Dragon Ball KY   作:だてやまと

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危うくエタりかけました。人狼が悪い。


噛ませ犬の足掻き

 ターレスを一方的に降したチャオズ。

 スラッグと戦うラディッツと悟飯。

 クウラを言い包めてスラッグにけしかけるヤムチャ。

 悟空やピッコロ。ベジータにクリリン、天津飯という頼れる仲間がいない中、地球の運命は未だに絶望の淵に立たされたままである。

 それでも戦士たちは折れず、活路を見出すために懸命に足掻く。

 

 

 激しい戦闘による気の動きは、チャオズやヤムチャにとって手に取るように理解できた。

 チャオズは一人、神精樹の種を蒔いた場所まで飛ぶ。幸い、地球の危機を知った神様によって場所は特定されており、苦労はなかった。

「育ってたら危なかったけど……よかった。ほとんど根を張ってない」

 チャオズは超能力を使って、地盤に食い込んだ神精樹の根を引きはがしていく。まだほとんど成長していないものの、周囲の岩盤を突き破っていることから、とんでもない代物であることが理解できる。

 これが育っていれば、確かに地球ごと消滅させるしか手は無かっただろう。岩盤ごと引っぺがして、根を全て引き上げたチャオズは気で消滅させて、念のため、さらに神精樹の気を探る。

 植物とは生命であり、当然気を有している。莫大な成長力と生命力を持つ神精樹ともなると、その気も並の人間よりははるかに大きく、容易に探り当てることができる。

「……うん、完全に消えてる。これで、あとはスラッグとクウラ……待ってて、みんな。ボクがいくまで持ちこたえてて!」

 チャオズは再び気を探る。探るまでも無く大きな邪悪な気と、よく知った二人の気が伝わってくるのだが、それに近づく二つの気も感じ取れた。

「ラディッツと悟飯、強くなってるなあ。ヤムチャは……クウラと戦ってないのに一緒にいる。とにかく急がなきゃ」

 チャオズは気を噴出させてラディッツと悟飯が戦う場所へ向かった。

 

 

 不思議な偶然なのか、或いは必然だったのか。

 チャオズがラディッツ達のところに到着するのと同時に、クウラとヤムチャも姿を現していた。

 ラディッツと悟飯。それにスラッグは激しく争っている場面であったが、突然の闖入者に気付いて距離を取る。悟飯の隣にチャオズが降り立ち、ヤムチャとクウラはスラッグの前に立った。

「貴様が地球に来たムシケラか。運が悪かったな……オレがいなければ、死なずに済んだものを」

 クウラの言葉は、スラッグに向けられたもの。スラッグはクウラの戦闘力を探り、軽い絶望を覚えた。

 規格外。化け物。それは本来、自分に向けられるべき言葉であると思っていたが、それを目の前の異形は軽く飛び越えている。

「……ぐ、ぬう」

「死ね」

 宣告はたったの二文字。クウラが指先から放ったデスビームはいともたやすくスラッグの頭部を貫き、スラッグはどさりと倒れた。

 地球人とは違う、血の色。ナメック星人は再生能力を有しているが、頭の核が無事である限り再生ができるだけであり、逆に言えば、核さえ壊せば再生は不可能となる。脳などの主要臓器と、核を破壊されては、さしものナメック星人も容易く死に至ってしまう。

「……ふん。どれほどのものかと思えば、こんなクズか」

 クウラはくるりと振り返り、ヤムチャを見る。ヤムチャは苦笑いしながらも、スラッグが死んだのを確認すると、クウラと真っ向から視線を合わせた。

 先ほどまで次元の違う強さを誇っていたはずのスラッグが、たった一発の攻撃で。しかも、何気なく放ったかのように見えた技で死んでしまったことに、ラディッツと悟飯はたじろぐ。これがクウラ。規格外の強さを誇る、文字通りの化け物だ。

 だが、ヤムチャだけは知っている。フリーザを直接見たことはないが、一度地球にフリーザが来たとき、これ以上のパワーを感じたものである。まだまだクウラが本気ではないことも、ここまでに圧倒的な力の差があることも、わかっていた。邂逅を果たしてすぐのときのような絶望感は既に消え去っていた。

