竜の姫に俺は乗る─召喚されしロボオタ、姫が変身したロボを駆り最強を目指す─   作:三丈夕六

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第45話 苦労人な2人

 

 ──サウナ対決開始から15分後。

 

 

 竜機兵側のサウナでは、ヴィヴルが自問自答していた。

 

 え? この空気キツすぎない……? さっきからツィルニトラ女王とイルムガンは睨み合ってるし、ティアマト姫も黙っちゃったし……き、気まずいわね……この空気で蒸し風呂(サウナ)に耐え続けるなんて地獄すぎる……なんとか場の空気を変えられないかな……?

 

 ヴィヴルはチラリと奥を見た。木の板の上であぐらをかくイルムガン。先程から彼女は鋭い視線を絶やさないまま黙り込んでいる。

 

 1番空気悪くしてるのはイルムガンよね。アイツをなんとかしないと空気は変わらないわ。なんとかイルムガンの機嫌をよくできないかしら……?

 

 でもいきなりイルムガンを褒めるのはわざとらしいわね。ここは隣にいるティアマトから……。

 

「そ〜言えばっ! ティアマト姫ってすごいわよね! 胸も大きいのに清楚な感じでお姫様って感じ!? うらやましいわぁ〜」

 

「そ、そうですか……? あまり容姿を褒められることがないので恥ずかしいです♡」

 

 キャッと両手で頬を抑えるティアマト。それを見た瞬間、ヴィヴルの心臓が跳ねる。

 

 ひ、姫……!? 私の急なフリでもノッてくれるこの優しさ……なんて素敵な人なの……? それにこの表情……破壊力エグくない!? こんなの男ならイチコロよ!?

 

 ん? でもショウゴって、いつも普通よね。ティアマト姫にデレデレしてるところなんか見た事ないわ。

 

 冷静になってくると、ヴィヴルはショウゴのことが憎たらしく思えてきた。

 

 あ、あの男……こんな可愛いお姫様の隣にいて平然として……ゆ、許せないわ……!! 私が男だったらずっとイチャイチャするわよこんなの!!

 

「ティアマト姫? 絶対絶対! 男は姫の事を放っておかないから! 弱気になっちゃダメよ? 姫が本気になれば好きな人を絶対落とせるわ!」

 

「ヴィヴルさん……ありがとうございます! 絶対に射止めて見せます!」

 

 やはりショウゴか。とヴィヴルは一眼で分かった。

 

 きっとアシュタリアの若い男達は人知れずショウゴに嫉妬しているだろうな……。

 

 照れるティアマトを横目にヴィヴルは次なるターゲットへ。右奥に座っているツィルニトラだ。ヴィヴルは彼女の姿をじっくりと観察した。ツィルニトラは目を閉じ精神統一しているようだ。

 

 さっきから微動だにしていないわよね。サウナですら優雅さを持つのはまさしく女王様だわ。胸はティアマトより控えめだけど、その分スレンダーで無駄な要素が一切無い。か、カッコいいわねぇ……。

 

「ツィルニトラ女王? ちょっと聞きたいんだけど……」

 

「どうした?」

 

 ツィルニトラがゆっくりと両眼を開き、ヴィヴルを見据える。切れ長の眼に長いまつ毛……ティアマトを見れば心臓が跳ね上がるのなら、ツィルニトラは心臓が止まるかと思うほどの美しさを持っていた。長い黒髪に雪のような白い肌。一国の主としての威厳と、女性としての美しさのコントラスト。一瞬にしてツィルニトラはヴィヴルの憧れの対象となった。

 

 か、カッコいい……!

 

 それは彼女の強さを知るヴィヴルだからこそ、尚更そう思ったのかもしれない。今は闘いの事を傍におき、純粋な憧れだけをヴィヴルは抱いていた。

 

「ツィルニトラ女王は美貌の秘訣とかって……あるの? 私にも教えて欲しいわ」

 

 ヴィヴルが両手を組んで、目を輝かせながらツィルニトラを見つめる。ツィルニトラの美貌は本物だ。その秘密を少しでも知る事ができたら……と、そんな魂胆も彼女にはあった。

 

「美貌? そうだな……やはり規則正しい生活と食事に気を遣っている。健康な肉体は日々の積み重ねが重要だからな。そ加えて、後は王族としての責務もか。肉体の鍛錬や社交場における所作、ダンスなども肉体の維持には有効だ」

 

 ヴィヴルの期待とは裏腹に、提示されたのは長い日々をかけた鍛錬の積み重ねだった。もっとこう……パパっと綺麗になれる裏技のようなものを期待していたとは口が裂けても言えないヴィヴルであった。

 

「わ、私には遠い世界だわ……」

 

「心配する必要はない。貴君はいわば原石。これから己を磨く事で輝きを増す事ができる。良ければ私が日々の鍛錬メニューを……」

 

