クリリンと別れて、一人蛇の道を行くことにしたヤムチャは、まず近場にあった占いババの屋敷を訪ねた。
占いババは既にヤムチャが来ることを予見していたのか、出迎えの幽霊もヤムチャの顔を見るなり、すぐに門を通してくれた。
「ふむ。なるほどなるほど。以前にここに来た時よりも、ずっと強うなっておるな。用件はあの世への行き方で良かったか」
さすが、話が早くて助かるとヤムチャは舌を巻く。どうやら地球の危機レベルにまで至ると占いもままならないらしいが、ヤムチャの来訪とその意図程度ならば見えるらしい。
「閻魔様に聞いたことがある。界王星での修行がお望みとな?」
「ええ。今より強くなるためには必要ですから」
「ヒエッヒエッ。わざわざ未来からご苦労なことじゃて」
占いババの言葉に、ヤムチャはヒヤリとする。自分が未来から時間を遡行していることまで気づかれていたということだろうか。
「ヌシらの心意気は、よくよく理解しておるて。まあ、少々無茶な願いではあるようじゃがな」
カラカラと笑う占いババにヤムチャは苦笑で返す。この不思議な老婆は一体、どこまで知っているのかわからないが、少なくとも自分たちを応援してくれるようではある。
「それで。可能なのでしょうか?」
「あの世に行くには死ぬのが手っ取り早いが、流石に死にたくはなかろうて。ワシが連れて行ってもいいが、閻魔様の許可がなければ界王様には会えぬ。面会するならば神様に頼む方がよかろうて」
やはり、地球の代表たる神様のほうが話を通しやすいようだ。
「では、神様にお願いしてみます」
「うむ。しかし、先にカリン様に仙豆をできるだけ貰っておいたほうが良いじゃろうて。死人は腹が空かんが、生身ならば餓死してしまう」
「あ。それは忘れてました」
危うく餓死するところであった。生きたまま行って、そのまま死んでしまっては話にもならない。仙豆は十日は何も食べなくてもいいぐらいに腹が膨れるのだ。傷の治癒ばかりに目が行きがちではあるが、こちらも忘れてはならない。食料の持ち運びが、小さな袋一つで済むのだ。
それを失念していただけ、占いババを訪ねた意味はあった。ヤムチャは丁寧に礼を述べるとカリン塔に向けて飛び立っていった。お付きの幽霊が不思議そうにヤムチャの背中を見送り、隣で愉快そうに笑う占いババに問いかけた。
「あの人、そんなに凄いんですか?」
「大して強くなかった……いや、あくまでも過去のことで、彼の仲間の中ではの話じゃがな。少なくとも、今は地球で最強じゃろうて」
地球人として見たとき、彼は間違いなく世界で二番目に強い。それは過去の歴史でも変わることなど無かったことだ。しかし、サイヤ人やナメック星人を踏まえても、今この地球上で一頂点に立っているのだ。
地球人も捨てたものではないと占いババは笑い、幽霊はその様子をやはり不思議そうに眺めるだけだった。
一方、カリン様に仙豆を貰った後に神殿に向かったヤムチャは、神様に修行をつけてもらっている天津飯とチャオズに挨拶もそこそこ、ミスターポポに取り次いでもらい、神様に界王星に行く許可を得ることを申し出た。
「なるほど、確かにお主ならば蛇の道を通って界王様に会えるかもしれん。しかし、一体どこで界王様の存在を知ったのだ?」
「あー……えっと、占いババにもっと強くなる方法を教えて貰ったら、界王様の噂を聞いたんですよ」
このあたりの処世術はヤムチャの得意とするところでもある。無論、神様とて他人の嘘程度は見破れるが、生憎と占いババのように未来を見通す力は無い。ただ、ヤムチャの性根に悪意がないことは理解できた。少なくとも、あの世とこの世を自在に行き来できる占いババならば、界王様の噂ぐらいは知っていよう。嘘にしても、最低限の筋は通していた。
「よかろう。本来は生身で行くものではないが、閻魔様に頼んでやるとしよう」
