竜の姫に俺は乗る─召喚されしロボオタ、姫が変身したロボを駆り最強を目指す─   作:三丈夕六

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第8話 ティアマトの涙

 翌日。

 

 俺は城内にある兵士達の訓練場で、竜機兵化したティアマトに乗っていた。決闘相手がやって来るのを待つ為に。

 

 決闘場になる兵士訓練場を見渡してみる。四方を囲む城壁。その中央に鋼鉄の剣が突き刺さっている。

 

 アレをメインに戦えってことか?

 

 この空間、1対1なら申し分無い広さだが、ヴァース・ショットは使えないな。アレだと威力が高すぎて城壁を破壊してしまう。下手をすると兵士達も巻き込んでしまうかも。

 

 となると、飛行するのもやめた方がいい。飛行した瞬間、相手は地対空で飛び道具が使い放題になる。ワイヤークローとあの剣で闘うしかないか。

 

『ショウゴは、緊張してますか……?』

 

 ティアマトの深刻な声。昨日からティアマトの様子が変だ。アシュタルに言われた事がよほどショックだったのだろうか? 自分に竜闘の儀に出る資格が無いと言われた事が。

 

 そんな事、気にしなくても俺はお前と……。

 

 いや、今言うのはやめよう。ティアマトに余計にプレッシャーを感じさせてしまうしな。

 

「悪いな、あの変態王女に絶対負けたくないって思ってさ」

 

「ふふっ。私では絶対に言えない言葉です」

 

 軽口を叩いてみたら、ティアマトは少しだけ笑った。ちょっとは気が楽になっただろうか?

 

「それにしても……結構な数の竜機兵がいるんだな」

 

 城壁へ沿うように配備される銀色の機体達。その中には頭部に緑色のラインの入ったダーナの機体もあった。

 

 改めて彼らの機体を見てみる。頭の角は左右どちらかしか存在せず、ティアマトのように左胸を覆う装甲が無い。

 

 全体的にシンプルな造形をしたそれは、直立したまま俺達を見守っていた。

 

「アレは竜機兵(りゅうきへい)ではありませんよ。我が国の偽竜兵(ぎりゅうへい)、ワイヴァルスです」

 

「偽竜兵……ワイヴァルス?」

 

〈解。偽竜兵とは、700年前に勃発した殻竜戦争(かくりゅうせんそう)で戦死した竜機兵の遺骸を発掘し、魂無き鎧として再利用している人型機動兵器です〉

 

「い、遺骸を利用……? なんかサラッと怖いこと言っていないか? というか700年前ってとんでもない昔じゃん」

 

〈解。問題ありません。戦死した竜機兵達は死後に己の身体を再利用するよう誓いを立てています〉

 

 どういう誓いだよそれ。そのなんとか戦争ってティアマトが言ってた侵略者との戦いのことだよな、確か。そんなヤバいヤツらが攻め込んで来たのかよ。

 

『……その辺りは長くなるのでまた今度お伝えしますね。今はショウゴの世界で言う意識の無いロボットと思って頂ければ……』

 

 ふぅん、つまり……偽竜兵はこの世界で言う量産機ってことか。ティアマトはそれとは違うオリジナル……強いわけだ。

 

 その時。

 

 扉が開き、門の中から1機のワイヴァルスが現れた。他の機体とは異なり、額に1本角があり、所々赤いラインが入っている。エッジの聞いた各部、スラスターも他の機体より大型だ。

 

 その機体が入場すると、他のワイヴァルス達は一斉に姿勢を正した。

 

『ワイヴァルス・カスタム……? あの機体は……』

 

「カスタム? 有名なヤツが乗ってるのか?」

 

〈解。あの機体はビル・ハインズ専用機です。ビル・ハインズは前回竜闘の儀の参加者、ショウゴ・ハガと同じ世界の出身です〉

 

「俺と同じ世界の? マジかよ」

 

 前回の参加者って……この世界に残ったのか……というか、そんなヤツを相手に選ぶなんて、アシュタルは本気で妹を潰しに来たって事かよ。

 

 城壁の上に2つの人影が現れる。ルカド王とアシュタル王女が。王は俺達をチラリと見ると、何も言わずに頷いた。

 

 王様は、信じてるってことか……ティアマトを。

 

 アシュタルが一歩前へ進み、声を上げる。

 

「今より我が妹、ティアマトの行末を決める決闘を行う。対戦相手にはビル・ハインズ殿を召集した! 皆、この戦いを心して見るように!!」

 

 ティアマトに再び緊張感が訪れる。あの女……本気なのか?

