ソル   作:平 一

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3 中核領域への偵察

「アスモデウスの作戦により、外縁領域からの脅威は消滅しました。しかし、中核領域を占領する中枢種族と、その統治下にある配下・先住種族については早期の講和が望めない一方、戦力の集中による決戦は、周辺種族にも多大の犠牲をもたらすことが予想されました。そのため私達は和戦いずれの積極的な行動もなし得ず、戦線は膠着(こうちゃく)しました。後方艦隊のアドラメレクは、かつて外周星域派遣軍の司令官ガルガリエルが、隷下(れいか)の種族を母星破壊や遠隔自爆などの悪質な脅迫によって動員した前例を経験していました。そこで彼女は、中枢種族が今回もまた何らかの脅迫的手段を用いて、被支配種族に戦闘を強制しているものと推測し、私にその旨を通知しました。この連絡を受けて、分遣艦隊は偵察艦隊と攻撃艦隊に分かれた後に中核領域へと潜入し、さらに分散・展開して状況の把握と制御を試みました。状況把握すなわち戦略偵察は私ストラス及びアミーとヴォラクが担当し、状況制御すなわち精密攻撃はバールゼブルとグラシャラボラスが担当しました」

 

図22:中枢種族

 

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「新帝国艦隊は、恒星近傍の超空間でも高速航行や通常空間への往還・探査を可能とする、重力場干渉への補正装置を装備していました。さらに私達の分遣艦隊は、隠密航行や秘話通信についても高度な技術を持っていたのです。注目すべきは、これらの新技術の開発に関しては軍事技術のみならず、広範な基礎科学研究に立脚した、民生技術の発展によるところが大きかった事実です。そもそも超空間関連技術は旧帝国の中枢種族の開発によるものですが、彼女達はこれを軍事機密として扱い、秘匿(ひとく)しました。そのため以後は〝銀河系戦役〟や、他銀河への侵略・支配のもとで技術革新が停滞してしまいます。これに対して新帝国では、銀河系再建への希望に溢れる多数の種族が全種族の福利を実現すべく、超空間を通じた安全な航行や自由な通信、周辺種族への重力震被害の防止など、各種の研究に熱意を以て挑み、成果を共有しました。そこで、ひとたび実用化への隘路(あいろ)が打開されると以後の技術発展は目覚ましく、遂には中枢種族の最先進技術をも凌駕(りょうが)するに至りました。私達は敵陣営に察知されることなく、受働式の遠距離探知機を備えた多数の分離外殻を送り出し、新技術の灯火(ともしび)によって中核領域の暗闇を探照すると共に、必要な場合にはいかなる目標へも短時間で到達できるよう、詳細な宇宙地図を作成したのです」

 

図23:探査外殻

 

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「しかし、以後の分遣艦隊の行動を述べるにあたっては、私達の関係や当時の状況について、さらなる解説が必要となるでしょう。なぜなら私達分遣艦隊による攻撃は、〝アンドロメダ戦役〟の帰趨(きすう)を決する一方、新帝国により過剰破壊とも非難されてきた作戦であるためです。私は今から、この攻撃がむしろ中枢種族の非人道的な企みを阻むため、やむなく最小限の犠牲において行われたことを説明するものです」

 

「私ストラスは光栄にも〝賢明王〟の別名を与えられましたが、実際には過去の過ちを後悔し続けて来ました。それは旧帝国時代、他ならぬ中枢種族のために種族融合技術の開発と提供を行ったという事実です。私は大型の凍結惑星で、例外的に複雑な物質組成や、極低温下における特異な物理効果と化学反応などの、極めて(まれ)な偶然が重って生まれた単一生物であり、同種の生物は現在に至るまで発見されておりません。帝国成立の遙か以前に誕生したにも係わらず、私の進化には酸素・炭素系生物の数百倍から数千倍の歳月を要し、外界の物質の加工も困難だったことから、宇宙に進出できたのは中枢種族からの技術支援を得てからのことでした。当時彼女達は銀河系外周種族との戦争の最中(さなか)にあり、天然の集合意識生物である彼女達との戦闘において劣勢となったことから、自らもまた外周種族の利点を獲得すべく、類似の種族である私に演算装置兼実験素材となるよう要求しました。拒絶は自らの死を招くものと理解した私は、これを承諾しました。この協力による量子頭脳への人格転移(マインドアップローディング)技術の完成及び、それが可能とした以後の様々な技術革新によって、先帝率いる旧帝国は勝利し、私もまた先進種族の列に加えられたのです」

 

図24:過去

 

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「しかし、そうした地位の向上は、私にとって必ずしも幸福なものではありませんでした。代謝が活発で活動的な一方、短命で利己的・衝動的な面を有する多数の個体が、自己や集団の利益を巡って争う酸素・炭素系種族の性質は、時に私には理解し難く、特に反抗種族に対する絶滅処分などの過酷な措置は耐え難いものでした。しかし、生活環境や文明様式がある意味で外周種族以上に異なり、また傘下・類縁の種族もない私にとって、旧帝国下における政治的発言力の獲得は極めて困難でした。そこで、私はただ帝国全体の科学・技術の進歩を通じ、先進種族のみならず途上・外周種族も加えた全種族の、倫理性も含めた発展に寄与することを自らの存在意義と信じて、研究活動を継続したのです。私は、惑星全域に成長した記憶素子と演算回路網の恩恵によって科学省長官の職に就いた後も、重大な政策論争には介入せず、〝帝国の臣よりも科学の臣〟〝生きた計算装置〟として働き続けました。なぜなら長官職を得たといっても、孤立種族の身で政権内部の権力闘争に関われば、それは直ちに私自身の生存に危険を及ぼすことを知っていたからです」

