「しかし、いよいよ銀河の危機に対する両名の対応を語る前に、私はここでも皆様に誤解を与えないよう、彼女達の来歴についてお話ししなければなりません。まず、旧皇帝領復興開発長官の〝地獄王〟バールゼブルは、種族融合以前には蜜蜂に似た社会性昆虫の種族であり、これを蠅と形容したのは言うまでもなく中枢種族の政治宣伝です。種族の進化と文明発展に伴ってその統治者となったのは、〝女官〟階級でした。彼女達は生殖に特化した〝女王〟及び〝雄〟を管理し、また営巣・巣間輸送と戦闘に従事する〝労働者〟を指揮する階級であり、政策立案、巣間契約と技術開発を担当していました。またその役割を果たすべく、彼女達の羽は飛行能力を失って頭部へと移動し、命令伝達のための電磁波の発振器官に変化していました。帝国加入後は親衛軍に所属したバールゼブルは、こうした形で生物学的に歴然と階層化された種族には通例のように、配下種族や作戦対象種族の欲求あるいは感情を一切
図30:起源
「一方、当時も種族融合技術の運用と改良に従事し続けていた私は、中枢種族の融合体化が帝国統治の専制的性格を強化した可能性がある、との結論に到達していました。私はこの反省をもとに、友好種族サタンの助言に従い、種族融合に際しては統治階層だけでなく、従来は価値の低い類似情報として集約された他階層の記憶や人格も融合体の意識に反映させるよう、同技術を改良しました。この新方式はそれ以後一般化しましたが、彼女においては最も劇的な効果を招来しました。融合後の彼女は突如衰退に瀕したかのように、しばらくその活動を低下させました。それまで消耗品の如く取り扱われていた無数の労働者が抱くささやかな願いと幸福や、時に報われず打ち捨てられる哀しみ……あるいは生まれながらに生涯産卵機械となるべく運命づけられた女王、伴侶と生活を共にすることもなく短き生涯を終える雄達の、願望や悲哀……それらの感情が種族全体の精神連結にあたり一斉に、
図31:バールゼブル
「しかし彼女はその難題を見事に克服し、再び活力を回復して、傘下種族に同様の悲しみを与えまいとするかのように、自艦隊の運営改革に着手しました。彼女は個々の種族と個体の欲求や関心に配慮し、下位の者達に対しては技術革新による生活向上に加え、教育や医療による資質向上と、それに応じた責任分与や待遇改善を行いました。また組織のために自らの能力を発揮しようと願う者を支援する一方、権限を私物化する上級者やこれに加担して私利を図る下級者を摘発しました。加えて作戦行動の際は必要以上の破壊を避け、第三者への被害も防ぐよう努力しました。さらに以上の配慮をよりよく行えるよう、他種族の文明や性質について関心と研究を深めたのです。これらの改革は質実剛健あるいは弱肉強食を旨とする当時の帝国の政策方針とは一致しなかったので、彼女は中枢種族からは疎んじられました。しかしながら、警戒すべき種族からは無用の注意や反感を招かないよう注意し、長期的には艦隊の成績も向上させたので、辺境を守る一司令官として帝国に貢献し続けることができました」
図32:成長
「彼女の艦隊は皮肉にも疎外されていたがゆえに、〝銀河系戦役〟では不名誉にも中枢種族の私兵と化して
図33:グラシャラボラス
「ザフィエルの討滅後、帝国の状況を憂慮したバールゼブルは、戦闘を続ける中枢種族に即時停戦と秩序回復を求めました。しかし彼女達は、混乱に乗じて帝国の実権を掌握するため、あるいは積年の遺恨を晴らそうとするかのように、超新星兵器の応酬を継続しました。もとより彼女達は〝脱落組〟であり、彼女達の権勢欲と敵対心を煽った高位の中枢種族達は、この時すでにアンドロメダ銀河へと逃亡していました。そのため結局、彼女達の抗争は共倒れの自滅に終わったのですが、戦場と化した皇帝領は著しく荒廃してしまいました。バールゼブルとその副司令官達は、少数戦力ながらよく戦闘被害の拡大を防ぎ、最終的には同地を平定して治安を回復しました。しかし彼女達は上級種族の逃亡を許し、より多くの種族を救い得なかったことを悔いて悲しみ、戦後は自ら現職を希望して、同地の再建と復興に尽力したのです」
図34:復興
「〝純真公〟グラシャラボラスは肉食の狩猟性動物より進化した活動的な種族ですが、不幸な星間戦争の歴史とその後の文明発展から、平和の恩恵と友好の福利を希求する種族となりました。彼女は同じく社交的なアスモデウスと友好関係を結んだ後に、その上司だったサタンの推薦を得てバールゼブル艦隊に配属されました。バールゼブルは、グラシャラボラスの虚偽や虚飾を好まない
図35:友情
「なお近年の情報公開によれば、サタンが旧帝国の不正について疑惑を抱いた契機は、グラシャラボラスが宇宙進出期に経験した星間戦争であったことが判明しました。当時、その宙域の開発を担当した現皇帝にとって、四つの種族が同時に同等の発展段階に到達し、恒星間戦争を行うというのは確率的に極めて不自然な
図36:慈愛
「ちなみに彼女は、有翼の犬に酷似した姿の分離個体で有名な種族です。先進種族でありながら未文明化生物のような形態を採用する理由については、軍事種族として常に不測の事態に備えるため、あるいは発展途上種族の緊張を緩和するため等の推測もなされています。しかし実際のところは、彼女自身が語っているように、融合体から〝解放〟された時は
図37:純真
「おっと失礼しました、話を本題に戻しますと……中枢種族の超新星兵器が準備状態に入ったことを受け、バールゼブルとグラシャラボラスの艦隊は当該青色超巨星の星系へと急行しました。旧帝国派種族は四つの強大な中枢種族、すなわち〝剣の王〟〝炎の王〟〝啓示の王〟〝慈愛の王〟の系列に分けて編成されていました。四大種族の分担は機動艦隊の建造と運用、超新星兵器の生産と供給、後方における指導的先住種族への指揮と統制、前線における従属的先住種族の動員と督戦です。バールゼブルは〝皇帝領の悲劇〟の拡大的再現を何としても阻止するためにやむを得ず、速力に優れ、長距離精密誘導弾にも転用可能な自らの強化外殻を使用することを決断しました。彼女は敵艦隊の哨戒網を突破して当該星系に可能な限り接近した後、外殻を分離して多方向から拠点に向かわせました。そしてそれらを目標から至近距離で通常空間に復帰させることにより、迎撃されることなく超新星爆弾群と〝炎の王〟母星への同時衝突攻撃に成功したのです」
図38:攻撃外殻
「しかし、ここにおいて恐るべき事態が発生しました。中枢種族は数千光年の遠方から恒星周辺まで正確に探査や誘導ができる超空間技術の存在を予期していませんでした。そのため〝炎の王〟は、反物質の効率的生産や拠点の隠蔽・防御のため、全ての超新星兵器と自らの母星を、生産設備である小型の
図39:破滅
「生産拠点の壊滅を知った〝剣の王〟の機動艦隊は、攻撃を実施したバールゼブル艦隊を発見・包囲しましたが、外殻を失った彼女を救ったのは、
図40:死闘
「司令部を失った敵の残存艦隊は降伏しましたが、その直後先住種族の艦艇は、