 

「フフッ」

 

 不敵に笑うアシュタル、それを見た瞬間、背中にゾワリと悪寒が走る。

 

『ち、ちょっとショウゴ……? もしかして、お姉様とのただれた生活を想像して……?』

 

「してないよ!?」

 

『うぅぅぅ……許せません許せません……夜な夜なおぞましい事など……絶対させませんから……!!』

 

 怨念の籠ったようなティアマトの声。夜な夜なおぞましいってなんだよ……? 怖すぎるんだが……!

 

 一瞬、アシュタルが鞭を持って舌舐めずりをしている姿を想像してしまい、また背筋に悪寒が走った。

 

〈ショウゴ・ハガから感知する心拍数上昇は嫌悪感から来る物だと考えられます〉

 

『ほ、本当に?』

 

「あ、ああ! 俺はそんな拷問みたいなのはごめんだって!」

 

 AIへ被せるように言ってティアマトを慰める。そうしていると、アシュタルはビル・ハインズという男の機体へ視線を送った。

 

「ハインズ……殿から何か言うことは?」

 

『別に何も』

 

 ハインズ機から一言だけ声が響く。なんか無口なヤツだな。だけど、あの機体から漂うオーラは尋常じゃない。かなりの実力者みたいだ。

 

「では、両機は剣の前へ!」

 

 アシュタルの一言で、俺達は中央へ向かった。

 

 剣を抜き、ハインズ機と向かい合う。ヤツの機体を観察していると、アシュタルが再び声を上げた。

 

「本決闘は竜闘の儀の作法に従う! どちらかが降参する、もしくは頭部を破壊された瞬間に勝敗は決する!! 双方準備はできているな!?」

 

『ショウゴ。昨日話した通りです。気遣いは嬉しいですが……本気でやって下さい。私ならば、傷付いても大丈夫です』

 

「……ああ、分かってる。元からこの戦いに負けるわけにはいかないもんな、お互い」

 

 このルールと竜騎兵のダメージの事は昨晩ティアマトに教えて貰っていた。

 

 この形態の彼女は負傷しても……それこそ頭部を破壊されても時間があれば再生し、人の姿へ戻ることに影響は無いらしい。

 

 彼女の人としての姿や人格が記憶されているのは、左胸装甲に守られている竜核(レギスコア)。それさえ守ればティアマトは死ぬ事は無い。それを聞いて安心した……俺も全力を出せるから。

 

『大丈夫……勝てます……ショウゴと私は一緒に闘うのです……』

 

 自分に言い聞かせるように呟くティアマト。彼女の緊張がピークに達しているのを感じる。

 

「ティアマト、心配するなって」

 

『勝たなければ……勝たなければショウゴが……』

 

 ……ダメだ。聞こえていない。俺も今は目の前に集中しないと。

 

 アシュタルが、俺達とハインズ機を交互に見て右手をゆっくりと上げる。

 

 

「……」

 

 

 ん?

 

 一瞬、アシュタルの顔に寂しげな表情が浮かんだ気がする。しかしそれはすぐに無表情へと変わり、彼女はその手を勢いよく振り下ろした。

 

 

「始め!!!」

 

 

 アシュタルの声と共にハインズ機と距離を取る。剣を構え、ジリジリとすり足をしながら隙を窺う。ハインズは、剣を構えながら声を上げた。

 

『ティアマト姫。貴女の覚悟、見せて頂きます』

 

『言われなくても……!! 私は……!!』

 

 ハインズ機が剣を騎士のように構える。彼が胸に剣の持ち手を当てた瞬間、ズシリと体が重くなった。

 

「ぐっ……!?」

 

 なんだあの機体の威圧感(プレッシャー)は? ヒュドラムとは全然違う感覚だ。ティアマトと精神リンクしていてもここまで空気が張り詰めるなんて。

 

 この世界での対人戦はこんなに緊張する物なのか? いや、いつもの精神リンクの時と違う。胸の奥がザワザワするような感覚がする。

 

〈ティアマトの精神状態に……発生。出力……%……下〉

 

 AIが何か言っているが、目の前の機体から意識を逸らす事ができない。俺も緊張してるのか? クソッ、今なんて言ったんだ?

 

 考えろ……まともに使える武器はワイヤークローと剣。実戦経験はヤツの方が上。

 

 セオリーなら牽制(けんせい)で相手の動きを測る。だが、一目見ただけで分かる。ヤツは強い。この威圧感、強者としての立ち振る舞い。こちらの動きは即読まれるだろう。

 

 ……なら、逆にそれを利用してやる。

 

 木が風にそよぐ音が聞こえた瞬間、ペダルをベタ踏みし、ハインズ機の懐へ一気に踏み込む。剣を下段に構え、正面から斬りかかるように。

 

「頼むぜ……騎士道的なの持っててくれよ……!!」

 

『ほう、正面から来るか』

 

 ハインズ機が剣を構える。よし。あの構え……完全に正面から迎え撃つ気だ。なら、ヤツの想像を超えた動きをしてやる。

 

 いや、してみせる!