「助かったぜ。おかげで、倒さなきゃいけない奴が一人になった」

「くっくっく。騙されてやったのだ。ありがたく思え」

 この展開を予想できないほどクウラは馬鹿ではない。どちらにしてもスラッグはクウラにとっても邪魔な存在であるから、倒すことは決定していた。案内役になるだけ、騙されてやったほうが楽なものだと判断したに過ぎない。

 無論、ヤムチャもそれはよく理解している。状況を把握してきた仲間たちも、やるべきことがはっきりと理解できた。

 あとは、この絶望を切り抜ければいいだけだ。

 

 戦闘経験において、今地球にいる戦士の中で豊富と呼べるのはヤムチャとラディッツであった。

 数々の惑星を滅ぼしてきたラディッツと、時間遡行の末にこの場にいるヤムチャ。慣れているが故に、戦って勝ち目がないことも理解していた。

 戦闘力に換算すれば、クウラはおよそ7000万。現在は気を抑えているのか、半分にも満たないものの、潜在能力を探れば大よその数値は見えてくる。

 対する地球の戦士たち。まずヤムチャであるが、超神水の効果で戦闘力を上げただけであり、2万ほど。界王拳をほんの一瞬だけ30倍まで引き上げることに成功はしているが、それでも60万が限度である。

 ラディッツは二度の起死回生により、大幅な戦闘力の上昇を果たしているが、それでも15万前後。20倍程度の界王拳ならば使えると仮定しても300万。

 悟飯は界王拳が使えない。戦闘力は元々の潜在能力の強さが引き出されたのか10万に至っているが、怒りを爆発させたとしてもクウラには遠く及ばない。否、存在しないに等しいレベルだろう。

 そして。一年間、精神と時の部屋で修業を重ねたチャオズ。今は気を抑えているが、開放すれば界王拳を使わずとも、20万に至っている。

 チャオズの強さ。そして、元の時代で数々の強敵を打ち破ってきた戦士たちの強さには、理由がある。彼らは、敵がいなければ強くはなれないのだ。

 目前に迫る強敵と言う目標が、戦士たちを強くする。元の時代でサイヤ人の襲来という危機に、ヤムチャやクリリンは一年間で200前後から1000を超える戦闘力に至っている。5倍を超えるほどの急成長である。

 もちろん、神様という新しい師匠がいればこそではあったが、それでも悟空が神様のもとで修業をしていても、そこまでは伸びなかった。悟空とピッコロの二人で、悟空を犠牲にしてようやく勝てたラディッツを知り、それより強いという二人のサイヤ人の存在を知ったからこそ、ヤムチャ達は急激な成長を果たしたのだ。

 平たく言えば危機感によって、修業への取り組み方が変わってくるわけであるが、遡行者でもない人間からすれば、そうそう凶悪な敵が攻めてくるなどという想像などできるはずもなく、致し方ないこととも言える。

 そういう意味では遡行者たるヤムチャとクリリンの成長は極めて緩やかなものだともいえるわけだが、別に仲間と足並みを揃えたわけではない。無論サボっていたわけでもない。

 悟飯は足を竦ませて、完全に腰が引けている。ラディッツは忌々しげに顔を歪ませて、クウラを睨み付けるが彼我の実力差に軽い眩暈を覚えるほどだ。

 チャオズとヤムチャ。この二人は、ただ意志の強い瞳をクウラに向けるだけだった。

「チャオズが修業してくれていたのはラッキーだった。攻撃は任せたぞ」

「……じゃあ、それ以外は任せたよ」

 二人の地球人は慌てることも、怯えることもなく、クウラに対峙する。

 ヤムチャはたった2万。チャオズは20万。まだ実力の半分も見せていないクウラだが、それでも2000万はあろうかという戦闘力に敵うはずがない。それでも、二人は前に進む。

