ベル・クラネルの代わりに世界を救うのは間違っているだろうか   作:ただくも

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キャラの口調がちょっと不安。あってるかな?


第2話

「神様、本当についてくるんですか?」

 

「当たり前じゃないか!ボクの初めての眷属の晴れ舞台なんだよ?ついていかない神がどこにいるんだい!」

 

 翌朝、俺は「心配だから」と鼻息を荒くするヘスティア様に押し切られ、二人で迷宮都市オラリオの『ギルド』へと足を運んでいた。

 

 冒険者たちはすでにダンジョンにもぐっている時間なのか、人は意外と少なかった。神が受付窓口に同行するのは珍しいのか、周囲の冒険者たちから好奇の視線が集まる。だが、ヘスティア様はどこ吹く風で俺の手を引いて、窓口に向かった。

 

 窓口にいたのは、整った顔立ちに真面目そうな眼鏡をかけた、ほっそりと尖った耳が特徴の美しいハーフエルフの女性(エイナ・チュール)だった。

 

「おはようございます。…おや、主神様もご一緒ですか?」

 

「おはよう!ボクはヘスティア。昨日、このカナタ君と契約を結んだんだ。ファミリアの結成登録と彼の所属手続きをお願いしたくてね!」

 

「新しいファミリアですね。かしこまりました。…申し遅れました、私はギルド職員のエイナ・チュールと申します。カナタさんの担当受付をさせていただくことになりましたので、よろしくお願いしますね」

 

 原作でお馴染みの、あの面倒見のいいエイナさん。ヘスティア様の過保護ぶりに苦笑しつつも、彼女が俺の担当になってくれたことに、内心で深く安堵する。

 

「よろしくお願いします、エイナさん。俺は、カナタ・カミシロといいます」

 

「はい、よろしくお願いします。……ではカナタさん。手続きの前に、一つだけ私から話をさせてください」

 

 エイナさんはすっと表情を引き締め、真剣な眼差しで俺を見つめた。

 

「ダンジョンは、決して命を賭けた娯楽の場ではありません。毎日のように多くの冒険者たちが命を落としています。どうか『英雄になりたい』などと無茶な憧れだけで、無謀な深追いはしないでください。冒険者は生きて帰ってこそですから」

 

 心からの忠告。チート能力や早熟能力も何もない今の俺には、その言葉の重みが骨身に沁みた。

 

「はい。無理な無茶はせず、自分の身の丈に合った戦いを心がけます」

 

「ふふ、しっかりした方で安心しました。主神様が心配して付いてくる理由が少しわかった気がします。それでは、こちらに記入をお願いします」

 

 エイナさんの案内で無事にカナタ・カミシロの登録が完了し、ギルドから初心者用の簡素なダガーが支給された。(共通語(コイネー)については、なんとなくで理解していた。おそらく転移した際に獲得したのか?)

 

 登録も完了、武器も支給され、いざ!ダンジョンへ!…とはならなかった。というか、いきなりダンジョンに行きたくなかった。どこか図書館みたいな場所でダンジョンについて勉強したいんだが、オラリオに図書館なんてあったか?

 

「あの…ダンジョンやモンスターのことについて勉強したいんですが、図書館とかってありますか?」

 

「図書館、ですか?ええ、一般に開放されている資料室ならあります。…どうしてですか?」

 

「実は俺、ダンジョンやモンスターのことについて、人から聞いた大雑把な知識しか持っていないんです。弱点とか、階層ごとの特徴とか、正確なことをちゃんと学んでおきたいんです。さっきエイナさんも『生きて帰るため』って仰っていましたし、無知なままもぐるのだけは絶対に嫌なんです」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、エイナさんの目が大きく開かれた。

 オラリオにやってくる新人冒険者の大半は、「早くダンジョンで一攫千金だ!」「英雄になるんだ!」と息巻いて、碌な知識もなしに武器を持って飛び込んでいく。そんな中で、自分から「まず勉強したい」と言い出す新人は極めて稀なのだ。

 

 

「…驚きました。まさか、そこまで真剣に考えてくれているなんて」

 

 エイナさんの表情が、それまでの事務的なものから、どこか嬉しそうな、温かいものへと変わる。

 

「わかりました、カナタさん。その意気込み、ギルド職員として全力で応援します。今日はお勧めの本の紹介だけじゃなくて、私が付きっきりでダンジョンの特別講習をしてあげる。ヘスティア様、カナタさんをお借りしてもよろしいでしょうか?」

 

 ──ん?付きっきり?なんか嫌な予感がs「うん?ああ、構わないよ!カナタ君がやる気なのは良いことだしね!じゃあボクはバイトに行ってくるから、しっかり勉強してくるんだよ!」

 

 ヘスティア様は満足そうに何度も頷くと、上機嫌でギルドを後にした。

 

「さ、行こっか。カナタ君!」

 

 このあと無茶苦茶お勉強した。

 

 

 ◇

 

 数時間後

 

 「あ…あぅ」

 

 つかれた。すごくつかれた。

 こんなに勉強したのはいつぶりだろうか、高校の定期テスト?…いや受験勉強か?それでも、ダンジョンやモンスターの勉強は楽しかった。その点では、テスト勉強や受験勉強よりもマシだった。

 

「新人が初日に覚える量としては、ちょっと多すぎたかな?」

 

