Dragon Ball KY   作:だてやまと

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VSクウラ

 クウラと戦士たちの戦いは、泥沼と言っていい様相を呈してきていた。

 全方面への気の放出以外でヤムチャに対してダメージを与えることができないクウラ。しかし、それすらも気の流れで看破されてしまい、致命傷には至らずに不思議な豆で回復されてしまう。

 一方、戦士たちも決め手に欠ける。ラディッツやチャオズの攻撃はクウラに届きはするのだが、決定的なダメージに至らず、いたずらに時が過ぎていく。

 怒りに我を忘れるクウラは、ヤムチャにとって一撃の恐れはあるものの、捌きやすい相手と化している。しかし、自分から攻撃できないのもまた事実。強敵と真っ向から戦うために身につけた技巧は間違いなくその力を発揮しているのだが、これはあくまでも悟空のような最強の戦士や、クリリンのように格上を一撃で仕留める気円斬のような必殺技を持っている仲間がいてこそ真価を発揮する。クウラほどの強敵を相手に、チャオズやラディッツの攻撃力では足りないのだ。

 打開策を練るほどの余裕は、ヤムチャにはない。掠るだけで身体が吹き飛びそうなクウラの攻撃を引き受け、全神経を注ぎ込まねばならないのだ。

 ラディッツはヤムチャとクウラの戦いの隙を窺いながら、渾身のライオットジャベリンを叩き込むべく気を高めている。急に立場を取られたチャオズだったが、慌ててはいない。まだ、奥の手があるのだ。そして、ラディッツという僅かでもクウラにダメージを与える存在が出てきたことで、チャオズは長い精神集中の時間を得ている。

 界王拳を高め、気を増幅させたチャオズは、溢れんばかりの気を両腕に集中させる。

 亀仙人の教えに光の道を歩みだした天津飯とチャオズだが、鶴仙人の教えや技術を忘れたわけではない。ましてや、気の扱いに優れつつも肉体的に劣っていたチャオズには、鶴仙人によって幾多の技が仕込まれている。

 自爆とて、その一つ。己の肉体を無視してすべてを爆発力に変える禁断の技は、亀仙人は開発すら思いつかなかったであろう。残酷な技ではあるが、チャオズは決して自爆を忌避しない。要は使い方であり、どのような意思のもとに行使するか。大事な存在を護るために命が惜しくないのならば、それはきっと百万語の正義の言葉よりもまっすぐに、正義を貫くことになるだろう。

 ただし、今はその時ではない。今、全力で自爆をすればクウラにダメージを与えることも可能かもしれないが、現時点でチャオズたちは絶望的な状況ではない。自爆せずとも、勝てる道が残されている。ならば、まずはその勝ち筋を目指すのが最善である。

 両腕に溜めこまれた気が激しく渦巻き、チャオズの精神を蝕もうとする。本来は全身を流れる気を一か所に溜めこんで放つ気功波は集中力を伴うが、この技はそれだけではない。気を暴れさせてその破壊力を跳ね上げるということを、己の肉体の中で引き起こすのである。当然、コントロールに凄まじい労力が伴い、下手にすべての気を注ぎ込むと発射と同時におのれも力尽きる恐れがある。

 これぞ、鶴仙流の奥義、気功砲である。天津飯は消耗を抑えた、より洗練された新気功砲を開発して使用したが、当然ながら威力は落ちる。チャオズは気の熟練でこそ秀でるが、気の総量では戦士たちの中でも劣る。ならばこそ、安定した必殺技ではなく、たとえ身が滅びようとも破壊力に秀でた元来の気功砲を選んだのである。

 チャオズが気功砲を練り上げていく中、ヤムチャはクウラの拳を受け流しつつ、遂に追い詰められていく。クウラがヤムチャの動きを落ち着いて読みはじめ、少しずつ逃げ場所を無くすような戦い方を始めたのだ。

 さすがに王者の風格を落とすような戦いはしないが、それでも一撃の威力を殺してでも、追い詰めようとするクウラの動きにヤムチャは焦りを覚える。そして、クウラの拳が遂に避けきれないタイミングを見定めて、ヤムチャの腹部に向けられる。

「ぐッ……!!」

 ヤムチャのくぐもった声が漏れるが、クウラが思い描いていたような、腹を貫かれて絶命しているヤムチャは存在しなかった。完全に身動きを取れないタイミングだったはずのヤムチャだが、体勢とは関係なく動くことのできる繰気弾が、ヤムチャを弾き飛ばしていたのだ。自分で自分を攻撃する形でもあるが、致命の一撃に比べれば大したことではない。完璧に捉えたと思っていたクウラは突然獲物が横合いに吹っ飛んでしまったことで虚が生まれる。