「ふん。サウザー共よりは使えそうと思ったが、忠誠心が足りんな」

 クウラは面倒とばかりに、まずはヤムチャに矛先を向ける。戦闘力としてはこの場で一番低いヤムチャは、尻尾を振り回すだけで首を落とすことができるだろう。

 ただし、わかっていたからと言っても己を欺いた罪は重い。顔を潰して苦しみながら死なせようと、拳をヤムチャの顔に目掛けて突き入れる。

 2000万と2万。その差は歴然であり、結末も瞭然である。はずだった。

 ほんの少し力を込めただけで消し飛ぶはずのヤムチャであったが、クウラの拳を受け流し、にやりと笑う。

「どうしたクウラ。オレを殺すんじゃなかったのか?」

 一撃で殺さず、嬲る算段が裏目に出たのであろう。憎まれ口をたたくヤムチャにクウラは舌打ち、これ以上神経を逆なでされるのも癪だとばかりに勢いよく蹴り上げようとする。

 だが、これはヤムチャが避けていた。まさしく紙一重。風圧でヤムチャの道着は引き千切れ、細切れになって散っていく。

「む?」

 絶対にヤムチャには避けられない速度であったはずだ。今の二人の差は、蟻と象のようなもの。軽く撫でるだけで殺せる相手であるはずが、なぜかヤムチャは死んでいない。

「どうした。痛めつけるにしても、当てないと意味がないぞ?」

 ヤムチャの挑発は続く。ならば、今度は確実に殺そうと少しだけ力を入れて殴りかかるクウラだが、違和感を覚える。

 ヤムチャの胸を突き破るはずの拳が、横合いからヤムチャの腕で払われている。まるで腫物を扱うかのような、丁寧な受け流しであった。触られたという実感すらないままに、クウラの拳は空を切り身体が泳ぐ。

「馬鹿な……お前の速度で見切れるはずがなかろう」

「……だよな。どうして当たらないのか、よおっく考えてみろよ」

 相も変わらずヤムチャは薄ら笑いを浮かべてクウラを見る。苛立つクウラに、ラディッツや悟飯は呆然とするばかりである。

 クウラの一撃はどれも、ヤムチャでは見切ることができないほどの速度であり、まともに食らえば即死を免れない強烈なものであった。たとえ界王拳を全開にしたとしても、耐えられるはずもなければ見切ることすらできない。

 しかし、ヤムチャはまるで羽毛のようにゆるやかに、クウラの攻撃をほんの少しの動きだけで躱している。

 クウラは苛立ちながらも、ならばとばかりに連打で攻める。

 左の拳は完全な撒き餌。それを躱したところに本命の右の蹴りを叩き込み、それで終い。それも見切られていたとしても、今度は右の拳を使えばいい。

 クウラの読み通り、初撃は躱されたものの、右足の蹴りはヤムチャの腹を捉えようとする。しかし、これはヤムチャが蹴り脚を軸に身体を回転させて衝撃を分散させる。ならばと追撃した右の拳は、再びヤムチャに受け流されて、泳いでしまった体勢を立て直そうというところで、ちくりと左わき腹に何かが触れる。

「……ふん」

 ヤムチャが受け流しから素早くクウラの脇腹目掛けて蹴りを入れていたのだ。しっかりと捉えていた攻撃ではあったが、彼我の実力差に如何ともしがたくダメージと呼ぶのも烏滸がましい、本当に触れただけのようなものになってしまっている。

 クウラの攻撃は当たらない。ヤムチャの攻撃はダメージにならない。

 戦闘力は1000倍。それでも両者は極めて短期間ではあれど、互角と呼べる勝負をしている。

 クウラは苛立ちながらも、ヤムチャのパワーが脅威ではないことを悟る。それと同時に、後方にて隙を伺う二人の戦士に注目する。

 チャオズとラディッツが気を溜めている。気を探る能力がないクウラではあるが、ヤムチャの消極的ともいえる戦法と、黙して構える二人を見ていれば、おのずと戦法は見えるというもの。確かに二人の攻撃であれば微細ながらダメージは受けるかもしれない。

 だが、笑止。全ての戦士を一撃で屠る力を持つクウラが大砲であるならば、ヤムチャは輪ゴムを飛ばしているようなもの。ラディッツやチャオズでも玩具のピストルでしかない。

「調子に乗るな、カス共!」

 気功波をヤムチャに放ち、消滅させようとする。しかし、ヤムチャは気功波さえも受け流し、距離を詰めてくる。鬱陶しいだけのハエにも似た動きにクウラは猛スピードでヤムチャを迎え撃ち、真正面から殴りかかる。

