竜の姫に俺は乗る─召喚されしロボオタ、姫が変身したロボを駆り最強を目指す─   作:三丈夕六

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第46話 先行者決定

 ──サウナ勝負開始から40分後。

 

「はぁ……はぁ……うっ……」

 

 竜機兵側のサウナでは、ティアマトが苦しそうな声を出し、フラフラと振り子のように揺れていた。

 

「ち、ちょっとティアマト姫? 大丈夫……?」

 

 ヴィヴルが心配そうにティアマトの体を支える。ティアマトは、青くなった顔でコクリと頷いた。

 

「だ、大丈夫です……まだ、私は……」

 

「お姫様は……はぁ……もう根を上げるのか……ハハッ情けねぇ……はぁはぁ……」

 

 イルムガンがニヤニヤとバカにしたような笑みを浮かべる。しかし、朦朧とする意識の中、ティアマトは見た。イルムガンの顔にもさほど余裕はないことを。

 

「やっぱ根性無しだよお前……さっさと……出ていけよ……」

 

 イルムガンがティアマトを挑発すればするほど、言葉を浴びせるほど、それは……自分自身を奮い立たせるために行っているように感じた。

 

 この方は、強がっている? 何かに怯えているような、そんな気が……。

 

 ティアマトがそこまで思い至った時、ツィルニトラがポツリと呟いた。

 

 

「……ここまでだな」

 

 

 立ち上がるツィルニトラ。突然の事にティアマト達全員が驚く。あまりにあっけない終わり方。ティアマトは思わず声を上げた。

 

「い、いいのですかツィルニトラ様!?」

 

「姫、私は元より先行者になる事を求めていた訳でないよ。貴君ら……そしてイルムガンの人となりを見たかっただけだ」

 

 ツィルニトラが部屋の中を見渡す。彼女がイルムガンへ目を向けた時、イルムガンは聞こえるように舌打ちをした。不快だという意思表示。しかし、彼女得意の挑発が出なかったのは、もうそこまでの余裕が無かったからかもしれない。

 

 その様子を見たツィルニトラはほんの少しだけ口元を緩め、イルムガンに背を向けた。

 

「ヴィヴル、その幼さでよく耐えたな。共に来た方が良いだろう」

 

「わ、分かったわ」

 

 ツィルニトラがヴィヴルの手をとり、サウナの扉を開く。そして、横目でティアマトとイルムガンを横目で見ると、こう告げた。

 

「2人とも、この続きは本選で(・・・)つけよう」

 

 出ていくツィルニトラ。それに続いてヴィヴルも。バタリと扉が閉まったあと、部屋にはティアマトとイルムガンだけが残された。

 

「アタシを……認めねぇんじゃなかったのかよ……」

 

 彼女は、困惑したようにポツリと呟く。

 

「ツィルニトラ様はアナタを闘う相手と認めた。そういう事でしょう」

 

「そのために勝つ事を捨てたのか? 意味、分かんねぇ……」

 

 もはや強がりすら言えなくなったイルムガン。ティアマトは、そんな彼女を真っ直ぐに見据える。そしてぶつける事にした。今だから聞けるだろう疑問を。

 

「……アナタは、なぜ搭乗者を部品などと言ったの? 私を怒らせるため?」

 

「お前には、関係ねぇ」

 

 苦しそうだが明らかにイルムガンから伝わる拒絶の反応。ティアマトは構わず続けた。

 

 

「私は搭乗者を……ショウゴを愛しています。真正面から弱い私を変えてくれた人だから。だから信じられる。部品なんて……許せません」

 

 

 沈黙。水蒸気が噴き出す音だけが2人の間を包み込む。しばしの静寂が続いた後、イルムガンはドアを見つめた。

 

 

「……搭乗者は竜機兵のことなんて、何とも思っちゃいない。期待するだけ無駄だ」

 

 

「え?」

 

 

「うるせぇ黙れ。アタシに戯言を言うな」

 

 

