ソル   作:平 一

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2 外縁種族との和平

「銀河系外周星域の長官である〝辺境王〟ベールは、大型の液化気体惑星に浮遊する藻類から進化した種族です。この藻類は初め単細胞生物でしたが、それらが集まって多細胞生物となり、さらに多数が集合して巨大な群体を形成しました。この群体は微弱な恒星の輻射に加え、惑星上の化学・熱力学・動力学さらには電磁力学的現象までをも活用して成長を続け、遂には惑星表層の環境を変化させるほどの浮遊大陸を形成して、他の様々な生物種も進化・繁栄し得る楽園を創造しました。さらにこの群体は、原核生物が他の同類を体内に摂取・共生して真核生物に進化したように、体内の多様な生物種に共有神経網を提供することで、それらと同化したのです。これにより彼女は知覚・思考・動作能力を得て、天然の〝心結ぶもの〟とも称すべき、一個の巨大な集合意識生物へと進化しました」

 

図10:外周種族

 

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「この生物は宇宙進出後、外周星域全体に広がって支配的な種族となりました。しかし、他星系に移住するための再分離は血縁種族間に様々な意見の相違をもたらし、その論争は特に、中心星域を支配する酸素・炭素系種族との関係を巡って、激しいものとなりました。〝最初の群体〟を代表とする集団は、血縁種族による全銀河系種族への〝保護〟を主張しましたが、その娘の一人ベールを長とする集団は帝国との分離・共存を提唱しました。しかし不幸なことに、中心星域においても主戦派勢力が優位となり、最初の〝大戦〟とも言われる〝外周星域戦争〟が勃発します。この戦争では外周種族が敗北し、〝最初の群体〟を含む多くの種族が滅亡したため、彼女達に代わって穏健派のベールが、形式的な〝銀河系外周星域長官〟に任命されました」

 

図11:ベール

 

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「今回の〝大戦〟において、ベールが率いる外周星域は新帝国と同盟し、その戦勝に貢献したことで完全な自治権を獲得しました。そのため彼女は旧帝国派の政治宣伝(プロパガンダ)において、その進化の過程から、異種の生物が混じり合った怪物として描かれたのです。しかし実際には、自らの生存がその体内における生態系の均衡維持にかかっていることから、後進の生物種を守り、育み、そして導くことを本能とする、母性的な慈愛に満ちあふれた種族です。すなわちベールは、むしろ生まれながらにして、発展途上種族の伝承説話にいうところの〝神〟に最も近い存在というべきでありましょう」

 

図12:女神

 

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「アスタロトからベールへの協力依頼を仲介したのは、ベールの副長官である〝美麗公〟アドラメレクです。彼女は一惑星上に共生する二種類の知的種族が、単一種族として帝国に加入した種族であり、その分離個体はそれぞれ、器用な二本の腕を備える孔雀(くじゃく)騾馬(らば)に似ています。彼女達の日常生活では、ある時は前者の指導のもとに強健な後者が働いているかのようですが、他の場面では前者が後者を主人とみるかのように、親身に身辺の面倒を見ています。そのため観察者は主従関係の判断に悩むのですが、両者の関係は親密にして対等です。ちなみに、二種族の共通個体はやはり二本の腕を有する天馬(ペガサス)のようですが、どちらの種族もこの形態を取った場合には、行動形態の違いがなくなります。そこで、現在において実質的には両者の区分は消滅し、必要または好みに応じて、各人格が両者の形態を使い分けているに過ぎないとの見解が有力です」

 

図13:アドラメレク

 

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「彼女は現職への就任に伴い、中心星域の母星から外周星域の巨大惑星に移住しました。しかし近年、帝国の考古学者による旧母星の発掘調査中に、太古の核戦争の痕跡が発見され、かつて両種族は相争って衰退した後に、共同で文明を再建したものとの仮説が公表されました。当時は未だ発展途上だった当該宙域の文明開発を担当する部署には、サタンが所属していました。また、敵対する種族の間に相互依存関係を構築して紛争を解決するのは、彼女の得意とする発展支援手法です。報道機関から当時の事情を問われた現皇帝の分離個体は、記録の逸失により詳細は不明ですと答弁し、ただ暖かく微笑みました。しかし、その後にアドラメレク自身が仮説の真実性を公表し、現在の一体的な繁栄と答弁時の配慮についてサタンへの感謝を表明しました」

 

図14:支援

 