神様は物分りが良かった。否、本来はこのような人間の願いを一々聞き届ける義務などないのだが、ヤムチャには一度、いくら人間の体を借りていたとはいえど負けているのだ。元々天才格闘家であるという自信があった神様は、内心で負けを悔やんでいた。そして同時に、このヤムチャという男。それに悟空やクリリン。今この場で修行を続ける天津飯やチャオズなど、若く強い戦士の育成に楽しみを見出していた。
自分よりもずっと強くなれる戦士たちを、より良い環境で学ばせてやりたい。天津飯とチャオズは未だに神様でも十分に鍛える余地が残っているが、ヤムチャとクリリンはもう神様を超えており、教えることなど何もない。かくなる上は、もう界王様しかいなかったのも事実なのである。
「では、行くぞ。準備はよいな?」
「ええ、お願いします」
神様とヤムチャがあの世へと移動しようという時に、後ろから彼らのやり取りを眺めていた天津飯が声をかけた。
「神様。その界王様のいる星に、オレも行くわけにはいかないでしょうか?」
既に心を無にして、気を捉える修行を天津飯は終えている。チャオズの修行は未だに続いており、天津飯はミスターポポを相手に組手を繰り返しており、まだまだ伸びしろはあるのだが、ヤムチャやクリリンに追いつきたいという一心に、よりハードな修行を求めていたのだ。
ヤムチャは天津飯の気を探る。抑えてはいるが、潜在力は既にかなりのものであり、未だにヤムチャやクリリンには及ばないものの、蛇の道の攻略にさほど時間はかからないであろうことが容易に想像できた。先祖は三つ目族という宇宙人である天津飯は、先祖返りを起こして、その能力も地球人よりも一段上だ。また、彼のストイックな性格も手伝って、修行の効率はヤムチャやクリリンを超えるところがある。
神様は流石に天津飯の言葉を素直に頷くことはせずに、ヤムチャを見る。ヤムチャの裁量に任せるということだろう。
一人で手早く済ませようとしていたが、天津飯ならば足手纏いになるようなこともあるまい。最悪、途中で遅れたとしても行きも帰りも一本道であるから迷うことなどありはしない。
「チャオズはいいのか?」
「うん、ボクはここでもっと強くなる」
「そうか。じゃあ天津飯と二人で行くか」
あっさりと了承したヤムチャに、神様は多少驚いたものの、天津飯の稀有な才能は神様も知るところである。まだまだ自分でも教えることがあるにはあるが、界王様に鍛えられたほうが良いに決まっている。
かくして、ヤムチャと天津飯は揃って界王星への道のりを進むことになった。
平和な五年の月日を過ごす戦士たち。
孫悟空はチチとのあいだに悟飯をもうけて、薪割りや狩りで一応の雑事をこなしつつも、のんびりとした鍛錬を続けている。
ピッコロは修行を続けながらも、新必殺技を考案中。クリリンもまた、重力制御室内にてヤムチャも使用可能な新技を開発している。
ヤムチャと天津飯は生身のまま界王星へと向かい、チャオズは神様のもとで修行を続けている。
平和であることを喜び。そして、それでもまだまだ強くなりたいという思いを胸に秘めて。
一年、二年と月日が経ち、まるで走馬灯のように五年が過ぎていく。
とある惑星を責め滅ぼすために、人数が要る。同胞ならば相性も良いであろうし、何よりも今では唯一の家族となってしまった弟の成長した姿を見てみたい。
そんな思惑をもってして地球に降り立った一人のサイヤ人。名をラディッツといった。地面につきそうなほど長い髪が特徴的で、目元は血筋なのか弟であるカカロット――孫悟空とよく似ている。
何故か滅んでいない地球人に驚き、しかもいきなり戦闘力5のおっさんに発砲されて二度びっくりのラディッツであったが、とりあえずはカカロットと合流しようとスカウターを遠距離探索に切り替える。一番近くにいたピッコロに向かっていったが人違いであり、これまたいきなり埃を巻き上げられるという嫌われっぷり。何もしていないのに攻撃されるとは、地球人の方がよほど好戦的である。