 ヤムチャは慌てない。繰り出された拳を横合いから受け流し、すれ違いざまに小さな気功波をクウラの後頭部に打ち込む。決してダメージを狙った攻撃ではない。あくまでも、注意を自分に向けておき、クウラを苛立たせるためだけの行動だ。

 クウラの攻撃は確かに致死確定の威力を秘めており、本来ならば掠っただけで身体が砕けかねないものだ。それでも、ヤムチャは自分の上を行く速度のクウラの攻撃を見切り、すべて受け流している。

 これぞ、ヤムチャが元の時代で長らく時間を費やしていた技の一つ。戦いについていけなくなり、それでもライフワークとなっていた修業をやめることができずに編み出した奥義とも呼べるもの。

 繰気弾や狼牙風風拳のような、攻撃のための技ではない。敵にダメージを与えることすらできないほどの、圧倒的な力量差のある敵との戦いだけを想定して鍛えた技。

 そう。このヤムチャの奥義は、相手が自分よりも遥かに格上でなければ通用しない代物となっている。

 自分が絶対強者であるという自負を持ち、全力の勝負などほとんどしたことのないような怪物にだからこそ通じる技。少々悪く言えば、力におぼれて技を磨いていない者に対する切り札である。

 触れれば死ぬような凶悪な攻撃も、横から軌道をズラすだけで当たらない。そして、相手を弱者と見下して行う攻撃は予備動作も丸出しであり、一手先、二手先を読むのは極めて容易い。相手が強ければ強いほどに、ヤムチャは手に取るように先を読み、避け続ける。怒れば怒るほどに攻撃は単調になり、判断力を失っていく。

 クウラは未だダメージらしいダメージもなく、疲れてもいない。だが、ヤムチャは動じない。少なくともこの時点で、ヤムチャはクウラと幾度か拳を交わしているが死んでいない。

 途方もない戦闘力の差と、不思議と拮抗した勝負に悟飯は呆ける。このような戦いは初めて見た。当らない攻撃と、当てても意味のない攻撃。この最強の矛と盾のような二人の攻防は、なぜか圧倒的不利に見えるヤムチャに余裕があり、クウラが追い詰められているようにも見えるのだ。

 クウラはしばらく様子を見ていたが、やがて苛立ったのか、戦闘力を引き上げる。

 求めるのはこれ以上の攻撃力ではなく、速度。攻撃が見切られているのであれば、それを超える速度で粉砕すべきであるとの結論だ。

 小賢しいことに、技ではヤムチャに圧倒的な分がある。だが、クウラはそれに苛立つことはあっても負けたとは思っていない。技術など、弱者が足掻いて頼るものであり、圧倒的な戦闘力こそが最大最強のこの世の理であると確信しているからである。

 戦闘力は4000万に至り、大地は震え、雲が消し飛ぶ。少しでも気を感じ取る能力があるならば、存在を感知するだけで消し飛んでしまいそうな圧倒的なパワーだ。

「……足りないな」

 ヤムチャはにやりと笑い、歩を前に進める。クウラの放つ威圧感は以前にも増しているが、過去の記憶の中にあるセルや、遠くから気を感じ取っていたブウ。それに超化した悟空やベジータたちサイヤ人に比べるとあまりにも弱い気だ。

 自分では決して到達しえない戦闘力なのかもしれない。しかし、先ほどの戦闘が既に答えを出している。

 クウラの攻撃は以前にも増して速度を求めた単調な攻めになっており、見切るだけならば一層容易くなっている。

 まっすぐに突き出された拳を、横から弾くように受け流し、泳いだ体勢のクウラの顎に目掛けて肘打ちを増したからかち上げる。これもダメージにはならないが、一端はインファイトに持ち込む必要があるのだ。

 クウラの拳が次々に繰り出され、ヤムチャはそれを的確に捌く。気をピンと張りつめ、相手の予備動作から予測するのだが、ヤムチャが見るのは単に予備動作だけではない。気の流れや筋肉の収縮。目に頼るだけではなく、五感を研ぎ澄ませて、あらゆる角度から次の攻撃を予測するのだ。

 クウラがこれでも足りないのかと苛立ちを隠さなくなってきたところで、ヤムチャは距離をとる。追撃に入ったクウラだが、回り込むことすらせずに直進するという、あくまで絶対王者の戦い方をしたのが不味かった。