 それきりイルムガンは黙ってしまう。しかしティアマトは気付いた。今の言葉は……挑発と敵対心で武装した彼女が、内に秘めていた唯一の真実だと。

 

 

 言葉では分かり合えない方なのですね……イルムガンは。

 

 

 なら、私は……。

 

 

「私も、もう出ます」

 

「……はぁ? お前も勝負を捨てるのかよ?」

 

「違います。この勝負は竜機兵と搭乗者の2人で行うもの。私には搭乗者が……ショウゴがいます。私の勝ちは揺るがないと確信したのです」

 

 ツィルニトラが疑問符を浮かべる。ティアマトは、宿敵にこう告げた。自信があるように見えるよう、自身の考えが正しいと告げるように。

 

 

「アナタの負けですイルムガン」

 

 

 扉を出るティアマト。パタリと扉の閉まる音。誰もいなくなった部屋で、イルムガンは苛立たしげに舌打ちした。

 

 

 

◇◇◇

 

 ──サウナ勝負開始から45分後。

 

「流石に俺も無理だな。これ以上いたら死ぬわ〜」

 

 ユウがサウナから出ていく。扉が閉まった時、涼しい風が吹いて少し楽になる。1人サウナに残される俺。誰もいなくなった瞬間、自分との勝負になった気がする。

 

 ティアマト達の方はもう勝負が付いたんだろうか? 竜機兵と搭乗者の合計時間って言うけど、向こう側が分からないから入れるだけいた方がいいよな。ナミタみたいにならないようにだけは気を付けないとだけど……。

 

 

「ティア……先行者に、してやるからな」

 

 

 自分を奮い立たせるように言葉を口にして、俺は俯いた。

 

 

 ……。

 

 

 そこからさらに15分耐え、俺はサウナの外に出た。流石にキツいな……。

 

 着替えを済ませて脱衣所を出る。休憩所も兼ねているという広い広場を見回すと、ナミタがヲルス国の人達に開放されているのが見えた。回復魔法を使って貰ったのか、顔色は良さそうだ。良かった……あの時カズマが連れ出したおかげだな。

 

 その時、ヴィヴルが慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「ショウゴ! ティアマトが倒れちゃったの! 側にいてあげて!」

 

「なんだって……?」

 

 心臓が跳ね上がる。ヴィヴルと一緒に広場の隅に走ると、壁に寄りかかって座っているティアマトを見つけた。彼女の側にはツィルニトラやユウ、カズマが。ティアマトは、俺を見つけると弱々しげに微笑んだ。

 

「大丈夫かティアマト!?」

 

「あ、はは……すみません、広場に出た瞬間気を抜いてしまって……」

 

 ティアマトの頬に両手を添えて目を覗き込む。意識はハッキリしてるよな? 大丈夫だよな?

 

「は、恥ずかしいですぅ……♡」

 

 ポッと顔を赤らめて目を逸らすティアマト。俺は我に返って手を離した。慌てているとカズマが俺に耳打ちして来た。

 

「竜機兵ってのは丈夫みたや。さっき俺も容態見たけど問題無かった。安心しろ」

 

「そうか。はぁ……良かったぁ……」

 

 力が抜けて座り込む。なんか、ナミタの時と比べて動揺しすぎだろ俺。薄情なヤツだな……。

 

「すみません、皆さんに心配をおかけして……」

 

「いや、言い出したのは私だ。不慣れなことをさせてしまってすまなかったな」

「そうよ! 姫はがんばったわ! 私もツィルニトラ女王についていかなかったら倒れてたかもしれないし!」

 

 ティアマトを慰めるツィルニトラとヴィヴル。向こうで何があったか分からないけど、無事そうで良かった……。

 

「ショウゴは愛しの姫様が心配で仕方なかったんだもんなっ!」

 

 横からニュッとユウが顔を出してとんでも事を言い出す。い、愛しの!? はぁ!?