「い…いえ、めちゃくちゃタメになりました。頭がパンパンですけど、これで明日、少しは落ち着いてもぐれそうです。本当にありがとうございました、エイナさん」

 

 俺が深く頭を下げると、エイナさんは嬉しそうに目を細め、悪戯っぽく微笑んだ。

 

「どういたしまして。でも、これだけ熱心に勉強してくれたんだから、明日その成果をちゃんと見せてね?初日の成果報告、楽しみにしているんだから」

 

「はい、もちろん。あ、じゃあ俺、そろそろヘスティア様が待っているので失礼しますね」

 

 荷物をまとめて立ち上がり、個室のドアに手をかけたその時。

 後ろから、エイナさんの少し引き締まった声が聞こえた。

 

「──カナタ君」

 

 振り返ると、彼女は眼鏡の奥の瞳をまっすぐ俺に向けて、真剣な表情で佇んでいた。

 

「最後に、これだけは忘れないで」

冒険者は冒険しちゃいけない。一歩ずつ、確実に進みなさい。危ないと思ったら、恥ずかしがらずにすぐに逃げること。わかった?」

 

 『冒険者は冒険しちゃいけない』エイナ・チュールの口癖だ。文字だけ見れば矛盾しているように見えるが、要は『常に保険をかけて安全を第一に』という意味である。ベル・クラネルも心に誓った言葉だ。

 生きて帰ってきてほしいという純粋な願いがこもったその言葉に、俺の胸がじんわりと温かくなる。

 

「はい、わかりました。でも、大丈夫ですよ。俺の『さくせん』は常に『いのちだいじに』ですから!」

 

「うん、よろしい!気を付けて帰るんだよ」

 

 エイナさんは満足そうに微笑み、優しく手を振って送り出してくれた。

 

 

 ◇

 

 その日の夜。

 廃教会の地下室で、ヘスティア様がバイトの余りで貰ってきたジャガ丸くんを二人で囲んだ。

 

「へぇ、そのエイナ君って受付嬢、だいぶカナタ君を気に入ったみたいだねぇ」

 

 俺が昼間の出来事を熱心に話すと、ヘスティア様は少し嫉妬深そうに頬を膨らませた。だけど、俺がノートを見せながら「おかげで安全に戦うイメージができましたよ」と言うと、嬉しそうにフンスと胸を張った。

 

「ボクのカナタ君が優秀なのは当然さ!でも、エイナ君の言う通り、絶対に無茶はしちゃだめだよ?」

 

「わかってますって。神様を一人にしませんよ」

 

「うん!約束だからね!」

 

 ヘスティア様は満面の笑みを浮かべ、俺の頭を何度も撫でてくれた。まだ見ぬこの世界の主人公、ベル君がいつ来るのかはわからないが、彼が来たら、先輩としてエイナさんに教わったことを教えてあげよう。そして、一緒に冒険を。

 

 

 ◇

 

 そして、2日目。

 

 俺はついに、ダンジョンの1階層に立っている。ダンジョンの壁は薄青く発光しており、禍々しいような不気味さがある。

 

「よし…行くか」

 

 一歩進むごとに、俺は周囲の警戒を怠らなかった。エイナさんに叩き込まれた「モンスターが現れるときはいつも突然」、壁から出現するときはわかりやすいが、すでに生まれ落ちて彷徨っている場合では音に注意しなければならなかった。

 だが、同時に原作知識があるからこその『安心感』も、俺の心の底には確かにあった。

 

 ──あの『5層でのイレギュラー』は、主人公であるベル君がヘスティア・ファミリアに所属して、確か2週間後程度に発生するイベントだ。

 

 彼がまだファミリアにいない今のうちは、実質安全なボーナスタイムだ。エイナさんに教わった基礎を、4層まででじっくり身体に馴染ませておけばいい。恩恵を刻んでからなんだか調子がいいように感じる。これならおそらく大丈夫だろう。本当に?

 

 

 通路の角を慎重にクリアしながら進んでいくと、前方の壁がミシミシと音を立て、剥がれ落ちた。そこから這い出てきたのは、緑色の醜悪な肌を持った、子供ほどの背丈のモンスター。ゴブリンだ。

 

「ギチィッ!」

 

「くっ…!」

 

 ゴブリンが飛びかかってきた。俺は無理に刃を受け止めようとはせず、後ろに飛び退いて距離を取った。手が震える。

 攻撃を外したゴブリンは、態勢を立て直して突進してくる。やはり、怖い。

 その直線的な動きを見て、ステップで回避。ゴブリンの攻撃が空振りになる。ダガーを逆手に持ち、無防備な首に思いきり突き立てる。殺らなきゃ殺られる。

 

「ああああああああっ!」

 

 悲鳴とさほど大差ない雄たけびが響く。肉を裂く生々しい手応えが手の平に伝わる。ゴブリンは短い悲鳴をあげて灰へと変わった。

 カラン、と地面に小さな紫色の結晶──『魔石の欠片』が転がる。

 

「はぁ…はぁ…!倒せ、た……」

 

 荒い息を吐きながら、俺はその魔石の欠片を拾い上げた。たかがゴブリン一匹に、心臓が破裂しそうなほど脈打っている。

 だけど、確かな一歩だ。




現代人に殺しはきつ過ぎる。

誤字脱字等はないはず…
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