 ヤムチャとクウラの間に割って入るかのように、一筋の光線がクウラ目掛けて飛んでくる。ヤムチャしか追っていなかったクウラは、どうせ目くらまし程度であろう小さな光線など無視して突き進む。それが、丹念に練り上げて凝縮した気の塊であることなど、王者には知る由もない。

 どどん波。殺傷力だけで言えばかめはめ波の上を行く、これもまた強敵相手に通用しやすい技の一つである。通常、その連射力を生かした早撃ちとして使うことの多い技であるが、チャオズほどの気の熟練者がこれを扱う場合、幾つものスタイルに分けることができる。

 ヤムチャがしっかりと時間を稼いだおかげで、その威力を最大限まで高めている。20万の戦闘力を持つチャオズが、一瞬で引き上げた界王拳の数値は50倍。戦闘力1000万で放ったどどん波は、いくら4000万のクウラといえども全く無視できるほどの貧弱な攻撃であるはずがなかったのだ。

 正確にクウラの鼻頭を狙い撃ったどどん波はクウラの上体を反らせ、顎を持ち上げるに十分な威力があった。並の敵ならば貫通しているところであるから、それだけでもクウラの強さがわかる。だが、いくら強かろうが顎をカチ上げられてすぐさま行動に移ることのできる者などいない。

「ライオットジャベリン!!」

 完全に浮いた顎に、畳みかけるように放ったラディッツのライオットジャベリンも見事に命中。いくら強かろうが、これはかなりのダメージになったはずだと笑うラディッツだが、爆風の中からクウラは突如として現れる。

「サイヤ人風情が、調子に乗るな」

 先にラディッツとチャオズを始末しようと目標を変えたのであろう。クウラの突撃に不意を突かれたラディッツであるが、横合いからクウラの身体を一筋の閃光が弾き飛ばす。体勢を泳がされたところに、再び閃光は襲い掛かり、戦場を縦横無尽に駆け巡る。ヤムチャがクウラの行動を読み、先に用意していたものだ。

 本来ならば捉えることのできないほどの動きを見せ、従来ならば絶対に押し負けるパワーを持つクウラだが、ヤムチャの経験則と研ぎ澄まされた感性。さらに天性として与えられた、翻弄するかのような戦い方。どれもこれもが、格上相手との負けないための戦いに向いている。

「どうしたクウラ。俺を殺すんじゃなかったのか?」

 まるで蠅のようにブンブンとクウラにまとわりつく繰気弾にクウラは苛立ちを隠せず、気を全身から放出して繰気弾を掻き消す。迸る熱波に表情をゆがめながらも、ヤムチャはクウラの真正面に立つ。

 クウラにダメージらしきものはほとんど見受けられない。気は減るどころか、怒りによって膨れ上がるばかりである。このまま地球ごと消しかねないような力に、ただ構えてみることしかできない悟飯は死を予感する。だが、不思議と逃げ出す気にはならなかった。

 悟飯のそばにいる仲間は、誰一人して怯えた様子など見せていない。チャオズはいつものまん丸の目をして、無表情ではあるが、長らく修行を共に続けた悟飯には、静かな闘志が奥で渦巻いていることがよくわかる。ラディッツにしても、ヤムチャにしても、諦めたり悲観したりする様子は微塵もない。むしろ、勝つための算段を着々と進めている。

 幼い悟飯にとって、彼らの背中は途方もなく大きく、そして憧れるに足るものである。微かに震えた足は、武者震いだろう。そして考える。今の自分にできることを。ヤムチャの神業や、チャオズのような一撃も放てない。

「……よし!」

 悟飯は静かに気を溜め始める。クウラに比べればあまりにも小さな気かもしれない。どう足掻いても敵わないかもしれない。だが、それでも出来ることがあることをヤムチャが教えてくれた。

 悟飯の様子に、ラディッツは思わずニヤリと笑う。この状況を打破するためには、この小さな戦士の活躍が必須だったからだ。甥の精神的な強さもまた、笑った理由ではあったのだが。

 

 

 クウラとヤムチャの格闘戦は圧倒的な戦力差を覆すことはなくとも、致命的な一撃を食らうこともなく進んでいた。

 だが、全神経を研ぎ澄まして戦い続けるヤムチャと、怒りこそしているが圧倒的な自信で攻めるクウラでは疲労の溜まり方も違う。チャオズが第二撃を放ってこれを命中させているが、やはり大したダメージにはなっていない。