「き、気持ちだけ受け取っておくわ! 私は独学に向いてるの!」

 

 なんだかとんでもないメニューを渡してくる気がして、ヴィヴルは適当な理由を付けて断ることにした。それでもツィルニトラは、ヴィヴルの答えに満足したようで、ウンウンと嬉しそうに頷く。

 

「うむ。それも1つの道だな。貴君の成長を楽しみにしているぞ」

 

 見守るような、優しげな笑みを浮かべるツィルニトラ。戦っている時とも顔合わせの時とも異なるフランクな態度。ヴィヴルはなんだかツィルニトラの事が少し分かった気がした。

 

 そして思う。人には色々な側面があるのなら、イルムガンだってどこか馴染みやすい所があるのではないか……と。そしてそれを知るには今は絶好の機会なのだ。

 

 これで流れはできたわね……このままイルムガンに移れば違和感は少ないはず……!

 

「い、イルムガンも腹筋割れてるわよね〜? スタイルもいいし憧れるわぁ〜!」

 

 反応無し。う……こ、心折れそうなんだけど……でも、もう話しかけちゃったのよ私。ここでやめたら余計に空気悪くしただけで終わってしまうわ……。

 

「本当すごいわね〜! 余計なお肉が付いてないし? 健康美っていうの? いいな〜!」

 

 ヴィヴルは、イルムガンがやった事は別として純粋に彼女の日々の研鑽を褒める事にした。ツィルニトラが言うように、ここまで体を仕上げたのは決して楽をした訳ではないはず。イルムガンがよほどストイックな生活を送っていると見てとれ、ヴィヴルも素直に感心していたのだ。彼女は、その気持ちを正直に伝える事にした。

 

「……まぁ、鍛錬は怠ってないからな」

 

 イルムガンが横目でヴィヴルを見る。ほんの少し。本当に僅かだが……イルムガンの照れたような反応をヴィヴルは見逃さなかった。

 

 こ、これは……褒められ慣れていない顔ね……! このまま褒めちぎればもう少し場の空気も和むんじゃないかしら?

 

 

「ほら、銀色の髪も綺麗だし! ヲルスの国の男達も放っておかないんじゃない?」

 

 

 その言葉を言った瞬間、ヴィヴルは場の空気が急激に冷えていくのを感じた。ここが高温が籠るサウナであるにも関わらず……だ。

 

 イルムガンが真顔でヴィヴルへ顔を向ける。その顔は、まぶたがヒクヒクと痙攣し、鬼のような形相となっていた。

 

 ヴィヴルは悟った。

 

 「あ、やっちまったわ……」と。

 

「アタシは気持ち悪い性欲を向けられるために鍛えてるんじゃねぇ!!」

 

「う……!?」

 

 怒りを露わにするイルムガン。無表情でヴィヴルに視線を送るツィルニトラ。哀れみの表情を浮かべるティアマト。……失敗だった。失敗した失敗した失敗した。

 

 イルムガンは戦闘方面を褒めるべきだったのだ。これまでの努力が一瞬にして消え去ってしまった瞬間に思える。

 

 ヴィヴルは、必死になっていた自分がすごく哀れに思えた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 ━━サウナ対決開始から25分後。

 

 〜ショウゴ・ハガ〜

 

 暑い……分かっちゃいたけど流石にキツいな……。

 

 搭乗者側のサウナでは、カズマが俯いたまま、横目でこちらを見た。

 

「な、なぁお前ら……サウナの入浴時間って知ってるか? 5分から12分と言われとるんやぞ。25分とかヤバいと思わんか?」

 

「なんだよオッサン……はぁ……精神的に揺さぶる気かよ……?」

 

 ユウの頬から玉のような汗が滴り落ちる。だが、それでもゲームの手を止めないユウ。気を紛らわすにしても流石に無理あるだろ。

 

「ちゃうわっ! 俺はお前らの事を心配してやなぁ……」

 

「へへ……ムキになるなんて怪しいな〜」

 

 カズマとユウが言い合いをしてる。ユウも余裕かましてるけど、結構ヤバそうだな。っていうか今25分経ってるってマジ? 脱水とかなったら洒落になんないぞ……。

 

「ここで搭乗者の俺らが体を壊すなんてなったらそれこそ本選に支障が出る。そこでや。せーのでサウナから出るのはどうや? な、ショウゴもいい案やと思うやろ?」

 

「なんで俺に振るんだよ!」

 

「なはは! 一緒に戦った仲間やんけ! ノッてくれや〜」

 

「ノリが悪いみたいに言うなって……」

 

 カズマが目をキラキラさせながら両手を胸の前に組む。見た目に合わない乙女チックなポーズに頭が痛くなる。カズマ……1番年長者なのにふざけすぎだろ……。

 

 

 心の中でツッコミを入れた時、先ほどまで聞こえていたゲームのBGMがピタリと止んだ。

 

