竜の姫に俺は乗る─召喚されしロボオタ、姫が変身したロボを駆り最強を目指す─   作:三丈夕六

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閑話 アシュタルの憂鬱

〜アシュタル・ラ・アシュタリア〜

 

 アシュタリアへ帰国し、ひと月ほど過ぎたある日。

 

 (わたくし)は、ハインズの屋敷へ来ていた。彼から何度か誘いがあったし、友人のアンヘルが私に会いたいと言ってくれたから。

 

「アシュが来てくれて嬉しいな♪」

 

 アンヘルが鼻歌を歌いながら紅茶を出してくれる。鼻腔をくすぐる甘い香り。記憶を辿ると、その香りは先日知った物だった。

 

「これは……トルテリアの茶葉ですね」

 

 向かいに腰掛けたアンヘルが目を丸くする。彼女は嬉しそうにカップへ口を付けた。

 

「よく分かったね。お兄ちゃんがトルテリアで買って来てくれた茶葉でね、バニルの葉っていうのが入ってるから甘い匂いがするんだって」

 

「バニルの……恐らくハーモラ共和国の特産ですね」

 

「え、なんで分かるの?」

 

「トルテリアの領地でバニルの葉は取れないですから」

 

 答えると、アンヘルは笑い声を漏らした。

 

「何かおかしなことを言いましたか?」

 

「くふふっ、さすがアシュだなと思って。お兄ちゃんの知らない事もいっぱい知ってるね!」

 

 お兄ちゃん、か。まだハインズの事をそう思っているのね。それに、彼女の口調は子供の頃に戻ったよう。久々に会ったけど、まだ良くはなっていないようね、アンヘルは……。

 

 楽しそうにトルテリアの話をするアンヘルを見ながら、私は紅茶を一口飲んだ。

 

 先ほどよりももっと強く香りを感じ、トルテリアへ行っていた時を思い出す。あの時は大変だった。トルテリアの人達は派手好きだから、食事会に催し物と自由が無かった。ティアマトとショウゴだけは出席しないように致しましたが……

 

「本当は私も街へ出た……」

 

「んん? 今なんて言ったのアシュ?」

 

「な、なんでもありません」

 

 不用意な言葉が出そうになって思考から追い払う。何を考えているの? 国を背負ってトルテリアへ行くと決めたはず。それなのに……。

 

「そう? それでね、このお茶を買った時にお兄ちゃんが〜」

 

 私が考えている間もアンヘルは話し続けていた。ハインズから聞いたであろう旅の話を。

 

「あ! ティアマト姫から聞いたよ? いっぱい珍しい物があったって!」

 

 目をキラキラと輝かせるアンヘル。それを見ていると、先程の戸惑いは消えていった。

 

 この感じ、懐かしい。子供の頃もこうして城での話を聞かれたな。

 

「夕焼け市にお空の歓迎演目かぁ……! いいなぁ〜私も行きたかったなぁ〜」

 

「次に行くときはアンヘルも連れて行きましょう」

 

「ホント!? ありがとうアシュ!」

 

 満面の笑みを見せるアンヘル。その顔を見て少しだけ安心する。彼女の竜核の傷は癒えていないけれど、この明るさに希望も見える気がして。

 

「あ、お兄ちゃん達の修行も終わったみたい」

 

 窓の外へ目を向ける。ハインズの屋敷の前に広がる草原。そこでは竜機兵が光に包まれ人の姿へと戻っていた。私の妹、ティアマトへと。彼女は芝生の上にへたり込んでしまった。

 

「キツそ〜……今日の訓練は接続率を上げるって言ってたからねぇ」

 

「……相当厳しかった様ですね」

 

「姫への負荷が大きかったみたい。私ちょっと言ってくるね!」

 

「あ……」

 

 アンヘルは、止める間も無くバタバタと部屋を出て言ってしまった。

 

 静かになる部屋。そこに1人残されてしまう。

 

 私が行ったらティアマトを怯えさせてしまうかも……。トルテリアでは上手く接してみようと頑張ってみたけれど、あの子と2人で話す時はすごく緊張しているようだった。あまり顔を見せない方があの子のためだと思う。

 

 

 外ではショウゴとハインズが何かを話している。そこへアンヘルも加わり、いつの間にか4人の輪ができていた。私が知らない間に、あの2人は随分ハインズ達を信頼するようになったらしい。

 

「……」

 

 カップへ目を向ける。濃いオレンジ色をした紅茶には、無表情のアシュタリア王女が映っていた。

 

 胸の奥がヒヤリと冷たくなる。友達も、妹も。いつの間にか自分の居場所を見つけていた。それなのに、私は何をやっているのだろう?

 

 国のためにハインズ達を戦わせて、その結果傷付けて、あんな風にさせてしまった。ハインズはアンヘルの事を愛していたはずなのに。あの2人にこんな遠回りをさせてしまって、私はそれを遠くから見ている事しかできなかった。忙しさにかまけて逃げていた。

 

 ティアマトの事もそうだ。あの子を守ろうとして押し付けたせいで、むしろ彼女を傷付けてしまった。あの子を竜機兵へと向かわせてしまった。

 

 国の顔としてもツィルニトラ様との差をまざまざと見せつけられて……。

 

 

「ダメだな、私は……」

 

 

 私はいつもそうだ。王女になりきれない。いつまでも子供のまま……未熟なままだ。それを改めて感じてしまう。

 

 あの輪から距離を取ったにも関わらず、何もできない。空回りばかり。それが私。そうだと実感してしまう。

 

 

 私は……。

 

 

「お、なんか珍しい顔してるな」

 

 

 声の方を向くと、扉からショウゴが顔を覗かせていた。

 