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「アドラメレク自身もそうした発展の歴史から、他種族の文明を理解し、支援することに長じた種族です。かつて彼女は〝銀河系戦役〟の初期において、協力依頼のために外周星域へ向かおうとするサタンに対し、アスタロトとアモンの分離体を伴うよう進言しました。この配慮は、新皇帝の警護及び外周星域への軍事的助言と共に、慎重な性格の外周種族に対して新帝国の二大軍事種族の人柄を知らしめ、信頼を得ることを目的としていました。彼女の進言は、功を奏します。中枢種族バラキエルの謀略によって、最愛の姉妹種族同士が戦闘を強いられたアモンとカイムの悲劇及び復活と和解の物語は、永らく中心星域と対立する外周星域種族の内に、共感と希望を育みました」

 

図15:才智

 

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「一方、生真面目なアスタロトは交渉時の挨拶で、かつての自らの立場の説明と不得手な諧謔(かいぎゃく)精神の発揮を同時に試みた結果、『私達が最大の仮想敵だった汝等と、もはや二度と戦い得ざることは誠に残念です。両星域の未来に祝福あらんことを!』と語ってしまいました。これに対してベールもまた、緊張のために彼女の意図を誤解して、密かに臨戦体制に移行します。しかし、これに気づいたアドラメレクは、『誠実なる帝国軍最良の軍事種族の、懸命の冗句(じょうく)と最大限の賛辞に感謝を!』と発言して会場内の雰囲気を逆転し、交渉を成功へと導いたのでした。彼女は今回の遠征参加についても同様の調整能力を実証し、ベールに対して『両星域の実力と誠意を互いに証する良い機会です』と説明し、彼女の裁可を獲得しました」

 

図16:協力

 

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「アンドロメダ銀河に到着した遠征艦隊はまず、〝境界領域〟で活動する抵抗運動(レジスタンス)及び、これに同行する偵察艦隊と合流しました。同銀河は広大で政治的に未統一だったので、銀河系の〝星域〟のように明確な行政区分がなく、〝中核領域〟と〝外縁領域〟の間の〝境界領域〟は、散発的な紛争地帯あるいは暫定的な緩衝地帯として、未開発のまま放置されていたのです。偵察艦隊からの報告によると、旧帝国派はアスモデウスの推測通り、彼女達を境界領域方面に圧迫した後、その退路を絶つと共に遠征艦隊の進攻を妨害すべく、悪質な情報操作を行っていました。すなわち、『新帝国軍を自称する者達は、銀河系において非酸素・炭素系種族を侵略し、抑圧する邪悪な叛徒であり、抵抗運動(レジスタンス)もまたその同盟者である』といった虚報を流布することで、外縁種族からの攻撃を誘発させたのです」

 

図17:謀略

 

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「アスモデウスはこれに対抗するため、自らの強化外殻を高出力の情報送受信施設に改造し、外縁領域方面の各所に送り出します。各分離外殻にはアスタロトの戦闘艦艇とベールの補給艦艇が、護衛と支援のために随伴しました。この外殻は亜空間通信によって、付近一帯の宙域に銀河系史の概要と〝銀河系戦役〟の経緯を公開する放送機能に加え、外縁種族からの質問や提案を受信して、回答を送信する通信機能を備えていました。さらに、内政と外交に関する重要情報は現皇帝の分離体、回答を適切に表現するための言語情報はアドラメレクの分離体が提供し、これらをもとにアスモデウスが膨大な量の演算処理を行って、回答結果を送信したのです。この作戦は大成功を収め、外縁種族の誤解は払拭されて、停戦及び和平交渉が実現しました」

 

図18:通信外殻

 

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「しかし、発見直後から分離外殻を攻撃する外周種族に対して、最初に真実を証明したのは外殻を守る艦隊でした。運動性に優れた酸素・炭素系種族の戦闘艦艇が自ら楯となって非酸素・炭素系種族の補給艦をかばい、また超大型の補給艦が標的となる危険をも顧みず、交戦宙域に進出して戦闘艦艇に物資を供給する光景は、旧帝国派の虚偽宣伝に対し、明白な疑念を抱かせるに十分なものでした。彼女達の協力によって、新帝国と外縁種族の関係が好転したばかりか、新帝国内における中央種族と外周種族の関係もまた一層親密なものとなり、永遠の絆を強めたことは疑いのないところです」

 

図19:証明

 

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「主力艦隊はまた、抵抗運動(レジスタンス)種族への支援活動も実施しました。残念ながら技術種族出身の中枢種族ラジエルと親衛軍種族ラグエルは、交渉中の背信的な奇襲攻撃による絶滅が確認されました。しかし、ラジエルの私兵軍司令官であったゴモリーと、先住種族のマルコシアスは、ラジエルによる分散配置の配慮もあって生き残り、新帝国の勝利と戦後処理に多大な役割を果たしました。彼女達の経験した苦難は過酷を極めましたが、その功績は誠に称賛すべきものであり、両種族はいずれも理事種族への参加が期待されています」

 

図20:ゴモリー

 

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図21:マルコシアス

 

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