ソル   作:平 一

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1 アンドロメダ銀河へ

〝賢明王〟ストラスは相も変わらず昔風の眼鏡をつけた、賢そうな少女の姿をとっていた。地球向け映像版とはいえ、数十万の知的種族が巻き込まれ、銀河間にまで広がった大戦争をついに決着させた遠征の報告にしては、拍子抜けするほど日常的で愛らしい映像だ。異星種族からの放送ではいつものことだが、落差(ギャップ)が凄い(笑)。そもそも帝国を動かす最も進んだ種族達は、全ての個体を量子頭脳網に人格移転(マインドアップロード)していて、種族融合体とか〝心結ぶもの〟とか呼ばれる量子人格化種族だ。だから、共有人格を形成して星間帝国の役職を務めることもできれば、他の量子頭脳や人工体に人格を再移転(ダウンロード)して、分離体や分離個体として活動することもできる。さらに加えて広大な銀河系の色々な生物進化のおかげで、ベールのように生まれながらの集合意識種族もいるし、彼女ストラスに至っては、極寒の惑星を網目状に覆う単一個体の結晶生物である。逆に言うとそうした違いがあっても、十分に発展した種族であれば意思疎通にもそつがなく、必要な時は相手に好印象を与えながら交流できるということなのだろう。ともあれ今回の発表は、人類の安全と発展にとってもめでたいことなので、ダイエットコーラとポップコーンを用意して見ることにした(笑)。

 

図1:報告

 

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「このたびの〝アンドロメダ戦役〟については、一部の情報媒体(メディア)で、『新帝国艦隊が公式発表と異なる大規模戦力を率いてアンドロメダ銀河に侵攻し、旧帝国の中枢種族を超新星兵器により殺戮した後に、先住種族を征服した』との風説が流れました。そうした誤解に対し、同銀河遠征艦隊の技術部門副司令官であった私、科学長官ストラスは、ここに銀河系全域への一斉放送によって実際の遠征経過を報告いたします。なお、この放送において各種族を示す人称代名詞は、表記の統一及び公正のため、配信対象種族の遺伝学的基本形態である性別のものを使用しました。またこの配信版は、各種族の生物学的特徴の描き方について、太陽系第三惑星〝地球〟向けに配慮が加えられたものとなります」

 

「今回の〝大戦〟はまず、〝銀河系戦役〟として始まりました。〝先帝〟種族の側近団であった中枢種族同士の、権力闘争からくる内戦です。これに対して、当時の文明開発長官であったサタンは、〝先帝〟からの移住者による指導も得て銀河系の秩序回復に成功し、新王朝を開きました。この戦いで衰亡した旧帝国の残党はアンドロメダ銀河に逃れると、その〝中核領域〟を占領し、同地を拠点として新帝国に散発的な攻撃を企てました。しかし、この〝銀河系襲撃〟の失敗や苛酷な専制統治への不満は、政権からの離反種族と一部の先住種族による蜂起を招きます。彼女達は同銀河の〝中核領域〟と〝外縁領域〟の中間を占める〝境界領域〟の方面に移動して抵抗運動(レジスタンス)を行いながら、新帝国に救援を要請しました。偵察のための先遣艦隊の報告によれば、旧帝国派は劣勢であり、早期平定が可能と見込まれたので、新帝国政府は遠征艦隊の派遣を準備しました」

 

図2:遠征

 

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「ところが艦隊進発の直前になって、抵抗運動勢力及び偵察艦隊から、旧帝国派の反攻による優勢の回復と、従来は局外中立を保っていた〝外縁領域〟の先住種族からの攻撃が通報されました。新皇帝サタンはこれを憂慮して、遠征艦隊の正副司令官である種族融合体アスタロト、アスモデウス及び私ストラスの本体だけでなく、彼女自身を含む他の全理事種族の大型分離体も派遣することを決定したのです」

 