 ヤムチャの流れるような動きに、クウラは翻弄されている。が、その実でチャオズさえ始末してしまえば終わることを確信しており、ここで強引な戦法に切り替える。ヤムチャに攻撃を受け流された勢いそのままにチャオズに向かって突進を開始。完璧に頭に血が上っているように見せていたのが幸いしてか、ヤムチャの反応が一歩遅れる。

 向かい来るクウラに、チャオズは三発目のどどん波を放つ。しかし、真正面から撃ったそれは容易くクウラに弾かれ、ぐんぐんと距離を詰められていく。

 これに唯一反応したのがラディッツだった。全身に滾らせた気をそのままに、全力でチャオズとクウラの間に割って入る。界王拳で一気に気を高め、真っ向から迫りくるクウラの拳を受け止めようとする。

 どん、と衝撃が走り、ラディッツの両腕が文字通り、ミンチになってはじけ飛ぶ。圧倒的な破壊力の前には、いくら気を高めようが話にならない。

 それでも、ラディッツは笑う。チャオズはすかさず太陽拳を放っていたからだ。

 凄まじい閃光に、クウラは思わず目を腕で覆い、その隙をついてチャオズがラディッツを抱えて飛び下がっていた。途中で仙豆をラディッツの口に放り込み、両腕も再生させてしまう。

「魔閃光!!」

「繰気弾!!」

 ここぞとばかりに、悟飯とヤムチャがクウラに攻撃を重ねる。しかし、やはりそれらはダメージと呼ぶにも烏滸がましいものだ。だが、復活したラディッツの戦闘力を感じ取れば少しでもダメージを与える価値がある。

 数値にして、100万。つい先ほど、15万前後だったラディッツが凄まじい勢いで成長したのだ。サイヤ人の特性の恐ろしさはここにある。敵が強ければ強いほど、起死回生の強さは跳ね上がる。より強靭に、より素早く。だからこそ、フリーザはサイヤ人を危惧したのだ。

「はあああああっ!!!」

 逆転の系譜。それは、やはりサイヤ人にかかっていた。ヤムチャは苦笑する。やはり、どう足掻いても自分たちはクウラやフリーザのような敵には敵わない。

 だが、今考えるべきは目前の脅威であって、自分たちのエゴではない。ヤムチャもまたクウラとの戦いで擦り減った気を仙豆で回復させると、再び近接戦に挑むべく前に出る。

 ラディッツは界王拳を20倍に引き上げて2000万の戦闘力で立ち向かう。およそ、クウラの半分ほどであるが、これは無視できるレベルではない。ヤムチャが受け流し、ラディッツが攻める形を取りつつも、チャオズと悟飯が控える。

「ええい、雑魚どもがッ!!」

 クウラは遂に怒りを爆発させて、戦闘力を7000万に引き上げる。クウラの――少なくとも今のクウラにとっての最大の力を引き出して、全力でヤムチャ達を葬ろうとする。

 全方面に気を放出させて、ヤムチャ達を消し飛ばそうとする。だが、その気の流れなどヤムチャにとっては手に取るようにわかってしまう。後ろに大きく引いて、ダメージを最小限にまで抑える。それでも全身が焼け焦げるが、すぐさま仙豆で回復する。

 最早、仙豆に頼るしかないのである。地球と言う豊かな星で、弱小民族として育ってきた地球人には、確かに圧倒的な戦闘センスを誇るサイヤ人や宇宙の覇者たるフリーザ一族のような強さは無いが、弱いからこそ身に着けてきた気の操作や、たちどころに傷を回復する仙豆がある。地球人として戦うヤムチャは、それらを最大限に駆使するしか道は無い。

 これは持久戦だ。圧倒的破壊力を持つクウラとて、最大限の力をいつまでも維持できるはずがない。戦えば戦うほどに気は減る。そうなれば、ラディッツやチャオズがその力を最大限に放出する機会が生まれる。

 ヤムチャは、痛みすら心地よく思えてきて、ボロボロの道着を破り捨てながら、ニヤリと笑うのだった。


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