Dragon Ball KY   作:だてやまと

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熱が入ったのか、余計なことまで書いたのか長すぎたので前後編に分けます。


ヤムチャVSマジュニア 前編

 続く準決勝二回戦は、ヤムチャ対マジュニア――ピッコロという組み合わせである。

 本来の世界であれば、ここで神様とピッコロが戦い、神様が魔封波を返されて魔でも無いのに封じられるという失態を犯すのだが、生憎とヤムチャは魔封波なんぞ使えないし、クリリンがピッコロといい勝負をしたという事実が、正攻法で行くという決断をさせている。

 クリリンのときは油断をしていたピッコロだが、どうやら注意深くヤムチャの気を探っていたらしく、眼光に緩みは無い。最低でもクリリンと同程度ほどの能力は有していると見抜いているのだろう。事実、気の総量で言えばクリリンとヤムチャにほとんど差はない。一応、クリリンのほうが僅かに多く、動きの素早さや気のコントロールで見てもクリリンが微かに上をいく。しかし、クリリンには体格という弱点も存在するのだ。確かに矮躯ならではの戦法を得手としているが、あくまでも苦肉の策である。

 また、気弾のコントロールにおいてはヤムチャの操気弾ほど正確な技もない。フリーザも追尾する気円斬のようなものを使ったらしいが、己の意思で完璧なコントロールができないのは、自らその気円斬に真っ二つにされた事実からも明らかである。

「それでは、準決勝第二回戦、はじめっ!!」

 思案も束の間、審判の声で二人はすぐさま戦闘態勢に入った。

 対峙したヤムチャとピッコロは一切の慢心も油断もなく、じっと構えたまま睨み合う。クリリンとの戦闘で、ピッコロに通用する実力を身につけた実感を持つヤムチャ。同じく、クリリン戦で一筋縄で行かないことを知ったピッコロ。気を抜くことなどできるはずもない。

 勝負は最初が肝心である。お互いの呼吸を探り、仕掛けるタイミングをお互いに窺う。

 五秒、十秒とにらみ合いが続くにつれて、観客は二人の水面下での駆け引きなぞ知るはずもなく、次第にブーイングが起こり始める。かつてのヤムチャであればここで面子を気にして攻撃に移っていたかもしれない。だが、既に精神は老人のそれであり、また、長らく前座に甘んじていたおかげもあってか、罵声も嘲笑も気にならない。あくまでもピッコロのみに集中して、彼の呼気を読む。

 まんじりと動かない二人に、クリリンや悟空、天津飯は額に汗を浮かべる。迂闊なフェイントなど、逆に手玉に取られかねないほどに二人の実力は拮抗しているのだ。

「っ!」

 だが、その均衡もついには崩れる。ピッコロの一瞬の息の継ぎ目を狙い、ヤムチャが地面を蹴って突進を仕掛けたのである。

 小細工は無用。真っ向勝負で勝ちたいと思うヤムチャと、孫悟空以外の人間に手こずるわけにはいかないというピッコロの思惑はこのタイミングで見事に一致。ピッコロもほとんど誤差なくヤムチャに向かって地を蹴った。

 後の先を取ろうとするピッコロに、それを読んでいたヤムチャは握った拳を振りかざすことなく、気弾を後方に放って推進力を使っての急加速。機先を制してラッシュに持ち込む腹積もりだろうと考えていたピッコロにとっては、予測外の行動と言える。

 しかし、ピッコロも戦闘の天才である。急加速してくるヤムチャが頭突きに来ると見抜き、小さな気弾を素早く放つ。

 それは微かにヤムチャの頭部を掠めるだけに留まったが、慌てたのはヤムチャだった。気弾で動きを制御していた上に高速である。微かに軌道を変えられただけで、狙いは逸れてしまう。

 結果、ヤムチャの突進からの急加速頭突きはピッコロに寸前で躱される。一瞬の出来事に、既に観客は試合をほとんど理解は出来ていなかった。

「はあっ!」

「ずあっ!」

 裂帛の気合と共に、両者は体勢を整えて再び激しくぶつかり合うと、今度は打撃戦へと移行する。

 手数の多さと鋭さにおいて、ヤムチャにも自負がある。この展開は願ってもないことだ。

「狼牙風風拳!」

 一気に畳み掛ける戦法は格下相手へとするものでもあるが、得意分野でとにかくダメージを稼ぎたいときにも有効となる。相手はピッコロであり、悠長に出方を伺い機を逃すわけにはいかない。

 練達の域に達したヤムチャの狼牙風風拳は既に過去の隙だらけの我流拳法ではない。この時代に来る以前に亀仙流で動きの無駄を省き、カリン様の修行で速度を上げ、神様の修業で相手の気配に合わせた複数の型を作り上げ、さらに界王様との修業で型に囚われない、元来の我流拳法ならではの迫力と変幻自在の動きに至った。