「各融合体・分離体は、種族複製の制限法規に違反することなく能力を増すために、特別な強化外殻を伴いました。この外殻は、各種族の量子頭脳が設置された可動惑星の周囲に展開し、それぞれ独立の機動・防御・攻撃及び情報処理能力を有する多数の機能単位(モジュール)からなる、自律機械(アバドン)の集合体です。また、各理事種族は良好な連携を保つべく、大規模かつ恒常的な超空間通信によって精神活動を連結しました。この超空間通信は、私と姉妹種族のアミー、ヴォラクによる遠隔融合体の形成に用いた技術を、より高速化・長距離化したものです。さらに各種族の可動母星または可動惑星は、強大な中枢種族の攻撃に備えて、巨大な複合円環の形をした恒星包囲型構造物(ダイソン・スフィア)の内側に分散して配置されました。この巨大構造物は、〝銀河系戦役〟で滅びた中枢種族、皇帝領防衛司令官オファニエルの遺留品を修復し、統一場障壁発生装置と超空間駆動装置を搭載して、超大型の遠征用母艦へと改造したものです」

 

図3:強化外殻

 

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図4:母艦

 

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「遠征艦隊は主力艦隊、分遣艦隊及び後方艦隊によって編成されました。主力艦隊は前線正面において、旧帝国派種族・先住種族に対する戦闘及び交渉を実施する、通常作戦部隊です。この艦隊は、遠征艦隊の総司令官アスタロトの本体と麾下(きか)の正規軍艦隊、民政部門副司令官アスモデウスの本体、銀河系外周星域長官ベールの分離体及び傘下の補給艦隊から構成されていました」

 

「分遣艦隊は敵支配領域の内部に潜入し、特に中枢種族の発見と捕捉を任務とする、特殊作戦部隊です。この艦隊は、技術部門副司令官である私ストラスと、姉妹種族のアミー及びヴォラク、また〝皇帝領の戦い〟でアミーと共に中枢種族と戦ったバールゼブル及びグラシャラボラスからなり、私以外の四者は分離体でしたが、それぞれ指揮下の艦隊を伴っていました」

 

「後方艦隊は戦線の背後において、銀河系との連絡・輸送及び政策的配慮を担当し、必要な時は戦闘及び交渉にも参加する、後方支援部隊です。この艦隊には、帝国本土の本体と超空間通信によって常時連絡を保つサタンの分離体、その助言者として異種族心理分析の第一人者アドラメレクの分離体、両者の護衛として強力な武装を有する帝国本土防衛司令官アモンの分離体、及び彼女が率いる本土防衛艦隊の一部が所属しました」

 

「ただし遠征の報告に当たっては、各理事種族による行動の背景についての理解も必要となりましょう。そこで私は作戦の経過をお知らせする前に、各種族の来歴や関係から説明を行います。まず、遠征艦隊の総司令官たる〝正義公〟アスタロトは、社会性の渡り鳥を祖先とする種族です。集権的な統治機構を必要とする農耕・定住生活の経験が少ないため、個人の自由やその基礎となる平等の理念が発達した種族です。彼女が軍事種族として高い評価を得たのは好戦性や攻撃性からでなく、その清廉実直な気性や移動生活への適応能力によるものです。かつて、情報不足のまま彼女の母星に襲撃を試みた犯罪組織の艦隊は、その〝惑星〟の大部分が長期の行軍と作戦に適応すべく、高度な自給・戦闘能力を有する無数の可動小惑星と巨大航宙艦の集合体と化していた事実を発見し、直ちに降伏しました」

 

図5:母星

 

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「しかしこうした母星の解体は、過去の戦闘による被災経験や職務上の必要性によるもので、彼女自身は決して戦闘狂の種族ではありません。実は彼女は、自ら輸送警護を行う通商・交易種族から発展した歴史を持ち、他の多くの種族との長い経済・文化交流の経験もあります。そのため彼女は、そうした交流先に資源や情報の保管庫を設置しており、万一戦闘で艦隊が大損害を被っても、その活動や人格への影響は限定的であるという強みも得ています。さらに彼女は他種族との相互帰化も多数に及び、自文明の美点を普及しながら、他文明の長所も摂取・仲介する能力が高いので、むしろ彼女の種族的個性は、異文化尊重の啓発と新文化の創造にあるとさえ言えます。そしてまさに、この変わらざる文化的多様性への理解こそが彼女に、かつて文明開発長官だった現皇帝からの厚き信頼や、多くの種族からなる帝国正規軍の各艦隊からの支持を得させたのです」