 最大の好機に、チャオズは両の手に溜めこんだ気を一気に放射する。

「気功砲!!」

 ヤムチャが弾き飛ばされ、クウラとの距離が開いたところで渾身の気功砲が炸裂する。まばゆい閃光が奔り、クウラを飲み込んでいく。

「ぬっ!?」

 その迫力に危機を察知したクウラだが、逃れる術はない。王者としては防御など屈辱であるが、それでも屍を晒すよりはよほどいい。両腕で身体を護り堪えるが、チャオズが全力を注ぎ込んだ気功砲は確かにクウラの皮膚を焼き、蝕んでいく。

 じりじりと焼かれる感覚に、クウラは遂に全力で防御に回る。これほどの気の放出を今まで繰り出さなかった理由は、明らかである。極めて危険を伴う技か、ひどく時間のかかる技であるか。クウラは瞬時にそれを見抜き、ならば耐えてさえしまえばいいという結論に達したのだ。

 だが、そこで気づく。あの地球人たちは、瞬時に体力を回復させて、傷を癒す不思議な豆を持っている。ならば、この責め苦はずっと続くのではなかろうか。

 気の奔流は止まる事を知らぬかのように続く。このままでは、こんな矮小な種族に、負けてしまうのではないか。

 一瞬だが、クウラの脳裏をよぎったのは得も言われぬ不安であった。そして、その不安はクウラに一つの決心をさせる。

「こ、こんなことが……まさか、こんなことで……!!」

 クウラは怒りにわなわなと震えながらも、気功砲の光に身体を焼かれていく。しかし、焦りはしない。

 もはや、恐れるものは何もないのだから。

 

 

 チャオズは暴れ狂う気をなんとか制御しながら、ひたすらに気功砲を放出し続けていた。

 クウラの気が、減っている。それがわかる戦士たちにとって、この攻撃をやめるという選択肢は無い。だが、チャオズの気の残量も、既に尽きかけている。悟飯が仙豆を与えようとするが、必死に歯を食いしばって気をコントロールするチャオズにそんな余裕があるはずもない。

「が、がんばって! チャオズさん、がんばって!!」

 悟飯に残された手段は、最早応援しかなかった。必死で気功砲を放ち続けるチャオズに声が届いているかはわからないが、それでも悟飯は叫ぶ。

 そんなときだった。

「おおおッ!!!」

 不意に、悟飯は横合いから、思い切り蹴り飛ばされていた。

 岩盤に叩きつけられ、何が起こったのかわからない悟飯は、咄嗟に新たな敵かと体制を整えるが、違う。

 悟飯を蹴り飛ばしていたのはラディッツだった。鬼のような形相のラディッツが、悟飯を見て、にやりと笑う。

「……へへ」

 ラディッツの口から漏れでたのは、安心したかのような微かな声。そして、それがラディッツの最期の言葉だった。

 ごぷりと、ラディッツの口から大量の血が吐き出される。胸元からは、何故か拳が突き出ている。そして、その拳が引き抜かれると共に、ラディッツはその場にどさりと倒れ、事切れる。

「……ラディッツおじさん?」

 何が起こったのか、悟飯は理解ができなかった。強く厳しい伯父であったが、優しくもあった。父である悟空とは違うその優しさと厳しさは、悟飯に戦う意思を教えてくれた。その、ラディッツが一瞬のうちに死んだ。しかも、自分を庇って。

「ふん、殺す順番が変わったか。まあ良い……耳障りなガキの声が、心地よい悲鳴に変わるかと思えばそれもまた一興」

 斃れたラディッツの後ろに立っていた敵――先ほどと同じ声で、同じ性質の気を持った――は、だがしかし、その姿を変えていた。身体は一回り大きくなり、厳つくなっている。

 そして、そんな外見よりも、その気の量に、悟飯は言葉を失う。先ほどの倍は裕にある。これぞ、クウラの奥の手であり、普段はその力を持て余すことから封印していた真の姿である。

「……やられた」

 あまりの速度に気付くことすらできなかったヤムチャは、ラディッツの死に、顔をゆがめた。

 悲しいとか、怒りだとか。そういう感情は既にどこかに消えている。ドラゴンボールという存在が、人の死をひどく曖昧にしてしまっているからだ。事実、ラディッツはこれが「初めて」の死である。元の時間に比べれば遅いぐらいであり、生き返らせる機会はきっとある。だが、今この状況を乗り切らねば、それすら危うい。