 私が気付くと、彼はニカリと笑う。お人よしそうで、子供のような顔。それを見ただけで胸の奥がカッと熱くなって、無性にイライラしてしまう。

 

 落ち着きなさいアシュタル。王女らしくない言葉は避けなければ。

 

 私は、平静を装ってその声に応えた。

 

「ショウゴ……殿でしたか。何かご用?」

 

「いや、せっかく来てくれたんだからティアマトに会ってやって欲しいなと思ってさ」

 

 キョトンとした顔をするショウゴ。当然だと言わんばかりの反応に、思わず言葉に詰まってしまう。

 

「いえ、しかし……あの子は、その……私のことを避けて……」

 

「ん? いつティアマトがアシュタルのこと避けたんだ?」

 

 この男は何を言っているんだ? ティアマトが私に向ける怯えたような目、それを見れば苦手意識を持っている事などすぐに分かる。それなのに……。

 

「ティアマトの口からそうだって聞いたのか? 嫌いだって」

 

 ティアマトから直接? そんな事、考えて見た事も無かった。

 

「え、いや、そういう訳では……」

 

「なんだ。なら大丈夫だって。ティアマトさ、アシュタルに褒められた時すごく喜んでたしな!」

 

 そう言われて思い出す。空賊と戦った後、彼女に声をかけた時のことを。あの時のティアマトの笑顔を。あれは確かに……嬉しそうだったな。

 

「アシュタルは考えすぎなんだって。行こうぜ」

 

 ショウゴが顎でドアの外を指す。

 

「あ……私は……」

 

 私が行っていいの? 王女なのだから、それでは威厳が……そうなるとアジュタリアに不利益が……。

 

「……」

 

 迷っていると、ショウゴが私の手を掴んだ。

 

「ち、ちょっと!? 何をするのですか!? 離しなさい!!」

 

「お前、自分に嘘ついてるだろ?」

 

「う、嘘って……」

 

「お前は素直じゃないよなぁ。側から見てりゃ分かるって!」

 

 お前などと無礼な事を言われたはずなのに、言い返すことができない。

 

 手を引かれて廊下を歩いている間も、ショウゴの言った言葉が自分の頭をグルグルと回った。

 

 

 嘘? 私が自分に嘘をついている?

 

 

「アンヘルさんだってすごく喜んでたし、ティアマトもアンタが来たって聞いてずっとソワソワしてるぜ? だからさ、褒めてやってくれよ。ティアマトはずっとアンタに認められたいって思ってたはずだ」

 

 

 ティアマトも?

 

 

「な、なぜそのような事を言うのですか……? 私はあの子にも、アナタにも酷い事を言ったのに……」

 

 ショウゴが考えるように黙り込む。どんな事を言われるのかと考えていると、彼はこう言った。

 

 

「ハインズが言ってた。俺達が竜闘の儀を闘う為にみんなが力を貸してくれてるんだって。だから、アシュタリアの人達はみんな仲間なんだってさ」

 

 

 ショウゴは、横目で私を見た。

 

 

「俺達が知らないところでさ、すげー頑張ってくれてるんだろ? だからアシュタルも仲間じゃん」

 

「がんばって……など……」

 

 

「トルテリアの時も交渉とか凄かったし。いつもありがとな」

 

 

 彼の……その言葉を聞いた途端、急に視界が歪んだ。止めようとしても収まらず、ポタポタと涙を溢してしまう。

 

 

「え!? ちょ、なんで泣いてるんだよ!?」

 

「なんでもありません……! 何も聞かないで……!!」

 

 私は当たり前の事をしていただけだ。王女として、次期女王として皆の為に働く事など、当たり前なんだ。むしろ、足りない所が多すぎる。感謝なんて、される立場じゃない。

 

 オロオロとするショウゴ。なんて生意気なの、王女にこのような口を聞くなどと。まるで私を友か何かのように……本当に、この男は遠慮という物を知らないのだから……。

 

「な、生意気、ひぐっ、です。後で見ていなさい、よ……!」

 

「え!? 俺何もしてないだろ!?」

 

「生まれた事を後悔させてあげますから……!」

 

「ちょっと待てぇ!? なんだよそれ!? 怖いこと言うのよめろよ!!」

 

 

 焦るショウゴを見て笑ってしまう。彼は普段こんな風にティアマトと接しているのだろうか?

 

 

「……冗談です」

 

「お前が言うと冗談に聞こえねぇって……」

 

 

 ……ティアマトが羨ましいな。私もこんな風に素直に笑ったりできればいいのに。

 

 

 ……。

 

 

 その後、私は外に出てティアマトやアンヘル、ハインズ達と時間を過ごした。私が泣いている事にハインズとアンヘルが気付いてショウゴを問い詰めたり、ティアマトが私にショウゴを渡さないと怒ったり、私にとって初めての事ばかりだった。

 

 でも、そのおかげか、私は久しぶりに笑えた気がする。何も責任を感じる事なく、私のままでいられた気がする。

 

 ショウゴのおかげで。

 

 妹が、なぜ彼を好きなのか分かる気がする。なぜ彼を見た時、私の心がざわつくのか分かった気がする。

 

 ショウゴは真っ直ぐだから。私と違って思った事を口にして、感情を伝えて、誰かの為に怒れる人だから。それがきっと……羨ましかったんだ。

 

 

 その日、私にとって大切なものが1つ増えた。

 

 

 

 

 




〜ティアマト〜

お姉様があんな風に笑っている姿、久々に見た気がします♡

本日は閑話をお届けしました。もしかしたら第二部開始まで何度か閑話があるかも……?

またお会い致しましょう♡
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