ベル・クラネルの代わりに世界を救うのは間違っているだろうか   作:ただくも

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申し訳ありません。チート無しはさすがに無理でした。
それと、魔法とスキルの表記を直しました。
アビリティの表記はなんとなくこっちのほうがいいかなと。


第4話

 

 「あはは……あははははは……っ!」

 

 薄暗い路地裏の奥。俺は膝を抱えてただ笑い続けていた。涙が頬を伝って地面に落ちるが、胸の奥からせり上がってくる狂気混じりの笑いは一向に止まらない。

 

 物語の、すべての始まりであるはずの白髪の少年──ベル・クラネルが存在しない。

 それが意味する未来を、原作知識を持つ俺の脳は、冷酷なまでに弾き出していた。

 

 サンジョウノ・春姫が殺生石に封印される。イシュタル・ファミリアとフレイヤ・ファミリアの全面戦争。異端児(ゼノス)たちとの戦争。フィンが、彼らの存在を許すはずがない。オラリオの戦力が低下し、そこに闇派閥(イヴィルス)の残党により、最悪バベルの崩壊。そして『隻眼の黒竜』の目覚め、Lv.8やLv.9ですら返り討ちにあい壊滅した……そんな存在を打倒できうる『最後の英雄』はいない。

 

 結果は、完全なる世界滅亡だ。

 

「……ハ、やめた。無理だろ、こんなの。諦めよう。俺はただの、魔法もスキルもない一般人だぞ。英雄の代わりなんてできるわけが──」

 

 ──そこまで思考して、脳裏にヘスティア様の笑顔が浮かんだ。

 

『ボクのファミリアに来ておくれよ!まだ一人も子供はいない弱小だけど……僕は、君を大事にするから!』

『君がボクの、最初の眷属だ!』

『約束だからね!』

 

 誰よりも温かい、神様。

 もし俺がここで全てを投げ出して、世界が滅びるのをただ指をくわえて待っていたら、あの神様はどうなる?世界が滅びれば、ヘスティア様も間違いなく、無惨に殺される。

 

「……ふざけるな」

 

 笑い声が、既に止まっていた。

 あの日、俺を嬉し涙を流して眷属として受け入れてくれた、大切な神様だ。あの(ひと)を、そんな残酷な未来に付き合わせるわけにはいかない。

 

 守る。何が何でも、ヘスティア様だけは俺がこの手で絶対に守り抜く。

 それに、もしこの世界にベルがいない理由が、俺という『異物』が入り込んだことによる因果の歪みだというのなら。

 

「俺が、責任を取らなきゃいけないだろうが……っ!」

 

 英雄がいないなら、俺が修羅にでもなって世界を救って見せる。

 

 ──その瞬間、背中の【神の恩恵】の配列が、熱病のような熱さを伴って激しく書き換わった。

 二つの、歪んだ救世のスキルが産声をあげる。

 

「、」

 

 脳内を支配していた激しい感情の濁流が、一瞬にして凪いだ。

 地面を強く殴りつける。拳の皮膚が裂け、じんわりと血がにじむのが見えたが、不思議と痛みは全く感じなかった。

 

 顔を上げると、民家の割れた窓ガラスに反射された自分の顔が目に入る。瞳からは完全に光が消え失せ、底の知れない暗闇のような、無機質な硝子玉へと変貌していた。

 

(まるで死人だな)

 

 自分の精神が急速に変質していくのを自覚しながら、どこか他人事のような、のんきな感想が頭に浮かんだ。

 

 俺は立ち上がり、ホームである廃教会を目指して、夜のオラリオを全力で疾走した。

 

 

  ◇

 

「カナタ、君……!?」

 

 廃教会の扉を開けた瞬間、待ち構えていたヘスティア様が悲鳴のような声をあげて駆け寄ってきた。

 ボロボロに敗れた衣服、砕け散ったダガーの柄、傷だらけの拳、そして何より、生気を失っただろう俺の顔。

 