 

「な、なななななナニヲイッテンダユウハ!?」

 

「ショウゴ、なんか口調変よ?」

「この反応は……図星だな」

「青春やなぁ」

 

 ヴィヴルにツィルニトラ、カズマがなぜか反応してくる。な、なんでみんな納得したように頷いてんだよ!?

 

「ショウゴハワタシヲソンナフウニ……!?」

 

 ティアマトの顔が真っ赤になる。周囲に弁解するけどユウやヴィヴルがイジってくるせいで余計に泥沼にハマってしまう。ど、どうしたら……!?

 

 

「根性無し共が慰め合ってるのかぁ?」

 

 

 急に周囲が静かになる。嫌味ったらしい声に振り返ると、ニヤニヤと笑みを浮かべるイルムガンが立っていた。ティアマト達の部屋はアイツが1番最後まで残ったのか。

 

「イルムガン……」

 

「小動物みてぇにイチャコラしやがってよ。弱いヤツはこれだから困るんだ。なぁ搭乗者様よぉ?」

 

 俺達を見下したような顔。ティアマトをバカにするような様子に心底腹が立つが無視する。こんなヤツの話なんか聞く必要ない。

 

 俺が無視した事でイルムガンが不快感を露わにする。しかし、すぐに元の小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

 

「ま、軟弱なお前らは合算でないと──」

 

 彼女が何か言おうとした時、広場内にウルベルトの声が響いた。

 

『結果を発表する。竜機兵ティアマト40分、搭乗者ショウゴ・ハガ60分が最長時間であった。よって、アシュタリア代表を本選での先行者とする』

 

「……ちっ。合算ってなぁ。軟弱な基礎だな」

 

 イルムガンが捨て台詞を吐いて広間を去っていく。彼女が通路に入ろうとした時、ツィルニトラがイルムガンを呼び止めた。

 

「イルムガン。貴君が竜機兵の中で最も長時間耐え抜いた。この場にいた者全てが見届けたぞ!」

 

 イルムガンは一度振り返り、俺達をジロリと睨み付けると通路の奥へと消えてしまった。

 

 なんだイルムガンのヤツ、急に態度変わったな。ティアマト達の部屋で何かあったのか?

 

 そんな事を考えていると、背中をバンと叩かれる。

 

「まぁ色々あったが、ショウゴと姫さんが先行者や!」

「いよいよ本選か! 楽しみだぜ〜!」

 

 カズマが俺達に親指を立て、ユウは嬉しそうに両手を頭の後ろで組んだ。なんだかライバルにこう言われるのも変な感じだな。これから戦う相手なのに。

 

「姫も頑張ってたんだから! ショウゴ! 沢山姫を褒めてあげなさいよ!」

「ティアマト姫の内面的な成長は見させて貰ったからな。戦闘面にも期待しているぞ? 姫」

 

 ヴィヴルとツィルニトラが口々に言う。こっちはこっちで上手く関係性ができているみたいだ。

 

「みなさん……ありがとうございます! ありがとうございます!! きっとみなさんの言葉に恥ずかしくない戦いをしてみせます! ショウゴと一緒に!」

 

 ティアマトが涙を浮かべながら何度も頭を下げる。それを見て笑うライバル達。俺には先行者の栄誉なんて分からない。闘いにおいては不利な立場になったとも思う。

 

 だけど……。

 

「やりましょうショウゴ! きっとアシュタリアのみんなも誇らしく思ってくれるはずです!」

 

 嬉しそうなティアマトの顔を見ていると、絶対に勝とうと、そう思えた。

 




〜ティアマト〜

やりましたぁ〜!! 私達が先行者です!! これを乗り越え優勝すれば……ショウゴは名実共に伝説の搭乗者になるのです! やりますよ! やってみせます!!

コホン、予告も忘れていませんよ?

次回はイルムガンの視点でお送りします。私達と別れた後、彼女は何を思ったのか……予選編も残り2話。最後までどうぞよろしくお願いします。

次回 イルムガンという女

次回も絶対見て下さいね?
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