 

「気絶するなよティアマト!!」

『は、はい!!』

 

 ヤツへ斬撃を放つ直前、上半身を左へひねり、左腰のワイヤークローを放つ。

 

『何?』

 

 ワイヤークローが左側面の城壁に突き刺さる。それと同時にクロー先端を展開し、急速巻き取りする。ワイヤーの力で機体を左へとスライド移動させる。城壁からクローを引き抜くと同時に大地を蹴った。

 

 ハインズ機の右側面へと回り、その首へ向けて横薙ぎの剣撃を放つ。

 

「うおおおおおぉぉぉ!!!」

 

 無防備なハインズ機。その首を切断──。

 

 

『甘いな』

 

 

 ハインズ機から声が聞こえた瞬間、金属が激突する音がした。ハインズは、こちらを振り向きもせず腕だけを操作し、その剣で斬撃を受け止めていた。

 

「……マジかよ」

『こ、コチラを見もせずに……!?』

 

『頭部狙い……勝ちを急いだ攻撃をフェイントとは言わん。並の兵士ならば奇襲も通じただろうが、竜闘の儀を戦った者には……効かんな!!』

 

 直後、目の前のハインズ機がスラスターを噴射し、左足を軸に回転。それを認識した瞬間、衝撃と共に体が浮き上がる。

 

『かはっ……!?』

 

〈右脇装甲損傷。ハインズ機より攻撃を受けました。追撃に備えて下さい〉

 

 下を見ると、ハインズ機の放った剣撃がティアマトの脇腹へと叩き込まれていた。

 

『ちっ、ナマクラが。研ぎ直しておけよ』

 

 ハインズ機が剣に向けて悪態をつく。剣での連撃を狙うハインズ機。咄嗟に左手の魔法陣を操作して、ヤツの頭部へワイヤークローを放つ。ハインズは、追撃を瞬時に中断し、紙一重で頭部への攻撃を回避した。

 

 

『先ほどの動きといい、ただの召喚人(しょうかんびと)では無いなお前』

 

 

 ハインズが体勢を立て直す前にバックステップで距離を取る。今の一撃はヤバかった……。剣自体が研ぎ澄まされていたら胴体を真っ二つにされていたかも……。

 

『油断できるほど距離をとったのか?』

 

「しまっ──!?」

 

 気を抜いた一瞬の隙。それを突いたビル・ハインズが懐へ飛び込んで来る。攻撃を防ごうとしたが、剣が弾き飛ばされ、宙を舞った。

 

「AI!! ストーム・ブレード!!」

 

〈ストーム・ブレード展開します〉

 

 背面ハッチを開き右肩にストーム・ブレードが現れる。

 

 が、武器を抜く前にヤツの左手が突き出される。ティアマトの頭部。破壊されれば敗北となる場所に。

 

『獲ったぞ? 反撃できなければ終わりだ』

 

 展開するハインズ機の左腕装甲。ヤツの左腕に収納されていたヴァース・ショットが頭部に当てられる。

 

『は、速すぎます……!?』

 

 コイツ、ゼロ距離で使う気かよ……しかもこの余裕。巻き添えを喰らわないと確信しているのか?

 

『私は……負けません!!』

 

 精神リンクを通してティアマトの取りたい動きが反射的に分かった。こちらも左腕装甲を開き、ヴァース・ショットを展開する。

 

 

 が。

 

 

『見え見えですよ、姫』

 

 瞬間、左腕を蹴り上げられる。

 

 

『キャアアアアアアアァァァァ!!?』

 

 

 ティアマトの叫び声。だが、蹴られたおかげか、ヤツのヴァース・ショットの照準が外れた。

 

「くっ!!!」

 

 体勢を立て直しストームブレードを掴む。風の刃を展開し、横薙ぎに一閃する。しかし、俺が放った斬撃は、ハインズ機が後ろへ飛び退いた事で躱されてしまった。

 

『悪いがその装備、こちらは持っていないのでな!!』

 

 ヤツの右腰からワイヤークローが放たれる。それがストームブレードを握る手に直撃し、刀身の消えたストーム・ブレードが宙を舞う。滑るように地面を移動したハインズ機がストーム・ブレードを掴む。ヤツは、近くにいたワイヴァルスへ放り投げた。

