ソル   作:平 一

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6 武装解除

「組織的な戦闘が終結した後も、アンドロメダ銀河では旧帝国残党による散発的抵抗や、先住種族による旧帝国系種族への報復などの事件が発生しました。そのため旧帝国種族については、同銀河での拘禁または銀河系への送還の後、戦災宙域の復旧活動への従事処分が科されました。これは、責任の少ない種族には保護と行政処分、責任重大な種族には軍事裁判までの隔離及び賠償活動としての意味を持っています。しかし戦後処理に当たっては、別の大きな課題がありました。中枢種族によって、自らの文明段階以上に高度な軍事技術を供与された先住種族への配慮です。サタンはそうした〝負の遺産〟が、先住種族間の紛争や旧帝国系種族への襲撃に使用されることを案じて、遠征艦隊に対策を講じさせました」

 

図47:決定

 

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「こうしたサタンの配慮についても、若干の説明が必要と思われますので、ここで解説させていいただきます。彼女は元来、強健な種族ではなかったので、力弱き個々の種族や個体が協力して、巨大な社会や技術の健全さを保つことの重要性を知る種族です。また人類の皆様と同様に、樹上生活を営む雑食動物から進化し、その文明発展に際しても自らの発展を参考に支援を行ってきたので、皆様に対しては密かに特別な感情を抱いているかとも思われます。〝銀河系戦役〟の際、旧帝国派種族に操作された地球人の一派は、公式接触のため月面を訪れていたサタンの派遣隊に対し、奇襲攻撃を実行しました。彼女達は原始的な核兵器を投射しましたが、力場障壁によって無効化されました。そこで彼女達は無謀にも、装甲動力宇宙服と光線兵器による一斉突撃を敢行します。サタンは撤収を試みましたが、攻撃隊の一部が自動反撃によって損傷すると直ちに多数の分離個体(アバター)を送り出し、各種の近接戦兵器による攻撃も意に介さずに負傷者を救助して、彼女達の基地に搬送しました。この映像は事件の終結直後に地球全土で放映されたので、現皇帝は自らの善意を伝達できたと考えました。しかし派遣団が去った後、地球上のいくつかの地域では、中枢種族の工作員によって一連の紛争が引き起こされ、少なからぬ被害が生じました」

 

図48:地球内戦

 

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「この悲劇の原因としては、第一に、中枢種族が当時の人類の技術水準を著しく凌駕する兵器を、密かに地球へ搬入していたことがあげられます。第二に、サタンの分離個体が多数の触手と複眼をもつ大型の球体という、基本形態とも地球仕様とも全く異なる宇宙仕様だったため、皆様に十分な理解と信頼を提供できなかったことも反省されました。そのためこの〝地球内戦〟後、現皇帝は全ての先進種族に対し、発展途上種族との接触時は危険な軍事技術・転用可能技術の移転に注意すべきことと、外交上の場面ごとに適切な姿の分離個体や映像体を選択すべきことを通知しました。そして以後、彼女の人間型分離個体(ヒューマノイド・アバター)でもそうした配慮がなされました。すなわち基本個体の猫のような愛らしさを活かしつつ、角のように見える聴覚器官や吸入機能もある犬歯については、適度な修正がなされています」

 

図49:誤解

 

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「戦役終結直後のアンドロメダ銀河中核領域は、かつての地球と同様の状況にありました。そのためサタンはアスタロトに指示を行い、アスモデウスとアドラメレクの支援も得て、大規模な武装解除作戦を実施しました。遠征艦隊の各理事種族は、随行の武器商人に扮装した分離体または分離個体を領域の各所に派遣し、旧帝国種族が供与した兵器の買上げ、またはより高性能な兵器との有償交換を広告しました。買上げの代金は、戦争被害からの復旧・復興のための民生用品と技術の購入代金に充当されました。交換された兵器は後に使用不能となる故障が発生し、損失は同様の民生品及び技術によって補償されました。また、すでに移転済みの軍事技術については、攻撃兵器への転用が困難な対抗手段が、周辺種族に提供されたのです」

 

図50:対策

 

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「作戦が完了するとサタンは、同銀河の全ての通信網を通じ、その内容と理由を説明しました。彼女はその中で特に、銀河系において自らの文明段階に不相応な軍事力を求めた種族が招いた様々な悲劇を、実例をもとに解説しました。そこには種族的孤立や社会の停滞、経済破綻、環境破壊、さらにはその結果としての自滅的戦争や、他種族による支配・操作といった恐ろしい結果も含まれました。彼女はまた、以後は帝国内の全種族につき同種技術の開発・保有が制限される旨を告示しています。供与兵器の回収に際して詐術的手段が用いられたことについては謝罪が行われましたが、侵略と戦乱に疲れた同領域の圧倒的多数の種族からは、理解と支持が表明されました。これらの措置によって、旧帝国の〝負の遺産〟が残した悪影響は可能な限り除去されたのです」