 

図25:ストラス

 

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「一方で中枢種族は、銀河系内の覇権維持と他銀河侵略のために配下の軍事種族を確保すべく、サタンの所管する途上種族への文明開発計画に対し、非人道的な干渉を加えました。そして、彼女からその調査を依頼された私は、私自身が担当する先進種族の融合体複製計画にも、同じ企みが隠されていることを発見したのです。サタンは私に対して事態改善への協力を求め、私は彼女と相互支援の盟約を結びました。ただしこの時、私は内心において帝国の将来に絶望し、万一の際は複製実験で生まれたアミー及びヴォラクと共に、安全が確保されるまでの間、銀河系外に脱出することも検討していました。彼女達は種族複製に伴って必要となる種族間融合の際に私とも心を結び、姉妹種族となっていたからです。しかし私を翻意させたのも、まさにこの両名でありました」

 

図26:アミーとヴォラク

 

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「アミーとヴォラクの前身種族ウォフマナフは、海豹(あざらし)に似た海生動物から進化した生物であり、(つぶ)らで愛らしい瞳を持つ一方、屈強な身体と高度の知性に恵まれた種族です。また彼女は典型的な酸素・炭素系種族であり、地球人類のものと酷似した、鉄原子を核とする赤色の有機化合物を酸素運搬体として、呼吸活動を行う種族です。注目すべきは、彼女が比類なき好奇心・探究心や、生真面目なアスタロトとは対照的に過激な諧謔(ユーモア)の才能を有する一方、その胸中には同様の厚き道義心と責任感を秘めた種族であることです。私の苦悩を共有したアミーとヴォラクは、次のような通信を私に送りました。『現下の如き国家の一大危機に際し、絶望や悲嘆に暮れるいとまはありません。私達は帝国の存在意義を守るべく、かつて忌避(きひ)した軍組織への参加を含め、いかなる活動にも身を投じる所存です。今回の事件の関係者はいずれも極めて高位であり、またその企図や軍備については未だ不明の部分も少なくありません。しかし、〝全ての種族のための文明発展〟という〝先帝〟の理想は私達の絶対に譲りえぬ信念です。私達は中枢種族との敵対や外周種族との同盟も(いと)うことなく、姉妹種族である貴女と最後まで命運を共にすることを、酸素呼吸種族の名誉にかけて誓約いたします』 彼女達の決意を知った私は、サタンへの全面的な協力を決定しました。両名もまた、それぞれ親衛軍のバールゼブルと正規軍のアスタロトの副司令官に転任した後、〝銀河系戦役〟において中枢種族の撃退や治安回復に大きく貢献し、〝救国伯〟と〝救命伯〟の別名を得ています」

 

図27:誠実

 

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「ところで周知の如く、彼女達は極めて稚気(ちき)溢れる種族です。そのため、人類型分離個体(ヒューマノイド・アバター)の姿を決定する際も人類の頭髪に尋常(じんじょう)ならざる興味を示し、アミーは頭頂部、ヴォラクは両側頭部にのみ極彩色の直立毛髪を集中させる髪形(ヘアスタイル)によって、両者の判別を行う予定でした。しかし分離個体は種族の識別機能も持っており、各種族の特徴を反映しつつも強圧的印象を防いで親近感と好意を得られるよう、相手方種族の愛らしい若年個体の外見を借りることが一般的です。例えば現皇帝は栗色の御河童(おかっぱ)頭をした大人しく優しげな少女、アスタロトは長髪痩身の生真面目そうな少女、アスモデウスは髪に飾細布(リボン)を結んだ快活そうな少女の姿を、好んで採用します。そこで結局彼女達もまた、金髪または茶髪の利発そうな少女の容姿を選んだアドラメレクの助言に従って、左右の一方に装身具(アクセサリー)をつけたお転婆そうな双子の少女という、現在の形態を選んだのでした。ただし彼女達は今でも、『もっと素敵で面白い恰好(スタイル)があれば、新しいやつだってできちゃうよ!』などと語っております(笑)」

 

図28:天真

 

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「話が脱線しましたが……当時の中核領域の状況を解説しますと、同領域を超空間から精密に走査した私とアミー、ヴォラクの偵察艦隊は、先住種族の中でも指導的な一種族の惑星系に対する超新星兵器の使用を確認しました。その後前線において、従来は戦闘に消極的だった関係種族の艦隊が、攻撃的な作戦行動を実施する方針に転じたことから、中枢種族は同銀河においても悪質な脅迫による動員を続けていることが確認されました。また、中核領域にあるひとつの青色超巨星では、惑星数千個分の反物質が生成・蓄積され、その総量は中核領域の全体に壊滅的な被害を引き起こし得るものであることが判明しました。超新星兵器の実体は、超光速駆動機関を搭載した惑星規模の反物質誘導弾です。そのためこの観測結果から、中枢種族はかつて銀河系で行ったように、同兵器の使用による惨禍と恐慌(パニック)に乗じて他銀河への逃亡と侵略を行い、さらなる新帝国への反撃を企てていると推測されました」

 

図29:恐怖

 

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「さらにその直後、新帝国と外縁種族の和平条約締結と時を同じくして、これらの超新星兵器に装備された駆動機関が次々と作動準備状態に入った兆候が観測され、事態は一刻の猶予もないものへと変わりました。それらの使用を許すことは、私達三姉妹にとって、中枢種族による恐怖政治の果ての星域壊滅という、悪夢の如き大惨事の再来を意味しました。そこで私達は協議のうえ、現皇帝の裁可を得て、バールゼブルとグラシャラボラスの攻撃艦隊に対し、緊急の対応を要請したのです」

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