「遅くなってすみません、神様。……ちょっと、ダンジョンで手痛い洗礼を受けまして」

 

 俺は意識して、いつもと同じように穏やかな微笑を浮かべ、普段通りの態度を演じた。ヘスティア様にだけは、自分の内側の変質を悟らせて、余計な心配をかけたくなかったから。

 

「手、手から血が出てるよ!大丈夫かい!?」

 

「大丈夫です。神様、早速で申し訳ないんですが、ステイタスの更新をお願いできますか」

 

 俺が淡々と言うと、ヘスティア様は「う、うん。わかったよ」と小さく頷いた。

 

 シャツを脱ぎ、ベッドにうつ伏せになる。

 ヘスティア様が俺の背中にまたがり、神の血を滲ませて恩恵の文字に触れた瞬間、彼女の身体がびくりと大きく跳ね上がった。

 

「な、んだい……これ……っ!?」

 

 背中をなぞる彼女の指先がガタガタと震え始める。ヘスティア様は震える手で、神聖文字を羊皮紙へと複写し、俺に突きつける。

 

  カナタ・カミシロ

  Lv.1

  力:I(88)→I(94)

  耐久:I(62)→I(71)

  器用:I(95)→H(103)

  俊敏:H(118)→F(318)

  魔力:I(0)

  ≪魔法≫

  【 】

  ≪スキル≫

  【救界義務(アンチ・アポカリプス)

   ・早熟する。

   ・終末への焦燥、および世界を救う義務感が続く限り効果継続。

   ・終末への焦燥、および世界を救う義務感の思いの丈により効果向上。

   ・精神に『感情の抑制』『痛覚の鈍化』『味覚の消失』をもたらす。ただし、本スキルに起因する焦燥と義務感、特定の意思は除く。

 

  【聖火殉情(ファナティクス・ハース)

   ・早熟する。

   ・敬愛が続く限り効果継続。

   ・敬愛の丈により効果向上。

   ・敬愛対象を守る際、位階昇華。

 

「カナタ君……『終末への焦燥』って、何だい?『世界を救う義務』って。一体どういうことなんだい!?それに、この効果は……!」

 

 ヘスティア様が涙をポロポロと流しながら、俺の肩を掴んでくる。

 俺は唇を噛み締めた。

 

(『感情の抑制』スキルとして表示されるのか。どうする?説明するのか?自分が異世界からやってきたと、この世界は滅びに向かっていると。だが、伝えてしまえば余計な心労を……)

 

「……すみません、神様。それについては、言えません。」

 

 真っ直ぐに彼女の目を見つめ、静かに、しかし断固とした口調で謝罪した。

 俺のあまりに冷徹で、けれど決意に満ちた表情を見た瞬間──ヘスティア様はそれ以上言葉を重ねるのをやめ、勢いよく俺の胸に飛び込んできた。小さな身体で、俺を強く抱きしめる。

 

「……うん、わかったよ。言いたくないならそれでいいんだよ」

 

「……神様、いいんですか?」

 

「君がそんな、酷い顔をしてまで隠さなきゃいけないことなら、ボクは無理に聞かない!だけどね……約束しておくれ。絶対に無茶をして死なないこと。ボクを独りにしないこと。それだけは、絶対に約束して!」

 

 いつも通りの優しい手つきで、俺はヘスティア様の小さな身体を強く抱き返した。

 

「はい。約束します、神様。俺は絶対に死にません。あなたを独りにすることなんて、絶対にあり得ませんから」

 

 

  ◇

 

 翌朝。ダンジョンへ向かう前に、なけなしのヴァリスを握りしめて冒険者通りの武器屋へと足を運んだ。

 そこにある一振りの、飾り気のない武骨な鉄の片手剣を手に取る。

 

「……よし」

 