 

図51:平和

 

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「以上がこのたびのアンドロメダ戦役の事実経過であり、さらなる詳細は今後様々な情報媒体や、各惑星に帰還した皆様の視察団員からも公表される予定です。同銀河は現在アスモデウスを長とする臨時行政府による暫定統治のもとにありますが、情勢の安定後は段階的に先住種族への権限委譲が行われ、将来的には両銀河を共に等しく統治する民主的な統一政体が設立される予定です。私ストラスは、今後かかる悲惨な大戦が二度と再び繰り返されぬよう、また両銀河が復興と繁栄を共にすることを願いつつ、ここに以上の報告を行うものです。最後に、私事(わたくしごと)となりますが、かつてサタンが神話の悪役なども演じつつ、皆様の文明発展をお助けした際、私ストラスもまた太陽神ソルとなって、支援事業に参加させていただきました。 今日の地球の発展を()の当たりにして、私も大変喜ばしい限りです……」

 

図52:ソル

 

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 終話のあいさつが始まったので、私は机を片づけ始めた。しかし恒星から遠く離れた場所に住む、極低温種族が太陽神というのも面白い。まあ太陽神といえば世界各地の神話で数多くいただろうから、友好種族達が分担で演じたのかもしれない。それにサタンの別名〝知恵の光を運ぶもの(ルシファー)〟みたいに、知恵を光に例えて見るなら適役ともいえそうだ。いずれにしても、地球の危険が大幅に減ったのはよかった。人類の発展は目覚ましく、太陽系の開発も進んで、星間社会では優等生とされているようだし、いよいよ量子頭脳への人格移転(マインドアップロード)計画も始まるそうだ。不老不死というのも凄いが、いわば自らがAIとなって膨大な情報を処理したり、他の人格と心を結んだり、量子頭脳と生身や機械の人工体と行き来したりするのはどんな感じだろう? まずは超高齢者などからということだが、寿命が飛躍的に延びた今でも、人生まだまだ何があるか分からない。早く常時的な人格の予備保管(バックアップ)体制ができてくれると嬉しい……おっと、そろそろ〝仕事〟にかからねば。

 

図53:人類

 

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 人の代わりに考え働くAIを使い、それぞれの立場や関心事から、どんな社会を作るかを皆で考える〝政策参加〟が人間の大きな仕事になって久しい。政府が提供・支援する教育番組から好きなものを選んで受講し、企業方針も含めた〝政策〟で役立つ新たな発想や価値を生み出すと、基礎所得保障(ベーシックインカム)に追加するかたちで色々な特典がもらえる。しかしとうとう人類社会だけでなく星間社会、さらには銀河間社会のことまで考えるようになったというのは、昔から見ると夢のような話だ。私が今やっているのは空想科学小説(エスエフ)の創作だが、この現実自体がSFみたいなご時世に、いわば平行世界みたいな物語を書いて、社会を楽しませながら良い発想を提供するというのはけっこう大変だ。

 

図54:地球

 

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 それは技術の進歩だけでなく、社会の発展に伴う価値観の変化や、それを反映した空想物語(フィクション)の変遷についてもいえる。私は以前から、社会の実利活動と文化活動の間には、〝歌は世につれ、世は歌につれ〟みたいな働き合いの関係があると思っていた。例えば不安定な農耕時代の神話や民話には、混沌(カオス)が含まれていた。画一的な大量生産で豊かになった工業時代には、明快な勧善懲悪が好まれた。大量の情報が流れる情報時代には、多面的な是々非々の判断もしやすくなった。そして人智を越えた解決も可能なAI時代には、〝誰一人取り残さない〟SDGsのように、全てを拾って活かす物語が可能、かつ必要になるのではないか? しかし、〝大戦〟は〝事実は小説より奇なり〟ともいうべき、巨大な星間社会の激動に私達人類を投げ入れた。なんと戦争に勝ったのは、大昔に悪魔を演じた異星人なのだ。とはいえそれは神話上の役割で、その背後には神様に当たる〝先帝〟生存者の助けもあったというし、今後さらなる情報公開もありそうだ。やはり本当の神様も、この大変動を通じて〝全てを活かす〟ことの大切さを告げようとしているのだと思いたい……。でもまあそんな悩みも含めて、やっぱり私には創作が楽しい。希望が持てる社会の中で、その実現に役立つ物語を描き続けていきたいと思う。すでにいくつか発想(アイディア)はあるが、まずは今書いているものの続きから始めよう。

 

図55:物語

 

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