ソル   作:平 一

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5 後方艦隊の防衛

「後方艦隊は全戦役を通じて他の艦隊への支援業務に従事しましたが、ただ一度、終戦直前に敵軍の襲撃を経験しました。旧帝国種族は、重力場の影響を受け難い小型の先住種族艦艇を改造して船体よりも大きな超空間駆動機関に連結しました。そして非道にも、抵抗運動(レジスタンス)内の間諜(かんちょう)から入手した後方艦隊の座標に対して、危険な銀河内の遠距離跳躍による自殺的奇襲攻撃を強要したのです。このような攻撃はその戦力からして全く軍事的効果を期待できず、ただ配下種族の生命を生贄(いけにえ)として一時的な攪乱(かくらん)を図る意味しか持たぬ、残酷にして卑劣極まる作戦です。これに対して見事な〝戦果〟を収めたのはアモンでしたが、私はその背景についても、多少の説明を行わせていただきたいと思います」

 

図41:奇襲

 

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「帝国本土防衛司令官を務める〝強健侯〟アモンは、姉妹種族のカイムと同一の赤色巨星を巡る惑星に誕生した種族です。両惑星の周回軌道は異なるものの、大気組成の違いがこれを相殺し、生活環境は近いものでした。いずれも膨張した恒星のもたらす暑熱を避けて夜間または地中で活動する生物でしたが、地上進出以後は急速に発展を遂げた種族であり、前者は(ふくろう)、後者は蛇に似ていました。両者は永年に渡り敵対関係にありましたが、それを克服して和平を達成し、帝国加入の資格を獲得します。そして以後は友好関係をさらに進展させながら、進歩の段階を昇っていきました。ところが〝銀河系戦役〟において、中枢種族バラキエルが自らの私兵軍団長だったカイムに対して偽造の勅令を発し、文明開発省長官であったサタンとその副長官アモンの討滅を命じたのです。当時の帝国において、皇帝の側近たる中枢種族への反抗は、カイムのような高い地位にあっても種族の滅亡を意味しました」

 

図42:カイム

 

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「カイムは、亜空間に形成した通路を経て遠方の恒星から莫大な動力を供給する、照射型の恒星動力砲を装備していました。この兵器は座標設定に時間を要するため、機動戦には向きませんでしたが、彼女は待ち伏せによって現皇帝とカイムを急襲しました。しかし彼女はアモンを破壊することに堪えられず、可動惑星上の軍事施設周辺に照射を局限しました。一方アモンも最後まで和解への希望を捨てることなく、積極的な攻撃を行いませんでした。そのため戦闘終了後におけるアモンの被害は惑星表面のみに留まり、力場障壁の自動反撃で破壊されたカイムの惑星からも、彼女の残骸を回収することができました。カイムは再生の直後、アモンを望みなき戦いによって失うことを恐れ、戦場からの逃亡を推奨しました。しかしアモンと融合して機能を回復し、中枢種族の陰謀やサタンの人柄と政策、そしてアモンの喜びと希望を知った彼女は新帝国の陣営に帰順し、恒星動力砲の設計情報を提供しました。また幸いなことに、ストラスの先進技術とアスタロト艦隊の貢献により、融合体の修復は急速に進展しました。彼女達はその間、とある白色矮星の付近に潜伏していたのですが、復活と融和を果たした彼女達の心の中には、かつて両種族が共に仰いだ母なる赤色巨星に彩られる、黄金(こがね)色の空が輝いていたことでしょう」

 

図43:和解

 

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「彼女達の融合は当初、カイムの再生までの一時的なものとなる予定でしたが、以後の両者の関係は極めて良好だったので、アドラメレクを形成する二つの種族と同様に、恒久的な種族間融合へと変更されたようです。現在におけるアモンの分離個体の基本形態が、融合以前の両種族の姿の混合体であることは、まさに彼女達の永遠の姉妹愛の(あかし)といえます」

 

図44:融合

 