 そういう、冷徹ともいえる戦士の思考になっているのだ。

 サイヤ人であるラディッツは、即死さえしなければ、仙豆の併用でクウラを倒すほどの力を身に着けていたかもしれない。ヤムチャは、そのような算段もつけていた。

 だが、仙豆を与える間もなく殺されてしまった今、それも望めない。残るは、碌にダメージを与えられないヤムチャと悟飯。それに、チャオズのみ。

 事実上の敗北であった。かくなる上は、逃げるしかない。逃げて生き残れば、まだ悟空たちが生きている今、取り返しがつく。

「チャオズ、悟飯、退くぞ!!」

 ヤムチャの決断は早かった。だが、次の瞬間、再び予想だにしない展開が巻き起こる。

「うわあああああああああッ!!!」

 悟飯が、キレていた。がむしゃらに、一体どこにそんな力を隠していたのかと言うほどの気を爆発させて、クウラに殴りかかっていた。

 だが、それもクウラには蚊がさす程度のものである。全力で殴り掛かった悟飯の一撃を尻尾で払うと、そのまま軽く蹴り飛ばす。悟飯は再び岩盤に叩きつけられ、小さな体をボロボロにして、そのまま痙攣を繰り返す。

 今まで、怒りによって驚異的な力を発揮させてきた悟飯であるが、如何ともしがたい実力差では、それも虚しい。やむなく、ヤムチャはチャオズを見る。こうなれば二人で逃げるしかないと思ってのことだった。

 だが、そのチャオズは、最大の奥義を打ち破られたばかりか、仲間が死んだ中ですら、戦う意思を放棄してはいなかった。

『ヤムチャ。ボクが戦う……けれど、この技は未完成。ヤムチャがさっきクウラと戦っていた時のように、ボクの気の流れを、よく見ていて』

 ヤムチャの脳に直接、チャオズの声が聞こえてくる。

 チャオズの言葉の意味がヤムチャにはよくわからない。しかし、チャオズの顔にはまだ敗北を示すような色は無い。仲間の死に怒り、だが決して冷静さを欠いてはいない、戦士の顔をしていた。

 ならば、賭けるしかない。未完成の技を試したいだけではないはずだ。ヤムチャに気の流れを見ていてほしいと頼んだことに、きっと意味がある。

「はあっ!!」

 チャオズは裂ぱくの気合いと共に気炎を巻き上げて、クウラに立ち向かっていく。界王拳すら使っていない。クウラは変身を遂げた上にラディッツを屠り、悟飯を戦闘不能に追い込んだことで溜飲を下げたのか、チャオズの突撃を嘲笑ってゆっくりと相対する。

 所詮はムシケラの一撃。敢えて一撃を受けて、チャオズの動きが止まったところを粉々に砕く算段であった。

 チャオズは止まらない。渾身の力を振り絞り、短い体躯を最大限に使って、クウラの顔面に殴り掛かる。

 そして、次の瞬間にヤムチャは確かに見た。どん、と鈍い衝撃音が響き、チャオズの一撃にクウラが吹き飛ばされる姿を。微動だにしないはずのクウラはその威力に吹き飛ばされ、岩山に叩きつけられ、それどころか突き抜けてさらに吹き飛ばされていく。

 さほどのものではないが、変身して最強となったはずの肉体に、確かにダメージを受けた。クウラは理解ができずに、吹き飛ばされながら激しい怒りに囚われる。

 一方、ヤムチャはチャオズが殴り掛かった瞬間の気の動きを見て、戦慄していた。

 チャオズが今まで使わなかった理由と、その威力の凄まじさの理由が、すべて理解できた。

「界王拳……」

 ヤムチャの呟きに、チャオズはにこりと笑う。そう、界王拳なのだ。原理はまさしく界王拳そのものである。だがしかし、その威力は今のチャオズに出せる代物ではない。

 そのカラクリは、界王拳の集約にある。

 本来、界王拳は基本的な戦闘能力を跳ね上げるブースターである。格上とも対等以上に戦うための、一時的なドーピングと思ってもいい。無論、原理はドーピングなどではなく、効率的に気を開放することによるロストエネルギーの回避であり、悟空が界王拳を「気をコントロールして」と発言している。

