竜の姫に俺は乗る─召喚されしロボオタ、姫が変身したロボを駆り最強を目指す─   作:三丈夕六

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第47話 イルムガンという女

 〜イルムガン〜

 

 クソ、クソ、クソ!! 何が精神を見るだツィルニトラの野郎ふざけやがって! そんなもん勝つことになんの意味もねぇだろうが!!

 

 広間の裏口を抜けて暗い廊下を歩く。広場からあのティアマトを賞賛する声が聞こえる。それを聞いていると腹の奥からドス黒い何かが上がってくる。

 

 先行者? 戦いの汚ねぇところも何も知らねえ温室育ちがそんなもんでチヤホヤされやがって……!! 納得行かねぇ! 先行者なんて興味ねぇよ。お遊びならお前らだけでやってろクソが!!

 

「ふざけやがってガキがよぉ……!!」

 

 廊下に飾ってある鎧を蹴り飛ばす。金属が床に叩き付けられる音が鳴り響く。

 

 ──アナタの負けですイルムガン。

 

 あの惚けた姫の言葉が浮かんで、腹の奥底がカッと熱くなる。何が勝ちを確信しただ。何が搭乗者を信頼してますだ。イチイチ癪に触る女だな!!

 

「あああああクソが!!」

 

 転げ落ちた鎧。その頭部を全力で蹴り飛ばした。

 

「ひっ……!?」

 

 通路の奥から声が聞こえた気がした。なんだ? 五賢老のジジイか? 予選の後でも散々うるさかったからな。規則は守って動いてんのに何言ってやがる。面子なんて勝った後に大事にしろ。

 

 だが、ジジイの声にしては甲高いし情けない声だった。誰だ……?

 

 不思議に思って先に進むと、ナミタが立っていた。スカートの裾をギュッと握って目に涙を溜めて。

 

 ……アレ、アタシのこと待ってたのか? 鬱陶しいな。

 

 話すのも面倒なので横をすり抜ける。すり抜けようとしたところを服の端を引っ張られた。

 

「はぁ……なんだよ? アタシは忙しいんだけど?」

 

「あ、あの……ボク……がんばろうとしたんだけど……ダメ、だった……ごめんなさい……」

 

 弱々しい言葉に無償に腹が立つ。気がつくとアタシは壁を全力でぶん殴っていた。

 

「ひう……!?」

 

 壁にナミタを押し付けて瞳を覗き込む。その泣き顔が昔のアタシみたいで余計腹が立った。

 

「舐めんなよナミタぁ……アタシは竜機兵として戦うために仕方なくお前を乗せてんだ。搭乗者面して責任感じてんじゃねぇよ」

 

「で、でも……イルムガンが1番だったのにボクのせいで……」

 

 ナミタの怯えるような顔。だけどその目は他のヤツらがアタシに向ける目じゃない。まるでアタシのことが分かっているような憐れむような目。その目を見ていると今度はツィルニトラの事を思い出して、拳を握りしめた。

 

 ── 貴君が竜機兵の中で最も長時間耐え抜いた。この場にいた者全てが見届けたぞ。

 

 ……何が見届けただ。アタシの事を何一つ知らないクセに!!

 

 

 考え出すと、もう1人いたヴィヴルとかいうガキの言葉も浮かんで来る。

 

 ── スタイルもいいし憧れるわぁ〜!

 

 ふざけるな……! アタシがどんな思いで今日まで鍛えて来たと思ってんだ。それを世辞に使いやがって……!!

 

「あ、あの……ごめんなさ……」

 

「黙れ!!」

 

 頭の中雑念を振り払うように、ナミタの肩越しにもう一度壁をぶん殴る。小さく悲鳴を上げて頭を抑えるナミタ。何も言えなくなったナミタの胸倉を掴む。

 

「いいかよく聞け。アタシはお前になんの期待もしてねぇ。弱けりゃ弱いままでいろ。その方が竜機兵としてのアタシの強さを証明できんだよ」

 

 吐き捨てるように言ってやる。ナミタが大人しくなったので壁に突き飛ばし、踵を返す。ヤツへと振り向かずアタシは叫んだ。

 

「お前はアタシの部品だ!! 気絶しねぇようにしがみついてりゃいいんだよ!!」

 

 後ろのナミタは何も答えない。ただ小さく啜り泣く声だけが聞こえてくる。ちっ、アタシに擦り寄ってくんなよガキが。テメェがどんな人生歩んで来たがしらねぇが、同情して下さいって態度がムカつくんだよ。

 

 ……ムカつく。

 

 アタシ以外の全てがムカつく。もう一度チャンスが巡って来たことは感謝してやる。だけどな、どうせツィルニトラの野郎が偉そうに五賢老に提案したんだろうが。アタシを出せば運営に掛け合うとか言ってよ。

 

 ふざけやがって。クソだ。全部クソだ。この儀式も、竜機兵の奴らも、搭乗者も。

 

「……いいぜティアマト。お前に先行者はくれてやる。だがな、本選ではアタシが勝つ。全身ズタズタにして戦いの厳しさってのを教えてやるよ」

 

 口にして初めて、アタシが先行者になれなかったことに苛立っているのが分かった。……アタシもクソだ。全部消えろ。全部死ね。アタシが優勝してこのふざけた儀式を否定してやる。

 

 暗い廊下を進んでいく。強くなければ生きていけない。 誇りなんてクソだ。絆なんて嘘だ。そんなものがアタシを守ってくれることなんてなかった。耳障りのいい事を言ってるヤツらは全員嘘ばっかだ。どうせすぐに手のひらを返しやがる。

 

 

 あの時みたいに。

 

 

 前回の竜闘の儀……どいつもコイツもアタシを見下しやがって。お前らの為に傷付いて戦ったのは誰だ? 辛い修行を乗り超えたのは誰だ? 反則したら罪人かよ。声援も、応援も、全部嘘じゃねぇか。誰一人話なんか聞いてくれなかったじゃねぇか。

 

 

 誰も、信じて──。

 

 

 ──誇りなき者は塵芥にも等しい。期待を裏切った卑怯者。信じていたのに。愚か者が……!

 

 ──馬鹿者め! なぜ生きている? 恥知らず。目を合わせるな。さっさと死ねばいいのに。

 

 ──イルムガンは罪人。罪人は殺せ。外に出さないで! 恐ろしい……。穢れた魂を持って生まれたのね。殺してやった方がいい。

 

 

 国のヤツらに言われた言葉が頭の中をグルグル回る。ちっ。思い出した瞬間、竜核改造の影響が出て来やがった。

 

 

「うるせえうるせえうるせえ!! アタシはもう過去に興味は無い!!」 

 

 

 勝たなければ意味がない。勝たなければゴミだ。生きている価値もない。

 

 

「アタシはゴミじゃない」

 

 

 勝って、全部黙らせてやる。アタシを見下したヤツら、全部。

 

 

 鎮まない怒りを抱えて、アタシは暗がりを歩き続けた──。

 




次回 ティアマトの想い

次回で予選編最終回です。
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