竜の姫に俺は乗る─召喚されしロボオタ、姫が変身したロボを駆り最強を目指す─ 作:三丈夕六
顔合わせから30分後、俺達は精神修行施設に来ていた。
「精神修行やと聞いとったから何かと思ったら……」
ヴィヴルの搭乗者、カズマが手を握りしめる。修行装束として渡された薄い衣服の隙間から鍛え上げられた肉体が除く。その筋肉が、魔法で灯されたオレンジ色の光に反射して光っていた。
「サウナやないかぁああああああ!!」
カズマが叫ぶ。周囲を岩に囲まれた空間。ツィルニトラが言っていた精神修行施設というのは、ヲルス首長国名物「
ルールはシンプル。サウナに竜機兵と搭乗者が分かれて入り、入っていた合計時間で先行者を決める。
自分の腕を見てみる。渡された腕輪には魔法が込められており、俺達の脈拍やらなんやらを観察しているらしい。この腕輪で時間も計測してるって言ってたな。あとデカイ水筒。水分補給しろってことだよな、これ。
それにしてもウルベルト、結構単純だよな。本当は普通の子供なんじゃないか? いずれにしてもスタートまであと数分。俺達は開始の合図を待っていた。
「カズマ? これってさ、倒れたりしないか? 危ないよな、結構」
「ん? ああ、グランとかいう爺さんの話やとぶっ倒れたら魔法で回復させてくれるらしいで。だが、水分補給はこまめに──」
カズマが言おうとした時、岩肌の亀裂から水蒸気が吹き出し、彼の背中に直撃した。
「うわちっ!? この定期的に吹き出す水蒸気危なすぎるやろ!」
ヲルスの蒸し風呂は岩の向こうにマナ粒子を含んだ温泉が流れており、それを魔法で温める事で温度を保っている。ここで瞑想する事で、ヲルスの戦士は何十分とここで瞑想して集中力と忍耐力を鍛えるらしい。それだけ聞くとまさしく精神修行だな。
「なぁオッサン。まだ始まってもいないのにそんな騒いだらすぐギブアップしちまうぞ?」
部屋の隅で携帯ゲーム機をしていたツィルニトラの相棒ユウは、カズマをチラリと見てから言った。コイツ……よくゲームなんかよくやってられるな。
「ユウは何やってるんだ?」
「バトリオンコアポータブル」
「……!? マジかよ!? 1年前に発売されたヤツ!?」
「そう。手に入れてさぁやるぞ〜ってところでこの世界に召喚されたからさぁ。今は電撃魔法で充電しながらやってる」
うわぁマジかよユウのヤツ……俺なんかバイト代振り込まれるの待ってたら全然買えなくなってたし。なぜかバトリオンコアってダウンロード販売しないんだよなぁ……。
「いいなぁ〜……俺にもやらせてくれよそれ」
「ストーリーモード終わったらな」
「結構な時間かかるだろ!!」
「お前らライバルちゃうんか? 仲良すぎやろ……」
木の板にあぐらを組み、カズマが呆れたようにため息を吐く。仲がいいと言われて、俺は恥ずかしくなってユウから距離をとった。
「なんだよショウゴ? ボス戦見ないのか?」
「お、お前はライバルだぞ! のほほんとゲーム見てられるか!!」
「こっからが面白いのになぁ〜ツィルはこういうの興味ねないから見て欲しかったのによ〜」
ユウがムクレたように板の上に寝転がる。コイツ……俺に見て欲しくてゲーム機持ってきたのか?
そんな事を考えていると、突然サウナのドアが開いた。
「ふぇ?」
そこには水筒を抱え、修行装束を来た女子が1人ポツンと立っていた。イルムガンの搭乗者……確かナミタだっけ? 変わった名前だったよな。
固まるナミタ。固まる俺達。え? まさか、搭乗者と竜機兵分けるとか言ってたけど、男女混合サウナ? 服は着てるけど……。
自分の服を見てみる。こんな薄手の素材、汗かいたら透けて見えるよな? ちょっとヤバくないか?
彼女は俺達を見てフルフルと震えていた。
「ふえぇぇぇ……!?」
ナミタは、焦ったように俺達の前をすり抜け、俺達に背を向けるように座り込んでしまった。そこは先程の水蒸気が噴き出す場所の近く。間違いなくこの部屋で1番暑い場所だった。
「お、おいアレ……声かけてやった方がええやろか?」
「別にいんじゃね? オッサンに声かけられた方がビビると思うぜ? 暑すぎたら勝手に移動するだろ」
オロオロするカズマを横目にユウは平然とゲームを再開する。ナミタって子は随分華奢だな。俺達の中で1番年下だろうし、すぐあの場所から移動するよな。
『それではこれより計測を開始する。竜機兵、搭乗者、互いの状況を共有する事はない。各々自分との戦いに集中してくれ』
ウルベルトの声がどこからともなく聞こえてくる。
ナミタの登場でなんだか気まずい雰囲気になる中、精神修行という名のサウナ我慢大会が始まった。
壁の向こうにはティアマト達がいるはずだ。あっちは大丈夫だろうか……?