 それをクリリンは、瞬間的に界王拳を使うことで気の消耗を抑えて、界王拳の弱点である継戦能力を補った。いわば、瞬間界王拳。

 それに対して、今回チャオズが使用したのは界王拳の集約であり、つまるところ、拳にのみ界王拳を発動したわけである。至極、単純な計算である。全身から開放するための界王拳を、一点に集中すれば、その倍率は凄まじいことになる。

 チャオズが使用した界王拳は、本来の界王拳で換算すれば20倍。それを拳に凝縮したのだ。至極単純に計算するだけでも、威力は数十倍になっていることだろう。

 ただし、チャオズがヤムチャに伝えたように、この技は未完成。全身を巡らせる気を一点に集中させることにより、気のコントロールが極端に難しくなっているのだ。チャオズの元々の界王拳は50倍までの数値となるのに対して、20倍ほどでしか使えない。

 そして、チャオズがヤムチャに見ているように伝えた理由は、この技の危うさである。一点に集中させたことにより、他の部分は界王拳が発動していない。いわば、極端に防御力が下がった状態なのである。

『危ない技だけど、ヤムチャのあの見切りがあれば、活用できる。クリリンほどじゃないけど、クウラも倒せる技だってある……隙はボクが作るよ!!』

 チャオズのテレパシーに、ヤムチャはこくりと頷いた。やるしかない。見様見真似ではあるが、原理は界王拳と、気の一点集中の二つであり、ヤムチャは両方とも十分に習熟している。

 クウラが土煙の中から現れ、チャオズに向かう中、ヤムチャは全身の気を右の拳に集め、界王拳によって右の拳だけを高める。

 なるほど、確かに難しい。だが、チャオズには無い利点がヤムチャにはある。

「真・狼牙風風拳」

 気の爪を右拳に生み出したヤムチャは、今、自分が作り上げたそれに驚愕した。今までよりも鋭く、強いその爪は、これならば間違いなくクウラに通用するであろう技に進化していたのだ。

 チャオズはクウラの突撃に、土中に潜って姿を消したかと思えば背後に回って、再び拳に集めた界王拳で強襲を仕掛ける。その戦法はかつて、クリリンとの試合で食らったかめはめ波を自分の肉体に置き換えたものである。

「……よし!」

 ヤムチャは意を決すると、気の集中をやめて、気を窺う。チャオズが必死に開発したこの技であるが、著しい防御力の低下以外にも、もう一つの弱点があった。

 戦闘力そのものを高める界王拳の利点である、速度の上昇が無いのである。先ほどのように相手の油断やトリッキーな戦法なら通用するが、威力を悟ったクウラは回避を選択するであろう。それに、攻撃の威力は、速度によって大きく変わる。だからこそ、チャオズもこの技を最初から使うことはせずに、危機に陥ったこの時に、半ば賭けで使用したのである。

 だが、ヤムチャはこの技に希望を見出した。必殺の威力を秘める攻撃があるのであれば、勝機はある。

「ラディッツ……仇は取るぞ!」

 ヤムチャは覚悟を決め、一気に駆け出す。クウラはそれに気づくが、チャオズがここぞとばかりに太陽拳を放つ。

 この太陽拳に、視界を奪われたのはクウラだけではなくヤムチャもである。だが、気を探ることができるヤムチャに視界など不要である。そして、闇雲に拳をふるうクウラに向かい、まずは右脚に気を集中。界王拳を凝縮して地を蹴り、一気に加速する。

 その瞬間、ヤムチャの右脚の皮膚が裂け、血が噴出する。あまりの気の凝縮に、肉体がついてこれなかったのだ。だが、それを気に掛ける暇などない。急激な加速により、ヤムチャは今度こそ右拳に気を集中。凝縮界王拳で気爪を作り出し、クウラに突撃する。

「このクズがぁあああ!!!」

 視界を奪われたものの、ヤムチャの迫力に危機を察知したクウラが、気配を頼りに、ヤムチャを迎撃する。だが、当たらない。ヤムチャの見切りにより拳は空を切り、ヤムチャは受け流した勢いをそのまま加速に用いる神業を見せる。

「おおおおおおおおッ!!!!」

 ヤムチャが吼え、気爪がクウラの喉笛を掻き切る。ヤムチャが長年培った技術に、クリリンが気円斬を元にヤムチャのために開発した気爪。そして、チャオズが到達した最強の一撃。それらがすべて組み合わさり、ほんの一瞬だが、閃光のように眩しく燃える。