 

「その提案って……同時に出るってことか?」

 

 

 先ほどまでカズマの話を流していたユウがピクリと反応する。よほどユウの何かに触れたのか、ゲームをする手も完全に止まっている。

 

「そう。この対決は竜機兵と搭乗者の合計時間で競うやろ? 一緒に出ればヴィヴル達誰かが不利になる事はない。どや? ナイスアイデアやと思わんか?」

 

「1番小さい子の搭乗者なのによくそんな提案するなぁ」

 

 ユウの言葉にカズマは顔を赤くした。

 

「う、うっさいわ! 俺が言わんかったら誰も言わん提案やったやろ!?」

 

「ま、そうだけどさ。ここで出てもツィルなら1番最後まで残れるか……? いや、そもそもツィルは先行者にが目的じゃ……」

 

 ブツブツと何かを呟くユウ。

 

「俺は乗る。ショウゴは? どうする?」

 

 ユウに話を振られて考え込む。確かにここで体を壊したら元も子もない。ティアマトが不利にならないならここで……だけどティアマト、嬉しそうだったよな。先行者になりたいって感じだった。

 

 ……。

 

「悪ぃ。俺、もうちょい──」

 

 「残る」と言おうとした時、あぐらをかいていたカズマが立ち上がった。

 

「どうしたんだよカズマ?」

 

「……様子が変や」

 

 カズマの視線の先には、俺達に背を向けたままのナミタが。先ほどまでの砕けた態度から一転、カズマは深刻な表情でナミタへ近付いていく。彼は、丸くなったナミタの近くにしゃがみ込むと、軽く肩を叩いた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「だい、じょうぶです……」

 

 うつろな声で返すナミタ。その声を聞いた瞬間、カズマは背を向けるナミタの方を覗き込んだ。

 

「い、いや……!? ボクに近付かないで……!」

 

「なんもせん。少し状態を見るだけや」

 

 カズマの顔がどんどん深刻なものに変わっていく。ナミタの手を握ると、眉間の皺をさらに深くした。

 

「手が冷たい……お前、水筒の水は飲んだんか?」

 

「少しだけ……」

 

 カズマの顔が一気に曇る。

 

「……もうお前は出ろナミタ」

 

「いや……!!」

 

 ナミタが嫌がるように手を払う。涙をボロボロ流しながら悲鳴混じりに叫ぶナミタ。反突然彼女が暴れた事で、俺もユウも顔を見合わせてしまう。

 

「イルムガンに迷惑かけちゃうから……!!」

 

「なぁオッサン。嫌がってんだしさ。一旦様子を……」

 

「アホか!! 脱水の症状が出とるんや! こんなん放っておいたら死んでしまうわ!!」

 

 怒声。俺もユウもナミタも全員がカズマの様子に黙り込んでしまう。カズマは頭を振るうと深呼吸した。

 

「俺は元教師でな、部活でガキどもを見てたから分かるんや」

 

 どうしたんだカズマ? 確かにナミタの体調が悪いなら早く外へ連れ出した方がいいけど、それにしてもこの焦り具合……異常だぞ。

 

 俺と目が合ったカズマは、バツが悪そうに目を逸らす。その顔は今にも泣きそうな顔だ。カズマの過去に何かあったんだろうか?

 

「……人が死ぬのは好かん。特に子供が死ぬのは……なぁ、ナミタ? イルムガンに迷惑かけると言ったが、このままお前が倒れたら、それこそ迷惑になるぞ? 俺も一緒にリタイアするから、ここを出てくれ。頼む……」

 

 カズマは深々と頭を下げた。

 

「今から俺がお前を連れ出す。水分補給して涼しい所で休めばまだなんとかなる。回復魔法も使って貰えば全快できるやろう。けどな、このまま放っておいたらホントに取り返しのつかない事になってしまうや」

 

 ナミタが困惑したように何度もカズマを見ては目を逸らす。そしてしばらく黙り込んだあと……。

 

「……う、うん」

 

 小さく頷いた。

 

「立てるか? 無理そうやったら俺の腕に掴まれ」

 

 カズマの差し出した手を取って、ナミタがゆっくり立ち上がる。確かに顔面蒼白だ。これは普通じゃないぞ。カズマはナミタの様子だけで気付いたのか。

 

「一緒に出ろとは言わん。けどな、お前らも気を付けるんやぞ」

 

 そう言うと、カズマはナミタを連れて外へ出ていく。扉を出る寸前

 

「どうしたんだよ、あのオッサン」

 

 ユウと俺は、何も言えずにその場に立ち尽くしていた。

 




〜ティアマト〜

ショウゴ達の部屋でも何かが起きているようですね……!みんな無事だと良いのですが……。

次回はいよいよ先行者も決定します。いよいよこの予選編もあと3は話です。

次回 先行者決定


次回も絶対見て下さいね♡
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