 刀身の歪みがないか、重心の位置、柄の巻きの頑丈さ、それらを手早くチェックし店主にヴァリスを支払って購入した。

 

 剣を帯び、一気にダンジョンの4層へと足を運んだ。

 通路の曲がり角からゴブリンやコボルトの群れが姿を現す。群れは咆哮をあげて一斉に飛びかかってくる。『感情の抑制』により、塵ほどの動揺も湧かない。

 

(実に好都合だ)

 

 大幅に上昇した敏捷を頼りに回避を試みる。しかし、迫り来るゴブリンの爪が、俺の衣服を僅かにかすめて皮膚を引き裂いた。鈍化した痛覚はそれを無視する。すれ違いざまに片手剣を水平に一閃。かたい首の骨を断つ感触を感じながら、流れるように次の標的へと踏み込む。

 

「ギシッ!?」

 

 背後から襲い掛かるコボルトの脳天へ、振り返りざまに刃を突き立て、即座に引き抜く。すかさず、前方から押し寄せてきた群れへと自ら突っ込んだ。

 

 低い姿勢からの這うような踏み込み。手前の一匹の喉笛を突き刺し、引き抜きざまの横薙ぎ払いで二匹目の胴を両断する。

 息一つ乱さず、ただ機械的に、最速で、最も効率的な軌道を選び、4層のモンスターたちをひたすら殺し続ける。四方から湧き出る群れをただの的として処理していく。返り血が頬を汚しても、眉一つ動かない。二つの『早熟』スキルが、モンスターの命を吸うたびに狂ったような速度で経験値(エクセリア)を我が身へと蓄積していくのを感じていた。

 

 

  ◇

 

 数時間後。大量の魔石の欠片を回収し、ダンジョンを出てギルド本部へと向かっていた。その道中、賑やかな中央広場を通り抜けようとしたときのことだ。

 

「━━そこの冒険者さん」

 

 涼やかで、どこかおっとりとした声に呼び止められた。

 足を止め、振り返った俺の視界に飛び込んできたのは、特徴的な灰色の髪とエプロン姿──シル・フローヴァだった。

 

(……シル・フローヴァ!?)

 

 心臓がドクン、と嫌な音を立てて跳ね上がる。脳裏を最悪の警戒感が駆け巡った。なぜ彼女が俺に声をかける? そもそも豊穣の女主人はここから遠いのでは?それに原作で彼女が執着していたのはベルのはずだ。いや、気まぐれか?

 内面の動揺を完全に押し殺し、俺は無機質なポーカーフェイスを張り付かせたまま、冷静に声を返した。

 

「……俺に何か用ですか?」

 

「ふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。凄くたくさん魔石を持っていらっしゃるから、お仕事帰りかなって。もしよければ、私たちが働いている酒場『豊穣の女主人』に来ませんか? 美味しいご飯をたくさん用意できますよ」

 

人懐っこい笑みを浮かべるシル。その背後にいる【美の女神フレイヤ】の視線を幻視し、背筋に冷たいものが走る。一刻も早くこの場を立ち去りたい。

 

「すみません。お誘いはありがたいのですが……今は、武器を買い替えたばかりで本当に金欠なんです。お恥ずかしい話、今日のご飯代も切り詰めなきゃいけないくらいお金がなくて」

 

「あら、そうなんですか?残念。……じゃあ、お財布に余裕ができたときは、必ず来てくださいね?約束ですよ?」

 

「はい。お金が貯まったら、必ず伺います」

 

 俺はなんとか冷静なトーンを維持したまま頷き、その場を後にした。

 

「……ふふ」

 

 

 

  ◇

 

 ギルドの本部へと駆け込むと、俺の姿を見つけるや否や、カウンターの奥からエイナさんが血相を変えて飛び出してきた。俺の腕をつかみ、防音の個室へと俺を連れ込んだ。

 

「カナタ君。昨日言っていた『人探し』の件はどうなったの?」

 