 それが人間の。地球人が持つ最強の力の所以である。

 クウラは、己の頭と胴体が切り離されるのを感じ取り、不思議な気持ちに陥っていた。

 先ほどまで、自分が圧倒的優位にいたはずである。変身を完了させて、最も強かったラディッツを一撃のもとに屠り、勝利を確信していたはずだ。それを、二人の地球人にあっさりと打ち破られた。

 一瞬のことだった。目が眩んだと思ったら怖気が奔り、迎撃すら叶わず、次の瞬間に首が飛んでいた。最強のであるはずの自分が、己の死を覚悟することすらできずに死ぬ。理解ができない。

「何故だ」

 胴から離れた首が呟く。最強の存在であるはずの自分が、脆弱な地球人などに負けるはずがない。一体、何故だ。

「認めん」

 最後に吐いた言葉は、意思を持つ。クウラが己の死を悟り、しかしそれをよしとせずに放った言葉は、離れてしまったはずの肉体をも動かした。

 すべての力を一撃に賭けたヤムチャは、右の拳も砕けたようで、血を流して肩で息をついていた。その背中目掛けて、首のないクウラが腕を動かし、デスビームを心臓目掛けて放つ。

 勝利を確信していたヤムチャにそれを避けることなど出来るはずもなく、背後から心臓を穿たれて血を吐いて倒れる。

「なっ!?」

 ヤムチャは起こったことが理解できず、クウラの頭を見る。その表情は最期に憎々しい地球人を道連れにしたことで、ざまあみろとでも言いたげな薄ら笑いを浮かべたまま、動かない。どうやら完全に死んだようだ。非情の敵ながら、その強大なパワーは凄まじかった。およそ自分の敵うレベルの敵ではなかったのだ。相討ちでもいいのではないかと、ヤムチャは笑う。

 心臓を貫かれたヤムチャに、チャオズは慌てて仙豆を食べさせようとするが、ヤムチャは口から血を吐きながらも、それを苦笑いで断った。

「へ、へへ……敵の油断を逆手に取ってきたが、最後の最後に詰めが甘かったらしい。俺も油断してやられるなんて、修業が足りない証拠だな」

「いいから仙豆を食べて!」

「いいや。ラディッツがあの世にいる……ちょっと、あの世で修業してくるさ。けど、ちゃんとドラゴンボールで蘇らせてくれよ」

 なるほど、かつての世界の悟空は、ラディッツ共々に死んだときに、死ぬのが嫌な感じだと表現していたそうだが、確かにこれは嫌なものである。ヤムチャは己の体が冷えていくような感覚の中、やれやれと目を閉じる。

 ここで死ぬのは想定外であったが、そう悪い話でもない。

 少し離れた場所で、心臓を貫かれて絶命したラディッツが倒れている。なるほど、自分も心臓を貫かれており、この状況は元の世界で悟空とラディッツも陥ったものである。今回は仲間であったが、死に方が一緒だとは皮肉なものである。

「旅は道連れ世は情け……か。まあ、旅って言っても死出の旅だけどな」

 ヤムチャは最期まで冗談を言い、思わず涙ぐむチャオズに向けて笑顔を作り、静かに息を引き取った。




長かったです。本来は全員でナメック星に行って、チャオズVSグルドとか、まあアニメでやった流れも多少回収しようかな、なんて思ってたわけなんですけど。

おかげさまでヤムチャ一乙。ついでにラディッツも一乙です。チャオズまで死んでたらクエスト失敗してるところでしたね。

ちなみにこのヤムチャとラディッツの死亡は完全に想定外&思い付き。クウラを倒すための凝縮界王拳は本来、対フリーザ戦のために連載開始前から温めていたネタでした。くっそ、こんなところで使うことになるとはな。
まあ、クリリンには別の方法で頑張ってもらいましょう。
ちなみに凝縮界王拳、威力は数十倍と書いていますが、完全オリジナル技なので倍率は作者が自由に(後付けで都合よく)設定できるわけです。2万のヤムチャが一瞬、50倍まで高めたとして100万。それを数十倍なので、まあ仮に50倍して5000万。
クリリンの気円斬がフリーザの尻尾を両断したところを見ると、多少切れ味で劣っても、なんとかなりそうな感じがしますね。
クリリン、あのときで確か10万にも及ばない戦闘力で最終形態フリーザ様の尻尾切り敢行ですから。

とまあ、時間がかかった割に内容は急ぎ足でしたが、多大なる犠牲を出しつつも無事、劇場版の敵との戦闘を終えることができました。
次回は少々、解説や事後処理などを加えつつ、いわゆるフリーザ編へと突入です。

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