続いて、ようやくカカロットらしき戦闘力を捉えることに成功して、意気揚々と海の上を飛んでいく。反応は小さな島にぽつんと一件の家が建った場所から出ていた。地球人にしては珍しく、戦闘力が400ほどの者がほかにもいるようだが、1500のラディッツの敵ではない。
かくして、自信満々の表情でカメハウスに到着したラディッツを出迎えたのは、彼の弟の孫悟空と、その脇にいる甥っ子の孫悟飯。それにカメハウスの住人たる亀仙人とウミガメ。連絡を受けたブルマとクリリン――だけではなく、そのクリリンが連絡したヤムチャと天津飯、チャオズが揃っていた。
けっこう強い奴が多い。そうは思いつつも、まずは弟にはるばる宇宙を渡って地球にまでやってきた意図を説明する。
俺たちはサイヤ人で、今は惑星単位の地上げ屋稼業であるということ。どうにも定職についていなさそうな弟にとっては、良い就職口であろうという世話の気持ちもあったのだ。まずは再会を喜びたいところだが、目的を先に済ませておくあたり、ラディッツは根が真面目なのだ。
だが、何を血迷ったのか――あくまでもラディッツの感覚としてだが――弟が裏切って「働かない。自分は地球人だ」と吐き捨てたのである。誇り高きサイヤ人にあるまじき意見である。
これにはさすがのラディッツも怒り、役に立たないなら殺そうかとも思ったのだが、まずはお互いに冷静にならねばならない。どうやらどっぷりと地球に染まってしまった弟は一筋縄で意見を変えることはすまい。ならば、まだ幼いが賢そうな甥にサイヤ人の誇りと強さをしっかりと教えてやり、子が親を導く形で弟を懐柔しようと企んだ。
流石に抵抗した悟空だったが、兄には勝てずにあっさりと一撃でノックアウト。これに周囲も驚いて何もできないであろうと踏んだラディッツであったが、ここでまた計算が違った。
坊主頭のチビが悟空を守るように立ち、顔に傷のある男が甥を。三つ目と白いチビがジジイと女と亀を守るように布陣を整えていたのだ。
「おいチビ。戦闘力が400ほどの貴様が、1500の俺に敵うはずがないだろう?」
「やってみなくちゃわかんないだろ。悟空の子供は渡せない」
これだから弱い奴はダメなんだと、ラディッツは仕方なくクリリンを殺そうと殴りかかる。だが、その拳はクリリンの腕にがっちりとガードされ、気づけば懐に潜り込まれており、強かに腹を十発以上殴られて吹き飛ばされた。おそろしく速く重い拳に、ラディッツは空中で制止しながらスカウターで再度計算する。
坊主のチビ――クリリンの戦闘力は、2056。さきほどの5倍近くに跳ね上がっていたのである。
「そ、そんな馬鹿な……?」
慌てるラディッツだが、慌てる暇すら無い。
「どどん波!」
「どどん波!!」
「操気弾!!」
天津飯、チャオズ、ヤムチャからの援護が飛んできたのである。二つのどどん波を辛うじて避け、最後の操気弾もギリギリで躱したラディッツだが、そこにクリリンの追撃が入る。
思い切り顔面を蹴飛ばされ、流石に逃げたほうがいいと飛んで帰ろうとしたところで、ラディッツを追いかけてきたピッコロと鉢合わせする。
「げ……!」
「む……!」
まさかこの緑色も強いのかと警戒するラディッツと、先ほどのまったく攻撃が効かなかったピッコロは、お互いに一歩を躊躇った。が、突如としてラディッツが随分まったりとヘッドバッドをカマしてきたので、思わず蹴り返すピッコロ。蹴り返してから、それがヘッドバッドではなく、後頭部から操気弾をブチ込まれて前に倒れただけだと気づいた。
「よし、押さえ込め!!」
海に落ちていこうとするラディッツを、ヤムチャの操気弾がカメハウスへと弾き飛ばし、そこに天津飯が組み付いた上で、チャオズが超能力で動きを止める。一瞬のできごとに、悟空や亀仙人たちは呆然と眺めるしかできなかった。