 素人が見ればがむしゃらな攻撃の中にも、ヤムチャが培ったあらゆる技術が詰まっているのだ。

「むっ!」

 攻撃の質が変わったことに気づいたピッコロは迫り来るヤムチャの拳を防ぎつつ、反撃の機会を窺う。だが、流れるような攻撃はすべてが一本の線で繋がっているかのように途切れがなく、強引に突破しようにも、一撃一撃が無視できない破壊力を秘めている。前回のシェンとの戦いで見せた狼牙風風拳とは一味違う。あのときも強烈な連打であったが、これはあらゆる攻撃が喰らえば戦闘に大いに響く箇所――喉笛や肺、心臓、首筋など、明らかに喰らえば致命となる箇所が狙われているのである。

 ピッコロとヤムチャのスピードはそこまで変わらない。しかもヤムチャが攻撃を緩めない上に、その攻撃がどれも喰らうわけにはいかないもの。

 これこそが狼牙風風拳の恐ろしいところである。一度防戦に回れば、反撃の隙など作れないのだ。

「はああああっ!!」

 一撃を当てた瞬間に、ピッコロの体勢は崩れて激しい連打を浴びせることができるヤムチャは、とかく攻め続ける。

 変幻自在で決まった型がないことがまた、ピッコロに動きの予測をさせずに反撃を許さない。

「すげえ、すげえぞヤムチャ!」

 悟空はこの場にいる中で、まともに狼牙風風拳を食らったことのある唯一の存在である。育ての親たる孫御飯を除けば、初めて己の力量に迫る相手との戦いであり、その決め技たるこの連撃を食らったときは、正直なところかなり堪えたものだ。それが、あの頃よりも数段洗練されており、自分でも防ぎきれる自信がない。

 同じく、防ぎ切ったにしても狼牙風風拳を放たれたことのある天津飯も驚いていた。前回は、確かに決め技にふさわしい高度な連打であったが、まだ荒く、野性というよりも猪突な部分が目立っていた。しかし、これは狩人として徹底的に無駄を省いた末の連打である。

「あれが前回完成していたら、それだけでゾッとする……」

 戦いを楽しむ傾向のある天津飯。否、むしろ悟空やピッコロ――ベジータやフリーザ、セルからブウに至るまで。すべての戦士は戦闘を心のどこかで楽しんでいる。だからこそ、戦いのさなかであれど言葉を交わすこともあれば、先ほどの試合では、悟空がシャツを脱ぐという宣言に、天津飯は何の迷いもなくそれを待った。

 だが、今のヤムチャの狼牙風風拳にはそのようなゆとりはない。あくまでも敵を倒すことを至上目的としており、鬼気迫るものすらある。

 しかも、それは一回戦で見せた、シェン相手の狼牙風風拳と使い分けることすら可能であるということだ。相手はピッコロ大魔王であるから、殺せるものならば試合を無視してでも殺してしまったほうがいいだろうと天津飯は思うが、それにしても強烈だ。

 どこかお人好しで、およそ過去に強盗を生業としていたとは思えないヤムチャに、ここまで冷徹な意思のもとに敵を屠るような技があったとは。

「おおおっ!」

 一方、ヤムチャは激しい連打の悉くを紙一重で躱すピッコロに舌を巻いていた。クリリンとピッコロの試合でわかっていたことだが、やはりピッコロは強い。

 一年ほどの修行だったとはいえ、まるでマゾヒストのように身体を痛めつけながら、これならば悟空にも勝てるかもしれないと思っていたのに、ようやく戦えるようになっただけ。つまり、追い越せてはいないということだ。

 しかし、自分たちは単純な戦闘力の強さを求めているだけではない。勿論、戦闘力は絶対的に必要だが、どう足掻いても地球人では届かない境地がある。それを補うのは、経験と知恵。つまり老練の域に至った強かさである。

「せっ!」

「調子に乗るなァ!!」

 しかし、ピッコロもやはり埒があかないと感じていたのだろう。何よりも押されっぱなしでプライドに障ったはずである。クリリンの時と同様に己を中心とした気の放出によってヤムチャの勢いを殺すと同時に突進。一気に勝負を決めるために、咄嗟のことで無防備なヤムチャを拳で滅多打ちにする。

「人間風情が、思い上がるな!」

「人間風情だから、足掻くんじゃないか!」

 殴られながらも、ヤムチャは超スピードで間合いを取り、ピッコロの背後に回り込む。人間風情の足掻きであることは、この上なく理解しているのだ。

 だが、あの孫悟空でさえサイヤ人の中では落ちこぼれと呼ばれていた。悟空が特別だったのかもしれないが、それでも足掻けば限界を超えることができることなど、偉大なる友人が証明してくれているのだ。

「つぇい!」

 渾身の蹴りを放つと、ピッコロは咄嗟にガードして間合いを取る。両者譲らない展開に、会場からは既に声は失われ、二人の激突を見守るほかない。

 しかし、接近しての格闘戦となるとヤムチャに分があると感じていたピッコロは、ここで作戦を変える。気を溜めて、気功波での勝負を持ちかけたのだ。慌てて接近を試みようとするヤムチャだが、寸前で思いとどまる。確かに気の総量ではピッコロが上で、格闘戦に再び突入させたほうがいいのだが、先ほどの全方位攻撃を間近で喰らうとなれば、流石に不味いのである。咄嗟の一撃であった先ほどの攻撃では大したダメージにはならなかったが、気を溜めている今ならば一撃で戦闘不能にまで追い込まれかねない。

 


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