◇◇◇
ショウゴ達がナミタの入室に戸惑っている頃、ティアマト達がいるサウナでは緊張感が迸っていた。
「……」
「……」
向かい合ってお互い睨み合うツィルニトラとイルムガン。その様子は一触即発……唯一の救いは、彼女達が薄い布地の修行装束だけだということ。もし仮に武器を手にしていれば、いつ斬り合いが始まってもおかしくないほどの殺気に満たされていた。
ヴィヴルが隣に座っているティアマトに耳打ちする。
「ねぇ、あの2人、さっきもそうだったけどなんであんな険悪な雰囲気なの?」
「うぅん……私からはなんとも……」
ヴィヴルとティアマトが見守る中、ツィルニトラが先に口を開いた。ティアマトには、ツィルニトラの眼がいつもより随分鋭いように見えた。
「貴君に聞きたい事がある」
「あ?」
イルムガンが脚を組み、右眼の包帯をなぞる。その隻眼から発せられる明らかな拒絶のオーラ。ツィルニトラは、その視線を意にも介さず言葉を続ける。
「貴君は前回竜闘の儀から随分様変わりしたようだが? 一体何をした?」
「黙れクソ女。「自分は絶対に間違わないです」って態度がうざいんだよ」
「その態度。それすら私の記憶と違う。あの事件まで……貴君はもっと誇り高い気性であったと記憶しているが?」
ティアマトが首を傾げる。自分の眼でイルムガンを見定めた限り、イルムガンは想像通りの人間だと思った。4年前にアンヘルを傷付けた悪人だと。だけど、ツィルニトラの知るイルムガンと、今の彼女にズレがあるとはどういうことだろう……と、彼女はそう思った。
「あの事件の後、貴君は我が国トルテリアの代表、ストールと戦ったな? だが、嘘のように一方的な試合で貴君は敗北した。まるで
「竜核を攻撃したヤツが誇り高い戦士? お前の目は節穴かよ。あーあ。トルテリアの女王様が見る目なしじゃぁ国のヤツらも可哀想だわなぁ?」
イルムガンはツィルニトラの視線から目を逸らし、不機嫌な態度を隠そうともしなかった。
「その右眼の包帯も。予選で受けた傷が生身肉体にも影響を与えているようだ。竜核改造の影響か?」
竜核改造の言葉が出た瞬間、イルムガンの眼光がさらに鋭くなる。
「テメェには関係ねぇ」
「己の竜核に手を入れねばならぬほど、精神的に追い詰められていたのか? 私には、貴君は勝利という藁にすがっているように見える」
「おい……この場で殺してやろうか? アタシは分かったような口を聞く馬鹿が1番嫌いなんだ」
「イルムガン!! ツィルニトラ様への侮辱の数々……流石に見過ごせません!」
黙って聞いていたティアマトが怒りを露わにする。彼女が挑発に乗って来たことで、イルムガンはおどけるように首を傾げた。
「姫様の方は甘ちゃんだなぁ? ……そんなんじゃすぐ脱落しちまうぜ? あ? 別にアタシはここで生身でやり合ってもいいんだ。アタシは女子供だろうが容赦しないぜ?」
「貴女はどこまで人を馬鹿にすれば……!!」
「やるか? なら来いよ。テメェみたいな温室育ちの姫様は大嫌いなんだ。どうせ大した努力もせずにコネで竜機兵になったんだろ? それを身をもって分からせてやるよ」
ティアマトが拳を握り締める。その顔が紅潮していたのはサウナの影響だけではない。イルムガンがティアマトの屈辱や努力、皆に認めて貰えた喜びを否定し、ティアマトの怒りをくすぐる言葉を狙ったように浴びせたから。
「ティアマト姫、挑発に乗っちゃダメよ」
ヴィヴルがティアマトの腕を掴む。ティアマトはハッと我に返ると、真っ直ぐイルムガンを見つめ返した。
「そ、そうですね。ショウゴにも言われました……もうイルムガンのペースには飲まれません」
「搭乗者様は絶対ってか? なら、そのショウゴに死ねって言われたら死ぬのかよ?」
ティアマトの表情が崩れる。しかしそれは先ほどの怒りに満ちたものではなく、今にも泣きそうな、憐れみを込めた顔だった。
「……可哀想な人」
「ちっ」
イルムガンが舌打ちする。ティアマトが挑発に乗ってこないとみると、腕を組んで俯き、無言になってしまった。
〜ティアマト〜
まさか先行者を決める方法がこのような形になるなんて……!? それにしてもイルムガンのせいでイライラしますぅ……でも我慢しますぅ……先行者になるために……。
あ! みなさんはサウナで精神修行なんて危険なことは絶対しないで下さいね?私達の世界の法則とみなさんの世界の法則は違いますから……。
さて、次回はカズマさんとヴィヴルさんのお話。空気の悪い状況に2人は気を遣って……?
次回 苦労人な2人
次回も絶対見て下さいね♡