「いや、マジですまなかった。どうか命だけは助けてくれ」
ラディッツは平身低頭、弟とその仲間たちに助命嘆願をせざるを得なかった。鎖で縛られていたとしても平気で引きちぎるラディッツであるが、目の前の数人の地球人が睨むだけで身動きなど取れるはずもない。
悟空とピッコロはともかく、後の仲間はどれもこれも強すぎるのだ。戦闘力を測ったところ、クリリンが2056。ヤムチャは1998。天津飯がやや落ちて1719。チャオズが1356。悟空とピッコロは共に500ほどであったが、どういうわけか地球人が強すぎた。
いくらなんでもおかしすぎる。地球人など最初に遭遇した5のおっさんがいいところで、6を超える奴などそうそういない。8までいけば適うものなしの天才クラスなのだ。余談であるが、幼少期――ブルマと出会って旅に出た悟空で10であり、レンガを指一本でブチ抜く強さを持っていた。天才で8である。2000超えなど、もう地球人として既に存在がおかしいのだ。
「カ、カカロット……俺たちは兄弟だ。もはや、惑星ベジータは無く、俺たちは最後の血縁者なんだ!」
「あー……いや、悟飯もいるしなあ」
血の絆を頼る兄に、悟空は我が息子を見てぼそりと呟く。確かに、五年前までは悟空とラディッツは間違いなく最後の血縁者だったが、それも今では通用しない。
「そ、それでも兄であることは変わりあるまい。オレは幼くして離れ離れになった弟にわざわざ半年かけてやってきたんだぞ。しかも、仕事まで紹介してやろうと思ったのに!!」
これは事実であった。地球人からすれば外道も外道。惑星単位の地上げなど侵略を通り越して狂気の沙汰であるが、サイヤ人としての常識で言えば別にさほど悪いことでもないというか。むしろ仕事として誇らしい部類に入るのだ。戦闘民族であるがゆえの価値観であるし、その環境で育ったラディッツも当然ながら「弟にいい仕事を紹介してやれる」という思いやりしかなかった。確かに三人だけで制圧するには難しい惑星だが、頼りない戦闘力しか持たない弟を敢えて誘ったのは、ひとえに肉親の情である。
この魂の叫びにも近いラディッツの言葉に、盗賊稼業をしていた過去を持つヤムチャと、殺し屋を職業にしようと思っていた天津飯は少しだけ理解を示した。
善悪の基準など、その場所や環境で容易に変わる。荒野で生きてきたヤムチャはそうする他に生きる手段を思いつかなかったし、天津飯は稀代の殺し屋たる桃白白に憧れて育ったのだ。強さを求めて、地球を救わねばという意識を持ち始めてから、彼らの意識は大きく変わったものの、ラディッツの言葉を全否定などできはしない。
「悟空、兄貴ってのは本当だろうし、許してやろうぜ。多分、普通にお前のことを考えてやってきただけだろうし」
「今ヤムチャが良いことを言った。オレもそう思う」
調子の良いヤムチャを筆頭にして、口下手な天津飯が追随する。悟空は流石に悟飯を攫おうとした兄を許す気にはなれなかったが、ヤムチャにしても天津飯にしても悟空より明らかに強くなっていた。クリリンやチャオズですら、悟空やピッコロを超えているのだ。別に強い弱いで仲間の発言力に差が出るわけではないが、自分より強い奴が許すのに、弱い自分が文句を言うのも如何なものかと悟空は口を出せない。
「クリリン、どうする?」
とりあえず、最も信頼の置ける仲間に相談するぐらいしか、今の悟空にできることはなかった。
「いいんじゃないか。ラディッツだっけ。こいつが地球人を殺したなら、ちょっと許せないが」
「……一人殺した」
嘘を言うこともできたが、クリリンの穏やかな表情とは裏腹の、強大な威圧感にラディッツの口は、不思議と真実を語った。心を読むことができる亀仙人が、ラディッツの心情を察知する。本来は自分より圧倒的に強いラディッツの心を読むことはできるはずもないのだが、既に戦意を喪失したラディッツの心に壁はない。