 

『持っておけ。渡すなよ』

 

 ……こちらの動きが完全に読まれてるみたいだ。奇襲をかけようとしても通じない。ここは正攻法の中にフェイントを織り交ぜる戦法でいくか。

 

 ヴァース・ショットを構えながらスラスターをふかす。ヤツから距離を取りながらスライド移動し、吹き飛ばされた実体剣を拾い上げる。追撃が来るかと思ったが……俺達の動きを見極めているのか? だが、好都合だ。俺達を甘く見ているなら、まだ勝ちの目はある。

 

「ティアマト、反撃するぞ」

 

『……』

 

 ティアマトから返事が無い。どうしたんだ? もしかして、今の一撃で何か不調が……?

 

 そう思った時、AIの声の声が聞こえた。今度はハッキリと。

 

〈警告。ティアマトに更なる接続障害発生。極度の緊張状態と精神負荷により、機体性能が著しく低下しています〉

 

『う、ぅ゛ぅぅぅ……』

 

 モニターがジワリと歪む。ティアマトは、大粒の涙をボロボロ流しながら泣き声を漏らし始めた。

 

「お、おいティアマト!? どうしたんだよ!?」

 

『ひぐっ、い、嫌です……ま、負けたくない゛のに、か、体が動きません……』

 

「体が動かないってどういう……」

 

 その時、静まり返った空間に兵士達のザワつく声が聞こえた。

 

 

「姫様、流石にハインズ殿には勝てなかったか」

「まぁ、あの姫様だしな」

「ヒュドラムを倒したのも運が良かったのかも……」

 

 

 胸の奥がズンと重くなる。ティアマトが今の兵士達の言葉を聞いてしまったみたいだ。嫌な感覚がする。自信を失った時の感覚みたいな……。

 

『嫌……嫌……私は……役立たずじゃ……』

 

〈ティアマト・リ・アシュタリアの意識が混濁しています。精神接続が40%へ低下、さらに下がり続けています──30%を下回りました。駆動系への接続が打ち切られます〉

 

 コクピット内が一段暗くなり、両手の魔法陣も重くなった気がする。

 

「なんでだよ……これからだぞティアマト? まだ俺達は負けてねぇって」

 

〈リンクモードを解除。搭乗者制御モードへ移行します。ティアマト・リ・アシュタリアの精神接続を復旧させて下さい〉

 

 

『……ショウゴと……戦いたいのに……なんで……』

 

「ティアマト!!」

 

『わた……し……は……』

 

 独り言のように呟く彼女、震える声。彼女の声が遠くなり、やがて聞こえなくなってしまった。

 

 

『おいショウゴとか言ったか? 決闘を申し出たのはお前だ。このままで終わるのか?』

 

 

 剣を構えたまま、ビル・ハインズが挑発するように言う。ふと見ると、アシュタルも俺達を蔑んだような顔で見下ろしていた。

 

 兵士達の声も大きくなる。口々に「仕方ない」とか「姫様だから」とか声が漏れ始める。

 

 

 

 は?

 

 

 

 お前らティアマトの何が分かってんだよ? ティアマトの凄さは、昨日出会ったばかりの俺だって分かったんだぞ? お前らティアマトとずっと一緒にいたんじゃないのかよ!

 

 

 目の前にいる強敵、彼女を抑圧するもの、ティアマトの涙……脳裏に、昨日のアシュタルの言葉が浮かぶ。

 

 

 ──本当に、愚図な子……己の分をわきまえて生きればこのような……。

 

 

 ……。

 

 

 

「そうか」

 

 

 今、分かった。

 

 

 ハインズが速いんじゃない。アイツらのせいでティアマトが遅くなってしまったんだ。ヒュドラムと戦った時のような、本当の自分を出せないんだ。

 

 

 ……ふざけるなよ、お前ら。

 

 

 全部、全部……勝手に決め付けんな。お前らがティアマトを「愚図な姫様」って型にはめてんだろ。

 

 

 俺の「愛機」を、馬鹿にするんじゃねぇ。

 

 

 俺の中で、何かがキレる音がした──。

 

 

 




〜ティアマト〜

悔しいです……! くやしいと思うのに、体が動かない……私はどうしたらいいの……? このままじゃ、ショウゴが……。


次回。私が意識を失ったまま、ショウゴは1人でビル・ハインズへ挑みます。しかし、圧倒的な操縦技術を持つハインズの前にショウゴは押されてしまって……そんな中、ショウゴがある行動を……?


次回、「覚醒する2人」


絶対見て下さいね。
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