ヒーローに憧れた男はヒーロー社会で警官となる 作:ーおるゆるゆる
[ヒーロー]は英雄、勇士、華々しく活躍する人、敬慕される人物、小説・演劇等の男主人公、女性の場合はヒロインという(Wikipedia参照)
この物語はヒーロー達に憧れた1人の転生者の物語である。
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静寂な部屋に響く無惨に何かが破壊されていく音
グチャ
「く、くそ…」
グチャ
「…ッ!」
グチャ
「クソッ!」
グチャ
「クソぉぉおお!」
箸を掴んでいる手に力が込められ、箸からはミシミシと悲鳴があげられ、箸を掴む右手からは青筋が浮かんでいる。箸先から皿へと4度もツルリと滑り落ちていき皿の上のそれはもはや形をなしていない無惨に崩壊していく。それは今日の夕食を彩る筈だった絹豆腐だった物だ
「…いや、豆腐如きで何騒いんでだよ」
呆れたような声が聞こえた方へと顔を向けてみれば立っていたのは同僚の総悟だ。彼は開けられていた扉から俺こと南川 蓮が絹豆腐の冷奴と格闘している様を見て、深いため息をついた。
「総悟…お前見てたのか」
「お前って怪人とか魔物に銃火器を容赦なくぶっぱなす癖して、不器用だよなぁ。もはや呪いだな、もう少し箸の持ち方とかの練習をしたらどうだ?」
俺は震える手で箸を置く
箸で絹豆腐を掴む。それは、銃火器をぶっぱなすよりも中級の怪人に対峙するより今の俺にとっては過酷なミッションだ。
「うるさい、箸なんぞ使わくても、スプーンやレンゲを使えば済む話だ。」
「はいはい、そうですね。まぁ、お前が不器用なのは公然の事実だ…な。」
「...そんなことよりも、特務課への呼び出しは終わったのか?」
俺は空気を切り替えた。先ほどまでの「豆腐を破壊して悔しがる男」の表情は消え、そこには淡々と職務をこなす警察官の眼差しがある。
「ああ。どうも、また『例の界隈』で動きがあったらしい。……現場は市街地だ。今回は俺たち『一般警察官』が、ヒーロー様方が到着するまでの『時間稼ぎ』を命じられた」
総悟の言葉に俺は再び箸を手に取る…ホルスターに収められた拳銃と対魔物用警棒もセットでだが。
「『時間稼ぎ』 ねえ」
俺は席から立ち上がり、汚れた皿をシンクに放り込み水に晒しておく。
今や前世で抱いていたヒーローという存在への熱も冷めてはいるが、それでもこの世界で誰よりもかつて憧れていた『誰かを守る為に各々の理由と信念の為戦う正義のヒーロー』という存在を理解しているという自負はある。
今世の彼等ヒーローが華やかに舞うための舞台を整えるだけの、我々のような「システムの一部」だ。
能力も魔力も特殊なアーマーも無い。あるのは警察官としての市民達の安全を守るという矜恃と前世から引き継がれた記憶とこの謎に恵まれた圧倒的な身体スペックを持つ身体だけだ。
「…行くか 今日の仕事は絹豆腐を掴むよりかは楽になりそうだ。」
背後から感じる呆れた総悟の視線を無視し俺達は現場へと向かう
これはヒーローという存在に憧れた『やられ役警官モブA』として生きる俺の日常の物語だ。
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