「どうやら、何もしとらんのに銃を撃たれて、その弾を撃ち返したようじゃの。悪くないとは言わんが、一応正当防衛とも言えるわけじゃ」
「ギリギリでセーフかな。ヤムチャさんと天さんも良いって言ってるし、二度と悪さしないならいいんじゃないか?」
クリリンの言葉にラディッツが顔をあげる。一応、本人としては仕事の紹介と、何故か攻撃してきた男に反撃しただけという彼なりに真っ当な理屈があるだけに、それが認められたことが、このハゲ達は話せばわかる存在であるということを理解させる。
「ならば、二度とここには来ないことを約束する。カカロットに仕事をやろうと思ったが、無理には誘えないようだしな。弟と甥を見ることができて、それで十分だ」
これだけ凶悪な人間がいる星に長居をしたくはないラディッツは、許されているうちに退散しようと話を切り出す。だが、それに待ったをかけた男がいた。
『おいおい、弱虫ラディッツさんよ。あろうことか地球人に負けて、しかも逃げるたぁサイヤ人の面汚しじゃねえのか?』
突如として聞こえた声は、ラディッツのスカウターが発信源であった。スカウター、通信機能を有しているので当然通話も可能である。
「ナ、ナッパ……!?」
『ようラディッツ。今ベジータと話していたが、お前もろとも地球を滅ぼすことに決まった。逃げても無駄なことは、よおっくわかってるだろ?』
聞き覚えのある声に、クリリンが内心でニヤリと笑う。
ラディッツを余裕で倒せるようになったのは良かったのだが、どうやってナッパとベジータを地球におびき寄せようかと悩んでいたのだった。スカウター越しにドラゴンボールの話を聞かせてやるつもりであったが、手間が省けた。しかも、運のいいことにラディッツが標的のなかに入っている。
「そ、そんな。待ってくれナッパ。確かに負けはしたが、俺は弟を誘いに来ただけだぞ!?」
『弱いサイヤ人などいらん』
ナッパの言葉はそれきり聞こえず、通信が終了したことがわかった。ラディッツとクリリン、ヤムチャ以外は状況をよくわかっておらず、首をかしげている。
まずは説明させたほうがいいだろう。クリリンはラディッツに説明を求め、ラディッツもまた、この話のわかる弟の仲間たちに素直に現在の状況を訴えた。
「つまり、ものすごく強い二人のサイヤ人が一年ほどかけて、地球にやってくるということか。俺たちやラディッツを殺すために」
天津飯のまとめに、ラディッツが頷く。弱虫と嘲られて、一切の反論ができなかったということはそれほどに力が離れていることを示している。
「すまないカカロット。お前を殺すつもりはなかった……俺が来たことで、こんな結果になろうとは」
手をついて謝るラディッツに、遂に悟空も心を許す。それと同時に、自分がほとんど一方的にやられた兄を怯えさせる敵に、勝たなければならないことを理解させられる。
「オラ、悟飯とチチにかまけてすっかり修行サボっちまったからな……兄貴、オラを鍛えてくれ。一緒にそのナッパとかいうやつを倒そうぜ」
悟空の言葉に、ラディッツがきょとんとする。兄貴と呼ばれ、先程までまったく自分に心を開いていなかった弟が、教えを請うてきたのだ。
「い、いや……いくらお前の仲間たちでも、ナッパ……は、まあ修行すればなんとかなるかもしれんが、ベジータには勝てるはずがない。あいつの戦闘力は18000だ」
「戦闘力……って、オラはどれくらいだ?」
「500ほどだな。この中で一番強い、クリリンだったか。それでも2000ほど。ナッパで4000あるんだ。勝てるはずがない」
「ク、クリリンはオラより3倍も強いのか!!?」
「4倍だ、悟空」
思わず突っ込むヤムチャだが、五年で随分と差をつけすぎてしまった感がある。勿論、気を開放していないので、クリリンや悟空も、本気でやればもっと強いのだが、現状でベジータと戦えるほどではない。
