしても、趣味も日常も概ね鍛錬に費やしてきた二人である。ただでさえ叶えられなかった夢を、改めて追いかける機会を得て修行こそが人生であると思い至っているのだ。食事や家事は兎も角、暇潰しに本を読むことすらあまり得意とは言えずに、結局イメージトレーニングをしてしまったりと、思わぬ難航を見せたのだが。

 それでも、一週間で寝転がってテレビを観ることが出来るようになった。一ヶ月ではじめて欠伸をすることができた。さらに三ヶ月を経て、睡眠にまで成功した。最も無防備で、リラックスした状態である睡眠に至ったということが、重力を克服したという証明であろう。二人は続いて4倍に挑戦して、少しずつ、少しずつ強靭な肉体への土台作りを進めていく。

 結局、二人が天下一武道会に出場するまでの期間で克服したのは、7倍重力まで。ボロボロになった道着を新調して、修行の場を作成した上に、修行中の食事や寝床の面倒まで見てくれたブリーフ博士に丁寧に礼を述べると、二人は確かな手ごたえを感じつつ、天下一武道会の会場へと向かった。

 


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