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「その後アモンは中心星域からの戦火拡大を防ぎ、また現皇帝への追撃を阻止すべく、〝未来あるもの〟の一部と共に開発途上星域の防衛任務を担当しました。しかし途上種族にとっては幸いにも、銀河系に残った旧帝国種族は相互の殲滅戦(せんめつせん)狂奔(きょうほん)し、帝国からの離反種族は領土の確保や新帝国艦隊との戦闘に手一杯でした。そのため、この星域に進入したのは中枢種族ガルガリエルの外周星域派遣軍への補給艦隊のみでした。彼女達は、新帝国に協力する〝未来あるもの〟達の監視網に気づかず同星域を通過する途中で、前方に恐ろしい存在を発見します。それは一見したところ文明種族はもとより、微生物さえも生存不可能にみえる破壊を被り、かつ明らかに他天体の破片が激突したと覚しき痕跡までも有する、凄絶な外観の可動惑星です。帝国親衛軍のみが装備し得る統一力場障壁を後光の如く身にまとい、中枢種族の私兵軍団のみが持ち得る恒星動力砲の、光り輝く出力・偏向用の結晶衛星群を伴って行く手を(さえぎ)るその姿に、彼女達は即座に戦意を喪失しました。さらにアモンの降伏勧告に含まれた、姉妹の再生による喜びの感情表現は、その外見から戦闘に酔い痴れる狂戦士(バーサーカー)種族の、抵抗を口実とした殺戮や略奪への期待の発露と誤解され、即時投降への決め手となったのです。後日このことを聞き及んだ彼女は一瞬、衝撃(ショック)を受けたかのように絶句しましたが、その直後『結果よければ全てよし!』と言って、少し恥ずかしそうに微笑んだのでした」

 

図45:確保

 

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「外周星域派遣軍の司令官だったガルガリエルは、同星域を征服して自らの所領とするため、この艦隊によって中央星域の自種族領から、高価な資産を含む多数の物資を輸送していました。〝外周星域の戦い〟の後、これらの積荷は全て外周星域への賠償に充てられました。また〝銀河系戦役〟の終結後、アモンの惑星はカイムの惑星の地形と生態系をも加え、美しく豊かな自然景観を回復しました。唯一の例外は両種族の和解と再生を記念すべく、衝突した結晶衛星を修復して設けられた、水晶製の極冠の如き巨大記念碑です。この記念碑は、アモンとの融合に伴って照準速度や配備数が増加した結晶衛星群の、制御施設をも兼ねるものです。アモンの恒星砲は、旧帝国残党からの襲撃に対してもよく重要宙域を防衛し、麾下(きか)の本土防衛艦隊と共に〝帝国の守護者〟の称号を彼女にもたらしました。そこでこの時期には、さらに超空間の回廊を経由する、より高性能な機構(システム)への改良計画も決定されたのです」

 

図46;再生

 

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「以上の出来事を念頭に、アンドロメダ戦役におけるアモンの貢献について話を戻しますと、彼女の分離体は、後方艦隊の直近に出現した敵艦隊の通信を傍受しました。そして彼女達が、同胞と指導種族を人質に過酷な作戦を強要された、先住種族の小部隊であることに気づきます。アモンはこの敵の状況に紛れもなく、かつてのカイムの姿を見たのでしょう。彼女はサタンの分離体と協議の上、試験装備完了直後の新型恒星砲が形成する超空間通路を利用して、彼女達を攻撃することなく出撃拠点の基地まで返送しました。何が生じたかを理解する(いとま)もなく、同地で終戦を迎えた彼女達は指導種族と合流した後、その護衛として講和条約の調印式典に参加すべく、中間領域を再訪しました。遠征艦隊の各種族は、中枢種族に強いられて非人道的な任務に従わされた彼女達の労苦を慰撫(いぶ)すると共に、旧帝国派部隊の中で唯一、敵領域の最深部にまで肉薄した勇気を讃えました。これに対しては彼女達のみならず、同席した先住種族の代表団もまた、敵部隊をそのまま本国に送り返した新帝国の配慮に深い感謝の意を表しました。アモンがかつて経験した苦難は、今次大戦における無辜(むこ)の犠牲を防ぎ、両銀河の友好に資する多大な功績を彼女にもたらしたのです」

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