悟空もさぞ衝撃を受けていると思いきや、その表情はおそろしくキラキラと輝いていた。
「す、すげえぞクリリン。ヤムチャも天津飯も、チャオズまで。おいピッコロ、おめえもオラと修行しようぜ。悟飯、おめえもだぞ。オラ、正直これ以上強くなれると思ってなかったんだよ。けど、まだまだ強くなれる気がしてきたぞ!」
これである。とにかく、強くなれることに喜びしか感じられないのが悟空であるからして、恐怖や不安などお構いなしに、まだ四歳ほどの悟飯まで鍛える気でいる。ピッコロはそんなことよりも、自分が下から数えたほうが早いどころか、この中の戦士の中で一番弱いという驚愕の事実に、呆然としていた。
修行だってしていたのだ。伸び悩んではいたが、子作りにかまけていた悟空と違って真面目に新技まで開発したのだ。だというのに、何故かの最下位である。
「ぐ……オレを鍛えろ。世界征服はサイヤ人を倒すまでお預けだ!」
強くなりたいのは誰だって一緒である。ピッコロはプライドを無理やり叩き折って悟空と共に修行する道を選ぶ。悟空とほとんど同等のピッコロもまた戦闘力は500程度であり、どう足掻いても18000に届きはしない。クリリンやヤムチャにすら敵わないのであるならば、世界征服など夢どころか単なる妄言にしかなるまい。
全員の思惑が概ねのところで一致したところで、クリリンは一つ頷くとブルマを省みた。
「よし、じゃあ……まずはブルマさん。ラディッツのスカウターを改造して、数を揃えてくれませんか?」
「へ。いいけど、どうするの?」
「気を探れば強さはわかりますけど、具体的な数値があれば明確な目標になりますから。どれだけ強くなったのか、目安にもなりますし」
「わかったわ。みんなの分を用意しておくわね」
話が早いのは、ある意味で天才の特権かもしれない。ラディッツからスカウターを受け取ると、ブルマは早速研究するためにホイポイカプセルで飛行機を用意して、カプセルコーポレーションへと向かっていった。
「それじゃあ、悟空とラディッツ。それにピッコロと悟飯。まずはこの四人を鍛えよう。ヤムチャさん、お願いできますか?」
「ああ。任せろ」
クリリンとヤムチャが気軽に受け答えをするのに、悟空は笑顔で。ピッコロは苦虫を噛み潰したような顔で受け入れる。ただ悟飯とラディッツが呆然としていた。
「お、俺もか?」
「ぼ、僕も?」
セルとの戦いで最強の座を手に入れた、溢れんばかりの潜在能力を有した悟飯は、クリリンとヤムチャにとって最優先で鍛えなければならない存在である。そして、ラディッツ。彼もまたサイヤ人であり、悟空の兄ということは、下級戦士の血筋ながら叩けば伸びる可能性が大いにある。場合によっては、ベジータ並か、それ以上かもしれないのだ。
ヤムチャはそっとラディッツの肩に手を置いて、にこりと笑った。
「弱虫ラディッツは今日限りで返上しようぜ。ナッパとベジータだっけか。あいつらが俺たちを皆殺しにしようってんなら、俺たちは当然戦う。ラディッツだってサイヤ人なんだろ。戦闘民族でもない俺たちだって鍛えればこんな強さになったんだ。お前だってまだまだ強くなれるはずだ」
弱虫ラディッツ。この小馬鹿にしたようなアダ名は、当然ながらラディッツにとっては気持ちのいいものではなかった。ただし、どう足掻いてもナッパやベジータには敵わず、言いなりになっていたのだ。
そんな自分でも、強くなれるとヤムチャは言う。確かに地球人は弱いが、修行すれば強くなれるのだ。戦闘民族たるサイヤ人の悟空も、これから伸びるだろう。
ならば、自分もまた伸びるのだとラディッツは確信する。弱虫だった自分は卒業だ。これからは、この地球人たちと共に強くなるべきなのだと決意を固める。
「見てろよ、ナッパにベジータ。俺は、お前たちを超えてやる!」
ラディッツが仲間になった。
ラディッツさんは良い人。
少なくとも俺はそう信じてます。