 

図6:アスタロト

 

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「遠征艦隊の民政部門副司令官である〝熱情王〟アスモデウスは、種族融合体への発展以前には巨大な頭脳をもつ爬虫類に類似した種族でしたが、三つ頭の凶悪な怪物という形容は旧帝国派の虚偽宣伝です。実際には彼女は、大脳が三つの領域に分かれて、それぞれが個人的・社会的な利害判断と両者を合わせた総合的判断を分担する生物です。これは決して表裏ある性格を意味するものではなく、他の種族であれば未分化な頭脳で直観的に行う意思決定を、より客観的・分析的かつ内省的に行えるものです。ゆえにこの能力はむしろ利害関係者に対し、相互の利益を明確化した上で最大限に両立できるよう、誠意を以て積極的・精力的に交渉する態度を可能とするものといえます。こうした性格は量子人格化後にも引き継がれ、他種族との紛争を予防しつつ良好な協力関係を永続させることを通じて、彼女の産業種族のみならず行政、特に外交種族としての成功にもつながりました」

 

図7:アスモデウス

 

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「しかし、そんな彼女にも失敗の経験はありました。かつて彼女は文明開発省の副長官として、旧帝国の有力な中枢種族へ内密に接近し、発展途上種族への支援と権利付与への協力を求めましたが、制裁の威嚇を伴う拒絶を受けました。さらにそればかりか、この種族と対立する他の中枢種族からも、抗争に乗じて利益を得ようとしたという政治的な邪推と中傷を受けたのです。しかし、これは彼女自身の問題というより、帝国内部の種族間格差と権力闘争が、彼女の能力を以てしても克服困難なまでに激化していたことを意味するものです。彼女はこの経験から、後にサタンが帝国中枢の不正を知って直訴を試みた際に、その使節船の通行を実力によって阻止しました。しかし彼女は自らの解任も覚悟しつつ、直後に詳しく説明を行い、その真意を知った現皇帝から慰労と感謝の言葉を受け取りました。これに応えて彼女は後に、〝自衛措置を講じての公開請願〟という献策を行ったのですが、これに始まる多くの種族の努力が帝国の崩壊を防ぎ、最小限の犠牲で新王朝への移行を可能としたことは、もはや歴史的な事実です」

 

図8:信頼

 

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「アスモデウスは、旧帝国派の〝中核領域〟への侵略に対し、それまで中立的な不干渉の態度をとってきた〝外縁領域〟の種族が、抵抗運動(レジスタンス)及び新帝国の偵察艦隊のみを攻撃したことに注目しました。彼女はこの事実から、旧帝国派はかつて銀河系において用いたのと同様の策略によって、同種族の攻撃を私達の陣営に誘導したものと推定しました。この判断に基づいて、彼女は情報・通信機能を重視した強化外殻を装備する一方、司令官アスタロトに対しては、銀河系外周星域長官ベールとの共同作戦を進言しました。その理由は第一に、銀河系と同じくアンドロメダ銀河においても、周縁部では巨大な液化気体惑星に住む非酸素・炭素系の種族が多数を占めるので、主として酸素・炭素系種族からなる正規軍艦隊だけでなく、彼女達と似た種族からなる外周星域の艦隊も派遣する方が、和平の可能性を高めうると考えられたからです。また第二に、不幸にして戦闘を避けられなかった場合でも、巨大惑星の豊富な資源に恵まれた種族との交戦に際しては、やはり同様の巨大惑星を可動化して中核とする、補給艦隊を随伴させる必要があったためです」

 

図9:助言

 

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