 個室に入りドアが閉まるなり、エイナさんは真剣な面持ちで訪ねてきた。

 

「あ、あれならもう大丈夫ですよ。無事に解決しました」

 

 俺は内心の冷徹さを覆い隠すように、いつものように少し困ったような笑みを浮かべ、頭を掻いて見せた。ヘスティア様にはスキル欄でバレてしまったが、エイナさんには心配やスキルの変質による不気味さを諭されたくなかった。

 

「それから、エイナさん。俺の個人的な人探しのせいで、エイナさんの仕事を無駄に増やしてしまって……本当にすみませんでした」

 

 殊勝に頭を下げて謝罪する。

 エイナさんはほっとしたように息を吐いた。けれど、彼女は俺を見て怪訝そうに眉をひそめたが小さく頭を振って話を切り替える。

 

「……そう。解決したならいいんだけど。それより、昨日何があったのか説明してくれる?」

 

 眼鏡の奥の瞳を鋭くさせて、エイナさんが真っ直ぐに俺を問い詰める。

 俺は昨日、5層でミノタウロスと遭遇し、アイズ・ヴァレンシュタインに助けられた顛末を、正確に報告した。

 

「……カナタ君」

 

 一通り聞き終えたエイナさんは、深くため息をつき、俺を睨みつけた。

 

「─もぉ、カナタ君ならちゃんと言いつけを守って慎重に潜ってくれるって思ってたのに!それに冒険しちゃいけないって約束したはずでしょ!」

 

「はい……すみません」

 

「いい、カナタ君。もう二度と、無茶はしないで。わかった?」

 

「わかりました。気を付けますね」

 

 いつものように穏やかに頷いてみせる。エイナさんは「ほんとかなぁ?」と言いたげにこちらを見てくるが、それ以上は何も言わなかった。

 

 

 

  ◇

 

「カナタ、君……。君の成長速度は……やっぱり、どこか狂っているよ……」

 

 その日の夜。ホームへ戻り、ステイタスを更新したヘスティア様は、戦慄に満ちた表情で羊皮紙を俺に手渡した。

 

  カナタ・カミシロ

  Lv.1

  力:I(94)→E(412)

  耐久:I(71)→F(312)

  器用:H(103)→E(437)

  俊敏:F(318)→C(634)

  魔力:I(0)

  ≪魔法≫

  【 】

  ≪スキル≫

  【救界義務(アンチ・アポカリプス)

   ・早熟する。

   ・終末への焦燥、および世界を救う義務感が続く限り効果継続。

   ・終末への焦燥、および世界を救う義務感の思いの丈により効果向上。

   ・精神に『感情の抑制』『痛覚の鈍化』『味覚の消失』をもたらす。ただし、本スキルに起因する焦燥と義務感、特定の意思は除く。

 

  【聖火殉情(ファナティクス・ハース)

   ・早熟する。

   ・敬愛が続く限り効果継続。

   ・敬愛の丈により効果向上。

   ・敬愛対象を守る際、位階昇華。

 

 たった一日で、中堅冒険者の数か月分に匹敵するアビリティの跳ね上がり方。4層で一部の敵にはわざと回避行動をとらずに肉を切らせて骨を断つような戦い方をしたからか耐久の値は一気に312まで跳ね上がった。

 

 ヘスティア様に背を向け、シャツを着なおしながら暗闇を見つめる。

 4層のモンスターをあれだけ効率的に処理できるなら、もう4層に用はない。

 

(明日は──5層、いや、6層まで降りて狩りをしよう)

 

 明日の方針を決め、眠りについた。




まさかの豊穣の女主人スキップ

豊穣の女主人にて

ベートは酔っぱらった勢いでカナタ君を腰抜け野郎と罵倒しますが、本人不在のため食い逃げは起こらず。原作通り縛り上げられる。

ちなみにカナタとアイズの会話を聞いていたため、白髪の少年を全力で探しまくった。


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